第2話―夢召還の女神ニーナ
「んんー……なんだか暖かいな……どこだ? ここ?」
周りを見渡すと広大な雲海の中央に浮いている孤島のようで覆い茂った草花のある所だった。
それはまるで雲の上に居るかのように雄大な景色でに居る様な錯覚を起こす程雄大な雲海で上を見上げれば清清しく少しの曇りもない青い空。
はるか彼方まではっきりと見えるのだが辺りには陸地も見当たらず、ただ雲海に浮かんでいる陸の孤島と言った感じだった。
この景色を見れば誰もがそう思ってしまうであろう答えにたどり着くまでそう時間はかからなかった。
「もしかして……死んだのか?確か仕事帰りに北原と少し呑んで……普通に帰って……幸希におやすみのキスをして…………そんな……急にこんな……突然死か……?」
大智は頭を抱え込みだんだんと追いついてくる思考に焦りのような感覚に囚われていた。
自分が突然死したことや明日の仕事の資料を自分が持ったままな事、
どうせなら北原や他の部下にもきちんとした引継ぎがしたかった事、
そして、幸希をこんなにも早く一人にしてしまった事など色々な思いが頭をグルグルとまわって正直気が狂いそうだ。
「なんでこんなことに……くっ……幸希! ごめんよ……!」
しかし人間である以上やがて誰にでも訪れる死からは免れる事は出来るはずもなく今自身に起こっている事実は事実として受け止めなければならない。
心残りもあるが旅立つ側に立った今、この状況を受け入れるしかないので落胆した様子で地面を見つめていたらその時、誰かの手が大智の肩に触れた。
大智はその手の方を振り返ると、そこには古代ギリシャ神話などにありそうな衣装と神々しい程の光を放つ羽衣を纏い透き通るビー玉のような碧目で髪の毛は飴を伸ばす時の行程で見た事の有る様な
白金色の見目麗しい女性がこちらに向かって笑みをこぼしていた。
「ふふふ」
優しく微笑んだ女神の様な人は大智に近づいてくると、耳に心地の良いソプラノの美しい声でそう語りかけてきた。
「大分落ち着きを取り戻されたようですね……桐原大智様」
やはり自分は死んでしまって、ここはこの世とあの世の狭間でこの女神の様な人が天国まで自分を連れて行くためにここに居るのだと思ったのだが、神様は昨夜のあのおじいさんのような風貌であると言う自分勝手な妄想があり、なぜ女神の様な人がここに居て自分の名前を知っているのか気にはなったのだが、天国の神様の都合とか色々あって忙しいから代わりの人が来たのだろうという、何とも良く分からないところで落ち着いた。
「はい……大分状況を把握しました」
ゆっくりと大智の目の前に来て優しく微笑んだ後、狂おしいほど美麗なその女神の様な人は大智の目をまっすぐに見つめて
「申し遅れました……。 私は夢召還の女神ニーナ・テルピッツと申します。今後はニーナとお呼び下さい」
そう言うとニーナは自らの左胸に手を置き会釈のような感じで頭を下げ、それに釣られた大地も頭を下げる。
「えっと……俺はこれからどうなるのでしょうか?」
最大の疑問だ。
寝て気づいたら天国のような所にパジャマで居るのだから……。
これ以外の言葉など存在しないかのようにスマートに聞けたと思う。
「これからですか?」
「はい……このまま天国に連れて行かれるのでしょうか?」
「いえ……そのような事はございません」
大智はその言葉に愕然とした。
まさかとは思うが行き先が天国でないのであれば地獄行きなのか?
最近では地獄に行く場合も女神が案内してくれるのだろうか?
悪事も働かず真面目に生活を送ってきた大智であったがまさか自分が地獄に行く事になろうとは夢にも思ってなかったのだ。
「では……地獄行きなのでしょうか?」
「えっと……何か勘違いをされているようなので……。まず貴方は死んだ訳ではなくて、この世界は貴方の夢の中なのです……。
そして今、私が貴方の夢の中に居て貴方を召還するために貴方の夢の中の空間に私が居るのです!」
女神ニーナは一気に捲くし立てる様に言った。
召還……ゲームやファンタジーの世界ではよく使われているようだが大智はゲームをあまりしないので慣れ親しんだ言葉ではなかった。
その言葉を聴いても大智の中の疑念はさらに大きくなるばかりであった。
「夢の中……?召還……?ちょっと何言ってるか……」
本当に自分は死んでいないのか?
夢の中という話だったがこれはどう考えてもおかしい。
大地を踏みつけている感覚や景色の見え方、さらには草花の香りに至ってもそうだが、夢の中でそんな感覚が有るなど今まで聞いた事がない。
そう思った大智は自分のふともも辺りを軽く抓ってみた。
痛い
(痛みがある……夢じゃないのか?夢の中で痛覚などありえない。
そもそも夢の中でこれだけの事を考えたり出来るのか?)
しかしこうなってくると死と夢の中の関係がおかしくなる。
そもそも死んでいたら痛覚やその他の感覚は感じるものなのか?
夢の中では自由に行動できなかったり靄がかかっていたり、
勿論痛みなど感じないはずだ。
大智は自分の中の疑問を女神にぶつけてみた。
「俺は本当に死んでいないのですか? ここはどう見ても自分の居た世界とは違うように思えます。ここが夢の中だとして、なぜ抓ると痛いのですか? 」
女神は驚いたようにこちらを見て何か問題でもありそうに考え込むと、意を決したように語りだした。
「痛覚があるということは大部分の召還に成功しているという事です。 後は大智様の意思により召還は成功し召還先の世界に行く事になります。
召還先は大智様のいた世界とはまったく異なる異世界で、人間族 魔族 獣人族 エルフ族 ドワーフ族 その他が生息していて
それを領土という形でそれぞれが支配しています。
しかしながら種族同士の争いや差別が絶えないのが現状で、我々神々はそこに降り立って神の力を行使し問題を解決する事は出来ないので、大智様を神の使いとして送り込む事で神の力を以ってこの世界を救おうと言う事なのです」
長い説明の後大智なりにいろいろと考えては見たのだが理解が追いつかない事だらけだ。種族? 人間だけじゃないのか?
そもそも自分がその異世界に行って何が出来るのか……
なぜ自分が選ばれたのか?分からない事だらけですぐに返事が出来るわけがない。
「召還後はいつでも何度でも戻ってくる事が出来ます。
夢の中での召還ですので夢から覚めれば戻る事は可能です」
「少し時間をもらえませんか?こんな分からない事だらけでは
すぐに返事は出来かねます」
「そうですね……では一度戻ってじっくり考えて明日また返事を聞かせてもらえませんか?」
そう言うと女神は会釈をしながらだんだんと薄くなり消えていった。
「あっちょっと! あ……。消えてしまった……返事が明日って早すぎるだろ!」
本当に戻る事が出来るのか?どうやって戻るんだろう?
普通に考えるとここで眠ればいいのだろう。
大智はその場で仰向けに寝転がって色々な不安の中、戻りたいという意識で目を瞑ってしばらくすると中に浮くような感覚がありハッと目を開くとそこは見慣れた天井と消えている照明がありベッドの中にいるのがわかり、隣を見てみると幸希が幸せそうな表情で眠っていてその寝顔が先程までの不安な出来事を嘘だったかのように思わせた。
戻ってきたのか……そんな感覚だった。
時計はそろそろ朝の7時を回る所だった。
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