第7話―幸希とオーガの軍勢
目を開けるとそこはカウチソファの上で、取り貯めの番組を見ている最中だった。
いつの間にか幸希が座っていて大智は幸希に膝枕をしてもらって寝入っていたようだ。
「今、話してきたよ」
「え? 今?」
寝入ってまだ数分しか立っていないのだから当たり前の反応といえる。
「で、どうだった?」
膝からでも分かる幸希のワクワク感に少し意地悪を行ってしまいそうになるが
ここは真面目に答えないと
「うん……今晩屋台で会って見たいって」
「え!ほんとに!」
「うん。ゼウスって神様なんだけど……」
幸希は顔色が変わって表情に緊張感が走る
「一番偉い人だ……」
身体が小刻みに震えているのが分かる。
いきなり神様の中でも一番偉い人に会うとなったら当然の反応だろうし、逆に緊張感がないほうがおかしいように思える。
「そんなに硬くならないでも……すごく気さくな良いおじいさんだから」
その言葉を聴いて幸希は緊張感が若干薄れたようで、安堵の笑みを浮かべて
「じゃあ、少しオシャレして行かないとね!」
そう言うとすぐさま頭は膝から下ろされ、落ち付かない様子で化粧道具を取り出した。
化粧の最中も色々聞いてきたのだが大智もそんなに知っている事ではないので、わかる事は答えてわからない事は分からないと伝えた。
幸希は化粧が終わるとクローゼットに行き洋服選びを始めた。
女性は衣装持ちが多いと聞くが幸希もまたウォークインクローゼットが一杯になる位の衣装持ちであった。
失礼のないように白を基調としたワンピースでアウターは少しオシャレなベージュ系のライダースをチョイスし、首元にピンク系のストールだ。
まだ時間は早いけど未だ緊張感からか、もう着替えてしまって準備万端といった雰囲気だったので、大智も早々に着替える事にした。
大智は少し厚手の白いカットソーにデニムで、アウターは黒いロングコートに去年の幸希からの誕生日プレゼントで貰った薄手のぐれーのマフラーをチョイスした。
時計の針は午後6時を回ったばかりでまだ若干早い気がしたけど幸希が待ちきれない様子を汲んで出かける事にした。外は3月の上旬で暗くなってくるとまだ肌寒い。
途中のプリンが有名な洋菓子屋さんでビン詰めのプリンを12個買い、緊張感が舞い戻ってきた幸希が無意識に手を繋いできて、若いカップルのように屋台に向かった。
屋台のある路地に差し掛かって屋台の場所を見ると、今日は屋台が営業しているようだった。
「あそこの屋台だよ……」
幸希はコクっと頷くと覚悟を決めたかのように歩き出した。
屋台の手前に来ると暖簾に向かって右側に白いコートの背中が見えてその右隣にはお気に入りなのか白いボーラーハットが見えた。
大智は幸希に目線でこの人だよと合図して、自分が真ん中になるように長椅子に座り左側に幸希が座った。屋台の大将はいないようだ。
幸希の心臓の鼓動が聞こえて来そうなくらい緊張しているのがわかる。
ここは自分が率先して話しを進めた方がいいような気がするがなんて話せばいいのかわからない。そう思っていたとき主神ゼウスが口を開いた。
「よく参った。汝の奥方とは隣の者か?」
「あ……はい。申し訳ないくらい緊張していますが…… あ、それとこれプリンです良かったらどうぞ」
「プリン?食べ物のようじゃな。神界の皆で頂くとしよう。奥方、始めましてじゃの」
すると緊張で顔を強張らせながらどうにか挨拶と笑顔を作る幸希であったが表情は引きつったままである。
「うむ……このままでは話しに成るまい。奥方、儂の目を見るんじゃ」
幸希は恐る恐る主神ゼウスの目を見ると、主神ゼウスが何か呪文の様な物を唱えだした。
大智もその時目を見ていたのだが、何故かフワフワと緊張感が解れて昔からの馴染みのある友人同士の飲み会の様な気分になった。
それは幸希も同様で緊張感で強張っていた表情が一転していつもの笑顔になっていた。
「これで大丈夫なようじゃな」
「はい!ありがとうございます!」
幸希の元気な笑顔から発せられる声は場の雰囲気を和ませた。
和んだ所で主神ゼウスが切り出した。
「奥方よ。大智殿と73世界に行って見たいそうじゃが、それは本心からの発言であるか?」
幸希はさっきまでの緊張感が嘘のように普段の話し方で
「本心からです。夫だけではやはり身の回りの事とか色々と大変でしょうから、妻として全面的にサポートしたい一心で……」
「うむ……それは誠に良い事じゃ。しかし大智殿が取り組もうとしとる事は神界であっても難しい問題なのじゃ。向こうの世界では現世のように上手く行く事も少ないのじゃが。それでも行くと申すか。」
幸希は少し考えてから主神ゼウスの目を真っ直ぐ見て
「それでもです。結婚して今まで幾多の困難を夫婦で乗り切って来ました。それは夫と二人だから成し遂げられたのだと思います。
そして、これからも何かあれば二人で困難に立ち向かいたい。」
それを聞いた大智は嬉しくて泣きそうになった。
幸希がそこまで思っているとは思っても見なかったし幸希の真剣な眼差しを見てもそれは本心であるのは間違いないからだった。
「ん!真っ直ぐな良い考えじゃ。ならばここからは奥方の人間性に付いてじゃ。向こうでは現世では考えも及ばん力が与えられるのじゃが、奥方はその力をどう考えて何に使うのじゃ?」
「大まかに言うと平和です。これは想像の中での話しですが、異世界は混沌の時代で戦いが絶えないのでは? と思います。その中で巻き込まれた罪のない人たちを救う事といずれは種族など関係無しに皆が平等で仲良く暮らせる平和な世の中に変えていけたらと思います。そしてそれを夫と一緒に立ち向かい痛みも悲しみも喜びも全て分け合いたい」
主神ゼウスは幸希の目を真っ直ぐに見つめている。
少しの沈黙の後主神ゼウスは
「大智殿は分かっておると思うが汝らに与えた力は世界を一瞬で飲み込む位の力じゃ。使い方を誤れば取り返しのつかん事態になってしまうのじゃ。じゃから奥方の心の奥底を覗いて見たが綺麗な物じゃった。流石は汝の奥方じゃな、何も問題無いようじゃ。」
それを聞いた幸希はホッとして少し楽な体勢になった。
大智も主神ゼウスに幸希が見定められたと思うと鼻の高くなる思いだった。
「何か飲む物と食べる物が必要じゃな。もう出て来てもよいぞ!」
すると、先日の大将が瞬間移動のように現れ、それと同時に目の前に具が沢山入った大鍋のおでんが出現した。
大将は此方をみると 「この間はどうも!」 と言い幸希には「はじめまして!」と挨拶をした。
主神ゼウスは早速飲みのもを頼もうとしたが幸希の方を見て
「奥方は酒は嗜めるか?」
「はい!よろこんで!」
「ではエールを」
幸希の返答に主神ゼウスはニコッとしてビールとコップを3つ頼んだ。
ビールを幸希が主神ゼウスに注いでいる光景はなぜか不思議な気分になり、幸希は大智のコップにもビールを注いだ後自分のコップにも注いで立ち上がり
「ではこの出会いとみなさまに神のご加護があらんことをー! かんぱーい!」
と乾杯の音頭を取ってそのコップのビールを一気に飲み干す幸希を見た主神ゼウスは満面の笑みでビールを一気に飲み干した。
「なんとおもしろい奥方じゃ。このような楽しい宴は久々じゃ」
大将が適当におでんを盛りつけて出してきた時に幸希が大将に
「あの……ひょっとして女神ヘスティアー様ですか?」
唐突に自分の中の疑問をぶつけてみたようだ。
すると大将は焦ったように主神ゼウスの方を見て言った。
「よろしいですか?」
「うむ。かまわんよ。他の者には見えない結界をはっておる」
その会話の後大将は幸希を見て少しニヤっとすると
「良くご存知で」
その瞬間パッと見目麗しく何とも神々しい女性に変身した。それは思わず見とれてしまう程であり正に女神と言う名が相応しかった。
それを見た幸希は目を輝かせながら
「やっぱりそうだたんですね!桐原幸希と申します今後ともお見知りおきを!」
女神ヘスティアーは微笑んだ後、また元の大将に戻ると残念で仕方がないのは自分だけだろうかなどと大智は思ったが
「本来の姿では色々と動きづらいのでこの世界ではこの姿がお気に入りなんです」
神々にも色々と都合があるのだろう、服装からしてこっちの方が動きやすいと言う面もあるからなのかな?しかし、なぜ性別までも?それは最後まで疑問に残った。
その後は飲み食いしながら色々な話しで盛り上がり、2時間以上が経過した頃宴もたけなわになり、主神ゼウスが幸希に
「では、本日から奥方も73世界へ行って大智殿のサポートを主神ゼウスの名の元に命じる。向こうに付いたら大智殿の鞄を確認するのじゃ。ステータスなどの事は大智殿の『剥奪・付与』を持って対処するのじゃ。二人とも頼んだぞ」
大智と幸希は立ち上がり主神ゼウスに深々と頭を下げて
「わかりました!何処まで出来るかわかりませんが頑張ります!では、私達はこれで失礼します」
すると主神ゼウスが呼び止めて、
「もう一つ言い忘れる所じゃった。異世界では誰に対しても敬語は不要じゃ。そのように丁寧な言葉を使っておると変に勘違いする輩がおるからの。少し横暴な位がちょうどええ。特に奥方はの」
少し戸惑ったが、主神ゼウスが言うのだから間違いはないのだろうと納得する事にした。
「わかりました。では!」
そして大智と幸希は無意識に手を繋いで家路についた。
自宅で今後の行動や付いてすぐの村長などへの報告などを話し合い、順番にお風呂に入った後、すぐに二人でベッドに入りまずは目を閉じて空けたら異世界のエルフの村に到着しているのでミネルバを紹介する事とか色々な事を話し、布団の中で手を繋いで
「さん、はい!」と言う掛け声と共に目を瞑った……。
目を開けるとそこはエクムントの拠点で、隣に幸希が居る事を確認して起き上がり幸希もまた辺りをキョロキョロしながら立ち上がったので早速ミネルバを呼んで幸希を紹介した。
「ミネルバ!こっちは俺の妻で幸希だ。色々とわからない事ばっかりだろうからよろしくな」
するとミネルバは幸希に駆け寄って勢いよく抱き付いて
「ミネルバなのです!宜しくなのです」
幸希はミネルバを見てパッと笑顔になり抱きしめるようにして
「此方こそよろしく。ミネルバ……女神アテーナー様」
するとミネルバは幸希のと手を繋ぐようにして
「ここではミネルバでいいなのです!ミネルバと呼んでなのです」
和やかな雰囲気の中大智は自分のポーチから最初に貰った様な大きな袋を取り出して幸希に渡した。
中身はやはり白地に金の装飾の大智の物より少し豪華な装飾の入ったマントと
白を基調に金の豪華な装飾で胸の真ん中に直径5センチ位の深紅の宝石が付いた胸当て、腰から下は白と金色で出来た騎士の鎧のようで、頭の部分は豪華な金と宝石で出来たティアラの様なものが付いていた。
早速着て見ると、いつ採寸したのかと言わんばかりにピッタリで元々凛々しい顔立ちであるが故に某アニメの聖騎士のようなのだがそこに豪華なティアラが加わると神々しさが増して来る。
腰の所の鎧の下にポーチの様なものがあり開けて見るとやはり剣の様な物が入っており、幸希は早速取り出して見た。
その剣は1メートル20センチくらいで全体的に白っぽい素材で出来ており持ち手から鍔、剣先に至るまで豪華な金の装飾が施されていて剣身が10センチ以上、剣先まで同じ幅で剣先は外側に少し反っていて見るからに両手大剣だ。
しかしすごく重そうにしているのでおかしいと思い大智が手にとって見ると確かにものすごく重い。
ミネルバに重過ぎるのでは?と聞いて見た所ステータスに問題があると言われ、
幸希にステータスを出してもらうと、
桐原 幸希
Lv1
ジョブ なし
HP10
MP10
STR15
VIT24
DEX30
AGI22
INT35
MND28
だったので全ての項目を大智と同じ状態にしてから、もう一度剣を持った幸希は驚いた様子で
「軽ーい!さっきとぜんぜん違う!持った瞬間ビビビって感覚があった!」
と喜んでいた。
もう一度ステータス画面を出してもらうと
桐原 幸希
Lv99999 スキル 称号
ジョブ 神騎士 剣術 Lv神 大戦神
HP∞ 魔剣術 Lv神
MP∞ 槍・投擲術 Lv神
STR99999 EXスキル
VIT99999 物理攻撃・魔法攻撃無効
DEX99999 状態異常無効
AGI99999 障壁・結界破り Lv神
INT99999
MND99999
になっていたので興味本位で剣を構えてもらうと、剣など持った事もない筈の幸希が別人のように剣を構えた。
その姿はまるで熟年の達人のようで、幸希の顔つきは一変し鋭い目つきから禍々しい程の殺気が溢れ出ていて全身が凍りつくほどの恐怖を覚えた。
無言で剣を下ろした幸希は不思議そうな顔で
「構えたら頭の中にスキルが一杯浮かんできた」
それを聞いたミネルバは
「それが称号の大戦神の力なのです!スキルを心で読めば発動出来るのです!
さっき剣を持った時にミネルバが付与したのです!」
そう言えばステータス確認している時にミネルバが剣を触っていたのでやはりミネルバも女神なんだなと思った。
早速幸希のステータスも隠蔽しておいた。
村長とリゼットがタイミングよく訪ねてきたので、幸希を紹介して幸希には村長とリゼットを紹介した。
心なしか村長とリゼットは始めて大智を見た時よりも改まっているように見えたが、村長の「大智様と幸希様がおれば心強いです」の言葉に救われた気分だった。
幸希はリゼットとも仲良くなれたようでその場が和やかな雰囲気になったのだが、
その時村のエルフの男性が拠点に駆け込んできて
「大変だ! オーガの大群が此方に向かって来ている!」
その男性は村で取れた野菜を隣町に持って行く最中で向かう先にオーガが見えた為
荷馬車を捨てて早馬で戻って来たらしい。オーガの軍勢がこの村に到着するまであと15分程度らしい。
あわてた村長は大至急村の住民を村の非難用の地下室に非難するように支持を出した。大智達もあわてて村の入り口に向かい少しはなれた場所まで走った所でミネルバが大智に
「大智様!村に結界を張るのです!急ぐのです!」
大智は立ち止まり村の方向に振り返り両手を大きく振り上げ
『結界』
と唱えると村を覆う程の魔方陣が出現し、そのまま覆い被さる様に結界になった。
「これでよし!」
一足先に走って行った幸希が心配になり全速力で追いつくと既に幸希はオーガの軍勢と対峙していた。
幸希は既に剣を構えていて、今正に開戦の時を向かえるようだった。
その時、幸希目掛けて矢が飛んできたのだが幸希の手前1メートルくらいで不自然に地面に落ちた。その後も多数矢が飛んできたのだが結果は同じ。全て不自然にピタッと止まって地面に落ちる。
それを見た最前線のオーガ達は恐怖を覚え
「バ……バケモノ!」と言いながら後ずさった。
それを聞いた大智は自分の最愛の妻をバケモノ呼ばわりされた事に腹を立て大きな声で
『黙れ!』
すると前線のオーガどころか威勢の良かったジェネラルオーガ、キングオーガまでもがその場で気を付けの姿勢で止まり、前線の何人かはその場で倒れこみ死んでしまったようなのでこの前の手勢であるのは間違いなかった。
キングオーガは焦った様子で
「こんな小さき物の術が我に効くとは!貴様らバケモノか!」
ミネルバが大智に
「この魔物達は必要性がないので殲滅なのです」
この言葉で一切の遠慮がなくなった所で幸希に
「殲滅オッケーだってさ!」
それを聞いた幸希の周りに突如としてドンッと言う衝撃波と青白い猛炎が幸希を囲み、剣は白い光の炎を纏った。
「では我の剣の味、存分に味わうがよい!」
と返ってきたのでここも興味本位から任せて見る事にした。
幸希は早速剣を構えると一番後ろにいるキングオーガまで一瞬で飛んで行き、その巨体の首を一瞬で刎ねた。
刎ねられた首はオーガの軍勢の中央程に夥しい血液と共に落下して、首から上の無くなった身体は前に倒れこむようにして倒れた。
刎ねた勢いで上空まで飛び上がっていた幸希がキングオーガの背中に飛び降り剣を高々と上げて
「貴様らの首領の首討ち取ったり!」
その姿は戦神が敵の王を討ち取った後の雄叫びのようだった。
それを見たジェネラルオーガとオーガ達は完全に恐怖に慄き、やはり失禁するものまで現れた。
幸希はキングオーガの死体から飛び降りてジェナラルオーガに歩み寄り
「貴様たちには前回警告した!にも拘らずこの有様。死を持って償え!」
ジェナラルオーガにそう叫ぶと幸希は足元に力いっぱい剣を付きたて
『爆裂!大地剣山!』
すると大地から無数の鋭利な剣の形をした石の様な物が出現し全てのオーガの軍勢を串刺しにし、そのまま上空に上がった後爆発的に飛び散り灰一つ残さず消えて行った。
地面には小さな赤くキラキラ光る石が散乱しておりミネルバがそれを魔法で一気に拾い集めた。拾い集めた石の中に5センチ位の物が6個10センチ以上の物が1個混ざっていた。
ミネルバの話しによるとこれは魔石と呼ばれるもので、色々と使い道があるそうなのでエクムントの村に全て渡す事にして3人は村に戻る事にした。
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