第10話―勇者の誕生?

 大智達が冒険者ギルドの前に着くとアンジェラがギルドから慌てて飛び出して来るのが見えたので呼び止める


「アンジェラ!」


 此方に気づいたアンジェラは涙目で一目散に走ってきて幸希に飛びつく。

 ただ事ではない雰囲気に大智と幸希は事情を聴いて見ると


「我輩の頭をガシガシやってくる変態が居た!怖かった」


 よくよく話しを聞いて見ると受付での出来事を話してくれた。


 人夫々性癖はあるしアンジェラを見てモフモフしたい気持ちになるのも分からんでもないのだけど文句を言いに行って騒ぎを起こすのも得策ではない。

 それなら、何か保護出来る様な魔法があれば……。

 突然頭の中に何か浮かんできた。


『見守りの祝福』

 対象に付与。 持続中は全ての悪意、他意を無効

 解除まで持続。


『拳神の加護』

 レベルブースト50倍 

 STR,VIT、HP+120%増加

 攻撃間隔速度 2倍


 早速使って見ると付与魔法らしくアンジェラの身体自体に付与されたようだ。

 折角なので『鑑定』でステータスも確認


 アンジェラ

 Lv10      スキル        称号

 ジョブ 格闘士   猫打 Lv3     なし

 HP285     レンゲキLv2

 MP130

 STR45     付与魔法

 VIT40     見守りの祝福

 DEX39     拳神の加護

 AGI95

 INT28

 MND30


 猫人族の習性からかアジリティーは高めで付与魔法もちゃんと付いてるのでこれで経験を積めば大丈夫なようだ。若干チート気味な気もするが、これぐらいは可愛いから許す……。


「わ!何か付与してくれた!ありがとー」


「もうガシガシされる事もないよ。それと冒険に必要な付与魔法掛けといたからレベル上げ頑張ろう!」


 飛び跳ねながら喜んだアンジェラは早速クエストを受けたいらしく冒険者ギルドに行く様なのだが、ここで上目遣い。大智達もギルドに同行決定。


 ギルドに着いたらアンジェラがクエストボードで手頃なクエストを物色しだしたので、大智も見てみた。

 クエストにはAからEまでランクがあってAが高難易度の魔物討伐や魔物調査、Eは初心者向けの魔物討伐や薬草採取がある。

 冒険者にもランクがあり初心者はEで難易度の高いクエストをこなしていけばランクは上がるようだ。冒険者ランクによって受けられるクエストは限られては居ないがクエスト失敗の場合は違約金と降格があり、最悪の場合冒険者カードの剥奪がある。


 アンジェラにギルドカードを見せてもらうと厚紙の様なカードで当然だがランクはEだった。

 アンジェラはクエストランクEのゴブリン討伐を選んだようだった。

 早速クエストを開始する為の手続きをするためにカウンターへ向かおうとした時クエストボードのクエストに目が留まった。


 キングオーガ討伐

 ランクA 達成条件 魔石

 報酬500万ジール

 ジェネラルオーガ討伐

 ランクB 達成条件 魔石

 報酬一体につき100万ジール

 オーガ討伐

 ランクD 達成条件 魔石

 報酬一体につき15万ジール

 とあった。


「これは……」


 件の奴らだ。このクエストは大智達が既に達成しているので他の冒険者が受けても探す苦労を負うだけになる。探す段階も常に危険が伴うのでここは達成した事を伝えるべきだが冒険者以外の達成報告は出来ない仕組みらしいしアンジェラに報告させてもステータス的に不可能だから怪しまれるのは間違いない。


 大智達がこのエルフに扮したまま行っても疑われて色々面倒な事になりそうだ。ミネルバと幸希に相談して対策を練るか。

 アンジェラはクエストの開始認証手続きを行なっているがどうも新規登録と書いてあるカウンターをさけている。

 新規カウンターの受付嬢はアンジェラをジッと見ているだけで動けないようで、早速魔法が効いているみたいだ。

 大智は安心して、幸希とミネルバのいる休憩スペースに行き件の相談をする事にした。


「クエストにさ、オーガの討伐出てたんだけど」


「オーガ?この前の?」


「そう。ランクも高いみたいで……」


 大智は幸希とミネルバに達成報告しておかないと他の冒険者の危険がある事やどう報告するかの相談をしたら


「エルフの変装を解いて登録してからしか方法はなさそうね」


「面倒な事にならないならそれでもいいんだけど……」


 ミネルバがそこで提案したのは


「変装を町の外で解いてもう一度検問を通過するなのです。

 ステータスは隠蔽したまま登録すればいいなのです!」


 ミネルバの提案は一度町の外に出て直ぐの所で変装を解き、再度検問を受けて冒険者ギルドに行き登録。それから報告と言う単純な手順だが

 そこで何か言われたり聞かれたりしても適当にあしらってしまえば問題ないとの事。そのためにも隠蔽中のステータスのLvを1000以上にしておく事と強い冒険者を演じる為に常に上から目線で横柄に振舞う事。


 急に強い冒険者が現れたとしても大事になる事は無いし変装を解いた状態でこの町に顔を出しておけばこの先色々と楽になるからだそうだ。

 早速実行に移す事にして、開始認証を終えたアンジェラと大智達は来た時に通った門を潜り抜けて、人気のなさそうな茂みに身を隠した。


 アンジェラのクエストはミネルバが付いてサポートする事になり、ミネルバとアンジェラは嬉しそうに手を繋いでクエストに向かった。

 大智と幸希はエルフの変装を解きステータスのLvを1200に大地は大賢者に幸希を剣聖に設定。幸希の提案から想像スキルで『召還』を作成して、透き通るほど純白の白馬を2頭召還しそれに乗って再度検問へ向かった。向かう途中に幸希が


「大智は後ろで黙ってにらみを利かせてて!私が騎士の様な振る舞いで話すから。ここぞって時に大智も会話に参加する形で行こう!」


 こういう知恵は幸希の方がありそうなので大地は「了解」と言った。


 大智達の検問の順番になり門番が大智と幸希を見てギョッとなったが姿勢を正して話しかけてきた


「ヴァーレリーの街へようこそ!他国の大使の方でしょうか?」


「只の冒険者だ。旅の途中で魔物を討伐したから魔石をこの街に寄付してやろうと思ってな」


 すると門番は冒険者カードを見せるように言ってきたので幸希が


「貴様!話しを聞いていなかったのか?我々は冒険者ではない!只の旅人だ!その様なもの持ち合わせておらんわ!」


 門番がタジタジになった所で門番の詰め所のような所から門の責任者の老人が出てきた。

 その老人は大智と幸希の前に来ると跪き


「誠に申し訳ありません。大賢者様と剣聖様。何も問題ありませんのでどうぞ御通り下さい」


 すると他の二人の門番も跪き


「申し訳ありませんでした!」


 と頭を下げた。大智はここぞとばかりに大きな声で


「冒険者ギルドまでの案内を所望する!」


 責任者の老人は若い門番に


「君がお二人を案内しなさい。くれぐれも失礼の無いように」


 若い門番は緊張の面持ちで大智と幸希の案内を始めた。

 冒険者ギルドに到着した二人は門番を帰らせて、ギルド横の繋ぎ場に馬を繋いでギルドに入った。

 大智達がギルドに入るとザワザワしていたギルド内が一瞬でシーンと静まり返り冒険者達は羨望の眼差しで二人を眺めカウンター内の受付嬢達は驚愕の表情で此方を見ている。

 二人でカウンターの前まで行き幸希が大きな声で


「討伐した魔物の魔石を持ってきた!鑑定が出来る者を出せ」


 受付嬢達は驚いて声も出ない様子だったが、奥から屈強な50代位の男が慌てて出て来ると二人を見てギョッとした後姿勢を正した。

 男はここのギルドマスターらしく体格が良くそれなりに貫禄がある。


「魔物の魔石ですか。拝見させてもらえますか?」


「よかろう」


 幸希がカウンターにオーガの軍勢の魔石をバラっと置くとギルドマスターは目を見開いた。


「これはエクムント周辺のオーガの軍勢のものだ。我々が全て討伐した。

 大きさの違うものがあるがそれはキングとジェネラルなる幹部の者だ」


 するとギルドマスターはキングの魔石とジェネラルの魔石を手に取り額に汗を流し始めた。


「ギルドの規定で魔石の換金は冒険者登録をしてもらう必要があります。申し訳ありませんが登録をお願いします。

 その間に魔石の鑑定を行ないますので」


 受付嬢が慌てて登録用紙を持ってきたのでそれに記入し水晶の前に移動した。リゼットの話しでは魔力測定水晶は隠蔽されたステータスも読み取る事が出来ると言っていたので心配になり水晶を鑑定して見ると、その水晶は


《適正ランク判断水晶》

 手を置くとその人の適正ランクが導き出される。

 ステータス読み取り効果はない。


 とあったので安心して手を置いた。

 その瞬間水晶が眩しいほどの光を放ちフロア全体を光が包んだ後静まった。

 幸希の時も同じ現象で、受付嬢とギルドマスターはビクッとなってその光景を凝視していた。

 それを見ていた他の冒険者達は


「ええ……」 「水晶が光る所始めて見た」 「勇者の誕生?」


 と話していたが誰も近づこうとはしなかった。


 受付嬢が慌ててカードの様な物をギルドマスターに見せるとギルドマスターハは驚き、震える手でそのカードを渡してきた。

 カードは薄い透明なガラスの様なもので出来ており少し光っていて冒険者ランクは 《SSS》 となっており見た瞬間にちょっとやり過ぎ感が否めなかった。

 ギルドマスターは二人に話しがあるらしく、奥に案内された。


 案内された所は広くて大きな本棚とデスクが置いてあり6人がけの応接ソファがあるギルドマスターの部屋で、二人は応接ソファに座ったのだが

 普段からは想像も付かない横柄な態度で座っている幸希に少し驚いた。

 大智も幸希の隣に少し横柄な態度で座ると対面にギルドマスターが座った。

 少しの静寂の中、幸希が口を開いた。


「で?話しとは?」


 改まった様子でギルドマスターが話し出した。


「申し遅れました。私はここのギルドマスターのラファエル・ヘルマンと申します。私はここのマスターに就任して20年目ですが、SSSランクの方は始めて見ました。王都のギルドにSランクが4人居ますがその4人が現在この国のトップです。1000年以上前にSSSランクの冒険者が存在していたらしいのですが、文献でしか記録がありませんので正直ギルドがどんな対応をすればいいか分かりません」


 ラファエルの言っている事は良く分かる。文献でしか見た事も無い1000年以上前に存在したSSSランクが今目の前に居るのだから対応が分からないと言うのは当然だろう。しかし文献で残っているのであればそのSSSランクがどんな事をしていたのか書いているのでは?

 幸希も同じように思っていたようで


「ほう。で、その1000年前のSSSは何者だ?」


「文献によると当時のSSSランクは 《勇者》 と記してありました」


「勇者か……その勇者は何か国の為に貢献したのか?」


「はい。これも文献からなのですが、勇者はこの世界の果てに住む魔王を討伐しに行ったきり帰って来ておらず、その後魔王の存在が確認できたので討伐に失敗して魔王の手により葬られたと記してありました」


「ふんっ。魔王討伐失敗か……哀れなものだな」


 ラファエルは急に姿勢を正し大智達に真剣な表情で


「私はお二人が復活された勇者様じゃないかと思いお話しをさせて頂きました。」


 すると幸希が今まで組んでいた足を戻し、身を乗り出すようにしてテーブルをバンッと叩いて


「貴様らが何を我々に所望しておるのか知らぬが、我々は魔王討伐は愚か

 この国の王への貢献など微塵も興味が湧かぬわ!」


 ラファエルは項垂れたように俯き少しの間沈黙した後大智達を見て言い出した。


「私はこの事を国王にお伝えする義務があります。国王がお二人の事を知れば必ず何か要請があると思われますのでその時は宜しくお願いします」


「よかろう。但し、何か用事があるのならば其方がエクムントまで出向いて来るように伝えておけ」


「分かりました」


「では、我々は帰らせてもらう」


 ラファエルの部屋を出て受付で魔石を換金した金貨を受け取り、冒険者ギルドを出ると、そこには憲兵隊の隊長、隊員数十名 王都から派遣されてきたであろう騎士団数人が隊列を組んでギルドを囲むようにしていた。

 物々しい光景を目の当たりにして大智はこれはまずい事になったか?と思っていたら騎士団の一人が声を上げた。


「皆の者!勇者様に敬礼!」


 すると隊列を組んでいた数十人と騎士団は姿勢を正して剣を顔の前に掲げ、左手の握りこぶしを左胸に当て目を閉じた。


 幸希と顔を見合わせて笑いそうになったがそこは堪えて、白馬に乗った。

 大智は少し考えて、自分と幸希に転移魔法をかけてこの場から去ることにして幸希にその事を小声で伝えると別れの挨拶をするからそのタイミングで、と言うと馬に跨ったまま両手剣を片手で高く掲げて


「さらばだ!ヴァーレリーに栄光あれ!」


 そのタイミングで『転移』をかけて一瞬でエクムントの村の入り口に転移した。


 エクムントに到着した二人は何かを察したように顔を見合わせてほぼ同時に


「あ!ミネルバとアンジェラ!」


 言い終わると同時に二人は大笑いした。


「しかし名演技だったね!途中少し幸希が怖くなった」


「でしょう?元演劇部だからね!」


「え?演劇部?」


「うん!中学生のときね!」


 知らなかった事とはいえ、普段大人しくてやさしい物言いな幸希の名演技は主演女優賞でも取れそうな勢いで正直惚れ直しそうだった。

 大智の捜索スキルでミネルバとアンジェラの位置が分かったので、馬を走らせて向かう事にした。


 その頃ミネルバ達はアンジェラのゴブリン討伐クエスト中でもう既に5匹ほど討伐しているので少し休憩していた。


「ねえ、ミネちゃん。我輩の戦い方どうかな?」


「最初に比べると大分慣れたなのです。でも、もう少し敵の動きを良く見た方がいいなのです。敵の動きに合わせた戦い方が出来ればもっと強くなれるなのです」


「うん!わかった!」


 アンジェラは大智に付与された拳神の加護により既にレベルは16に上がっていてそれと同時に戦闘能力も向上しているのだが素手で攻撃をしているのであまり実感が湧いてないのだった。


「よっし、もうちょっとやって街に戻るニャ」


 そう言って立ち上がると、遠くから凄いスピードで迫ってくる2体の何かが此方に向かってくるのが見えた。


「え、ちょ、なんかこっち来てる!」


 ミネルバがそれを見て微笑んで


「あ!大智様と幸希様なのです!こっちなのです!!」


 近づくに連れて透き通る様な純白の白馬に乗った大地と幸希が見えた。

 そして目の前で止まった白馬から降りてきた二人を見るとアンジェラの目にはやはり聖騎士団のように見えた。

 戦果の報告のために馬から下りた大智達に駆け寄って行ったアンジェラはピョンと飛んで大智に抱きつき嬉しそうに


「我輩ゴブリンを5匹も倒したよー!」


「お!すごいな!怪我はしてないかい?」


「膝を少し擦りむいただけ!このくらい全然大丈夫!」


 膝を見て見ると少し擦りむいており血液が既に瘡蓋になっていて痛々しかったので早速ヒールで回復するとキズまで綺麗に消えたのでアンジェラは驚いていた。


「パパ……の回復魔法凄い!キズがなくなった!」


「だろ?パパのヒールは凄いんだよって……パパ?」


(パパ?何だろうこの響きこの気持ちこの高揚感……

 ああパパだよ!もっとパパって呼んで!

 可愛い娘にパパって呼ばれたらパパなんでも買ってあげるよ。)


 と優越感に浸っていたがハッと我に帰り幸希の蔑んだ視線に咳払いをした。

 幸希はすかさずアンジェラに


「ねね!私は?ね!私の事は?」


「うん!ママだよ!」


 幸希はその言葉が発せられると同時に正に骨抜き状態。


(完敗だな。幸希は完全に違う世界に行ってしまっている。

 多分俺と同じ事を思っているに違いない!絶対だ!)


「もー!かわいいー!よーしママねアンちゃんに何でも買ってあげる!」


(ほら!ほらね!

 何でも買ってあげるって言った!家族って良いね……)


 ミネルバはそんな風景を見て大智の手を取り少し寂しそうな表情になっていたので、大智はギュッと手を握り返して


「じゃあ俺はミネちゃんに買ってあげよっと!」


 ミネルバはパァっと笑顔になり


「肉!肉が食べたいなのです!」


「よーし!今日は肉食べよう!」


 そんな幸せ家族の一幕であった。


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