第14話―Sランク暴君 リッキー

 ――数日後 ヴァーレリー繁華街

 辺りはすっかり暗くなり繁華街は夕飯やチョイ飲みの人で溢れかえっていて日中の愚痴や、大騒ぎしている若手の冒険者など様々な人間模様を伺える時間帯。

 そのとある店にアンジェラ達もその日の日課になったクエストを終え食事をしながら反省会のような会話が飛び交っていた。


「我輩は今日でレベル69になったのだ!」


「ほんまですか?アランさんは?」


「んー60……ガリレオは?」


「ワイでっか?63ですわ」


 初心者から始めてレベルが上がっていくこの行程は自分が強くなっていく事を体感できるので冒険者であれば誰もが交わす会話だ。

 アンジェラ達も例外ではなく大智の加護も手伝ってレベル上げは人並み以上に早く通常ではここまでのレベルアップは見込めない。

 アンジェラとアラン、ガリレオは3人でパーティーを組む事により飛躍的な成長を遂げており、連携攻撃という技も少しずつ磨いている所でそろそろDランククエストに移行していく頃合に到達していた。


「我輩は思うのだけど、そろそろDランクのクエストに挑戦しても良いんじゃないかと……」


「そうだね、それなら一度エクムントに戻って大智様に相談してからにしないか?」


「大智様?でっか?その方はお二人のお師匠はんでっか?」


 アランはガリレオに大智達の事に付いて説明し、エクムントであったオーガの事も話していたが、それを隣の席で聞いていた男が口を挟んできた。


「今の話し本当?」


 その男はミスリルのライトアーマーを着込んだ小柄な少年に見えるSランク冒険者のリッキーであった。


「そんな強い魔法使いがエクムントに居るって?会って見たいからオイラも連れてってよ!」


 リッキーは強い冒険者と聞くと会って手合わせをしないと気がすまない程

 好戦的でこれまでもAランク冒険者などの強いと評判の冒険者達とも

 手合わせをして勝利して来たので自分より強い冒険者に出会った事が無く

 今回もオーガの軍勢を一瞬で倒した猛者とあらば手合わせをしてみたくなったのだ。


 冒険者であれば誰もが強さに拘り、上を目指すのであれば自分よりも強い相手に手合わせや稽古を付けて貰いたいと思うのは必然でありその意味合いでは正しいのだが、リッキーの場合は少しやり過ぎる所があって、これまで手合わせしてきた幾多の相手を再起不能にした事がある。

 アンジェラは少しリッキーに不穏な空気を感じ


「どちら様ですか?」


「ああ!オイラはリッキーっていうんだけど。君らの師匠とやらに手合わせ願えないかなーって思っちゃって!」


 今ここでアンジェラたちがその願いを聞きいれる事は出来ないが、大地は自分たちの師匠であり親代わりと思ってい事もあり断る事にしたが、何と言えば諦めてくれるのか言葉を選んでいると、リッキーが妙な事を言い出した。


「まさかとは思うけど、この町に現れた勇者的な人じゃないよね?もしそうなら何処に居るかだけ教えてくれたら君らは必要ないんだけど?」


 アランは必要以上に不安を感じ、アンジェラに至ってはこの物言いは普通では無いと瞬時に判断できたが迫り来る恐怖とリッキーから発せられる禍々しいほどの魔力に言葉を発する事も出来ずにいるとその二人の様子を見たガリレオが


「すんませんけど?さっきから聞いてはったらえらい勝手ですなぁ。こっちは出来ひん言うてますやん!こっちは楽しゅう話してんねやから、勝手に話しに入って来んといてもらえますか?迷惑ですわ」


 するとリッキーは怒り出し自分が座っていたテーブルをひっくり返した。


「こっちはさ、お願いしてんだけど?あんまり調子のってると痛い目にあっちゃうよ?」


 場は静まりかえっていたが、店主と思われる屈強な男性と従業員がやってきて従業員が割れたお皿等を片付け出した。


「お客さん!ここは飯食って飲むとこだから揉め事は外でやってくれ

 両方御代はいらないからすぐに出てってくれ」


 とリッキーの腕を掴んで外に連れ出そうとするとリッキーはとてつもない速さで手を振り払うと同時に店主の男を殴り飛ばしたのだった。店主は後ろに数メートル飛ばされ唸る様な声を上げて巻き沿いを喰らったほかの客達や従業員は悲鳴を上げていた。


「ね?だから言ったじゃん!君らもこうなっちゃうけどしょうがないよね」


 と言うとガリレオに殴りかかった。リッキーは一瞬でガリレオに近づくと拳が肉眼では捕らえられないほどの速さで殴り飛ばされ、店主と同じように飛ばされて動かなくなった。


 アンジェラとアランは急いでガリレオに駆け寄り、介抱したがガリレオに意識は無くこのままでは明らかにマズイ状態だった。

 リッキーはアンジェラに近づこうとしたが、なぜか近づけず不思議そうな顔で語りかけた


「へー……防御魔法か何か?君に近づけないな」


 そこになだれ込むように憲兵隊が押し寄せて来てこの場を見れば加害者である事は一目瞭然のリッキーに飛びかかっていったのだが、十数人の憲兵隊も同じようにほぼ同時に殴り飛ばされて唸り声を上げていた。リッキーは自身の身体強化魔法で身体能力を高めており、表情も先程までの少年の様な幼さの残る顔が鬼の魔物のように変化していた。


「弱い奴らが近寄って来んなよ!服が汚れるだろ?」


 そう言うとリッキーは店の外に飛び出したが外に待機していた憲兵隊数十人に取り囲まれてしまった。

 アンジェラは恐怖のあまり声も出ずにガリレオを介抱していたのだが、

 アランは仲間をやられた怒りからリッキーを追って外に飛び出したのだ。


「アラン!!やめて!」


 アンジェラはアランを止めようとしたがガリレオを放っていく事も出来ずにその場で泣き叫んだ。


 アランが外に飛び出した時には外に居た憲兵隊のほとんどが地面に倒れて唸り声を上げており、リッキーはモンクのスキル『縮地』で憲兵隊に物凄いスピードで近づいては殴る蹴るを繰り返していた。


 アランはその様子を見て足がガクガクと震えたが、勇気を振り絞り弓を構えてスキル『パラライズショット』を放った。

 パラライズショットはアランがレベル50で習得したスキルで命中すれば対象を最長で10秒間麻痺させてその場から動けなくするのだが、有効時間はスキルレベルが影響しアランのパラライズショットはまだLv1で、効果は2秒くらいなのだ。


 リッキーは矢が命中すると同時に動きが止まったがすぐに回復し、今度はアランに襲いかかってきた。

 アランはリッキーが此方に向かって飛んでくるのが見えた瞬間目の前に現れたリッキーに成す統べなもなく振りかぶった拳先が自分に向かって近づいて来る所を、危険な時に物事がスローモーションに見える時の感覚で見つめていたが、寸前で目を瞑り踏ん張った。


「ガッ……」


 アランにリッキーの拳が直撃する寸前で止まった。

 アランがゆっくり目を開けて見るとそこには誰かに腕を掴まれて寸前で止められているリッキーの拳先と驚いた様子でその腕の主を見ているリッキーの顔が見えた。

 アランが隣にいるその腕の主を見るとそこにいたのは大智だった。

 大智はリッキーに


「なにしてるの?お前は魔物か何かか?」


 と言葉から溢れ出るほどの怒りに満ちた声でリッキーに問いかけていた。

 リッキーは腕を全力で振り解こうとしているが、握り拳はそこにニワトリの頭のように空中にピタッと止まって動かない。

 大智はもう片方の手で恐怖のあまり座りこんでしまったアランを起こすと


「大丈夫?もう安心だからね。それと、このバカは何?」


 とアランに問いかけてきたので、どうにか腕を振り解こうとして大暴れしているリッキーを他所に、酒場での出来事を全て話し突然襲いかかってきた事を伝えると、


「こんなバカがSランクねぇ……世も末だな。あ、お前この場に『拘束』ね」


 大暴れしていたリッキーはピタッと動きが止まり、その場に拘束されたように動かなくなった。


「な。何だこれは!俺を動けるようにしろよ!こんにゃろー勝負しろ!」


 大智はその言葉を聞いてハァーと深いため息を吐くと


『黙れ』


 動けなくなったリッキーは黙らされて言葉が発せられなくなり回りから見るとただ呆然と立って居るように見えた。


「憲兵隊の皆さん!コイツはこのままで大丈夫だからとりあえず怪我人の救護を!怪我の酷い人は連れてきて」


 そう言い残すと店の中に入って行き結構な感じでグチャグチャに壊された店内でアンジェラとガリレオを発見した。


「パパ!仲間が……」


 すぐさまアンジェラに駆け寄りガリレオを見るとかなりの重傷で既に瀕死状態に陥っているのが分かり、その場で『アルティメットヒール』を唱え、ガリレオを蘇生と全回復し、隣で唸り声を上げていた店主にも『ヒール』をかけて回復した。

 アンジェラとガリレオからも事の真相を聞き出すと


「ちょっと待てってね。店の修理費と治療費貰ってくるから」


 と言い再び外のリッキーの所に行った。


 アランは憲兵隊の重傷者を運ぶ手伝いをしており大智に気づくと


「大智様!この人たちかなりの重症を負っってます!」


 大智はリッキー以外の怪我人に一斉に『エクスヒール』を掛け怪我人を完全回復させた。


「さて、お前しゃべっていいよ。何でこんな事した?寄りによって俺の娘まで手を掛けようとしたらしいな?説明しろ」


「うるせー!いいから俺を動けるようにして勝負しろ!この卑怯者!」


 大智は素直に謝れば許す気でいたが卑怯者呼ばわりされた事でその気は無くなりリッキーと大地を囲むリングのような結界を貼りリッキーの拘束を解いた。


「かかってこいよ。Sランクだっけ?強いんだろ?死ぬ気で来いよ」


 そう言い終わる前にリッキーは大智に縮地で迫るとスキル『拳の極意』

 で攻撃した。この『拳の極意』とは己の拳に夥しい程の魔力を込めて

 叩き出され、放たれた対象は即死級のダメージを追う超級スキルで

 格闘士から拳での戦闘を極めた後モンクへランクアップすると習得できる。

 しかもそれを習得するにはレベルも900以上必要になりこの世界で習得しているのはリッキーただ一人だった。


 大智にその攻撃が当たったと同時に爆発的な光と衝撃が発生し、リングの中はその攻撃の爆煙でみえなくなった。


「へへっ言うまでもなかったね。ワンパンだよ!」


 その様子を息を呑みながら見ていた憲兵隊や他のギャラリー、アンジェラ達も大智がやられてしまったのではないかと不安になり、アンジェラは思わず


「パパーーーー!!」


 と叫んだ。


「アンちゃん大丈夫だよ!いやー!すごいね!まるでイリュージョンだね!」


 爆煙が薄くなりリングの上が見えるとそこには何事も無かったかのように大智が立っており攻撃のダメージなど皆無な様子だった。


「おい!もっと本気でやれよ!Sランクなんだろ?蚊でも飛んできたのかと思ったぜ」


 その様子を見たリッキーは愕然となりその場で言葉も出ない様子だった。


「あ!そうそうお前俺に負けたら財産とか全部取り上げね!だから、俺に負けないようにガンバレ!無理だろうけど」


 その言葉を聞いたリッキーはハッとなり再び攻撃を仕掛けてきたのだが、


「ここから俺も攻撃するね!」


 と大智が言い終わると同時にリッキーはリングに倒れた。


「な、何をした……くっ」


「いやーHPを10MPを残り1まで剥奪しちゃったんだけど。まだ続ける?」


 HPMPの枯渇したリッキーはその場で動けなくなりしばらくすると声をひねり出すように


「参った!降参だ」


 と放った。

 大智はリングの結界を解きリッキーに近寄ると、『剥奪』を使いリッキーのアイテムバッグから大量の金貨を取り出した。確認すると、3億ジールあったので


「お!結構持ってんな。約束どおりこれ全部没収ね!」


 そのままお金は店に1億、憲兵隊に1億7000万、アンジェラ達に3000万になるように分配した。


「おい!お前次に何かやらかしたら何もかも全て剥奪するからな!忘れんなよ?」


 その後大智はリッキーをMPを10、HPを50まで上げて動けるようにした後、憲兵隊に引き渡した。


 フードを深く被った3人が遠巻きにその様子を見ており、その回りは不穏な空気が流れていた。その3人はSランクのニクラス、イザベラ、アレクシスで大智の驚愕の力に驚いていたが、自分達のパーティーの仲間が大智によって憲兵隊に付き出された事に憤りを感じており、中でも一番腹を立てていたのはニクラスで


「あの野郎……舐めた真似しやがって!ぜってー殺してやんよ!」


 その怒りの言葉には殺意が込められており短縮的にしか物事を考えられないニクラスが何かやらかすのは時間の問題のようだが、そんなニクラスを見ながら不的な笑みを零していたのはアレクシスだった。


「Sランク冒険者を逮捕など王国であっても許される事ではないのだよ。

 私の秘蔵のアレが放たれた時王国がどのような反応をするのか非常に興味深いよねぇ……ヒヒヒ」


 イザベラとニクラスはアレクシスのその言葉に含まれる邪悪な何かを感じ少し身震いしていたが、同じ仲間を捕らえられた憤りがあり何も言わず3人で夜の街に消えて行った

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