第15話―ジークとユーリ メジャーデビュー

その後アンジェラが大智にガリレオを紹介して一緒にパーティーを組んでいる事やレベルが上がった事などを話していると見覚えのある二人がこちらを遠巻きに見ているのに気づき良く見て見ると幸希とミネルバがそこに立っていた。


「ママ!」


アンジェラは幸希の所まで走って行き幸希に飛びつくように抱き付いて涙を流しながら喜んでいた。


「ママ!我輩怖かったよぅ」


幸希はアンジェラの頭を撫でながら


「大丈夫。パパがオシオキしてくれたからね」


と慰めるように抱きしめていてその様子を見たミネルバが


「アンジェラは子供みたいに泣いているなのです」


「ミネルバも見た目子供じゃん!」


といつもの兄弟喧嘩の様な会話になりその場が和んだ。

憲兵隊長がリッキーをヴァーレリー内の留置所に収監した事を大智に報告してきたので、大智はお礼を言って騒ぎは完全に収まった。


その後、皆で何か食べる事になり、そこから少し離れたお店にアンジェラ達、大智達で入った。

お店の中は客が多かったがちょうど皆が座るのに十分な8人掛けの長椅子の対面テーブルが開いていたのでそこに座ると、隣のテーブルの2人が此方をジッと見ているのに気づき、その二人に目をやるとそこにはジークとユーリの姿があった。

ジークとユーリは大智と目が合うと持っていたフォークを慌てて置き立ち上がって此方に頭を下げて来た。


「ああ、久しぶりだね。エクムントの途中かい?」


と声を掛けると幸希の方をチラチラと見ながらジークが


「あ……えっと、そ、そうです。途中に立ち寄って休息をとっておりました」


幸希はすっと立ち上がりジークとユーリを見て


「そうなんだー。ここであったのも何かの縁だろうからこっちで一緒に食べようよ!」


その言葉を聞いたジークとユーリアナはあれだけ恐ろしかった幸希のフレンドリーな言葉に戸惑っていたので、大智と幸希の間にジークを座らせ対面のアンジェラとガリレオの間にユーリアナを座らせ、大地、ジーク、幸希、ミネルバ、対面にアンジェラ、ユーリ、ガリレオ、アランの席順になった。幸希がジークに


「何食べてたの?」


と聞くと二人の間に座らされガチガチに緊張したジークは


「はっ……いえ、ホータウロスのっス、ステーキで……あります!」


「そんなに緊張しないで。あ!そうだこんな時はあれだね!酒! すいませーん!!エールを8杯持ってきてくださーい!」


エールがどんどん運ばれてきて、皆に行きわたった所で、幸希が立ち上がり


「娘たちのパーティー結成とジークちゃんとユーリちゃんとの再会を祝しまして乾杯!」


と高らかにエールの木製ジョッキを上げた後一気に飲み干した。

釣られた皆も一斉に飲んだが、一気に飲み干したのは大智とジークとユーリ、ミネルバの4人だけだった。

幸希がまた4杯頼んで新しいエールが運ばれてきたのだが、少し心配になった大智が


「ジークとユーリはお酒大丈夫?」


と聞くと一杯目で少し緊張感の解けた二人は


「はい。大丈夫です。」


との事だった。


お酒も進みアンジェラ達の話しを聞いていると、酔いが回って普段の話し方に戻ったジークが戦闘についていろいろとアンジェラ達に伝授しだし、それは凄くためになる話しだったので、聞いていたのだが魔法についてガリレオが聞くとユーリアナが話し出した。


「そうですね。本来魔術士は高レベルにならないとソロでは厳しい所がありますのでガリレオ君もパーティーで腕を磨いて行く方が早く強くなれなます」


「さいでっか!ほな自分もはよ強くなれるようにがんばりまっす!

ところでユーリさんはひょっとして宮廷魔術士長のユリアーナさんとちゃいますか?」


ユーリアナは答えを少しためらったが


「ええ……元、ですが。もう退任しましたので」


「え!ほんまでっか!ワイの憧れの魔術士ですわ!こんな形で知り合えるなんて!」


ガリレオは喜んでユーリアナの手を両手で掴むと物凄い勢いで握手してユーリはその反動で右左に揺れていた。

ガリレオの話しでは、ユーリはほとんどの魔術士の憧れの存在でその名を知らない魔術士はモグリと言われるほどだそうだ。士官学校を卒業して実力のみで出世し、異例の速さで士長になった時は史上最年少士長の誕生と謳われた超エリート魔術士なのだとか。

その話しを聞いたユーリは少し照れながら


「それはジーク様が居たからがんばれたのですよ」


と言うとガリレオはジークをジッと見つめた後


「という事はジークさんって、宮廷騎士団のジークリット団長でっか?」


突然の指摘に戸惑いを隠せずにいたジークだが、意を決したように


「そうだ!私は 元! 宮廷騎士団団長のジークリット・リッベントロップだ。今は退任してしまったがのだがな」


「え!ほんまにジーク団長やったんですね!お二人とこんな話しできるとか夢みたいですわ!」


幸希がその様子を見てクスクスと笑い出しジークの手を取って高く上げ大きな声で


「そう!これからはこのヴァーレリーと新生エクムントの騎士修道会騎士団長のジークちゃんだよ!ユーリちゃんは騎士修道会の魔道士長!みんなよろしくね!」


ジークとユーリは恥ずかしそうにしていたがそれを聞いたほかのお客さんも、一斉に声を上げて歓声が湧きお客さん全員がジークとユーリに順番に握手を求める展開に発展し、正にメジャーデビューを果たした歌手の握手会のようになった。


大勢と握手をし終えたジークが幸希の方を振り返って立ち上がり深く頭をさげながら


「幸希様!この度は飛んだ御無礼を働きユーリ共々深く反省をしておりました!私達はこの度新しく任命された職務を全うし、この地の民を命がけで守る所存であります。本来なら罰を与えられる身でありながらこのような慈悲深い所業に感謝し日々の礼拝も怠らないようにしていく所存であります!」


ユーリも立ち上がって、


「幸希様!私も若さゆえの失敗を幸希様にしてしまいました。しかしジーク様同様私の持てる力をこの与えられた職務に全力で注ぎ込みたいと思います。

まだまだ前途多難な新設された修道会ですがどうか宜しくお願いします」


そう言い終わると二人同時に深く頭を下げたのだが、この時大智は


(あれー?この人達俺の事忘れてない?

幸希は怖かったよ?正直。

それでもちょっと位なんかあるだろ?

    そうかこの人達戦いに生きてきたから

    戦神に惹かれちゃったか!

    ガチで怖いもんね幸希ちゃん)


と思っているとジークと目が合い


「大智様も宜しくお願いします」


    (ええ!宜しくお願いされちゃったよ。

    ついでみたいに言っちゃったなこの人

    まあ、ちゃんとやってくれればいっか……)


「えっ!あ……うん。がんばって!何かあっても俺たちが付いてるから安心して!」


幸希は二人の頭を上げさせて、座らせた後


「それとさー。お願いがあるんだけど。その幸希様ってやめよ?

これからは姉さんて呼んでいいからさ!ね!絶対に!」


ジークとユーリは顔を見合わせた後しばらく黙っていたがジークが


「分かりました幸希姉さん。これからこの呼びかたで呼ばせてもらいます!」


「うん!それでよし!困った事は私に言っといで!」


こうして和やかな雰囲気のまま、食事を終え返り際に皆で握手をして別れた。


その頃とある宿屋の一室で物騒な計画が企てられていた。


「で?どういう手筈なんだ?」

宿屋の薄暗い部屋の一室に集まった3人のSランク冒険者達は、先程収監されたリッキーを助け出すためにとんでもない行動に出ようとしていたのだ。

ニクラスが問いかけた相手はアレクシスでアレクシスは


「明日一番で王都の魔報を傍受してリッキーの即刻解放を要求しようと思ってねぇ。従わない場合は私の秘蔵のアレを一気に放出してやろうと……ヒヒヒ」


それを聞いたイザベラとニクラスはその秘蔵が解放された時の事を考えると恐ろしさから息を呑んだが唯一の常識人であるイザベラが


「そんな事したらどういう事になるかわかってる?もしもの時は死罪ですよ?」


フッと鼻で笑ったアレクシスが何か言い出す前に、先に口を開いたのはニクラスだった。


「俺たちはよ!これまで散々国に良い様に使われてきたんじゃねーのか?それをちょっと暴れたぐれーで収監しやがってッ!俺たちゃ国の駒じゃねーんだよ!Sランクは優遇されなきゃいけねーんだよ!」


「それでも!もっと他のやり方があるでしょ!悪いけど私は賛成できないよ?」


そんなニクラスとイザベラのやり取りを見ていたアレクシスが不的な笑みを零しながらとんでもない事を言い出した。


「イザベラは分かって無い様ですねぇ。例え王国を敵に回したとて所詮は人間の集まり。今まで災害級の魔物を葬ってきた私達の敵ではないのでねぇ。

そうなったらアレと共に皆殺しにして国ごと乗っ取れば罰を受ける側から与える側になれるんですけどねぇ……ヒヒヒ」


アレクシスが既に正気の沙汰ではないほどに狂っている様に見えたイザベラはそれ以上何も言わずに少し考えて、その部屋から出て行った。


翌朝から起こる王国にとって今世紀最大の危機が訪れようとしている事にこの時は誰一人気づかずにいつもの平穏な夜を過していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る