第22話 リフォーム計画

「リフォーム?」


 ナオミが聞き返すと、ルディが大きく頷いた。


「今の生活、現人類以前の生活。ししょーはホモ・サピエンスですか?」

「ホモなんだって?」


 人類の進化について知らないナオミが聞き返したけど、それを無視してルディが話を続ける。


「贅沢しろとは言わんですが、清貧にも限度あるですよ。ここに何年住んでたですか?」

「3年ぐらいか?」

「よく今まで生きていやがったです。冬はどうしてたんです?」

「魔法で体温調節してた」


 ナオミの返答にルディが呆れた。


「エアコン要らずの便利な体だけど、やってることはアホ丸出しです。だから、家、建て替えろです」

「待て、来る前にも言ったが、うちにも来客はある。お前は目立ちたくないのだろう。あの家みたいな奇抜なのはマズイぞ」

「僕、ししょーと違ってアホちゃうですよ。当然バレない様に、この星の文明に合わせろです」

「師匠に向かってアホとはなんだ」

「アホじゃなければ、マゾです。これから僕、ししょーと生活しろなのに、こんなボロ家ゴメンですよ!」


 ナオミも強く言われて、今の家はさすがにないなと思い始めた。

 それに、奇抜な家を作らないと言っているから、たぶん大丈夫だろう。


「だったらどんな家を作るつもりだ?」

「丸太小屋なら、ギリセーフ?」

「それなら、まあ、普通だな。だけど今から丸太を作るとしても、乾燥するのに一年ぐらい掛かるぞ」

「ぐぬぬ。乾燥、魔法で出来ないですか?」


 その質問に、ナオミが手を顎に添えて考える。


「丸太の乾燥を魔法でねぇ……そんな雑用に魔法を使うなんて、誰も思い付かない考えだが、まあ、水系で出来ないこともないか……」

「だったら作れです」

「木を切るだけでも大変だぞ」

「伐採、僕がしろです」

「……分かった。伐採はルディに任せるよ」

「やったです」


 こうして急遽、ナオミの家を作ることが決まった。




『丸太小屋を作るのに必要な道具のデータはありません』


 家を作ることが決まって、ルディがハルに連絡を入れる。ハルは命令を聞くなり、出来ないと即答した。


『確かに宇宙船の管理AIに、丸太小屋の作成データなんて入っているわけないな』

『その通りです』


 そこでルディはナイキが出航する前の事を思い出す。


『積み荷を受け取りに立ち寄ったスガラ連邦で、通販カタログが送られて来たよな。確かアレって金持ち専用のカタログなのに、間違って俺のところに送られたけど、まだ残ってる?』

『イエス、マスター。まだデータは消去していません』

『チラッとしか見てないけど、やたらと豪華なログハウスが売ってた気がするけど、どうだ?』

『……確かにありますね。データを送りましょうか?』

『頼む』


 ハルから送られたデータを見れば、二階建ての大きなログハウスが高い値段で売られていた。


『よし、外観だけじゃなく内装のデータもある。ハル、このデータを使って、必要な道具と木の本数を見積もれ』

『無茶言いますね』

『出来ないのか?』

『……出来ます』

『じゃあ、よろしく』


 ルディの無茶振りにハルは仕方なく、ロッジハウスの見積もりを計算して、必要な道具をナイキで作成し始めた。




「ししょー、明日から家を作り始めろです。家が出来るまで、ししょーは僕の家に泊まれですよ」


 ルディはハルとの連絡を終えると、焚火の近くでくつろいでいたナオミ

に話し掛けた。


「……良いのか?」

「良いも悪いも、明日にはこのボロ家ぶっ壊すですよ。必要な物今すぐまとめろです」

「なっ! 壊すのか?」

「木っ端みじんですよ。跡地に地下とログハウス建てろです。台車用意するし、僕、手伝うです。何から運べですか? さあ、さあ」

「分かったから、慌てるな」


 ルディに煽り立てられナオミが慌てて部屋に入る。少し見分してから、中の荷物を外に運び出した。


「ルディ、ベッドを運ぶから手伝ってくれ」

「そんなわらを敷いただけのぼろっちいベッド捨てろです。もっと良いの作るです」

「だったら、机を……」

「何ですか、これ? 表面がデコボコですよ。これも処分です」

「……そうか」


 おそらくベッドも机もナオミの手作りだったのだろう、彼女は少しだけ名残惜しんだが、諦めて他の物を集めだした。

 しばらくすると、ルディが呼んだ台車が飛んで来た。2人でナオミの荷物を全て台車に乗せ始める。


「ししょー、本当に葉っぱと木の実も持っていくですか?」

「持っていく。これらはポーションの素材だからな」

「ポーション?」


 ルディもポーションの名前ぐらいはゲームで知っているが、実物を見るのは初めてだった。


「傷を治す薬だ。深手の傷には効果は薄いが、多少の傷ならすぐに治る」

「これも魔法ですか?」

「魔法薬だ。マナを中和する木の実に、治療効果のある草。それに、私のマナを注げば出来る。時間があったら作るところを見せるよ」

「楽しみです」


 魔法の薬も面白そうだとルディが頷いた。

 それから2人は、全ての荷物を台車に乗せた後、ルディの家に戻った。




 ベースキャンプに戻ると、ナオミの荷物を積んだ台車を倉庫に置いて、2人はリビングルームに腰を落とした。


「それで、どんな家を作るか決めたのか?」


 ナオミの質問にルディが頷く。


「もちろんです」

「一応私の家になるんだから、どんなのかを教えてくれ」

「イメージとしてはこんな感じですよ」


 そう言ってルディが壁掛けのモニターを指さす。

 ナオミが振り向けば、そこには通販カタログデータに載っていたログハウスが映しだされていた。


「なっ⁉ 豪華すぎるだろ!」


 ナオミが席を立って、大声で叫んだ。

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