第21話 ナオミの住まい

「ベースキャンプ、宇宙船の幼児…幼児? 違う、用事が済んだら引っ越せ予定でした」

「せっかくこんな丈夫な家を作ったのに、何でだ?」

「この近く、水場ないです」

「ああ、なるほど。確かにそうだな」


 誰もが納得する理由に、ナオミが頷いた。


「それと、僕、この星の生活、慣れろ必要あるです。だから、ししょーの家にホームステイです」

「だけど、昨日も言ったが、私の家には空き部屋がないぞ」

「だったら、ししょーの家のそば、新たなベースキャンプ建てろです」

「待て。私の家にも客は来る。こんな目立つ家が建っていたら怪しまれるぞ」

「ベースキャンプ、地下に建てろよ。へーきへーきです」

「地下に⁉」


 こんな立派な家が地下に入るのかと、ナオミが目を大きく開いた。


「宇宙の星々、空気ない、地上危険、そんな場所いっぱい。だから、普通は地下に建てろです」

「何でそんな星に住もうとするんだ?」

「そこに資源があって、金なるからです」

「宇宙人も強欲だな」


 ここまでの話を聞いて、ナオミは腕を組んで悩んでいた。

 弟子にすると言ったからなぁ……部屋の問題は大丈夫みたいだし、昨日から観察しているが人格も問題ない。そしてなによりも作るご飯が美味い!

 あれが毎日食べられるなら、どんな貴族でも大金を払って雇うだろう。それがただって言うんだから、否定できるわけがない。


 若干、ご飯で落とされた気がしないでもないが、ナオミはルディを家に住ませる事に決めた。


「分かったよ。そんなに家に来たけりゃ来ればいい。ただし、弟子になったからには、炊事洗濯は任せたぞ」

「ありがとうです。では、吐いてくるです」


 ルディが頭を下げる。そして、直ぐに口元を押さえると、トイレへ駆け込んだ。




 ルディはトイレから戻ると、青い顔をして「胃酸よ逆流するなです」と呟き、胃の辺りを押さえた。その彼の前でナオミが、ドローンが作った朝食を食べる。

 今日の朝食はオムレツにサラダ。それにパンとオニオンスープが付いていた。

 どれも美味しくて、ナオミが完食する。


「本当に、宇宙船の調査は大丈夫なのか?」

「ドローンに任せていろです」


 朝食後、ベースキャンプを出たナオミの質問に、ルディが問題ないと頷く。

 これから2人は、ナオミの家へ下見をしに行く予定だった。


「まあ、本人がそう言うのなら構わないが……」


 ナオミはそう言うと、自分とルディに魔法を掛けた。


「今の何ですか?」

「気配消しの魔法だよ。大声を出したらバレるけど、多少の事じゃ敵に見つからなくなる」

「魔法、便利。早よ使えろです」

「魔法が使えるようになったら教えてあげるよ」

「楽しめです」


 嬉しそうに頷くルディとは逆に、ナオミの見立てでは彼の体内に魔力は欠片もなく、本当に魔法が使えるようになるのか半信半疑だった。


「迷子にならないように、しっかり付いて来いよ」

「了解です」


 ナオミのすぐ後をルディが続いて、2人は森の中へと入った。




  森に入ってから1時間ぐらい歩く。その間に大きな虎に似た大型獣や、巨大な蛇を発見したが、ナオミの隠蔽魔法で気づかれずに通り過ぎた。


「やはり一昨日の夜から森が騒がしいな」

「そーなんですか?」


 ナオミが呟くと、普段の森を知らないルディが質問してきた。


「おそらく、ルディの乗ってきた空飛ぶ船のせいだろう。あんな大きな船が空から来たら、どんな獣だって警戒はするさ。さあ、家に着いたぞ」


 ナオミが家に着いたと言うけど、ルディの目の前には茂った木々しか見えなかった。


「何もないですよ」

「ここら一帯に幻術の魔法を掛けてあるんだ。私の許可が無いと見えない仕組みになっている」

「科学ねぇのに光学迷彩、凄げーです」


 驚いているルディの頭にナオミが手を乗せて呪文を唱える。すると、突然ルディの目の前の木々が消えて開けた広場が現れた。




 広場は野球場ぐらいの広さがあった。中心近くに小さな畑と一本の大木が立っており、木の下に木造のオンボロな物置小屋が建っていた。


「ししょー、家は何処ですか?」


 どこを探しても家らしき建物が無く、ルディがキョロキョロと見回して首を傾げる。


「あの大木の近くにあるだろ」

「……ししょー。もしかして、あんなぼろっちい物置小屋、住んでろですか?」


 どこからどう見てもただ物置小屋にしか見えず、ルディは思わず聞き返した。


「ぼろで悪かったな。住み心地は……まあ、良くはないな」

「魔法で家、建てられぬです?」

「魔法だって万能じゃない。女がたった一人、森の中で一から家を作ったら、あれが限界だ」


 リアリティがありすぎる理由に、何故かルディは納得してしまった。


「とりあえず、家に来な。白湯ぐらい出すよ」


 ナオミがすたすた歩きだして、その後をルディが続いた。




 ルディが家の中に入ると、外見から予想した通り内装も酷かった。

 壁は隙間が空いており、冬になったら冷たい風が入ってきて寒いだろう。

 部屋は一部屋しかなく、今にも壊れそうなわら敷きのベッドと、作業用の大きな机があった。その机には様々な葉っぱや木の実、それと薬研が置かれている。


「お湯を沸かしてくる。適当に座って待ってろ」


 ナオミから言われて、ルディは机の近くにあった椅子に座った。その間にナオミが水瓶の水を汲んで外へ出ていった。

 何故ナオミが外に出たのか分からず、ルディが家を出る。彼女は家の近くで薪をくべ、火をつけて水を沸かしていた。


「……家の中、台所ねえですか?」

「見ての通りだ」

「……他に部屋は?」

「小さな物置部屋がある」

「……トイレは?」

「外でしてきな」

「…………」


 ルディはベースキャンプに宿泊した時のナオミの行動を思い返す。

 彼女はベースキャンプに居た時、一度もトイレに行かなかった。だが、時々花を摘んでくると言って外に出ていたけど、戻ってきた時に花など持ってないから、不思議に思っていた。

 時々外に出ていっていたのって、まさか……。


 今の会話で理解してしまった。彼女は水洗トイレを見た事がなく、使い方以前に水洗トイレの存在を知らないのだろう。だから、外で用を済ませていたらしい。


「ししょー、なんで森で1人、生活してろです?」


 惑星に降りる前に見た衛星写真では、人類はもう少しましな生活をしていた。

 何故ナオミが屋根があるだけまだましな家に暮らして、人里離れた生活をしているのか、それが不思議だった。


「人間が嫌いだからさ」

「……?」

「時期が来たら話すよ」


 ナオミは寂しく笑うが、考え事をしていたルディはそれに気づかず、彼女の生活改善をしようと決心した。


「ししょー、リフォームしろです!」

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