第21話―竜族との戦闘

 その頃ベアトリス帝国王城では、ドラゴン族の動きが妙な事に気づき偵察を行なった結果、戦争の準備に取り掛かっている事がわかり城内は慌しい空気が流れていた。偵察の結果を知った皇帝アレクザンドラもパトリック元帥と有事の時の最終確認を行なっていた。


「なるほど、開戦と同時に襲われる可能性が高いのはラウルで間違いないのだな?」


「はい、既にラウルの東側150km地点の上空に多数のワイバーンなどが出現しておりその数は1万にも達するかと」


「い、1万!それほど膨大な数を……」


「現在、ラウルに向けて帝国騎士団と帝国兵士総勢5000が出立しじきに到着する模様です」


 皇帝アレクザンドラとパトリック元帥は暫し無言状態で戦略地図を見ていたが、1万対5000では中々勝利への采配が立てられず難しい戦いになる事は簡単に想定でき、このままでは竜族による侵略を許す形になってしまう。


「よし!我もラウルに向かい、現地で直接陣頭指揮を取る!」


「なりません!このような戦いに皇帝閣下が出向くなどあってはならない事なのです。もしもの時に護る事が出来ないかもしれません!」


「パトリック!貴様も共に出向き、我の護衛をすればよいのだ!これは決定事項だ!」


「は!」


 皇帝アレクサンドラの出陣に伴い、帝国軍最高魔道士数人が呼び出されて皇帝と元帥をラウル郊外の陣営地に転移させた。




 郊外の廃墟から宿屋に戻った一行は、大智達の部屋に集まり、これからの事に付いて話す事にしたのだが、誰一人として声を出す者はおらず部屋の中は静まり返っていてリッキーは床に座り込み膝を抱えて俯いていて、隣に一緒に座ったニズがリッキーに覆い被さるようにして抱きしめていて、イザベラはベッドに腰を掛けて泣き止んではいるが壁の方をボーっと見ている。

 このまま3日間ここに滞在してもいいのだが、それでは何も解決できないので前に進むために大智と幸希が最初に口を開いた。


「なあ、皆聞いてくれ。今回は2人をここに探しに来て、最悪の状態で発見してしまった事によって2人からの言質は取れなくなった。真実が闇に葬られたんだ。事実がどうであれ亡くなった2人の為にこれからの事を考えなくてはいけない」


「そうね……。ここで何時までもクヨクヨしていても何も始まらない。直ぐは無理だろうけど、私達には帰る場所があるから今日はここに留まって明日になったら一旦戻りましょう」


 俯いたまま黙っていたリッキーは泣きはらした顔を上げて涙を拭うと大智に改まるように姿勢を直してから深く頭を下げた。


「主様。どうかあの2人を安らかに眠れる場所に埋葬させてください!オイラは今回の事で皆に迷惑を掛け、最終的に2人がこうなってしまったんだ……最後くらいはせめて、自分の手で弔わせてください!」


「わかった。埋葬はエクムントの聖堂横に新たに作った墓地にしよう。明日戻ったらリッキーの手で掘ろうな……」


「ありがとうございます!」


 リッキーは心の底から声を出して何度もお礼を言ってきたが、その様子を見たイザベラがスッと立ち上がり大智に


「私も、2人をきちんと思い留まらせるべきだった責任があります。私もリッキーを手伝います!」


 幸希はイザベラの肩に手を添えて励ますように二人に語り出した。


「2人共辛いのは分かるけど、あの2人は誰かに命令されてやったのでは無くて自らの意思でやったんだと思うから……リッキーとイザベラが責任を負うような事は何も無いんだよ。リッキーとイザベラが何時までも悲しがっていたらあの二人も自分たちのせいで何時までも悲しんでいると思っちゃうよ。あの2人を安らかに弔いたいのなら笑顔で送り出してあげよう?」


 責任を感じていたリッキーとイザベラは幸希の言葉によって元気付けられ少し笑顔を取り戻すと気を取り直し明日の帰郷の準備を始めたのだが、その時突然ドアがドンドンとノックされ大智がドアを開けると血相を変えた宿屋の店主が


「お客さん!非難命令が出ました!宿泊代金はお返ししますので、ここを出て憲兵の指示に従って非難してください!」


「え?何かあったのか?」


「私も詳しい事は分かりませんが、どうも竜族が攻めてくるみたいです!急いで!」


 そういい遺すと店主は隣の部屋のドアをノックしだした。


 大智達は慌てて全員の荷物を集めて大智のポーチにしまい込み足早に宿の外に出ると、空は既に漆黒の雲が覆っていてこの場から微かに見える竜脈のクリスタルが紅蓮の炎のような赤い光を放ち時折稲妻が見えていた。

 竜族のリズはその様子に怒りを露にした様子で見ており、大智はリズにこのことについて聞いてみた。


「リズ!これは一体!」


「あの馬鹿共め!童の忠告を無視しよって!」


 リズは大智に今回のクリスタルの件での竜族への被害やその仕返しとして竜王がベアトリス帝国にに対して戦争を起こす考えだった事を話し、ニズはその真相を掴んでこの戦争を止める気で居たことなどを大智に話した、


「大智殿!童は今からある御方の下へ話しに参ってくる!1時間程どうにか争いを止めておいて欲しいのじゃ!頼めるか?」


「分かった!何とかやってみるよ!」


 その言葉を聞いたニズは転移の魔法を使ってどこかに行ってしまった。

 大智は近くに居た憲兵に詳しい情報を聞き出し、ベアトリスの陣営はここより北に30km程行った草原である事、乱戦が予想され戦地に近いこの街が狙われる可能性が高い事などを聞き出した。

 そこで大智、イザベラ、リッキーのチームと幸希、ユーリ、ミネルバで

 チーム分けをして陣営に幸希チーム、この街の防衛に大智チームが残り、大智の召還術で超早馬を3頭召還して幸希チームを送り出した。


 大智達は、街の東側にある高い塔の屋上に上って様子を見ることにし、リッキーとイザベラに『飛翔』と『オートヒール&リレイズ』、を付与し、リッキーには個別に『拳神の加護EX』で全ステータスを一時的に10倍に引き上げ、イザベラには『全魔法全物理攻撃無効』を一時的に付与して、臨戦態勢を取ったのだが、リッキーは自分が自由に飛べるようになった事に興奮して、塔の周りを飛び回っていた。


「ヒャホーーィ!オイラ空を飛んでるぜー!」


「リッキー・ダイ君!あまり目立たないようにして!」


 と言いながらイザベラも飛びたくてウズウズしていたので、大智は察したようにイザベラに


「イザベラ悪いけどリッキーを捕まえて来て」


 その瞬間直ぐに飛び立って、リッキーと空の追いかけっこを楽しんでいた。


「あんまり遠くに行くなよー!」


 そう二人に叫んだ後大智はドラゴン領域を睨むようにして見張った。



 一方幸希チームは超早馬の全速力でベアトリス帝国の陣営に到達して、陣営入り口に配置された帝国兵に気づかれると、幸希たちに帝国兵が大声で威圧してきた。


「貴様!何者だ!」


 幸希はその帝国兵に目もくれず入り口から入ろうとすると他の帝国兵が大勢押しかけてきて幸希に剣を向け制止してきたのでその場で止まり大声を出して叫んだ。


「我々は隣国ヴァイトリングからこの地へ参った!この騒動に助太刀する!ここの指揮官は直ちに我々の前に顔を出せ!」


 そう叫ぶと奥から上等な騎士の鎧を纏い背中に付いた赤いマントを靡かせた屈強な男を先頭に、長身で透き通る様な白金にクリスタルの様なキラキラした最高級の装飾がついた鎧にターコイズ色のロングストレートの髪を靡かせ瞳はエメラルドグリーンの天使の様なハイエルフの女性とワインレッドの生地に豪華な刺繍が施された司教の様なローブを纏った、イケメンのハイエルフの男性が歩いて出てきた。

 その屈強な騎士は幸希にこう叫んだ。


「隣国のお嬢ちゃんの手助けは要らん!直ぐにここから立ち去れ!」


 と叫んだ後屈強な騎士は事もあろうか幸希に向かって剣を抜いたのだが、そのやり取りを後ろから見ていたユーリは何故かデジャブを感じて少し身震いしていた。


「ほーう。お嬢ちゃん?貴様……我に対するその侮辱、聞き捨てならぬぞ?

 この帝国は助太刀を申し出た隣国の者にこのような狼藉を働くようこの愚か者に躾けておるのか!雇い主は即刻我の前に姿を現せ!」


 幸希が言い終わると同時にその騎士は攻撃を仕掛けてきたのだが振りかぶった騎士の剣を両手大剣で華麗に交わした瞬間、幸希の両手大剣は騎士の喉仏に当てられていた。何が起こったのかわからない騎士は


「貴様……!一体何をした!もう生きては帰さんぞ!」


「貴様は自らが置かれている立場に目を背けておるな?ならばここから挽回するチャンスをやろう。但し次は命無き物と心得てかかるがよい」


 そういい終わると幸希の周囲にドンっと衝撃波が走りその体制のまま幸希の周囲に青白い猛炎が出現し、その戦神の目からは夥しいほどの殺意が満ち溢れて周囲を囲んでいた帝国兵士は身動き1つ取れないほどに恐怖を感じていた。その時幸希たちを代わる代わる順番に見ては何かブツブツと独り言を言っていた司教の様な出で立ちの男性が急に声を上げた。


「あーっちょっとストーーップ!おい騎士団長!お前すぐ謝れ今すぐ!ほら!ここっこうやって手を付いてっ……。あ、すいませーん……御宅が神騎士さんとは露知らず……ごめんなさいっ!あ、僕ここで元帥やってますパトリック・アロンって言います!ほんとすんませんでした!申し訳ない!」


 そういい終わった後元帥は幸希に跪いたのだが釣られたように周囲の帝国兵も跪き、皇帝アレクザンドラのみ尿意を我慢しているかのように内股になって呆然と立っていたので幸希は


「そなたが皇帝か?我々はこの戦いの助太刀を申し出た。竜の軍勢など何万と来ようとも10秒で塵にかえてくれよう」


「は、はひぃ……」


 元帥はサッと立ち上がり恐怖でフラフラになった皇帝の体を支えると、幸希に頭を下げ


「ほらっ!皇帝!こうてー!あんたも頭下げて!」


 一人で大騒ぎのようになった元帥は皇帝の頭を後頭部から押すように頭を下げさせてさらに続けた。


「折角こんな強い人達が助けてくれるってんだから!さっき見たの!この人達のアレをっ。こんなヤベェステータス見たこと無いわlv99999って!後ろのあの背の低い人はぜんぶハテナマークよ?もう一人は物理と魔法が無効って!無効ってなによ!」


 その元帥の大騒ぎに最初はドン引きしていた幸希たちだったがあまりにも大きな声で続くので、それに幸希が切れた。


「やかましい!! 貴様は少し黙っておれ!何ださっきからの貴様のその大声は!この戦いが終わるまで貴様は発言をする事を許さん!誰かこの愚か者をそこのテントに放り込んでおけ!」


 5人くらいの帝国兵が元帥を神輿のように担いでテントの中に放り込んだ所で、幸希は皇帝に作戦を伝えた。

 幸希の考えた作戦は竜族の軍勢が見えたらギリギリまで待って、取りあえずにらみ合いに持って生きたいので、初手に極大魔法攻撃の『アルテマスタン』をぶちかまして全ての敵の動きを止めた後話し合いに応じて退散しなければ即殲滅といった所なのだが、ニズの帰還待ちな部分があるので、出来れば穏便に済ませたい。因みに『アルテマスタン』は術者が解かない限り動く事はできないようだ。

 その作戦で行く為の指示を兵士達に伝えているとドラゴン領域の方角から竜族の大軍勢が見えてきた。

 超大型の極悪面をした竜を先頭に中型の竜が200程度、ワイバーンほどの竜は数えられない程。先頭の竜は此方の陣営に気づくと一気に加速して距離を詰めてきたので手前500メートル辺りに差し掛かった所で幸希が

『アルテマスタン』を発動した。

 幸希が両手大剣を片手で一気にそれに向けて突き出すと、夥しい程の魔力で目が眩みそうな光が竜族の軍勢を包んで、ピタッと動きを止めた。

 すると先頭に居た超大型の竜が


「我は竜王ドラクネス……先頭に立つ小さき者よ!このような愚かな行為は直ちに解除し我々に死を以って償うがよい!」


「その小さきものの術に掛かり醜態をさらしている竜王よ!話しをせぬか?

 我と話しが出来ぬとあらば、貴様は瞬く間に塵となって消えてゆくのみ!」


 竜王は怒り狂って威圧の雄叫びを上げたが、ミネルバがすぐに結界を張ったので、此方には一切届いていない。


「ほーう、抗うか。ならば貴様の体を少しづつ切り刻み何処まで抗えるか我に見せてみよ!」


 以前大智に貰った『飛翔』のスキルを使い、竜王に近づくと右前足をスパッと切り落とした。


「グオオオオ……!貴様!必ず息の根を止めてやるわ!」


「次は左っ!」


 今度は左前足をスパッと切り落とし、そのまま竜王の顔の前で止まった。


「ングオオオオ……!何故貴様は我の体に刃を通せる!何だその力は!」


「次はこの生意気な角を両方切り落としてくれよう!」


 そういい終わると同時に角は既に切り落とされ、地面に叩き落されていた。


「ガアッ……!ちょっとまて!おい!」


「下賤の分際で囀るな!もっと抗え!」


 素早く竜王の背後に移動した幸希は竜王の尻尾をまたもやスパッと切り落とし、切り離されて落下していく尻尾を輪切りのように細かく切り刻んだ。

 その様子を見ている陣営の兵士達は腰を抜かしてその場に座り込み、元帥は足をガクガクさせながら凝視。皇帝は、ただ呆然とその様子を見ていたが手足の震えがとまる事はなかった。


「ガハアアアア……!ちょっと!もう切るな!参った!やめて!」


 その時すぐ幸希のすぐ隣に竜族の軍勢のようにティラノサウルスにコウモリの様な羽の生えた竜とはまた違う種類の大龍が現れた。その姿は超巨大な大蛇に尻尾まで鬣の様なものがあり、その大蛇に5本指の手足がある様な大龍で全長は100メートルにも及ぶ。その角の部分にちょこんとつかまって頭の上に乗っていたのはリズであった。


「幸希殿!この者達の制止大儀であった! 竜王よ!この龍王リヴァイアサン様が貴様に物を申すそうじゃ!心して聞くがよい!」


 竜王は突然現れた龍王リヴァイアサンに驚き慌てふためいていた。


「竜王ドラクネス!何故このように配下を引き連れ他国に侵略の戦を仕掛けておる!竜脈の事柄はニーズヘッグより全て聞いた。貴様は帝国の弁明も聞かず、己の感情のみで配下竜族をこのように危機に貶めておる。この失態は貴様の死を持って償え!」


「し、しかしっ……此方も1500の配下を失いっ……」


「黙れ! 先程その件についても言質を取った!ブルードラゴンなる貴様の配下が遊び心から、15体の被害を1500と偽って報告しておった!しかもその15体のワイバーン共は盗賊のような狼藉者らしいではないか!虚偽の深刻をしたものについては即刻わが手により首を刎ねた!15体の代償としてクリスタルを操った上級の人間族2名の地獄の業火による粛清を確認した!竜族の下賤15体などその者達の天秤にものらぬわ!」


 竜王は全てを把握して自分が助かる道はもう無いと気づき怯えて全身が恐怖によって震えだした。


「竜王よ覚悟はよいか!そろそろ死の刻じゃ!」


 龍王はそう言い渡すと、空中を舞う蛇の様な動きで竜王ドラクネスの体を締め付けて動けなくすると、それとほぼ同時にニズが魔法により口輪をした。


「んんんんー……!」


 幸希がスタンを解くと龍王リヴァイアサンはゆっくりと皇帝のいる陣営に近づいて地面に竜王ドラクネスを固定した。


「ベアトリスの皇帝よ!この首をおぬしの剣で刎ね、これを以ってこの戦の終結を図れ!」


 ミネルバは皇帝アレクザンドラの剣に『一刀両断・斬』を付与して竜王ドラクネスの首元に連れて行った。

 アレクザンドラは全身に身震いしていたがここで勇気を振り絞ってこの戦いを終わらせねばならないという強い意志のもと、深い深呼吸をした後剣を振り上げると一気に竜王ドラクネスの首を刎ねた。

 その様子を見た龍王リヴァイアサンは拘束を解きこの場に居る竜族に向かって、


「此度の戦は竜族の敗北で終結した!竜王亡き後はニーズヘッグを新たな竜王とし配下は今後それに従え。この采配に意義のあるものはこの龍王リヴァイアサンに申し出よ」


 そう告げると龍王リヴァイアサンは上空に上って海の方角に消えていき残された竜族の軍勢も引き上げて行った。


 その全ての目撃者になったこの場の兵士達はしばらく気が抜けたような様子で、この壮大なスケールの物語を微動だにせず見つめていたが皇帝が剣で龍王を切り伏せた事実に気づきワーっと歓声を上げ出した。


 幸希が気づくといつの間にか大智達も此方に合流していて、大智のチームの話しを聞くと、何時までたっても竜族が来ないのでおかしく思いこちらが難戦しているかもしれないという事で急いで此方に来たようだった。


 その後、このままここに留まるとベアトリスの凱旋に巻き込まれそうだったので、他の帝国兵などに見つからないように戦地を後にし避難住民が戻り出したラウルの街に帰還したのであった。


「さて、どうしようか?ここは非難が解除されて何かと忙しそうだからエクムントに戻るかい?」


「む!戻るのか?ならば童も婿殿と共に参るぞ!」


 新しく竜王になったニズをこのまま連れて行くことなど出来る訳がないので一度ドラゴン領域に戻って、体制をきちんとしてから来るように伝えると面倒な顔をしたが「すぐもどる」と言い残してニズもドラゴン領域に戻って行った。


 大智の転移魔法によりエクムントの聖堂に転移するとジークが待ち構えて居たかの様にそこにおり、事のあらましを細かく伝えてあげるとジークが新しく墓地になった聖堂の隣に案内してくれたので、そこにニクラスとアレクシスの亡骸を埋葬する事にした。


 埋葬する為の穴をリッキーが必死になって掘る間イザベラはこの地で取れる綺麗な花などを農家の人と一緒に沢山収穫して自身のお金を支払い買い付けて持ち帰ってくると、ジークの手配で持ち込まれた豪華な棺に2人の亡骸が入れられており、棺の空いたスペースに沢山の花を入れて2人は花に埋め尽くされた様な状態になった。


 ここにいる大智達7人でリッキーが掘り終えた埋葬場所に運んで蓋を閉じる時に夫々が一輪の綺麗な蘭の様な花を手向けてお別れの言葉を投げかけた後棺の蓋が閉じられ、ユーリの重力魔法で穴に棺を入れた後ここにいる全員の手で土を被せて埋葬し、その埋葬場所に二人の名前が刻まれた薄く光っている石版が置かれた。


 リッキーとイザベラは泣き叫ぶような事はせず、共に冒険をした仲間の最後を静かに見送って天に送り出すように祈りを捧げていた。


 その後、大智達一行は元村長のヤニク・エナン男爵邸に行き、墓地に眠っているニクラスとアレクシスの話しをして、事後ではあるが埋葬の許可を貰った。ヤニク男爵の案内で新しく建てられた大智たちの拠点に足を運ぶと、それは立派な邸宅で、二階部分の部屋数も10部屋あり一階には30人程度を招いて晩餐会が出来そうなほどのダイニングホールと5人位余裕で入れるお風呂があり、正に爵位のある人間の住まいと言う佇まいであった。

 自分たちのパーティーを失ったイザベラとリッキーに一部屋づつ与えてここに一緒に住むように伝えると2人共喜んで、早速荷物を置きに夫々の部屋に入って行った。

 大智と幸希、ミネルバはジークとユーリを聖堂に帰した後、一階のホールに行くとメイドが5人と少し年齢の行った執事がおり、何故ここにいるのか聞いてみた所、王室付きのメイド達で王女ナターリエの命により本日付けで此方の勤務になったそうだった。

 早速メイドさんに興味を持った幸希が一番胸の大きなメイドの背後に立つとその大きな胸を背後から両手で鷲づかみにしてモミモミしながらこう言った。


「メイドさんはこんな事をされても大丈夫なの?」


 いきなり胸を鷲づかみにされたメイドは顔を真っ赤にして少し高揚した表情で幸希の質問に答えた。


「あっ……はい。王女様より大智様達に……付き従えとの命ですので……んぁっ」


「アハハ。冗談よ冗談。ちょっとやってみたかっただけだからごめんね!」


 幸希が手を離すとそのメイドは物足りない様子では有ったが執事に仕事を言い渡されてそそくさとその場を立ち去って行った。


「大智様。今晩のディナーですが、5名分の用意で宜しいでしょうか?」


 執事がそう言い終わると同時くらいにニズが転移魔法によって突然現れ、それに気づいた執事が驚いているとニズが


「童も数えて6人じゃ。今晩は童の成婚の儀じゃてのう。客を呼んで盛大な晩餐がよかろうて」


「かしこまりました。では、ビュッフェ形式の晩餐をご用意いたします」


 そういい残し執事は慌てたようにダイニングホールを後にしたので大智は新竜王となったニズに


「もう体制はととのったのか?」


 と聞くとニズはドラゴン領域に戻ったあと、幹部のドラゴン達に仕事を言い渡し、重要な用件の時はここに人間の姿に変身して呼びに来るように告げてきた様だが、元々ドラゴン領域は夫々が自由に生きていて何か問題が起こった時のために王という絶対的存在が必要になる程度で必ず王がそこに居ないといけない訳ではないそうだ。


「童は竜族としては初の人間族との成婚じゃて、人間族は竜には成れぬが童はこうして人間族に成れるのじゃから、此方で婿殿と共に暮らす方がよいのであろう……。早速子種をもろうて子をこしらえんとのう!」


 リズの行動力に何も言えなくなった大智達はディナーの時間までゆっくり過ごす事にしてニズをリッキーの部屋に案内した後、幸希は調理場へミネルバは早めのお風呂に行き大智はほぼ完成したエクムントの街を見て回る事にした。

 思えば初めてここに訪れた時はまだ貧しさの残る田舎の村だったが今ではインフラ整備もほとんど済み当事の面影が若干ある程度でヴァーレリーのような都市並みの町並みへと変貌し、この状況を知った周辺の村などからの移民が来ていて今や人口も2000人に手が届くほどに急成長を遂げていた。

 街のインフラ整備に伴い、新たに導入した魔石を動力とした発電設備や水道のポンプ等も充実しており、その使用料金は少量の魔石で支払えるということもあり、各家庭に電気と水道が引き込まれているせいか夜でも街は明るく、大智達の現世とそこまでの違いが無くなって来ているようにも思える。


 大智は2時間ほど町の中を歩き回って拠点の屋敷に戻るとリズとリッキーの成婚を祝う宴の準備がほぼ整っていた。宴の会場となる拠点のダイニングホールにはジークとユーリがいつもの鎧やローブではなく、貴族が着ているようなバッスルドレスになっており、2人の美貌がさらに際立っている。ホールの一角では幸希とミネルバがソファに座って雑談している様子が伺えその隣にきちんと正装をした今日の主役のリッキーとニズが中睦まじく座っていて、イザベラはその二人と何か話しているようだった。


 大智は自分の部屋に用意された正装に着替えて、再びダイニングホールに戻ると、ヤニク男爵とエーベルト準男爵、ヴァーレリー辺境伯もさっき到着し幸希と雑談していたので軽く挨拶をしてリッキーとニズの所へ向かった。


「リッキー!おめでとう!」


「主様ありがとうございます!正直に言うとオイラはリズと結婚なんて考えても居なかったんだけど今ではリズが大好きになってしまったよ!」


 ニズはこの日のために用意した衣装を着込んでいて、純白のバッスルドレスに豪華な宝石の装飾の施されたティアラをつけており、元々が可愛らしい顔なのもあって高貴な貴族の令嬢のようで、リッキーは白のタキシードに蝶ネクタイなのだが顔の幼さから背伸びをした子供のように見える。

 二人はリッキーの仲間の死をニズの支えで乗り越えた事もあり、ますます仲睦まじくなっていて見ていると何故か甘酸っぱい恋愛小説でも読んでいる気にさせてくれる。


「今宵からは殿方の部屋に童も寝泊りするのじゃ!大智殿よかろう?」


「お……おう。二人はもう成人しているんだしな……あまり煩くしないでくれよ?」

 大智の言葉にリッキーとリズは顔を見合わせて照れたように微笑みあっていたが、好き合う2人の事なので多少は大目に見る事に決めた大智であった

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