第31話―堕天使ルシファー邸
――堕天使ルシファー邸
誰も言葉を発することなく、シーンと静まり返った部屋でミネルバが言ったルシファーにとって掛け替えの無い者を待っている状態が続いていたのだが、そこに女神アテーナーから大智へ心話が届いた。
「「大ちゃん。私が呼んだ者が姿を現したら、この部屋に強力な結界を張って欲しい。創造で、『結界・アルティメットシールド』を。」」
「「わかった」」
大智はその通りに魔法創造するといつでも展開できるようにスタンバイした。
その時、部屋の中に眩い光と共に一人の見覚えがある女性が姿を現したので、間髪いれずに大智は結界を展開した。
その女性は女神アテーナーの元にゆっくりと近づいていき、女神アテーナーが立ち上がるとその御前で跪いた。
大智はその跪いた女性をよく見てみるとそこに居たのは大天使ミカエルであった。
「女神アテーナー様。この度は、私の兄ルシファーが大変なご迷惑をおかけしました。このような謀反の堕天使がアテーナー様の御前に現れようなどあってはならない事。即刻この場で処分を致します」
その時大智が展開している結界に何かがぶつかる様な感覚があり、そこに目をやるとそこには結界にぶつかって顔を打ち付けてしまったのか、両手で顔を覆って何とも痛そうに悶えている天使がいたのだが此方にいる皆がその様子を見ていると、視線に気づいたのか笑顔で後ろ頭を擦りながらペコペコと頭を下げ、何か言っているのだが口がパクパク動くだけで何も聞こえない。しかも、よく見ると鼻血が出ているようだ。
その様子をチラッと見た大天使ミカエルは
「使徒様。あの者は大天使ガブリエルと言う者です……クッ。
ププ……。どうか……ププッ……一度結界を解いて、通してはいただけませんでしょうか……ングッ」
顔は真剣なのだが時折我慢できないのか笑いを堪えながら大天使ミカエルは大智にお願いをしてきたのだった。
大智もその光景に緊張の糸が切れ、笑ってはいけないのだが笑いを堪えながら
「ングーーッ……。わ……ククッわかりました……ンククッ……解除」
すると結界が解除されたのだが、それまで何か言っていた途中からの声がはっきりと聞こえて来た。
「……というわけでですね、神界より急遽此方にお邪魔させていただいたんですよ!」
大智はその途中からの言葉にただ「はあそうですか」としか言えず、大天使ミカエルが先程までの話は全然聞こえていないのでもう一度言って欲しいというような事を笑いを堪えながら説明していた。
大智はこういうコント的な展開に非常に弱く直ぐに笑いが出てしまう方なので我慢できなかったのだが、女神アテーナーや他の幸希やリッキーとリズ、ルシファーとベルゼブブを見てみると夫々見ないように向こうを向いていたり、下を向いて顔が見えないようにしているのに耳が真っ赤になっていたり、ルシファーに至っては両手で顔を隠している始末であった。そんな中リッキーだけは何故か心配そうに大天使ガブリエルを見ていて、今にも鼻血を拭いてあげに行きそうなくらいな表情をしていたのだった。
少しの間その状態が続き、気を取り直した女神アテーナーが大天使ガブリエルに
「ガブリエル。神界からの言付けを……」
ガブリエルは先程まで出ていた鼻血をミカエルによって治癒してもらった後、凛とした表情に戻り神界からの言付けを話し出した。
「では、さっそく……。まず、ベルゼブブについてですが、使徒様より浄化の洗礼を受けていますのでこれからは使徒様に付き従いその命を以ってお守りする事と、使徒様の『剥奪・付与』を用いて、天使族の属性を剥奪し基礎レベル、称号欄、ステータス、スキル等を下方修正すること。となっていますが、これは使徒様が
受け入れた場合の話です」
正直、大智は困った。急に元堕天使を受け入れろなどどう厚かったらいいかわからないし、本人はルシファーが主だとさっきまで言っていたのだから此方のいう事を素直に聞いてくれるとは思えなかったのでガブリエルに
「あの……ちょっといいですか?」
「使徒様。なんでしょうか?」
「もし拒否をした場合はどうなるのですか?」
ここで拒否したらどうなるかは大体察しが付くが一応聞いてからでないと答えはそう易々と出来るものでもない気がした。
「使徒様。この者達の行なった行為は敗北し堕天したとしても神界を脅かす行為でした。よって、拒否の場合はこの場で処分し、歴史上からも消去される事となります。」
それを聞いた大智は何だか先程のベルゼブブ達の話を聞く限りそれはあまりにもかわいそうなのでは?という気分になり、思わず
「わかりました!受け入れます。」
その言葉を聞いて少し安堵の表情をしたように見えたガブリエルだったが、すぐにまた凛とした表情になり
「では続けます。ルシファーについてですが、この者の起こした反逆は決して許される事ではありませんので、即刻神界の者達の手によって消滅させる事となりました。」
それを聞いたルシファーはガブリエルをキッっと睨みつけた後
「なるほどな。それが神界の答えなんだな?だからこの館の周りを戦闘天使が大勢囲んでいる訳か。そうか……。」
大智はその言葉を聞いた後立ち上がって窓から外を見てみると数え切れないほどの戦闘天使?のような天使達がぐるりとこの館を取り囲んでいるのが見えた。
その戦闘天使たちは黄金に輝くフルプレートアーマーの様な物を着込んで手には禍々しいほどの聖属性の炎を纏った剣や杖の様な物を持っており、神界の本気度が凄く伺える。
その時ガブリエルが
「此処からは逃げる事は出来ません。ルシファーそろそろ観念しなさい」
するとルシファーは立ち上がり窓辺に向かうと両手を大きく広げ
「私は逃げたりしない。堕天させても尚このルシファーが憎いとあらばそれを受け入れる事としよう。これで最後だ。さあ一思いにやってくれ」
その言葉と共に戦闘天使達が動き出したので、大智はすかさず先程の結界を2重にして展開したのだった。
「使徒様。これは一体何のつもりなのでしょうか?間違えたのであれば結界を解除していただきたい」
大智は、神界に逆らう形になってしまったように思えたのだが此処で一旦止めておかないと取り返しの付かない事になってしまう気がしてもう一度話し合えないか確認する必要があると思った。
「ちょっとまってくれ!これはあまりにも端的過ぎないか?もう少し言葉を交わしてもいいんじゃないか?」
その大智からの言葉を聞いたガブリエルは凛とした表情から急に怒りに満ちた表情になり、大地を睨みつけるようにして
「いくら使徒様と言えどこれはいけません。神界の決定に背く事となります。貴方も謀反を起こす気ですか?」
そう言いながらどこからともなく魔法使いがよく持っているような杖を取り出すとこちらに向け何か呪文の様な物を唱え始めたのだが、その瞬間杖の頭の部分がスパッと何かによって跳ねられた。
一瞬の出来事で状況を把握するのに少し時間が掛かったが、大智が後ろを振り返ると、幸希が戦神顔で剣を構えておりその幸希の剣によって杖の頭の部分は跳ねられたようだった。その戦神顔になった幸希はグイッと大地の前に出てくるとボンッという衝撃波と共に今までの戦闘では見た事が無いほどの猛炎が幸希の周りを囲んだ。
「貴様!たかが天使の分際で何たる無礼。その物言い、その態度、万死に値するわ!即刻貴様をこの場で肉片に変えてくれよう!」
その様子と言葉から溢れ出る禍々しい程の殺気に少し後ずさったガブリエルは幸希に
「ほう、貴方も謀反を起こそうと?」
「やかましい!何だ謀反とは!貴様は謀反謀反とそれしかないのか!では聞くが貴様は使途様に今何をしようとした?
使徒は貴様ら神界の上級神達がこの世界に送り込んできたのではないのか?その使徒様に向かって事もあろうか謀反などと決め付けて殺そうとしたその事柄こそが謀反ではないのか?」
幸希のその言葉に一瞬戸惑いを見せたガブリエルであったが、
「いえ……しかし……これは神界での決定事項ですので……」
「ふん!もうよい。どの道貴様は此処で切り伏せる。天使の分際で神格を得た使徒様を殺そうとしたのだ。これは神界に対する挑戦とみなす!」
幸希が霞の構えから一気にガブリエルに飛びかかろうとした瞬間、ミカエルがガブリエルの前に立ちその行く手を阻んだ。
「幸希様。大変失礼しました。この者の所業この者に変わって深くお詫び申し上げます」
そういいながら幸希に跪いた。
そのやり取りを見ていた女神アテーナーはその様子を呆然となって見ているガブリエルに
「ガブリエル?なにをしている?天使長が跪いているが?汝は我々神々と同列なのか?」
その女神アテーナーからの言葉を聞いてハッとなったガブリエルはすぐさまミカエルの横で跪いた。
「申し訳ありません!私とした事が女神様に対してこのような無礼を働こうとは!この処罰はいかようにも!」
跪いたガブリエルを見下ろすようにして女神アテーナーは2人にこう言った。
「この度の汝らの非礼、誠の事なら許される所業ではない。このルシファー同様堕天させられてもおかしくない。
しかし、ここは神界ではない。なので、この世界の理にしたがってもらうまで。ルシファー達の所業は大智様に一任する事で決着に」
アテーナーの言葉を聞いたミカエルとガブリエルは跪いたまま一段と深く頭を下げて
「わかりました!」
その言葉と共にガブリエルは連れて来た戦闘天使たちと共にフッと消えていった。
残されたミカエルが恐る恐るアテーナーの顔を見上げると、そこには先程の威厳を放っていた女神アテーナーではなくいつものミネルバの姿に戻っていたのだった。
ドリームミソロジー 神々より与えられしその力最強につき きたまさ誠 @KTM55
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