第11話―王国騎士団ジークとユーリ
――王都、王城謁見の間
その頃王都では王国初の宮廷騎士団の女性団長ジークリット・リッベントロップが国王に謁見中であった。
「その話しは本当か!」
「はい……先程宮廷魔術師の所に魔報が届きまして、どうやらその者が現れたのはヴァーレリーのようです」
早速、ヴァーレリーの冒険者ギルド長であるラファエルは魔報と呼ばれる通信装置にて王城に大智と幸希の事を報告していたのである。
王女は少しの間考え込んだ後
「勇者か…… もし本当なら会って見たいものだな……ジーク。騎士団の中で口の堅い者を1名引き連れ、王が会いたがっている事を申し伝えてはもらえぬか?」
「御意!」
王城では大智達の噂でもちきりになっており、早速王女が騎士団長に伝言を言い渡したのであった。
騎士団長ジークは王城の騎士団長室のデスクに座り突然現れた 《勇者》 について上がってきた報告書に目を通していた。
――王国騎士団団長宛
ヴァーレリーの冒険者ギルドにて2名 SSSランクが誕生
その者達一名は男で黒髪黒目年は20前後上等な白の大魔道士の様な
ローブを着用、職種は 大賢者
もう一名は女で栗毛黒目年は20歳前後上等な白と金の騎士の鎧を着用
職種は剣聖
話した内容から復活した勇者の可能性大
オーガ首領及び幹部とその歩兵の軍勢およそ200の魔石を持参
本人たちの雰囲気から異国人と推測
エクムントの村に拠点がありそこに滞在
ヴァイトリング王国に対し敵対も協力も不可
この者のからの申し伝えは謁見の場合王国側が出向けとの事
ヴァーレリー冒険者ギルド長
ラファエル・ヘルマン
ラファエルによって王城に届いた魔報は既に王都全体を期待と不安の渦中にに陥れていたのだった。
その時部屋のドアがコンコンとなった。
「入れ!」
ドアが開き部屋に入ってきたのは宮廷魔術士長のユリアーナ・ライヒであった。
「お呼びですか?ジーク様」
「うむ。極秘任務なのだが今回地方に現れた勇者との謁見に同行願いたい」
「それはそれは。この様な大役喜んでお引き受け致します。行き先の地方とは?」
ジークはデスクの上で両手を組んで握り
「南のエクムントと言う村だそうだ。そしてこの謁見は他言無用。護衛の居ない二人旅となり、明日の朝出立する。行程は10日前後となる予定だ」
それを聞いたユリアーナは一瞬で表情が高揚し興奮したように潤んだ瞳で身体を震わせて
「まあ……とうとうジーク様と結ばれる日が来るのですね……私はこの日が来るのをどれほど待ち望んだ事か……」
ユリアーナとジークは王立士官学校で主席のジークと次席のユリアーナと言った間柄で同期である。元々同性愛者であったユリアーナは赤髪色白の美少女で男性に多大なる人気があったが士官学校時代にジークという銀髪蒼目の麗人に出会い一目惚れをしてしまった。ジークはその麗人さとクールさを兼ね備え聖剣士という事もあり他の男性を寄せ付けなかった。
しかしジークもまたユリアーナに引かれる所があり満更でもなかった。
「あ……えっと、ユーリ?そうではなくてだな……ユーリ?」
ユーリアナはその10日間の淫らな妄想で腰砕けになりその場にへたり込んでしまっていた。
「ああ……そのように私の名前を呼びながらジーク様と……んっ……淫靡な世界の中で共に果ててしまうのですね……あっ……」
「えっと……ユーリ。その様な淫らな妄想は控えてくれるか……」
「はい!ジーク様……ユーリはこれより浴場にて明日の準備の為体の隅々、入り口から最奥まで清めてまいります!では翌朝」
ユーリアナはバタバタと部屋を出て行きこうして話しは纏まった……。
その頃大智達はアンジェラを連れて一旦エクムントの村に戻っていた。
村の入り口には多数の荷馬車が列を作っており村人たちが慌しく動いていたので駆け寄って見ると、荷馬車はエーベルト商会の物であるマークが入っており荷馬車から様々な道具や木材、無数の金属性の細い棒、レンガの様なブロック等が村に運び込まれていた。
村に入ると村長とエーベルトが見えたので話しかけると、この地にエーベルト商会の支部を建設するらしい。
その支部は主に村のインフラ整備の為の連絡詰め所兼作業員詰め所らしく
完成に10日ほど掛かるようだ。
完成後はエーベルトの伝で各地から職人を呼び寄せてこの国最大の農作物、畜産物の産地にする予定らしい。建設やインフラ整備その他の費用は全額エーベルトが負担し、事業開始後は商会として売り上げから村に税を納めるらしい。
大智は村長にエーベルトからの2億ジールを渡して魔石の代金4100万ジールも渡そうとしたがそれは断られた。
「村長。本当にいいんですか?」
「それは大智様の方で旅の足しにしてください。それと、大智様の拠点も村の負担で立て替える事にしましたので。こうやって大々的に村興しが出来るようになったのも大智様のおかげですので」
「私は何もしていませんよ。でもこれから頑張らないといけませんね」
エーベルトが不思議そうな顔で大智達を見た後少し頭を下げて
「エーベルトです。この度は申し訳なかった!お陰様で色々ありまして私も新規一転頑張ろうと思います。この事業には領主のヴァーレリー辺境伯も関っておりますので、ヴァーレリー最大の生産地に生まれ変われると思います」
「やっぱりバレましたか。流石はエーベルトさんですね。これからもエクムントを宜しくお願いします」
「もちろんです!」
大智とエーベルトは互いに手を取り合い硬く握手をかわしたのだった。
大智は幸希とミネルバと笑みを交わしていたが事情の分かっていないアンジェラはキョトンとしていた。
エルフ族のアランが大智達を見つけると笑顔で声を掛けてきた。
アランは先日のオーガ襲撃の時に瀕死の状態から大智が回復させ、千切れかかっていた右腕や体中の切り傷は何事も無かったように健康体になっていた。
「先日はありがとうございました!お陰様でこのように全快しました。ところで、折り入って大智様にご相談がありまして……」
「相談?いいよ!拠点で話そう」
エーベルトと村長に会釈をした後拠点に向かった。
拠点に着いて話しを聞くと、アランは深刻そうな面持ちで話し始めた
「先日のオーガ襲撃から色々と考えたのですが、村一番の弓術士としてあの様な失態がリゼットを危ない目に遭わせる事になってしまって自分の未熟さをどうしても恨んでしまうんです……」
「そんなに重く考えなくても。あのオーガに立ち向かって行った勇気は見上げた物だし勇敢に戦った結果なんだからそこまで気を落とさなくてもいいと思う。結果がどうあれ君は勇敢だ」
幸希がお茶の様な物を入れてくれて大智の隣に座った。ミネルバはアンジェラとエルフの村を散策すると言って出て行ったようだ。
「アラン君。私は大智と一緒にオーガと戦ったけど普通のオーガでも2メートルくらい遭って威圧感があるのに、それに立ち向かっていけるのは凄く勇気がいる事だと思う。アラン君は何も恥じる事はないと私は思う」
アランは大智と幸希の言葉で涙を流し、何か決断したように語り出した。
「自分は……村の為、リゼットの為にもっと強くなりたい!ヴァーレリーに行って冒険者になろうと思います。冒険をしながら弓術の鍛錬をして強くなってリゼットとこの村を守りたい!」
強くなる為の試練として冒険者になるのはこの世界では当たり前の事なのだろう。危険を冒してまで冒険をする事に意味があるのだろうし無理をしなければ生存率も格段に上がる。大地はアランのステータスを鑑定して見た。
アラン・デスダン
Lv25 スキル 称号
ジョブ弓術士 ウインドショットLv4 神の治癒を受けた者
HP496 ファイアーアローLv2
MP503 ベノムフィールドLv2
STR312
VIT265 EXスキル
DEX635 ヒール Lv1
AGI546
INT224
MND473
このステータスならEランククエストから始めれば難なくこなせそうだな。
アンジェラとパーティーを組めそうならパーティーでやって行けば強くなれそうだ。
「うん。いいと思うよ。強くなりたいのなら日々の鍛錬が重要になってくる訳だし冒険者としてやれば収入もあるしね。ただ無理はしないようにしないとダメだ」
そこにミネルバとアンジェラが帰って来て途中で頂いた林檎の様な果実を持って帰ってきた。
「これもらったなのです!美味しそうなので皆で食べたいなのです」
「ミネちゃんと一緒にこんなに沢山もらったよ!」
アンジェラを呼んでテーブルに着かせて
「アンちゃん。このアランも冒険者になりたいんだって。
よかったら二人でパーティーを組んでみないか?」
アンジェラはアランをじっと見つめて
「なんで冒険者になりたいの?」
「強くなりたいんだ!リゼットや村の人たちを守る為に!」
アランの瞳は真剣だった。アンジェラも元々同じ思いで冒険者になろうと思って街に出てきたのだから、自分を見ているようで嬉しそうに
「我輩とおなじだ。パーティー一緒にやる?」
「うん!アラン・デスダンだ!これから宜しく!」
「こちらこそ!我輩はアンジェラ・メイウッドだよ」
二人は固く握手をした後冒険者登録に付いてアンジェラが教えていて説明が終わったら一緒にヴァーレリーに行く準備を始めた。
少し目を涙で滲ませてその様子を見ていた大智だったが幸希もまた同じで我が子の成長を見届ける親の気分だった。
幸希の提案で大智が付与魔法とスキルを二人に与える事になった。
アランに
『弓神の加護』 『アルテミスの力』
レベルブースト50倍 射撃精度 10倍
DEX,VIT,MP+120% 手ブレ補正 大
攻撃連射速度 2倍
アンジェラに
『絆の紋章(大智)』 『アテーナーの力』
離れていても正確な位置が分かる 身体増強 大
緊急時は術者に知らせが入り転移可能 STR,50倍
を夫々に付与し、当面の資金として夫々に100万ジールとミネルバから
ベルト式のアイテムポーチが贈られた。
後にこの二人から伝説が始まろうとは大智も幸希もこの時は思いもしなかった。
アンジェラとアランが出発して数日が立ちいよいよ拠点の立替工事が始まるらしく数日間は村長の自宅で過ごす事になった。
村全体はまだ整備が終わってないのだが作業員の数が多く居住区間のインフラ整備はほぼ終わっており、以前とは見違える程の風景になっていて従来の地面にそのまま木材で立て込む方法から大智の提案で基礎をセメントールと呼ばれるコンクリートの様な物で30センチくらいの基礎を作りその上に防腐魔法を施した木材と金物で立て込み外壁は木材にセメントールでコーティングし壁の内部に断熱性のある樹脂繊維で出来た綿を詰める事によって断熱性能のある壁になった。屋根の部分は木材の下地に断熱防水性のある樹脂を塗りセメントールに色素を混ぜて色々な色の瓦の様な物を作りそれを葺いている。道には平らな石を錬金術師が加工した石版が敷き詰められ、馬車もなんなく行き来出来るようになっている。
村長の自宅は既に立替が住んでおり町にある洋館の様になっていた。
村長は村の拡張工事に参加中で不在のであったが早速開いている部屋に荷物を移動し、広くなったダイニングキッチンでお茶を頂きながら、リゼットと談笑した。
「随分町並みが変わってしまいましたね」
「ええ、父も年甲斐も無く張り切っちゃって……明日領主さんがお見えになるそうで、その準備にも追われているみたいです」
「へー。辺境伯が来るのか」
「ええ!何かエーベルトさんに先を越されたとか言って、領主さんが集めた鍛冶士や大工さんとか……あと、料理人も来るらしいです」
「料理人……?あのオッサン専属の料理人かな?」
何でも、辺境伯はここをヴァーレリーの提携主要都市にしたいらしく、その際ここで料理屋を開きたいらしい。鍛冶屋もその一環で畑の拡張工事の際山の斜面からミスリルなどの金属材が見つかったらしくその量は果てしなくあるそうだ。
金属材が取れるのであればわざわざ重たい金属材をヴァーレリーに運ぶより現地で加工して出荷したほうが効率的なのだろう。
話しの途中でリゼットの弟のリュックが部屋に飛び込んで来た。
リュック・エナンはリゼットの弟でまだ幼く大智が最初に会った時剣を向けていた少年だ。
リュックは慌てて大智の所に来て「村の入り口に怖い人が来てる」と知らせに来たのだ。
大智達はただ事ではない気がして村の入り口に急いだ。途中幸希とミネルバと目を見合わせて幸希が話して大智が睨み、ミネルバは後ろから支援と言う形に合点した。
村の入り口に着くとそこには黒いフードを深く被ったローブ姿が二つあった。
大智達は少し手前で足を止めて、そのフード姿の二人に幸希が話しかけた。
「貴様らその装いから只者ではないな?この村に何用で参った!」
するとその中の一人が、
「ほう。フードの上からでも只者ではない事が分かるのか」
「囀るな!フードを外し名を名乗らぬか無礼者が!」
すると二人一斉にバサッとフードローブを脱ぎ捨てるとその姿は王国聖騎士と魔道士であった。
「我らはヴァイトリング王国宮廷騎士団団長のジーク・リッベントロップと宮廷魔術士長のユリアーナ・ライヒである!ここの勇者なる者に謁見を願いたい!」
(来たね。これ来ちゃったわ。
宮廷なんちゃら長って偉い奴らだな。
めんどくさくなってきたねー。
幸希が話し始めたら様子を見て追っ払うか。)
と大智が思っていたら、幸希が剣神の口調にさらに輪を掛けたように話し出した。
「勇者?その様な者はここにはおらぬ!その様な戯言は他所に言ってやれ!」
「ほーう!貴様。このジーク様に戯言と申したか?よほどの手馴れなのであろう!剣を抜き手合わせといこうでは無いか」
するとジークは剣を抜き右手に剣左手に盾というスタイルで剣を構えた。それを見た幸希は
「貴様……死を覚悟しての物言いなのであろうな。誰を敵に回そうとしているのかその剣と盾で十分に思い知るがよい」
背中に掛かった大剣をゆっくりと右手で抜き凪に一切の揺らぎも起こさない程の華麗な動きで両手大剣を両手で握ると剣がユラユラと白い光の炎を纏う。
戦闘状態に入ると同時にドンっと衝撃波が走り幸希の周りを
青白い猛炎が囲う。
その姿は何度見ても戦神が光臨したかの様な姿で
その目からは夥しい量の殺気が爆発的に溢れ出ている。
「くっ……!」
ジークはこれまでの歴戦では感じた事の無い夥しい量の殺気に死の宣告を予感し全身が身震いしはじめた。
しかし王国宮廷騎士団の名を出したからには引く事は出来ない。
その様子を後ろから見ていたユーリアナはジークの様子を察知して咄嗟に幸希に魔法攻撃を仕掛けた。
「風と火の精霊の名に置いて我に力を与えよ!その力の元にこの者を焼き尽くせ!『超級剛炎・エクスプロージョン』!」
上空に風によって集まり始めた小さな炎はやがて村を覆う程の巨大な炎の塊になり大智達目掛けて落下し始めた。
それは落下地転に何も残りそうに無いほどの大きさでこのまま着弾すればエクムントごと消えてしまいそうだった。
大智は一瞬にして『吸収』スキルを想像、それを行使した。
右手の聖剣ジュピターをその炎の固まりに向け頭の中で
『吸収』
と叫ぶとその巨大な炎は聖剣ジュピターに流れ込むように吸収された。あっという間の出来事だった。
「何!!」
その様子を見ていたジークは見た事も無い魔法によってユーリアナの超級魔法が打ち消された事に更なる恐怖を覚えた。
ユーリアナもこの国で自分のみが操れる超級魔法がいとも簡単に無詠唱で吸収される様を見て完全に戦意喪失した。
「ジーク様!もうお止め下さい。私達はこの方たちの足元にも及びません!ここで引かないと取り返しの付かない事態を引き起こしてしまいます!」
ジークは無念と言った様子でその場に頽れた。
さっきの大きな炎の塊を見た村長とエーベルトが走ってきてジークとユーリアナに雷を落としていた。
「あんた達村を潰しに来たのかね!今の行為はどう考えてもおかしいぞ!」
「私はヴァーレリーのエーベルトと言う者だがね、何事かと思って来てみれば王国騎士団の団長さんじゃないか!今あんたらがしようとした事は未遂だが大量虐殺に値する!ヴァーレリー辺境伯経由で王宮に苦情を申し入れるからな!」
激昂している二人をどうにかなだめて大智は二人に歩み寄った。
「君たちは自分のプライドの為なら王国民の命もそうやって弄ぶの?
そもそも勇者を探しに来たんだよね?おかしくねーか?ここまでやってしまったからには未遂であっても容赦はしないよ?そして1つだけ教えとくがなぁ!てめえらが勇者だの何だの勝手に騒いでいるその勇者は俺たちの事だ!」
ジークとユーリアナはハッとした後項垂れた。
「とにかく!この責任はてめえらの雇い主に取ってもらおうじゃねーか!
今から王城に殴りこみにいくぞ!」
大智は事を荒立てるつもりは無かったのだがミネルバの怒りがひしひしと伝わってきてそれが頂点に達したのだ。ミネルバの表情も普段の可愛い感じが全く無く怒りに満ち溢れた神の怒り状態だった。
村長とエーベルトに自分たちが帰るまで先程の出来事を内密にするようにお願いし、ジークとユーリアナを魔法のロープにて拘束。
召還術を使って神獣コカトリスを召還後、背中に大智、幸希、ミネルバ、拘束中の二人が乗り込んだ所で流線型の結界魔法を貼り風対策をした後、コカトリスに身体能力増強魔法を掛けて全速力で王都の王城に向かった
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