第6話―ステータスウインドウ

 早速村長に連れられて空き家に案内してもらうと外観は他の家と変わりは無かったが、中は家具や生活用品まで大体揃っており寝床もふかふかのベッドが二つ置かれていて宿屋の様な感じであった。

 ミネルバは子供のようにベッドの上で


「フカフカなのです! ミネルバはこっちのフカフカなのです」


 と大はしゃぎしていた。


「すごく綺麗な家ですが……本当にいいのでしょうか?」


「ここは元々村に来たお客さんを泊める客室として使っていたのですが、ほとんどそういう方は来ないので持て余していたのです」


「分かりました。遠慮なく使わせていただきます」


 明日の朝村人にここを大智達の拠点とする旨を村長が伝えるらしいので大智達も同行する約束をし、村長は自宅へと戻って行った。


 夜も更けてきたので大智はパジャマに着替え寝る準備をしているとミネルバはすでに着替えを済ませ自分のベッドでスヤスヤと眠っているようだった。

 大智も布団に潜り込み帰還することを考えながら眠りに付いたのだった。



 その頃、異世界のオーガのアジトでは体長3メートル級のジェネラルオーガ数人と先日のエクムント村襲撃で生き残ったオーガ数人とで話し合いが行なわれていて、生還したオーガの一人が憤っているジェネラルオーガに必死に訴えていた。


「いや、あれはヤバイですって!あの力は異常です!」


 するとジェネラルオーガの一人がそのオーガの首を剣で刎ねた。

 あたりに飛び散る血液と共に刎ねられた首は地面に転がり落ちた。

 それを見た他のオーガ達は身震いをしたが、ジェネラルオーガは大きな声で


「我がアジトに小さき人間が来て何が出来る!オーガの恐ろしさをあのエルフの村共々重い知らせてやるわ!」


 アジトの奥の方から体長5メートルはあろうかというキングオーガが現れて


「すぐに攻め込む準備じゃ!村の者とその人間たちは皆殺しにしてしまえ!」


 すると震えていたオーガ達100人は一斉に武器を手に持ちオーっと雄叫びを上げた。先頭に立ったジェネラルオーガは自分の身長はあろうかと言う大きな斧を掲げ


「明日の朝出立する!皆の者今夜は英気を養え!」

 と開戦の準備に入っていた。



 大智が目を覚ますといつもの天井が目に入り、現世に戻ってきた事が容易に分かる。

 現世では朝になっており時計は7時前を指していて、いつもの起床時間になっていた。

 隣では幸希が起きていてじっとこちらを見ていたのだが、目が合うと


「おはよう!」


 と声を掛けてきた。

 大智も「おはよう」と返し、起き上がって背伸びをしていると幸希が後ろから抱きつく様に飛びついてきて転びそうになった。


「ねね!どうだった? ちゃんと行けた?」


 目をキラキラさせながら早く話を聞きたくて待ちきれない様子だった。


「取り敢えず起きたばっかりだしトイレいきたいんだけど……その後コーヒー飲みながら話すよ」


 大智はトイレに向かい朝の恒例を済ませながら色々な出来事を思い出していた。

 そのとき、ぐっすり寝たときの爽快感と疲れが全くないことに気づき色々と不思議な感覚になった。

 リビングのテーブルに向かうとすでにコーヒーが用意されておりパンの焼けた美味しい匂いが漂っていて、幸希は急いで自分のコーヒーを持ってテーブルについた。

 大智が携帯を覗いて見ると今日は土曜日だった。


「あー今日休みかー……」


 するとトースターがチンっとなって幸希がトーストとバターをテーブルに運んできたので、コーヒーを一口飲みパンにバターを塗りながら


「行ってきたよ異世界」


 すると幸希は興味深々な感じで聞いてきた


「異世界で誰かにあった……? その……種族的な」


「ああ、エルフ族の村に行ったよ」


 そう言うと幸希はさらに目を見開いて


「わ! エルフ族? 耳が少し長い人たち!」


 小説を読み漁っているせいか良く知っているようで幸希は自分の携帯でアニメか何かの絵を見せてくれた。画面にはさっきまで居たエクムント村の人々に良く似た人たちが描かれていて少し驚いた。

 大智は異世界での出来事を最初から詳細に話していき、ミネルバや出会った人たちの出来事、食べた物まで話してステータスの話になった時に


「それでね、こうやって ステータス って言うとね……」


 するとなぜか異世界の時のようにステータスウインドウが開いたので、驚いて黙り込んでしまった。

 見ると隠蔽されてないステータスのまま表示されており、この世界では『鑑定』スキルなど存在しないからだろうと何故か納得してしまった。

 幸希は突然出てきたウインドウを凝視したまま固まっており、まさかとは思うが一応確認のために聞いて見た。


「もしかして見えてる?」


「え! あ……う……うん……」


 マジか! これが正直な気持ちだった。

 しかしこれが見えるのならこの話の信憑性が高くなるので今後の話もスムーズに行くのではないかと思って


「これが俺のステータスらしい……」


「これを見る限り、大ちゃんの話は真実でしかないって分かるよね……」


 幸希は突然現れた見た事も無いステータス画面に戸惑いを隠しきれなかった様子だったが、これが見えることにより色々な事がより信憑性を増す気がして長い時間色々な事を話し、着替えをして昼食の買い物ついでに例の屋台の場所に行って見ることになった。


 自宅を出て屋台の方向に歩きながら幸希は異世界小説で読んだ知識を色々と教えてくれた。

 中でも興味が沸いたのが種族間の争い事で、やはり人間族と魔族は仲が悪く、何千年も戦いが続く事もある事やそれぞれの種族には得意分野があってそれを生かした分野で活躍させれば上手く行くようだ。


 屋台の場所にたどり着いた大智は幸希と池の中央の石造を見ながらここに屋台があって、ここであのおじいさんに金貨を貰ったんだと説明した。

 幸希は石造をじっと見つめた後何か思い出したように携帯電話を弄りだし、画面を大智に見せた。


「どこかで見た事あるなーって……この前小説でわからない事があって神様について調べたんだけど。これって十二神のヘスティア様だね」


 そこにはほぼ同じ石造が映し出されており、幸希の言ったとおりの神である事は間違いないようだ。


「この神様はね、かまどの神様で家庭生活の守護神なんだって」


「なるほどな。何か関係してそうだからミネルバに聞いて見るよ」


 すると幸希は何か気づいたようにまた携帯を弄りだし何かを読みながら興奮気味に


「そのミネルバって子……多分だけど天体の関係で言うと女神アテーナーだね。

 女神アテーナーはなんと! 戦いの女神で知恵と工芸と戦略の神だって!」


「え!マジで!」


 あの子供の様なミネルバが戦いの女神とか何かの冗談に聞こえるけどいつでも会えるから聞いて見ればわかる事だ。

 この話しから推測できるのは、他の神々が十二神である事は容易に推測できるわけだが……聞いて見るにしてもどう聞くか悩む案件だな。


「そろそろ買い物に行こっか」


 大智と少し興奮気味の幸希の話しを聞きながら元の道を歩き出した。


 買い物から帰宅する頃には興奮状態から一転して何故か少し膨れた表情になった幸希にどうしたのか聞くと


「やっばりずるーい! 私も行ってみたーい!」


 異世界に興味があればやっぱり行って見たいと思うのは当然だろう。何より大智も連れて行ってあげたい気持ちはあるのだがこればっかりはどうしようもない。

 選ばれて行く場合と自分から行く場合はやはり違うのだろうけど

 もし連れて行けるとなった場合、現世とは治安や常識が全く異なるのだから大変だろうなとか色々考えてしまう。


 昼食後大智はカウチソファに移り取り貯めていた番組を見ながらゆっくりとしていると、いつの間にか寝てしまったようで、気づくとエクムントの拠点に居た。

 エクムントは朝を迎えた所で外からは朝日が差し込み、村人が農作業の準備をしている様子が伺えた。

 早速ミネルバを揺さぶって起こし色々聞いて見る事にした。

 揺さぶってもなかなか起きないので耳元で少し大きな声で

「おい!起きろって!ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 寝癖で前髪がほぼ水平になったミネルバは眠そうな目を擦りながら


「おはようなのです。まだ眠いなのです」


 また布団に潜り込もうとしていたので勢いよく布団を剥がし両脇をくすぐった。


「ぎゃー!やめてー!起きるからやめてなのです!」


 暴れてベッドから落ちた後もヒーヒー言ってうずくまっていたので抱きかかえてテーブルに連れて行きコップに水を注いで渡した。

 それを飲んで落ち着いたミネルバは


「聞きたい事とはなになのです?」


「まず最初に君はミネルバだけど女神アテーナーなの?」


 ミネルバは水平になった前髪を額にくっつけながら


「そうなのです。 女神のアテーナーの状態でここに来ると面倒な事になりかねないから化身になって来たなのです。それよりもこの髪の毛どうにかしたいなのです」


 大智は少し大きめのボウルの様な物に水を汲んで持ってくると手に水を付けてミネルバの寝癖を撫でながら


「なるほどね……それと現世での話しなんだけど、ある所に女神ヘスティアーの石造があって……」


 そこまで話すとミネルバは何かを悟ったように


「それは問題ないなのです。 ただの転移門なのです」


 ミネルバによると神々が現世にお忍びで遊びに行く時に使う転移門で、世界中に複数存在するらしいが害はなく関係のない人には見えないらしい。

 お忍びで行く神々には様々なタイプがおり門を越えた後その地域の人間の姿に変装して人間として遊ぶ神様やその転移門で店舗等を開き開業する神様も居るらしい。

 大智が出会ったのは後者で、女神ヘスティアーで間違いないらしい。

 そこで出会ったおじいさんの事を聞いて見ると、ミネルバは背格好や雰囲気を聞いた後こう言った


「それは多分ゼウス様なのです。 神界の頂点で主神のゼウス様で間違いないなのです。大智様の推薦もゼウス様が言い出したなのです」


 大体の辻褄が合った様な気がした。

 はっきり言って神界の頂点に君臨している人と飲み食いできる現世の人間など居ないだろう。そう考えると少し身震いした。

 大智はさらに


「後もう一つ……これは我が儘なんだけど、自分の妻を連れて来る事は出来ないだろうか?彼女は博識だし、やっぱり慣れ親しんだ人が居ると心強いのもあって」


 ミネルバは少し考えて立ち上がりポーチから変わった形の石を取り出すと何か呪文のようなものを唱えた。

 するとその石はパッと昔の折りたたみ携帯電話の様な形になった。


「私の一存では決められないのです。だから直接ニーナ様と話しをするなのです」


 そういうとどこかに電話を掛けると


「お疲れなのです。大智様が話したいそうなので代わるなのです」


 と電話で話した後大智に電話を渡してきた。懐かしい折りたたみ電話に少し感動を覚えたが、耳に当ててみると


「「どうもお元気ですか?ニーナです。なにか不都合がありましたか?」」


「どうもニーナ様。そういう訳ではないんですけどね」


「「ではミネルバ様が何かやらかしましたでしょうか?」」


「いえいえ、そういう事でもなくてですね」


「「では……」」


 このままでは拉致があかないのですこし食い気味で話し出した。


「いや……あのですね……少しお願いしたい事がありまして」


「「ああ! そうなんですね! こちらで出来る事であれば対処いたしますので何なりとお申し付け下さい」」


 大智は自分の我が儘を聞いてもらう事に内心ドキドキしながら


「では単刀直入にいいますね。 妻を此方に連れて来たいのですが」


 ニーナは電話口で少しの沈黙の後訳を聞いてきたのでミネルバに言ったように説明すると、その問題についてはゼウス様の許可が必要になる事と今まで前例がなかったことを教えてくれた。

 しかし、その世界は少し難易度が高めなのでもしかしたら可能性はあるかもといっていた。


「「それでですね、ゼウス様が少しお話しがしたいらしいので代わりますね」」


「はいわかりました」


 大智は緊張した。

 仮にも神界の主神ゼウスと電話で話すなど前代未聞だし、会ったことはあるがその時はただの気さくなおじいさんという位置づけだったのだから初手はなんて声を掛けたらいいのか検討も付かなかった。


「「大智くんかな?」」


 紛れもなくあのおじいさんの声だった。大智は緊張のあまり 「はひ」 などと言ってしまい少し恥ずかしかった。


「「そう緊張するでない。この前一緒に酒を飲んだ中ではないか」」


 その言葉で少し緊張の解けた大智は


「先日はどうも……今回は我が儘のような事で申し訳ありません」


「「よいよい。で……汝の奥方の話しじゃが、一度会わせてもらえんかの」」


「はい、それは問題ないと思います。どちらに伺えばよろしいでしょうか?」


「「この前の屋台に今宵連れ立って来てもらえんかの」」


「今晩ですか?」


「「うむ。今から目を閉じれば現世に戻れる。現世では少ししか時間がたっておらんから、支度をして夜が更けてからくればよい。」」


「わかりました。では後ほど宜しくおねがいします」


 そう言うと電話は切れて少しすると元の石に代わった


 石をミネルバに渡すとミネルバは嬉しそうな顔をして


「大智様の奥様なら大歓迎なのです。絶対仲良くなれるなのです」


「ああ、多分仲良くなれると思うよ。じゃあ俺はもう一眠りしようと思うんだけど今から寝ても大丈夫なのかな?」


「大丈夫なのです。目を瞑って現世に戻ってどれだけの時間居ても目を開けるまでここの時間で5分くらいなのです」


「じゃあ安心だね。行ってくるよ」


 といってベッドに横になり目を閉じた。


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