第13話―魔道具師 幸希
その頃エクムントに到着した大地達は村長とエーベルトに王女と交わした約束事を伝えこの地にジークとユーリアナが来る事を伝えると村長は
「守りの騎士団がこの地に来る事は良い事ですが、正直あの二人への疑念はまだ拭う事は出来ません。しかし、大智様達の拠点がここにはあります。そう考えると心強いので問題ないと思います。」
「どうせならヴァーレリーでなくここに騎士修道会の聖堂を王国に立てさせましょう!その辺の交渉はこのエーベルトが引き受けますよ!」
大智はこのエーベルトの提案は凄く良い案だと思った。
ここに国立聖堂を立ててしまえば信者やその他観光客も訪れるようになるので、その経済効果は膨大になる。
「ではエーベルトさんに交渉その他を引き受けて貰うとして何か権現が要るんじゃないかな?」
それを聞いた幸希に提案されたのが、王女に頼んで村長とエーベルトに準男爵の爵位を与えて辺境伯と共に交渉させればいいのでは?という事だった。
それに付いては問題はないのだが、王国が今後関ってくる場合に問題が発生し兼ねないので町並みが完成後はエクムントを村から都市に昇格させる必要がある。
正直王国が何処まで此方の要求を聞いてくれるか分からないので一旦保留にして辺境伯を交えて再度話し合いをする事にした。
その頃アランはヴァーレリーでの冒険者登録を済ませて、ヴァーレリーの南西にある森でアンジェラと初級のEランククエストであるゴブリン討伐に勤しんでいた。
アンジェラが初手の攻撃をして敵視を取り、アランが後方から毒系攻撃の矢を放ちHPを削りながら、アンジェラのレンゲキで討伐する方法を取っていた。
連携攻撃で火力の上がったアンジェラは次から次へとゴブリンを討伐していき、気づけばすでに30体以上討伐していてその周辺には既にゴブリンの姿も無くレベルも16から25まで上がりアランもレベル25から32に上がっていた。
「我輩はそろそろ休憩したいんだけど」
「うん!連続で倒してたから疲れたね。そこの木の所で休憩しよう!
そこでさっき買ったパンとミルクを食べよう!」
アンジェラは嬉しそうにポーチから2人分の食事を取り出し一人分のパンとミルクをアランに渡すと、木の下に座りこみ物凄い勢いでパンを食べ始めた。
アランもその様子を見てパンを食べ始めた。
硬く乾燥したパンは噛み砕くのに時間がかかり飲み込むにも口の中の水分を全て持っていかれるのでミルクなどの飲み物が必要不可欠なのだ。
ガリっとした食感はパンというより煎餅に近い物があり、食べ過ぎると胃がもたれそうな食べ物だ。
食べ終わった二人は次の狩場を何処にするか話し合っていたのだがすぐ近くの丘の向こうから黒い物体が此方に向かってくるのが見えた。
「敵か!」
アランがすぐさま立ち上がり弓を手にすると、アンジェラが座ったまま
「いや、我輩には人に見えるんだけど?」
その物体はどうやら短距離の陸上選手の様な走り方でその後をさっきまで討伐していたゴブリンよりも大きいボブゴブリンが追いかけているようだ。
「追われてるみたいだけど大きいね……助けないとヤバそうだな」
そう言うとアンジェラは立ち上がりアランと顔を見合わせると一気にボブゴブリン目掛けて走り出した。
アランも同時に走り出し、弓の間合いに入ると弓を構えてアンジェラの初撃にそなえた。
アンジェラは突き抜けていく突風の様なスピードで初手の攻撃を放つと後方からアランの援護射撃が始まり、毒の状態異常になったボブゴブリンは足を止めた。
さっきまで追いかけられていた人は人間族の冒険者らしく、真新しいダークグリーンのローブに根棒の様な少し長めの杖で装備から初心者の魔術士と一目でわかる。
その魔術士はアンジェラが攻撃し出すと足を止めてアランの所に急いで駆け寄った。
「えらいすんません!むこうで急にボブが追いかけて来よったんで……あっ
自分も手伝いますわ!」
その魔術士は長い呪文を唱えだすと杖を振り下ろしながら
『ファイアーボム!』
と叫ぶと魔術士の杖からバスケットボールぐらいの大きさの火の玉が発射され、ボブゴブリンの顔面に直撃した。
ボブゴブリンがその攻撃で怯んだ所をアンジェラの覚えたてのスキル
『破壊斬拳』
で仕留めた。
「フー強かったなー。我輩のレンゲキを3回も使ったよー」
アンジェラは今まで倒していたゴブリンよりも強いゴブリンを相手したこともあり疲労困憊の様子でアランの所に戻ってきた。
「ん?ところで君は?」
魔術士は二人をみて改まり
「ワイは魔術士でガリレオ・ロッカ言います!もうアカンかな思てたらちょうどお二人さん見えたんで……すんません!」
ガリレオは少し前に冒険者になったばかりで冒険者ランクはE。
一人でゴブリンクエストをやってレベルは25まで上がっているが不意にボブゴブリンに見つかってしまい逃げ出したとの事。
ボブゴブリンのソロ討伐はレベル30以上が妥当でレベル20代の冒険者では難易度が高く、その場合2人以上のパーティ推奨だ。
ガリレオは背の高いイケメンで赤い髪の毛とダークグリーンの瞳だ。
「今日はこのくらいにしとく?」
「我輩も同じ事考えてた!」
するとガリレオも町に戻るとの事なので3人でヴァーレリーに戻る事となった。
街までは徒歩で2時間くらい掛かるのだが道中にどの辺にゴブリンが居るとか、あそこは危険だから近寄らないほうがいいとか情報交換しながら歩いていたが、ガリレオがどうせならこれから先は一緒にパーティーを組んでやらないかと提案した所アンジェラとアランはこれを快諾。
3人でパーティーを組む事になった。
3人がヴァーレリーに到着した頃には夕方の綺麗な夕日がそろそろ見えなくなりそうな時間で、3人は冒険者ギルドへの報告を急ぎ足で歩いた。
一方エクムントも夕日が落ちて星空に変わっていく途中の綺麗な空の景色が見られ、村長の自宅の間借りした部屋から幸希がそれを眺めていた。
大智は林檎の香りのする紅茶を飲みながらお風呂から戻ってきたミネルバの
髪の毛に櫛を通して親子の団欒の様な時間が流れている。
「ね!今日は向こうに戻ろっか」
「そうだな。俺もそれ言おうとしてた」
時間が最適化されるとは言え、やはり異世界にずっといると少し不安になってくるのでこのタイミングで戻ろうと思っていたのだった。
異世界にずっといると現実世界でもこっちでの癖が出てしまうようで安易に魔法を使わないように気を付ける必要がある。
幸希も同じ事を思っていたらしく、現世に戻ったら癖に注意するように大智に言って、そろそろベッドに入る時間になった。
ベッドには3人が川の字になって大智も幸希もミネルバにお休みのキスをすると3人手を繋いで目を閉じた。
現世に戻った大智と幸希は自宅のベッドで共に目を覚まし、携帯電話の時計を見ると目を閉じた翌日つまり次の日の日曜日の朝だった。
早速起きた二人はダイニングに行きコーヒーを入れて幸希が焼いた食パンを食べ、昨日までの話しで盛り上がった。
幸希は何か思い付いたように大智に着替えを持ってきて出かけるから支度をするように告げると自分も慌てて支度をしだした。
「何処にいくの?」
「えっとねー。まずはホムセン!それから駅前のヤタダ電機!」
ホームセンタはなんとなく分かるが家電量販店のヤタダ電機はちょっと予想出来なかった。
幸希の話しでは、ホームセンターでタオルやシャンプーリンスなどの生活雑貨とプラスチック製で200ℓの水タンクを購入し、ヤタダ電機でドラム式洗濯乾燥機、サイクロン式の掃除機、ドライヤー コーヒーメーカー、
大型のホームベーカリーが欲しいそうだ。
ここで少し疑問。電化製品は電気が必要だし洗濯機は水道が必要。
そしてそれらをどうやって持っていくのかという事を幸希に聞くと、
幸希がミネルバに聞いた所、電化製品は異世界に持っていくと
電気の変わりに魔石をはめ込みそれに魔力を注ぐ事によって稼動する
魔道具になり、洗濯機の水道は水の魔水晶を使えば水道のようになるらしい。因みに魔石は魔物を討伐すれば簡単に入手可能だが、水の魔石は入手が少し困難で探す必要があり、その間は洗濯機のポンプを使って200ℓのタンクでやり過ごすらしい。運搬は購入した物を全てポーチの中に入れておけば持って行けるそうだ。
早速ホムセンに到着したので必要なものと、あると便利だなと思うものを見繕い、生活雑貨の消耗品は箱買いした。結構な金額になったのだが、幸希は結構な量の札束を持っていたのでその事に付いて聞くと、
ポーチの中の3900万ジールは現世でポーチから取り出すと自動的に此方の円に両替されるらしく、レートは1ジール=1円で、3900万円持っている事になる。
それには少し驚いたがそれだけあれば女性は色々と揃えたくなるものなのだろう。家電量販店でも同じ用に必要な物と大智の提案で最新型のオーブン電子レンジとホットプレートを購入、少し割高になるがすぐの配達を希望した。
「お昼からの配達だから早めに帰らないとね」
そう言いつつも女性のお買い物は色々見て回るので時間が掛かる。
駅前という事もあって、この辺りは大手百貨店も立ち並んでおり、
必要なものが増えたらしく高鳥屋に入り調味料等を大量購入後
幸希が次に行きたいお店は少し男性が入りにくい下着売り場だ。
「ちょっとまっててね!」
幸希は下着売り場に入って行ったので大智はその並びの本屋に入り立ち読みをしていた。
「桐原部長!」
声を掛けてきたのは北原だった。
北原と休日のプライベート時に出会うのは始めてで少し驚いたが、北原の買い物は終わったらしく一緒にコーヒーでも飲もうとなりコーヒーショップに入った。
コーヒーをオーダーして受け取りコーナーでコーヒーを受け取り4人掛けのテーブルを確保して幸希に電話でコーヒーショップにいる事を伝えた。
「いやーこんな所で北原に合うとは思ってなかったよ」
「今日はお買い物ですか?」
「妻のお買い物の付き添いだ」
「北原は買い物か?」
北原は予約していたゲームソフトの受け取りに来ていて、他に用事が無かったので帰ろうとしていた所だっようだ。
「北原もゲームとかするんだな」
「ええ、高校生の頃から色々ゲームはやってますよ!
最近はあまり出来ませんでしたけどね」
「ゲームより彼女作った方が良いんじゃないか?」
「そこはそっとしておいて下さい」
イケメンとまでは行かないかもしれないがそこそこな顔なのだから彼女くらい居そうだが、やはり人夫々何か事情があるんだろうと思っていると
「お!北原君もいっしょか!こんにちは」
「あ!幸希姉さん!こんにちは!」
北原は良く仕事帰りに大智の自宅に夕飯を食べに来るので、幸希とも仲が良い。幸希の事を最初は奥様とか呼んでいたのだが、幸希の立っての希望で幸希姉さんに変更させたのだ。
「ちょっとまっててコーヒー買ってくる」
幸希はコーヒーを買いに行きその姿を北原と見送った後ポツリと北原がこぼした。
「幸希姉さんに匹敵する女性なんて中々居ないんですよ」
「ん?もしかして惚れたか?しかし俺の嫁だから叶わぬ恋だな」
と笑い話に花を咲かせていると幸希がコーヒーとクッキーを買って席に戻ってきた。
「え?どうしたの?私の悪口でも言ってた?」
北原が幸希に恋心を抱いてる事を冗談交じりで伝えると北原は焦ったように
「いえいえ違いますよ!ただ、もし結婚するなら幸希姉さんみたいな人が理想的だって事ですよ!」
「お!北原君分かってるねー。でも何もでないよ?」
と軽くあしらわれていた。
北原は知らない。戦神が宿った時の幸希を……恐ろしや……
その後ゲームの事や最近のドラマとか色々な話しで盛り上がったが北原がここに来る時の話しをしだした。
「そう言えばこの前屋台で一緒に飲んだ所なんですけど。
今日来る時になんとなく気になったんで行って見たらあそこ
池だったんですね。
池の前に屋台があったんですかね?」
大智はギクっとなり幸希の顔を見ると幸希は平然とした様子だが少し落着かないようだった。
「そうだったのか。ただの池だった?何か屋台の痕跡はあった?」
「いえ、ただの池でした。あ、鯉が泳いでましたね。」
真ん中の石像が見えていたのか気になる所だが直球で聞いてみるのもどうかと思っていると幸希が
「池かー。カエルとか亀とかチーっておしっこしてる像とかの置物もなし?」
上手い!誘導尋問のプロかと思うほどの華麗な?質問に、北原から帰ってきた返答は
「いえ、何も無い普通の池でしたよ。またやってたらおでん食べたいですね」
やはりミネルバの言う通り関係の無い人にはヘスティア様の像は見えない事が分かった。
その返答を聞いて大智と幸希は顔を見合わせて少し微笑んだ。
その後北原と別れ大智と幸希は自宅に向かった。
自宅のある社宅の前にヤタダ電機の配送のトラックが止まっていたので急いで自宅のある3階まで上がるとちょうど配達員がインターホンを鳴らしている所だった。
すぐに声を掛けて自宅に搬入してもらい、設置は自分達でやる事を伝えると配達員は帰って行った。
幸希のポーチに全て詰め込み後は向こうに行くだけの状態が整った時はすでに19時を回っていたので高鳥屋の地下で買ったお弁当を食べて、お風呂に入り二人でビールを飲んだ時に何気なく
「このビール向こう持って行ったらどうなるかな?」
「え!それ面白そう!確かストックが一箱あるから持って行ってみる?」
早速ストックルームから引っ張り出すとポーチに入れた。
「キンキンに冷やして飲ませてみたいよね!」
「そうだな。多分みんな腰抜かすだろうな」
と笑いながら21時頃二人でベッドに入った。
目を開けると村長の自宅。
朝焼けの村は妖精達の歌声が清清しい朝の訪れを告げていた。
幸希と共に目覚めた大智はまだ寝ているミネルバを起こさないようにダイニングに行き朝食の準備されたテーブルに着く。
いつもの固いパンとオレンジ系の香りがする紅茶がダイニング全体に朝の雰囲気を漂わせていた。
「リゼットさん。パンを作ってみない?」
幸希の言葉に少し驚いたリゼットは、通常パンは購入するもので、毎日
ヴァレーリーに出荷する馬車が帰りがけに次の日に食べるパンを購入して帰ってくるので、作ると言う発想は無かったようだ。
ここエクムントは出荷する農作物に小麦があるが、貴族用の高級パン以外は他の用途で使用されていて庶民が食べるパンは小麦より安価なお米に近い作物で作られており固い仕上がりのパンが庶民向けなのだそうだ。
「え!どうやって作るのですか?」
「便利な魔道具があるの」
「幸希様は魔道具士でもあるのですか?」
幸希は早速ホームベーカリーを取り出して大智が保管していた魔石を融合させそこに魔力を流し込むと電源が入ったので、現世の自宅から持ってきた強力粉、牛乳、バター、ドライイースト、砂糖、蜂蜜、塩を取り出しリゼットと二人で楽しそうに作りだした。
大智はパンと紅茶を頂くとミネルバを起こし、朝食を食べさせて二人で出かける事にした。
だんだんと町並みが整っていくエクムントは農作物や畜産物の生産場所も10倍くらいに拡張されていて、エルフ族の象徴でもある木の上の住宅を少し残してそのほとんどが都市の様な町並みに生まれ変わっていて、街にも活気が溢れ元々住んでいた子供たちも生活が潤ってきたのかボロを着ている子は見かけなくなった。
村長を見かけたので挨拶をして今日の辺境伯との対談で話す事などを聞きながら完成間近の拠点に足を運んだ。
拠点があった場所に見えるのは、外見が少し大きめの聖堂の様な作りになっており。中を見て見るとそこは本当に聖堂でほぼ完成していて、二階に住居スペースがある。
「これ……聖堂ですね……」
「そうです!神の住処なので聖堂にしました」
「ははは……ミネルばを祭ってもらうかな」
ミネルバはその聖堂を見ると満更でも無いみたいで嬉しそうにしていたがアポロン教が布教している王国でミネルバが受け入れられるのか少し心配になりミネルバに聞いてみた。
「この国アポロン様を崇めてるから無理かもね?」
「アポロン様は仲のいいお友達なのです!大丈夫なのです!」
するとミネルバはまだ何も飾られていない祭壇の前に行き両手を大きく広げ、良く分からない言語の呪文を唱えると祭壇が眩しいくらいに光を放ちその光が止むと純白の大きな石像が祭壇の上に出現した。
眩しい光に目を閉じていた大智と村長が目を開けるとそこには凛とした表情の主神ゼウスが中央に立ち、そのゼウスを囲むように他の十二神が夫々なポーズで立っていてまわりに天使が何人か飛んでいる構図だ。
「おお!この様なすばらしい石像は生まれて始めて見ました!」
村長はその場で両膝をつきその像にお祈りをし始めのだが、ミネルバが
「さっきゼウス様に許可を貰ったなのです!本当の姿を見せるなのです!」
ミネルバは突然体全体から方々に真っ白な光を放ち、大きな女性に変身した。
その姿は透明度の増した金剛石の様な金色の髪、今まで見た事も無い様な
白藍色の瞳を持つ眉目秀麗な顔に女性の肉体美を象徴するかのようなラインに纏う薄い純白のドレスで右手に丸い金の鳥紋章の大きな杖、左に丸く大きな金と銀の装飾が施された見事な盾で背後に3人の金のフルプレートアーマー姿で槍を持った天使を従えた女神アテーナー本来の姿になった。
その神々しさに大智は声も出なかった。
「私は十二神、女神アテーナー。男神アポローン同様この地の守護神……
この地に十二神像を祭り崇め奉る事をここに許可する。
この地に十二神の加護のあらんことを」
言葉が出ないとは正にこの事だろう。十二神の一人女神アテーナーが前の前に現れたのだ。大智は後ろを振り返るとほとんどの村人が来ており、両膝を付いてお祈りをしている。その中にエーベルトとリゼットと幸希の姿もあった。
その後、女神アテーナーは消えて祭壇の後ろの方からミネルバがトコトコと
歩いて出てきた。
「みんなお祈り中なのです!私もお祈りするなのです」
と行ってミネルバも祭壇にお祈りをした。
その頃王都を出たジークとユーリアナは宮廷騎士団に借りた荷馬車に自分たちの荷物を積み込み、エクムントへ向かっていた。
「これで宮廷騎士団ともお別れだな。少し寂しい気もするが向こうに着けばまた違った生活に慣れる為に忙しくなりそうだな」
「ええ……でも私はジーク様と一緒なら何処で何があっても耐え忍ぶ事ができます。」
「そうか……。でも不思議なものだな。あれだけ王都の騎士である事に拘っていた私が、いざ王都を離れるとなると寂しい反面これで窮屈な生活から開放されるという安心感があるのだから……。皮肉なものだ」
荷馬車の中の荷物からユーリアナが可愛らしい箱に詰められたサンドイッチを取り出しジークに渡すとジークはそれを取って食べ始めた。
「ジーク様。私は何時もジーク様のお隣で貴方を見てきました。
士官学校を卒業して始めて騎士団に入隊してから私達は
異例のスピードで士長に上り詰めました。でも貴方は学生の時の希望に満ち溢れたた輝きが日々失われていくようで私は見ていて辛く思っていました。
新しい地でまたあの頃の輝きを取り戻せる様に私は一生ジーク様の傍に寄り沿うつもりです」
「ユーリ……そこまで私の事を思ってくれていたのだな。ありがとう」
ジークはそっとユーリの方を抱き寄せ頬に一粒の涙が零れた。
「ああ……ジーク様。今宵は……夜伽が待って居るのですね……んっ」
「あー……えっと……そうではなくてだな。ん?ユーリ?待て!何故私の服の中に手を忍ばせてきているのだ!ユーリそこは乳房の先端……んっ」
ジークとユーリは新たな地エクムントに出発したがこれから起こる王国全体を揺るがす事態にこの時はまだ気づく由も無かった。
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