第3話 結ばれること
ヤーガスアとの騒動後、何故かブガタリア国内は結婚ブームらしい。
国内での大規模な混乱。
平和ボケした若者たちには刺激になったのかな。
しかも、あのエオジさんまで結婚したんだぜ。
嫁はラカーシャルさん。
離れに一緒に住んでいる諜報隊の女性で、俺の魔術の教師だったデッタロ先生の姪に当たる。
どうやらアタックしたのはラカーシャルさんからのようで、妊娠したのが決め手になったらしい。
さすが肉食系女子だ。 ブルブル。
父王からヤーガスアの件で呼び出された日の夜。
「コリル様のせいですからね」
夕食後の離れの居間で、ギディが俺に文句を言ってきた。
カリマ母さん付き侍女であるギディのお姉さんに彼氏が出来たらしい。
「なんでよ」
俺のせい?、訳分からん。
「イロエストの王弟殿下といい、シーラコーク視察の時といい。
コリル様のせいで何組も結婚が決まったんですから」
確かに前回のシーラコーク視察団で、俺の護衛だった兵士と同行していた女性たちの間で何組か結婚したって話は聞いた。
「そんなの偶然だろ」
王弟殿下はこっちの策略だけど、何とかまとまって良かった。
後は知らん。
「いいえ、それだけじゃありませんよ」
俺が首を傾げると、お茶のカップを差し出しながらギディは俺を睨んだ。
「コリル様が東の砦の女性兵士たちに小赤を配布されたでしょ。
それ以来、小赤の世話をする女性兵士たちが可愛いと評判になって、東の砦の女性兵士たちがモテまくったんです」
「へえ」
それは知らなかった。
「でも、それは良いことだよな?」
「何を言ってるんですか。
うちの姉なんて、相手が王宮勤めの魔術師だからってボーッとなって。
あんなのすぐ別れますよ」
あー、そういうことね。
ブガタリアは小国だ。
魔獣の森に囲まれていて、人が住める場所も限られているので、あまり人も増えない。
周辺国に比べれば裕福な国とは言い難い。
うん、そこはすまん。
王族のひとりとしては申し訳なく思う。
そんな状態の国で、しかも一夫多妻制。
財力のある一部男性に女性が集中し、その妻の出身部族や家族ごと面倒をみることになる。
つまり、それくらいの財力がないと結婚出来ない。
だから若い男性が余ってしまうんだよな。
俺の護衛騎士のエオジさんもずっと独身だった。
エオジさん
ブガタリアの男女比はほぼ同じはずなのに、独身男性の年齢は上がっていき、女性の結婚年齢は下がっていく。
あんまり良くないよなあ。
ギディにしたら、大切な姉の嫁ぎ先なのに財力が無い。
なので結婚しても長続きしないんじゃないかと心配している。
つまり、魔術師程度じゃ奥さんもらっても養っていけないって思ってるのか?。
いやいや、王宮勤めの魔術師はそこそこ高給取りだと思うよ。
それにギディのお姉さんは別に家や部族を背負っているわけじゃないだろうし。
ん?、もしかしたらギディはシスコンか。
ズズッとお茶を啜りながら俺はギディを見る。
「ねぇ、ギディは好きな女の子とかいないの?」
片眉をピクリと上げ、嫌そうな顔をする。
「いません。 気になる女性もいません」
さよか。
俺より一つ年上、十八歳になったギディ。
デッタロ先生の魔法の授業と、エオジさんの剣術の修行は終わっている。
今でも早朝から俺に付き合って基礎運動をやり、俺の世話と騎獣たちや離れに住む子供たちの世話、離れの設備点検などなど。
忙しくて、そんな暇ないか。
見ためは俺よりイケメンで、体格も筋肉質なのに勿体ないこった。
俺は微かな記憶の中で、ギディが女の子を「可愛い」と褒めていたことを思い出す。
あれは確か王都から一つ東の宿場町。
「彼女、ほら、東の宿場町の族長の孫娘だっけ。
あの子、今、王都の学校に来てるって知ってた?」
俺はちょくちょく王都にある平民用の学校に行く。
学校用の厩舎で飼われている魔獣のほとんどが俺の所有物だったりするんでね。
「そ、それがどうかしたんですか」
顔、赤いよ?、ギディくん。
ふむ、忘れてるわけではない、と。
ならば何が気に入らないのかな。
もしかしたら、アレか。
部族男性は身体を鍛えるのが優先され、二十歳までは恋愛禁止。
まず、これがおかしいもんな。
俺は、これ、モテない脳筋たちの
「色恋に腕っ節は関係ないだろ」
強い男が好きっていうのはブガタリアの女性にはありがちだけど、ただ強ければ良いってわけじゃないし。
「お金がある男性なら女性は喜ぶんじゃないですか?」
金の問題かあ。
確かに二十歳前の若造に金は無いよな。
それに、ギディの家は大家族らしいし、さっさと金持ちに嫁ぎたいと思ってる姉妹が多いのかもしれない。
今のブガタリアでは、女性の結婚適齢期は十五歳から十八歳だと言われている。
男性が恋愛解禁になる二十歳の頃には、幼馴染や学校の同年代の女性たちはもう皆んな結婚してることになってしまう。
そして女性たちは、家族や部族のためにかなり年上の夫に嫁ぎ、人質同然の制約された生活を送る。
俺から見ればまだまだ若いのに、だ。
その夫を決めるのは親か部族長で、古い部族ほどこの傾向が強い。
「それが普通です」
ギディの父親は元部族長で、確か奥さんが複数人、その子供も数えるのを諦めるくらいいるんだっけ。
本人が本当にそれが幸せだっていうなら、それで良いけど。
「確かに金で気持ちが動く女性もいるだろうけど」
じゃ、お金のある女性はどうするのさ。
地位とか名誉なんて、それこそごく一部だよ。
「お互いに好きって気持ちも大切なんじゃないかなあ」
俺の勝手な妄想かもしれないけど。
「お相手が決まってる方には、そんなのどうでもいいんでしょ。
それより、ヤーガスアへはいつ頃行かれるのですか」
不貞腐れたギディが結婚話を遠くにぶん投げた。
ヤーガスアという国はもう無い。
現在は大国イロエストの自治領という扱いで、領主はイロエストの王弟殿下である
三年前、王弟殿下はシーラコーク国からシェーサイル姫を連れて国に戻り、すぐに結婚した。
よく公主が許したなあと思ったけど、やはり剣士という腕っ節と、大国の王弟の身分が効いたっぽい。
イロエストでは「誰でもいいから早く結婚しろ」と言われていたらしく、誰にも文句は言わせなかったようだ。
現在、
俺も
ヤーガスアの王族が住んでいた王宮のほうは、もうすでに取り壊されていた。
色々と魔道具やら危ない仕掛けが隠されていると怖いからね。
俺としては、あの国自体が少々ヤバかったんで、本当は今でも行きたくはない。
初めて訪れた時、俺は衰退したヤーガスアを見て少なくない衝撃を受けたしな。
まず、脳筋らしいガチムチがほぼ見当たらなかった。
さらに黒髪黒目は半分程度。
とてもブガタリアと同じ民族とは思えない。
(これが未来のブガタリアにならなければ良いけど)
それが俺の素直な感想だ。
「護衛と連れて行く使用人の選定、頼んで良い?」
俺は準備をギディに丸投げする。
「畏まりました」
あんまり素直に承諾されるとちょっと疑いたくなるけど、まあ、大丈夫でしょ。
俺は連れて行く魔獣でも選ぼう。
ゴゴゴ六体にヒッポグリフに大鷲のテルー。
全員連れて行きたいけど、これは王宮から許可でるかな?。
「無理でしょうね。
騎獣はともかく、ヒッポグリフは王家所属の魔獣なので許可は難しいかと」
うん、そこは言われなくても分かってるよ。
「ツンツンに気配を消してもらっても、連れ出せませんからね」
「……分かってるって」
ナンデバレタノカナ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます