第12話―王城の悪夢
――王都 南側城門
夕方の交代の時間に王都の門番達の引継ぎのチェックを行なっていた。
「……という事になります。それと明日の朝。食材の荷馬車が4台届きますので通行証の確認お願いします。以上」
「はっ!……おつかれさまでした。今日は真っ直ぐ帰られるんですか?」
「いや、最近何処も出かけてないからな、ちょっと一杯引っ掛けて帰るわ」
「いいっすね!今度は自分も誘ってくださいよ!」
「ま、今度な。じゃ、帰るわ……って!あれはなんだ?」
「え?どれですか?」
夜勤の門番が見た物は南の上空を物凄いスピードでこちらに向かってくる巨大な鳥の様な物体だった。慌てた門番達は非常事態の鐘を鳴らし城内に繋がる魔話で何かの接近を伝えた。
「大変です!何か鳥の様な物が王都に急接近中!繰り返す!何かまものおおおー……王都南門の上を通過!通過!王城目掛けて前進中!」
王城内部の騎士団と騎兵隊は大急ぎで城壁の屋上に集まった。
「ええい!ジーク団長のいらっしゃらない時に!」
「隊長!全長15メートル位のコカトリスと判明しました!」
「弓と魔術師は射撃準備!」
ゆっくりと進んでくるコカトリスは王城の手前で止まり巨大な両翼をバッサバッサと羽ばたきながら睨みを聞かせている。
1000年前の魔王討伐後に魔物がここまで侵入した事は無く戦闘に慣れてない兵士たちは右往左往していた。
コカトリスが頭を下げると白いローブの魔道士が現れて、
『全員跪け!』
と大声を上げた瞬間、城壁及びその周辺に居た騎士団と兵士、魔道士までもが一斉に跪き動けなくなった。
騎士団の一人がコカトリスに乗っている人間たちを見て見ると、魔道士と騎士、背の低い子供の様な魔法使い、縛られたジーク団長とユーリアナ魔道士長が見えたが、声を出す事が出来ない為ジッと見る事しか出来なかった。
大智達は王城の騎士達を制圧後王城の一段高い位置にある少し広くなった所にコカトリスごと舞い降りた。
コカトリスの翼を低く広げさせそれを足場に王城に下りると、ミネルバ、縛られた二人幸希の順番に降り立った。
大智は縛られた二人を前に付き出して息をスーッと深く吸い込み大きな声で
「この無礼者の主に話しがある!直ちに現れ出よ!」
宮廷騎士団最強と言われたジークと破壊兵器とまで言われたユーリアナが縄で縛られて4人の目の前に立たされている光景は異様で誰もが驚愕の様子で事の成り行きを見ていた。
すると王城から王女と数人の兵士が現れた。
王女は栗毛にエメラルドグリーンの透き通る様な瞳で見目麗しく締め上げられたコルセットにワインレッドのバッスルドレス、頭にはティアラがあり、何処からどう見ても王女であった。
「私がこの者達の主、ヴァイトリング王国王女ナターリエ・ヴァイトリングです。お話しは謁見の間でお聞きしますのでどうぞ此方へ」
王女の後をジーク達、大智達の順番で付いて行き、その道中でミネルバが大智に耳打ちしてきた。
「大智様と幸希様はステータスの隠蔽を一旦解くなのです。ここで一度神の存在を分からせるなのです」
大智達はステータスの隠蔽を解いて、ここから先は幸希が話すが大地も今回は口を出すと言う戦法で行く事にした。
大きなドアが兵士二人によって観音開きにされると中は物凄く広く天井も高い。ドアから真っ直ぐ奥に敷かれているレッドカーペットを真っ直ぐ歩いた奥に部屋の右から左までの5段位の階段がありそれを上った所に王座が置いてある。レッドカーペットの両側にはフルアーマーの兵士がズラリと並んでいて、今にも襲ってきそうだ。大智達は階段の手前で止まり、縛られた二人は大智達の目の前に座った。
王女は王座に座ると
「取り敢えずその者達の縄をほどいてもらえませぬか?」
ミネルバがとことこ歩いて行き二人に手を翳すと縄は一瞬で消えた。
王女がその様子を見終わると二人を自分のそばに呼んで隣に並んで立たせた。
「さて、お話しを聞きたい所ですが王国の騎士団長と魔道士長へのこの様な行為は許すわけには参りません。この様な行為に至った弁明をお聞かせ下さい」
王座に並んでいるユーリアナが此方を見て何かをブツブツつぶやいているのが見えたがどうせ鑑定でもしているんだろうと思い、創造で『心話』と言うスキルを作成して、ミネルバと幸希に行使した。
幸希の顔は既に戦神が宿りミネルバも神の怒りモードに入っていたのだが、
幸希がフーっと深いため息をはいた後口を開いた。
「脆弱な人間ごときが我らに何が効きたい?神の加護を受けた村人を死に至らしめようとした愚かな事柄か?それなら貴様のとなりにおる愚か者共に聞くがよかろう」
その言葉を聞いた兵士の一人が
「王女に対して何たる無礼!皆の者この者達を捕らえよ!」
一斉にカーペットの横に居た兵士たちに輪になるようにして囲まれた。
「「二人ともきこえるか?」」
「「なにこれ?直接話せる」」
「「心話なのです!大智様の魔法なのです」」
「「どうする?これヤバイね」」
「「こんな時はこの兵士たちを3回くらい殺してみるなのです」」
「「幸希がやって俺がリザレクション?」」
「「エクスリザレクを作成してリザレクションエリアを生成すればいいなのです」」
エクスリザレクを作成してゴーサインを出すと幸希が剣を構えた。
「貴様ら、我らに剣を向けた事を後悔しながら天に召されるがよい」
幸希が頭の上で両手大剣をグルっと回しながら
『ブラストサークル』
突風が周囲の兵士を包むように吹き荒れると一斉に囲んでいた兵士たちの首が刎ねられた。間髪入れずに『エクスリザレク』を発動。
刎ねらて中を舞っていた首が元の位置に戻り蘇生され、兵士たちは自分の首が付いているのを確認していた。
「どうだ貴様ら!天に手が届いたか!」
「ヒイィィ……」
「下賤が妙な声で囀りよって!もう一度行って来い!」
また突風が吹き荒れ兵士達の首が刎ねられた。
今度は少し間を置いて『エクスリザレク』
すると今度は完全に床に転がっていた兵士たちの首が引き戻されるように元の位置に戻り蘇生。
「天に足ぐらいは着いたであろう?」
「ヒイィィィイイ」
兵士たちは完全に腰が抜け、座りこむ者や四つんばいになって動かない者まで現れた。
「休息は取れたであろう!次は天の者に自己紹介を致せ!」
また兵士たちを今度は少し大きめな突風が襲いかかり次は体全体がバラバラになる者、体が縦に真二つになる者、体が四つに分離した者など、バイタリティー溢れるその死に様はスプラッター映画のワンシーンのようだった。大智と幸希は完全に人を殺めてしまっている訳だが、直ぐに蘇生しているせいか状態異常無効化が効いているのか分からないが気持ちが変になる事は無かった。
今回はさっきよりももう少し長めに置いて蘇生したら飛び散った体の一部や血液も生きているかのように動き出し元の体に戻っていく様は何かの逆再生を見ているようだった。
最後の兵士が蘇生すると何事も無く兵士たちが完全に腰を抜かして「ヒイイイ」と言っている光景になった。この兵士達は当分腰の関係で動けないのだろう。
幸希はゆっくりと王女の方に歩き出すとジークとユーリアナはすでに腰を抜かして王座に縋り付くような姿勢になっており王女も足を床に真っ直ぐ突っ張って背もたれに仰け反り引き釣った顔で幸希を見て
「こ……こないで!」
と精一杯の声を絞り出していた。
幸希はまるで悪魔のささやきのように、
「次は貴様らが天に出向いて自己紹介を致せ」
そしてゆっくりと大剣を構えた。
するとユーリアナが腰の抜けた体で這い蹲って、幸希の足のつま先程に両手を添え、絞り出す様な声で
「申し訳ありませんでした神様!もう二度とこの様な事はしませんのでお怒りを静めてください!! 王女!この方たちは神です!先程鑑定しました!私達は神の逆鱗に触れてしまいました!神の御前で王女も何もありません!どうか王女も頭をお下げ下さい!」
王女は王座から滑り落ちるように床に這い蹲るとユーリアナの手に自分の手を重ねて頭を下げ
「神を御前にしているとは思いもせず大変な無礼を働いてしまいました。どうかお許しを!」
ジークも這い蹲って手を伸ばしたが届かずにその場で頭を下げて
「どうか御慈悲を!」
すると殺気の漂っていた幸希は普通に戻り、
「分かればよい」
とケロッとした感じで言って後ろを振り返り大智の元へ歩いて戻ってきた。
次は大智が王女の所に歩いて行き3人の頭を上げさせ
座りこんだ状態の相手に合わせるように大智もその場に座りこみ話しを始めた。
「王女さん……なんでここまで神の怒りを買ったかわかるかい?君の部下がね、エクムントの村民の命を虫けらのように殺そうとしたからなんだよ。君らは自分たちのプライドが重要で国民の命はどうでもいいのか?そもそも君が直接出向いてくれば済んだ話しだろう?それをこんな子供の様な者を遣すからこんなことになったんだよ。」
王女はゆっくりと頭を上げ恐怖に支配され真っ青になった表情で
「一国の王が出向くとなれば大変な自体を招きかねません。
王国にとって超えてはならない事柄も有る故なにとぞご理解の程を。
私が其方に出向かせた者達の責任は王女である私の責任。
私の命を差し出しますのでどうか……」
大智は少し考えた。
この条件を承諾する訳には行かないのだが、何もお咎め無しと言うのは癪に障る。ならば……
「君の命は要らない。俺たちは王女を殺しに来たわけじゃないからね。
但し、このままお咎め無しって言う訳にも行かないから此方の条件を飲んでくれればそれでいい」
条件は、
① ジークとユーリアナの宮廷での職務を解任しヴァーレリー及びエクムント地方の騎士修道会を設立、その騎士長、魔道士長に任命する事。その運営は全て王国で賄う事。
② 今後王国の都合のみで大智達に謁見することの禁止と神の存在を王国民に明かしてはならない。
③ 大智達の王国での行動や言動に意を唱える事の禁止。
を提案した。
「もし1つでも条件を破った場合王国を厳罰に処すけど」
王女は少し考えてから
「分かりました。ただ此方にも約束していただきたい事があります」
「約束とは?」
「其方の力は強大です。もしその力を行使して王国を滅ぼそうなどとなれば此方は無力です。どうかその様なお考えを起こさないように願います」
大智は王女の手を取りやさしく介助するかのように王女を立たせ、王座にゆっくりと座らせた。
「分かった。心配しなくても俺たちにそんな気はまったくないから。
さっきの条件にもう1つ付け加えるけど、ここでの出来事や俺たちの素性は他言無用。これは絶対だ。」
それを聞いた王女は安堵の表情になり背もたれに深く凭れ掛かった後、ゆっくりと立ち上がり
「ヴァイトリング王国王女より命令する!ジークリット・リッベントロップとユリアーナ・ライヒの両名は士長解任!両名は後任を副士長に任命し、即刻ヴァーレリー及びエクムントの騎士修道会の士長に就任する事。今回王城で起きた事柄に付いては一切の他言無用!王国は今後一切この神々に対して意を唱える事を禁ず!また、これらの宣言に背く者は厳罰に処す」
「はっ!」
これで大智達の存在を王国王女に知らしめる事が出来、今後の行動もしやすくなった訳だが、王女は大智達の考えに賛同するかが疑問に残る。
「それと王女、貴方とは少し個別で話したいのだが」
「分かりました。それでは場所を変えましょう」
王女と謁見の間を後にした大智達は王城の応接間の様な場所に案内された。
そこは豪華絢爛な内装でソファのセットに至っても見た事も無い様な高級品ばかりで若干気が引ける程だ。
ソファに腰を下ろした3人に紅茶とお菓子が出されミネルバはお菓子を独り占めするように食べ始めた。
王女は3人の対面に腰を下ろすと、兵とメイド達を人払いした後大智に話しかけてきた。
「これでよろしいでしょうか?」
「うん。いいけどこれからの話しはお互い聞かれたくないだろうから防音障壁を張るけど問題ないかい?」
「はい。問題ありません」
大智は『結界』に防音を付与してこの部屋のみに結界を張った。
「よし!これでオッケー。自己紹介がまだだったね。俺は大智
隣は俺の妻で幸希、その隣はミネルバだ。俺たち夫婦は神の使徒といった所なんだけどミネルバは今の姿は化身だけど女神アテーナー本人だ。それとここから先はその、丁寧な言葉遣いは無しにしよう」
王女は3人を順番に見ていたがミネルバの紹介が終わった所で羨望の眼差しになり、思わずミネルバの手を取って
「女神アテーナー様お会いできて光栄です。」
「丁寧語は禁止なのです!その言い方では話しをしないなのです!」
王女は少し躊躇いながら
「わかりま……。わかった。こ、これからよろしくね、です」
大智はその様子に思わず大笑いしてしまい、幸希とミネルバに空気読め的な視線を浴びせられた。
「ナターリエって呼んでいい?さっきは怖かったでしょ?あの状況で仕方が無かったんだけど、ごめんね」
幸希が微笑み掛けると一気に緊張の糸が解けたように泣き顔になり幸希の右手を両手で挟むようにして泣き出した
「うう……もうっ!怖かったんだからね!怖かったんだからね!」
と少女に戻ったかのように泣き出す所を見ると心の底から幸希の事が怖かったのだろう。
「子供みたいに泣いているのです」
「ミネルバだって見た目子供じゃん!」
場が和んで来た所で大智は今回の出来事の詳細やこれからの自分たちの行動、考えなどをナターリエに伝え王国のみを擁護したり敵対したりする考えは無い事を強調した。
これからはこの部屋だけに来られるようにしてくれたらいつでも遊びに来る事や誰にも知られずに外に護衛無しで出かける事も出来るという事を伝えると飛び上がるほど喜んでいた。
「これで私も町を自由に散策できるんだね!あ……でも王女の顔を知っている人がいたらマズイよね?」
「それは大丈夫だ。出かける時は違う姿に変身させてあげられるからね」
「そんな事まで出来るんだね。神様って凄い!」
大智がナターリエを連れ出す事には意味があった。まず、王城に閉じ込められている状態では王都や国内の地方の町や村に付いて全く現状を把握していない様なので自国の現状を体感させるために平民視線で王国に触れさせる事が重要なのだ。
これはミネルバの提案で人間族の事に一々大智達が介入してしまうと自浄効果が薄れてしまうのを懸念しての事である。
大智達は大体の話しが終わったのでエクムントに戻る事にした。
コカトリスを帰還させて大智はナターリエに別れの挨拶をすると転移魔法で3人ともエクムントに転移させた。
――ヴァーレリー冒険者ギルド
冒険者ギルドのギルド長室ではラファエルが4人の冒険者と話していた。
この4人はこの国のトップを誇るSクラスの冒険者たちで、大智達、すなわちSSSランクがここで誕生した事を知り、様子を見にきているのだ。
「あ?俺たちでは足元にも及ばないって言いてーのか?」
この男の名はニクラス・ベネケンでこのパーティーのリーダー。盾と剣で戦闘をするナイトで屈強な体格。熊の様な見た目。ミスリル製のフルプレートアーマーを着用
「それってちょっと心外だな。ギルマスが弱っちいだけじゃないの?」
この男はモンクで名前はリッキー。優れた身体能力と破壊力であらゆる戦闘をほぼ無傷で戦ってきたSランク冒険者。ミスリル製のライトアーマーで小柄な少年の様な風貌。
「リッキー……口が過ぎますよ。年長者にはそれなりの敬意を」
パーティーの中で唯一の常識人で聖魔道士のイザベラ・カサロヴァ
主に回復魔法を得意とするSランク冒険者。170センチと背が高くスレンダーであるが、胸もスレンダーなのでそこは禁句。
「なるほど……一度手合わせをして見たいですね」
黒魔道士のアレクシス・クラッセン。この国で唯一SSランクに届きそうな人物で魔力、行使出来る魔法量はユーリアナに匹敵する。
女性でグラマーな彼女はイザベラに気を使ってローブを着込んで体のラインを隠している。
ラファエルの元には既に魔報により王国の大智達への対応を示す通達が届いており、この4人に厳重に注意するように伝えたいのだが、強い冒険者は少し勘違いをする事があるため問題が起こる事が良くあるのだ。
「ね!どんな人だったかだけでも教えてよ!探してみるからさ」
「とにかく!王国が無闇な接触を禁じているから諸君らも決して勝手な行動を慎むように!これは王女からの命令事項である為、残念だが諸君らにその方達の特徴を教えるわけにはいかない」
「ちぇっ……ケチ!」
最後まで食いついてきたリッキーだったが諦めたようだった。
しかし、この4人が王国を揺るがす事態を引き起こすとはこの時誰も知る由はなかった。
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