第22話―3カ国協議と大智の偽者

 ――ヴァイトリング王城、応接の間


「先日の竜族強襲の際、此方からの助太刀があったという訳ですね?」


 そこにはヴァイトリング王女ナターリエと隣国のベアトリス帝国皇帝アレグザンドラが護衛の兵士達を人払いした後、2人だけで密談をしていて、アレグザンドラが竜王ドラクネスの首を刎ねて戦争が終結したのだがその際の助っ人達にもう一度会ってお礼をしたいらしく、ナターリエを尋ねてきたようだった。

 いくらお礼だとしても大智の承諾もないまま素性を明かす事は勿論、大智達が居る所まで案内する訳にも行かずナターリエはどうした物かと頭を悩ませていた。


「アレグザンドラ皇帝……。あの方達に此方から一方的に連絡を取る事は事情があって出来ないのです。これはあの方達と王国で交わした約束事ですのでお察しいただけますようお願いいたします」


「ではベアトリス帝国がお礼をしたがって居る事をナターリエ王女からお伝え願えませんでしょうか?」


「それくらいなら引き受けますが必ずしもそれに反応があるとは言い切れませんし、国家としてもあの方達に命令を出す事は出来ませんので申し伝えに強制力は無いのです」


 その時、突然転移魔法の魔法陣が出現して幸希と、ニズが現れた。

 突然現れた幸希とニズに驚いた2人は少々取り乱してしまったが、

 皇帝アレグザンドラは幸希の姿を見た瞬間にあの凄惨な光景を即座に思い出して、身震いしだした。


「ナタリー!遊びに来たんだけどお邪魔だったかな?」


「いえ!ちょうど連絡を取りたいなと思っていたんだよね。あ、此方ベアトリスの皇帝でアレグザンドラ。なんかね、お礼を言いたかったみたいだよ?」


 突然の幸希の訪問に驚きと、あの戦いで皇帝アレグザンドラに恐怖と言うものを植えつけた本人とその隣に立っている竜王ニーズヘッグに友達のように話し出す女王ナターリエに驚いて言葉の出ないアレグザンドラを見て幸希は


「アレちゃんでいいかな?そんなに怖がらなくても……」


 ナターリエは既にお友達のような付き合い方で慣れているのだが、どうにもこの怖がっている現象には見覚えがあるため、アレグザンドラの気持ちは痛いほど分かる。

 しかし一緒に連れ立って来た女の子に関しては初対面の為、一応の挨拶をすることにした。


「幸希姉さん!いらっしゃい。お隣の方は?」


「ああ、紹介しとこうと思って!この度リッキーのお嫁さんになった……ニズちゃんです!あ、本名はニーズヘッグっていうんだけれども……」


「はじめまして!私はナターリエと申します!一応この国の王女です!これからも……え!ニ、ニーズ……ヘッグ!」


 ナターリエは自分の耳を疑った。この小さな女の子がニーズヘッグだと言われても普通は信じ難いが、目の前に座っている皇帝アレグザンドラの顔は真っ青になり怯えているのが手に取るように分かる。

 その様子を見るとこの子がニーズヘッグなのは間違いないのだが、ナターリエはどのように対応すれば良いのか考える暇も与えられぬまま、ニズという名の竜王が事も有ろうかナターリエの隣に座ったのだった。


「そう怯えんでもよかろうに……。其方はベアトリスの皇帝じゃの?今日参ったのは折り入って話があったからなのじゃが話しても良いかのう?」


 幸希は、アレグザンドラの隣に腰を下ろすとナターリエとアレグザンドラに


「今日はね、2人にとってもいい話をしに来たんだよ?」


 恐怖から身震いをしているアレグザンドラは良い話しの内容に期待を込めて


「えっと……そ、それはどのようなお話しなのでしょうか?」


 幸希はアレグザンドラが怯えていて話になるか不安になって来たので、とりあえずこの場を和ませる為にも2人におちゃらけて見る事にした。


「えっと、アレグザンドラだっけ?じゃあ、アレクちゃんでいいね!私の事は幸希姉さんって呼んでね!因みにニズはニズちゃんでいいからね!」


 皇帝アレグザンドラは拍子抜けしたような様子でナターリエを見ると既にニズと普通に会話して、今度家に遊びに行く約束を取り付ける段階まで話しが進んでいてナターリエの順応速度に感服せざるをえない状態になっていた。


「皇帝よ、おぬしも今度童の愛の巣に来るとよい。歓迎のもてなし位はしようぞ」


「は、はい!」


 この波に乗り遅れるれる訳にも行かないと踏んだアレグザンドラは早速ナターリエと一緒に遊びに行く約束を取り付けた。


「さて早速じゃが、此度参ったのは他でもないおぬしらの国と竜族の間で友好条約を結びたいとおもってのう。どうじゃろうか?」


 もしこれが実現可能であればヴァイトリング、ベアトリス、ドラゴン領域が友好国となり、これまで入手困難だったミスリルやオリハルコン系の金属や膨大な魔力を含んだ高級な魔石の流通が盛んになり、ドラゴン領域に到っても他国の食料及び雑貨や通貨と雇用が手に入る仕組みで、どの国も潤うようになるのだ。

 その他、有事の時には連合軍などの措置も取りやすくなり、魔族などの脅威にも対抗しやすくなる。


 幸希はこの事について各国の意見を出し合って、きちんとした条約を終結させる為にも一度持ち帰って協議の上、再度こういう場を設けて煮詰めた上で調印という形に持っていった方が良いのではと提案したのだが、最低限の条件は決めておいた方が話しを持って帰りやすいということで、以下の条件が決まった。


 ① 国土の広さやGDPの関係で代表国はベアトリス帝国と定めるが、各国の立場は平等でありこれを覆す事は神の逆鱗に触れる事になる。

 ② 3カ国協議の際、全ての事柄は多数決に委ねられるがそれにより決まった事柄や案件は絶対であり必ず守る事。

 ③ 国際条約に基づいて犯罪者等の処罰等は可能であるが、他国の憲法や条例が優先される。


 この最低限の条約は既に決まった上での協議になるのだが、夫々の国の話し合いの結果でさらに条約が追加される事になる。

 早速決まった事柄を協議する為、アレグザンドラはベアトリス帝国に帰還していった。



 その頃、アンジェラ達は武器の手入れと本日の宿探しをする為王都とヴァーレリーの中間点の都市ランヴァルド市に来ていた。

 このランヴァルド市は人口およそ15万人の大都市で、周辺の小さな集落や村などから収穫された農産物や畜産物が巨大な商店街の様な所で売られており、他にも洋服屋、アクセサリー店、武器、防具などもその商店街に多数存在し、街の中央にある繁華街は飲食店と女性が接客するラウンジのような飲み屋が数十件立ち並ぶ。居住区の町並みは大都市という事もあり石造りの立派な建物が立ち並んでおり貧富の差は激しいがそれなりに活気のある都市である。


「我輩は先に武器の手入れをしたいな!」


「ほな、商店街の方に行ってみましょか!」


 アンジェラとガリレオは武器の手入れをする為武器やに行きたいが、アランは武器より防具が欲しいので武器屋の後に防具屋も回る事にして3人は人ごみを掻き分けるように歩き出した。


 少し歩いた所に武器屋があったのでそこに武器の手入れを頼むと店主が意外な事を言い出した。


「君たちはエクムントから来たんだよね?最近はエクムントも人が増えて来たらしいけど本当?」


 アンジェラ達は最近エクムントには行ってないので村がどうなっているのかは分からなかったのだが、店主の話ではここからも移住する人が居て今では結構な街になっていると言う事だった。

 アランは店主に


「僕は地元がエクムントなのですが村を出た時はそこまでではなかったのですがね……最近の話ですか?」


 店主の話では、少し前に酒場で知り合った人がエクムントの十二神から特別な力の加護を貰ってこの近くで占いのお店をやっているのだとか。料金は割高なのだが、このランヴァルド市や王都で最大のヴィドヘルツル商会の傘下らしく、その商会の会長ニクラウス・ヴィドヘルツルが後押ししているだけあって盛況らしい。占いの的中率は人夫々で違うらしく的中した人はリピーターになったり、寄付の名目で金品を献上していて相当儲かっているようだった。


 的中しなかった人は最初こそ批判をするのだがすぐに大人しくなり、最終的にはリピーターになっていたりするらしい。

 武器屋の店主の話ではその占いの店の店主はダイチという名前で、どこかの神官のような装いをしているらしく。アンジェラ達はもしかして大智達がこの地で何か始めたのなら久々に会いたくなったので行ってみることにした。


 店主に聞いた場所に着いてみるとそこには「神々の館」という小さな聖堂のような豪華な佇まいのお店があって、何人かが列を作って並んで待っていた。

 アンジェラ達も大智を驚かせようと、声は掛けずにフードを深く被りその列の最後尾に並んだ。


 アンジェラ達の前に並んでいた何人かの話が聞こえてきたので、その話に聞き耳を立てて見ると


「私はね、先日占って貰って結構な儲けが出たから少し寄付をしたんだよ」


「へーそうなんですね……私は占ってもらったら病の気が出てしまって。今日はその病のお守りを購入しようと思って家中のお金をかき集めてきたんですよ」


 そんな話しを隣で聞きながら、アンジェラ達は大智や幸希に久々に合える喜びでワクワクしながら待っていると、少しして自分達が呼ばれたのでそのお店に入ってみた。


 店内は少し薄暗く見渡して見ると色々な魔除けグッズや御神体の焼き物、神々の描かれた壷、30センチくらいの木彫りの神様の像などが販売されており、値段は信じられないほどに高額だった。全体的に何かラベンダー系のお香を焚いており店員は何人か居るのだが皆ヒソヒソと話していて、図書館のような静寂なムードが漂っていた。

 店内の待合室に通されたアンジェラ達が椅子に座って待っていると、店員がやってきて、料金について説明し出した。


「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてでしょうか?」


「あ……はい。」


「では説明しますね。占いには色々ありますが、基本料金は1回につき1万ジールとなっております。それに、本日の占い項目の料金が加算されていくシステムです。

 占いは、全体的な物が2万ジールで個別ですと仕事運、対人運、恋愛運、などが1万ジール。金運は5千ジールになっておりますがこれについては後ほど誓約書を交わして頂き、占いで成功した場合の利益から20%頂く形となりますので商売人向けとなっております。ここまでで何か質問等ございますでしょうか?」


 アランは本当に大智達が経営しているお店なのか確認のために店員に聞いている事にした。


「質問なのですが、占いをされる方はダイチ様と言う方なのですか?」


「はい。ダイチ様はエクムントに十二神を召還されたご本人でございます。ダイチ様自体も神々同様、それなりの地位にいらっしゃいますので占いは間違いありません」


 それを聞いたアンジェラ達は大智達で間違いないのだろうと思い、ドキドキしながら


「我輩達は3人とも仕事運で!」


 と、注文した。

 注文を終えて店員に3人分の6万ジールを支払うと、奥の部屋から別の店員がやってきて、3人同時に見てもらえるらしく占い部屋に案内してもらうと、静まり返った部屋の中央に椅子が3脚置いてあり、正面に天井まである十二神の像とその像の前に置いてある王座のような椅子に恰幅の良い少し髪の毛の後退した初老の見た事も無い男性が座っていたので、少し戸惑いながらも中央の椅子に腰を下ろした。


「貴方たちの事を占うダイチと言う者です。今日は仕事運だったかな?」


 その姿を驚愕の様子で見つめていると、アンジェラが腑に落ちない様子でダイチと名乗る男に問いかけた。


「ダイチさん?エクムントの?我輩の知っている大地様は全然違う人なんだけど……てゆうか、大智様は我輩のパパなんだよ?」


 それを聞いたダイチと名乗る男はギョッとした顔をした後アンジェラを睨みつけながら


「え?どういうこと?私は神界より神の力を授かった本物ですが?君達は何か難癖でも付けに来たの?」


 アランは黙ってそのやり取りを見ていたのだが、その横で命の恩人を語る様な真似をする事がどうしても気に食わなくなったガリレオが我慢できなくなって、口を開いた。


「えー?神の力て。それほんまでっか?ワイらは本物の大智様と繋がりがあってな、今日は驚かしたろ思て来たんでっけど……こんな出来損ないのパチもんやったとは。お金返してもらわなアカンやん」


 それを聞いたダイチと名乗る男はガリレオの挑発的な態度に激昂して目の前のテーブルを払いのけた。


「何だお前!誰にそんな無礼な事言ってやがる!いい加減にしとかねぇとここから生きて帰さねぇぞ!」


 そういい終わると同時に部屋の装飾品の壷をガリレオに向かって投げつけて来た。

 咄嗟にガリレオは魔法障壁を張ったのだが、なんとこのとき意識的に魔術を展開した為初めての無詠唱が成功したのであった。


「うわっ!何すんねんな!ちゅうか何で物投げんねん……ここは魔法やろ普通!まさかやけど魔法使えへんのちゃうやろな?」


 アンジェラの足元の割れた壷の欠片には神々の絵が書かれており、その木っ端微塵になった神々の絵の部分を拾い集めるとそれらを自分が座っていた椅子においてダイチと名乗る男にこう言い放った。


「我輩のパパは絶対にこんな事しない!神を語る偽者の癖に調子に乗るにゃ!物を我輩達に投げつけて怪我をさせようとした事は明らかな敵対行為だけど、良いのだにゃ?我輩達はこう見えてBランクの冒険者だけど手加減は訓練してないから殺してしまうかもにゃ」


 そういい終わった後、アランとガリレオはその場に崩れ落ちて動かなくなってしまった。


 アンジェラはその様子を見て後ろを振り返ると後ろの扉の外から店員が睡眠魔法を放っているようで、二人はその不意打ちを喰らって睡眠の状態異常を起こしているだけなのでそのくらいは大した事もないと判断したのだが、その店員は首を傾げながらアンジェラにも魔法を放っているが大智に付与された『見守りの祝福』によって無効化されているのでアンジェラが状態異常になる事は無かった。


「あーあ……我輩にも魔法を打っちゃった。どうなっても知らないよ?」


 と、その瞬間隣に大智が転移してきた。


「アンちゃん!何かあった?」


 大智は周りを見渡して大体の予想は付いたのだが、まずは事実確認の為魔法を放つ店員に『待て』をしてその場に気を付けの姿勢で固定、誰も出入りできないように結界を張って目の前に居る男に話しかけた。


「で?えっと、君は誰?俺の子供たちに何をしたのかな?」


「私はここの占い師でダイチというものなのですが、この方達はここに難癖を付けに来たようで眠らせて追い払おうとした次第です」


 それを聞いたアンジェラは、大智にここでの事や大智の名前を語ってお金儲けをしている事などを伝えた。


「我輩はパパの名前を使って変な事をしているのが気に食わなかったにゃ。これもそう。神様達の絵が書いてある壷を投げ付けてきてこんなになったにゃ」


 そういうと椅子の上に置かれた神々の絵の書かれた壷の破片を指差したのだが、これが大智の逆鱗に触れた。


「わかった。君はエクムントに何時来て誰から力を貰ったの?俺は大智って言う名前で、神の使徒だ。君に力を与えたのは誰だ!」


「あ……えっと、先日エクムントの十二神像にお祈りをしていたのですがその時に突然女神アテーナーさまが光臨されて私に力を授けて行かれました」


 なんと此処でミネルバの名前が出るとは思っても見なかった大智だが、じわじわと笑いが込み上げて来てしまって、とうとう噴出した。


「ハハハハッ……そうかそうか!ククッ……女神アテーナーね!因みにどんな力を貰ったの?ププッ……」


「何がおかしい!女神アテーナー様は私に予言をする力を授けて行かれたのだ!貴様は神々を馬鹿にしているのか?」


 その言葉に少々苛立ちを覚えた大智は早速『心話』でミネルバに連絡を取って見た。


 大智(ミネルバ聞こえる?)


 ミネルバ(聞こえてるなのです)


 大智(今ね、ミネルバの名前を語ってとんでもない事をやってるヤツがいるんだけど来るかい?)


 ミネルバ(それはすぐに行くなのです!大智様が 「召集」を作っててくれたら良いなのです)


 幸希(私もいきたーい!)


 大智はその場で『召集』を作成してすぐに行使すると、幸希とミネルバが転移してきた。


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