第30話―イザベラの奇跡
――堕天使ルシファーの館
大智達の対面に座ったルシファーとその隣で跪いたままのベルゼブブに同じテーブルに座るように言ったのだが、恐れ多いようで低調に断られたが、幸希の「座れ……。さもなくば消す」の言葉で恐る恐るルシファーの隣に腰を下ろしたところで大智が口を開いた。
「さて、ルシファーよ先程の説明とやらを聞かせてもらおうか」
「はい……。私は嘗て神々に対し自らの傲慢さから謀反を起こし、ベルゼブブ、アザゼル、ムルムル、マモンと共にこの世界に堕天させられました。堕天した天使は自身の力に支配され悪魔と呼ばれる存在になってしまうのですが、我々5天使も同じように悪魔へと変貌を遂げてしまったのです。」
シーンと静まり返った部屋の中で大智と幸希は真剣な表情で話を聞いているのだが、時折ベルゼブブが泣いているのか鼻をすする音が聞こえてくるので、目をやると号泣しているかのようなじょうたいだった。
「ん?ベルゼブブよ……何故泣いている?」
大智が聞くとベルゼブブは涙と鼻水を腕でごしごしと拭いルシファーをチラッと見た後ゆっくりと右手を上げて
「おお神よ。このベルゼブブの発言に少しの御慈悲を賜りとうございます。」
「いいよ。話して」
すると、立ち上がったベルゼブブは何故か腰を90度曲げた状態で営業職の様な平謝りのポーズになり
「私達が堕天したのは私が原因だったのです。私は天使で在りながら暴食という罪を犯しました。エデンの地にある善悪を知る木の実がとてもおいしそうに見えてしまったのです。そして1つ2つと食べてしまい気が付いた時にはほぼ全ての実をほぼ食べ尽くしてしまっていたのです。それを見ていたルシファー様は最後の1つを手に取り私をひどく叱責しましたが私と同じ罪を背負う為、飢餓に苦しむ人族のアダムにその実を与えてしまったのです……。そしてそれは神より食すことを禁じられていた気の実だったので初めての
涙ながらに訴えかけていたベルゼブブはそういい終わるとテーブルに突っ伏して号泣し出してしまったのだった。
ルシファーも色々と思う事はあるようで天井を見上げたまま少し肩を揺らし、握られた拳はフルフルと震えている。
少しの沈黙が続き最初に口を開いたのは以外にも幸希だった。
「そうか。では貴様達は最初から神々に謀反を仕掛けるつもりではなく、仕方なく反旗を翻したと。こう申しておるのだな?」
ルシファーはその幸希の目を真っ直ぐ見ながら「はい」とだけ返事をした。
ミネルバはいつの間にか本来のアテーナーの姿に戻っており目を瞑って事の顛末をじっと聞いているかのようだったが、ハッと目を開けると例の石を取り出しどこかに電話を掛けているようだった。
電話を耳に当てたままじっと黙り込んでいたかと思うと、直ぐに折りたたんでポーチに仕舞いルシファーに一言
「今から汝にとって掛け替えの無い者が此処に来る。十分に気を沈めよく話し合うように」
それだけ言うと、また目を瞑り黙り込んでしまった。
――エクムント 大聖堂
その頃大聖堂では大聖女イザベラが怪我をした冒険者達の治癒を行なっていたのだが、そこへ全身大火傷を負った冒険者が担ぎこまれて来た。
「大聖女様!この者をお助け下さい!東側の森でサラマンダーにやられました!」
その声を聞いたイザベラは直ぐに軽症の患者達に《エリアヒール》で治癒した後、大火傷を負った冒険者の下に駆け寄った。
戦士なのか装備しているプレートアーマーはサラマンダーの高温の炎によって所々溶けており右腕は肘の所からサラマンダーによって食い千切られたのか欠損して、火傷は所々見るからに3度の熱傷が全身の20%にも及ぶ勢いで患者はたった今息を引き取ったと言ったところだった。
イザベラは大聖女の力を使って、以前大智に譲渡してもらったアルティメットヒールを唱えた。
「全てを照らす神々の光よ。その力の名の下に彼の者を蘇らせその全てを癒せ。アルティメットヒール!」
詠唱が終わると共に患者を包み込むほどの金色の魔法陣が展開し、無数のキラキラとした光の粒が火傷と戦闘中に付いたであろう無数の傷と欠損した腕の形に集まったあとそこには最初から何も無かったかのように元の綺麗な素肌に戻って欠損した腕も元通りになっていた。
それを間近で見ていた冒険者達はその奇跡とも言える治癒の力に見入ってしまい、シーンと静まり返った後夫々が「奇跡だ!」「貴方は神か!」などと大絶賛で、これまで数々の治癒を見てきたジークとユリアーナでさえその奇跡を絶賛した。
「失った腕が元通りになる所は初めて見た!大聖女とは凄い者なのだな!」
とジークがイザベラの両手を取り喜んでいると、ジークの背後から恐ろしいほどの殺気を放つユリアーナが
「ジーク様?浮気ですか?イザベラの両手を取って……。イザベラ、後で先程の術について語り合いたいです。」
などと言いながらジークの肩をガッチリ掴むとジークを引きずるように師団長室へと連れて行ったのだった。
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