ドリームミソロジー 神々より与えられしその力最強につき

きたまさ誠

第1話―不思議な出会い

「桐原部長おつかれさまでした」


「ああ、お疲れ様」

いつもの光景だ。

 人々が日々生活の為に働き、月々のサラリーを貰う為の仕事と言う名の拘束が解けた瞬間に何処でも交わされる気休めの合言葉。

 それなりの就活をし、花の都東京に出て行きたくて努力をしたが、最終的に辿り着いたこの会社も気づけば18年……が経過していた。


 現代社会の文化という物はどれ程会社に尽くしたか、どれ程自身の生活を犠牲にしたか、ただそれだけが評価に値しそれ以外の主張は社会に反する自己主張であり、利己的な主張にしかならず年収や家庭環境で差別すらある不条理な世の中だ。

その不条理な現代社会の理の中で大智は若手の頃から同僚や上司よりも先に退社する事は無く所謂企業戦士として自身の生活は愚か、パートナーの生活すらも犠牲にしてきたのだった。


 大智は必ず自分の所属する企画部のフロアに最後まで残り、部下が全て退社した事を確認後退社するのだが、これは大智が18年前の入社当事にこの会社で現在も唯一尊敬できる直属の上司が必ずやっていた事で上司が部下に仕事を任せて残業させ7自身は定時で帰宅する等の愚かな行為はせず、残業になりそうな部下の仕事の重要度を確認し仕事を部署内の手の空いた社員に際振り分けをした後、最小限の残業で退勤を目指すやり方に大智は感銘を受けそれを引き継いでいるのだが、今日は少し違ったようだ。


「桐原部長! たまにはどうですか帰りに一杯」


 この男は部下の北原で大智のその姿勢に賛同し本人の能力や並々ならぬ努力の結果、若干29歳にして現在主任だが次回の人事で課長最有力候補にまで上り詰めている。少々お調子者ではあるが仕事に関しては一切の妥協をせず今時の男子な容姿で、部下の中でも唯一気の許せる存在なのだ。


「お! いいね! じゃあ、いつものとこ行くか」


「了解です! 戸締りと守衛に退社の報告してきます」


 北原は鞄を手に取るとフロアの窓等の戸締りを確認後、守衛まで走っていった。


「あいつは疲れという概念がないのか?」


 自分の若い頃の事を思い出しながらフロアのセキュリティーを起動後部署入り口の戸締りをしてエレベーターで1Fまで降りると

北原と守衛が何か話していた。


「お宅の部署はいつも定時上がりでいいねぇ」


「それは上司の采配が素晴らしいからですよ」


そんな少し嬉しくなるような事を言う北原は退社カードに記入しながら大智に


「桐原部長! 幸希姉さんにちゃんと連絡してくださいよ」


 北原は仕事帰りに大智の自宅に招かれて夕飯を食べに来るので、幸希とも仲が良い。幸希の事を最初は奥様とか呼んでいたのだが、幸希の立っての希望で幸希姉さんに変更させたのだ。


(プルルル……プッ)


「あ、大ちゃんお疲れ!どした?」


「ああ、今日は北原と少し呑んで帰るから」


「え!そうなんだ……ご飯途中まで作っちゃったけどそういうことなら仕方ないね!あまり遅くならないでね!」


「少し呑んだらすぐ帰るよ」


 最愛の妻の声を電話越しに聞くだけでもその日の疲れが癒される。

そんな事を思っていると、お調子者モードの北原が笑いながら


「部長! 表情がデレモードになっています!」


「え! マジか!」


人差し指と親指で両方の頬の辺りを軽くマッサージして


「どうだ? 直った?」


「はい! いつもの部長にもどりました! では参りましょう」


 そう言いながら颯爽と前を歩く姿は大智の若い頃の自分が重なって大智自身の若い頃の記憶が蘇り、自分が新人の頃はよくこうして上司と仕事帰りに一杯やりながら仕事の愚痴などを零した事など今では懐かしい記憶だ。


 会社を出るとまだ少し肌寒く3月もまだ始まったばかりのこの季節は春にはまだ少し遠いが1月2月よりは少し寒さも和らいで春がすぐそこまで訪れている様な気持ちにさせてくれる。

そんなことを思いながら歩いているといつもの焼き鳥屋に到着した。


「あれ? 今日臨時休業になってますね」


「ん? 本当だな・・・・ 大将今日はパチンコ負けたのかな?」


「あ!そうかもしれませんね!じゃあ今日はどこか違うとこいきますか?」


「そうだな・・・・ たまには新規開拓するか」


「あははっ 営業みたいですね!」


「大将のせせり串うまいんだよな・・・・」


「僕はぼんじりタレですね・・・・」


 2人は新規開拓の為に歩きだし駅前の繁華街に足を運んだのだが、他の人達も同じく平日ではあるが時間もまだ19時と夕飯時でもあるため食事をしながら仕事帰りの一杯を満喫するかのようにどの店もお客さんが多く腰を落着ける場所が中々見つからない中


(この際大智の自宅で一杯やるかな……)

(夕飯も途中まで作っていたみたいだし……)


と、思いながら歩いているといつもは何もない路地のようなところに赤く光る提灯を二つぶら下げた少し大きめの屋台があった。


「ん? 屋台があるな」


「……屋台ですね……」


「あの提灯・・おでんって書いてありますね」


「おでんか・・・・俺はゴボウ天と丸天こんにゃくに玉子だな……」


「自分はそれにがんもと鍋底ダイコンですね……」


「じゃあそのオールスターに日本酒で頂くか」


「了解! 席の確保にいってきます」


北原は大売出しの店で開店と同時にセール会場に向かうかの如く全速力で走っていった。


「鍋アリーナでたのむぞ!」


「もちろんです!」


 100mはあろう距離を疾走してあっという間に暖簾を掻き分けて中の店主と話をしている。大智も少し競歩に近い感じで足早に歩いて辿り着き席の確保具合を北原に聞いてみた。


「主任! 席確保の進捗はどうかね」


「はい! 鍋前の最前列を2席確保しました!」


「よくやった! 報告書を纏めて明日までに提出してくれ」


「わかりました!報奨金の方よろしくおねがいします!」


「うーん……ここは私が持とう」


「ありがとうございます!」


 いつもの流れだ。やはり上司という立場上奢ることになり、北原が長椅子の端に腰を掛けたので大智も暖簾を掻き分けその隣に腰を下ろすと、そこは北原に指示したとおりの鍋前の席で、4人程座れそうな長椅子の中央という事もありその屋台の全貌が見える。


 そこは裸電球が多めに設置してあるせいか明るく何の変哲もない屋台なのだが小奇麗でおでんと酒のみで営業しており初めて来る場所だがなぜか居心地が良く大将も元気があって心地よく呑める感じだ。


「いらっしゃい!」


「大将! 熱燗つけて! 2つ」


「あいよ!」


 お客さんは大智と北原以外にもう一人白髪のおじいさん。


 年齢は70代くらいか恰幅のいいあまりこのあたりでは見ない白っぽいコートを纏いオールドパーウイスキーの人のような口ひげがあるなぜか神々しい感じの清潔感のある紳士といったところ。

 隣に置いてある白いボーラーハットも彼のものだろう。


「大将おでんいいかな?」


「どうぞ! お好きなものを取ってその個数をそこに置いてある紙に書いてください」


 大将が言った注文を書き込む紙や屋台のカウンターにあるお品書きの様に夫々の具の名前が書いてある所にも値段が書いてないことに気づいた大智は少しふざけた様にもしかして時価かな?と店主に聞いてみたのだが帰ってきた答えは意外な物だった。


「とんでもない! 串物は一つ80円で他は一つ50円、酒は冷でも熱燗でも350円です!」


それを聞いた北原が驚いた様子で思わず口から出た言葉は


「安っ!値段安すぎではないですか?」


 北原が驚くのも当然でこの辺りの繁華街ではおでんの串物が120円くらいで他は大体安くても90円くらいであり全国的に平均値とも言えるのだが、この屋台の値段設定はこんな値段で採算がとれるのか逆に不安になるくらいの値段設定に誰もがそう思うに違いない。


そうこうしているうちに大将が熱燗を出してきた。


「とりあえず適当によそっておきましたよ」


北原は安さのあまり普段は少し高めの値段設定で取るのを少し躊躇う牛筋の串を大量に盛って大智の前に置いた。


「北原?安いからって串多くないか?」


「部長!こんな時はボーナスステージの如く食べましょう!」


 もう一皿にはがんも、丸天、こんにゃく、玉子、出汁をよく吸ったダイコンが盛り付けてあり北原の前にもほぼ同じ内容で盛り付けたおでんがあり割り箸を取って割ろうとしている所に大将が熱燗を出して来て、それを受け取った北原は徳利に被せてあったお猪口を大智に渡してきた。


「ささっ部長 お一つどうぞ」


「お、そうだな」


お猪口に注がれる熱燗。やはりお決まりは


「おーーーーとっと」


 そう、お決まりの零れそうなほどいっぱいに注ぐあれだ。


 そして零れそうなほど注がれた熱燗を口に付ける。

火傷するほど熱くはないが温くもないちょうどいい燗の付け方で値段の安さから味は期待してなかったがこれが美味い。口当たりや喉越しからそこらへんの安酒ではない事は確かだ。


「大将! 日本酒美味いね」


「ウチは日本各地の地酒しか置いてないんですよ」


「では自分も」


 北原がお猪口に口をつけて一気に流し込むとタンッとお猪口をカウンターに置き、全身に染み渡らんばかりのリアクションでその美味さを表現する。


「美味い!」


そして割り箸を徐に割って丸天を一口食べた北原が手を止め


「部長! おでんも絶品です!」


「マジか!」


 北原のあまりにもおいしそうに食べる姿を見て大智の端を割り、目の前に置かれたおでんの中から取り出した丸天にかぶりつく。


「美味い!」


 今まで出張などで全国各地を回り冬の寒い時期は必ずと言っていいほどに食べたおでん……。なんの変哲も無い只の丸天だがこんなに美味い丸天を食べたのは生まれて初めてだった。


この味なら国内を制覇できる……。そう言っても過言ではない美味さだ。


「そんなにうまいかね?」


 先程からこちらをニコニコしながら見ていたおじいいさん。

手元を見るとビールと小皿にまだ手のつけられていない玉子のみで

箸もすすんでいないようだった。


「はい! 美味すぎて毎日でも通えるほどです!……ここにはよく来られるんですか?」


おじいさんは一瞬なぜか真顔になったがまたすぐにニコニコして


「いや……儂も初めてじゃよ」


 そう言うと自分の前においてあるたまごに箸を付けたのだが美味く掴めずにつるんと滑ってなかなか上手くいかないようだ。

 何度もつるんと滑って上手くいかない状態が続きあきらめたかのようにため息を漏らした後大智に話しかけてきた。


「すまんが……この食べ物は初めて食べるのじゃが滑って食べられんのじゃよ……どうやったら良いのじゃろうか?」


(ん?はじめて?ん?玉子ですよね?そんな馬鹿な)


 どういう人生送ればゆで卵を食べた事のない人生になるのか、疑問に思ったが酔っ払っていてふざけている様にも見えず、大地達と玉子の話題でコミュニケーションを取ろうとしているのか?

 何にせよ人と話すのは嫌いではないのでその話題に乗っかる事にしたが、北原がその言葉に先に反応した。


「え?おじいさん玉子初めて食べるんですか? いやいやそれはないでしょ?」


「北原!」


 あまりの北原の発言に大智は諌めるように名前を呼び黙るように促していたがそれでも北原は酔っているのか珍しく食い下がってきたので大智は少し強めに北原にお説教をした。


「もういいから!この世の中には数え切れないほどの人が居て人それぞれ色々あるんだよ。自分たちの考えを人に押し付ける前にその人の考えややり方を聞いてみる。その中でどう考えてもその人が間違っている事は教えてあげて、逆に勉強になりそうな事は吸収する。

人として成長するやり方はそういう事だ……。北原もまだまだだな」


 そう言われて北原はシュンとしていたが、すぐに「わかりました」と言った後おでんを食べて気を取り直したようだった。


 やはり可愛がっている部下には人間的に成長して欲しい。

北原本人もわかってはいるが酒が入るとやはりお調子者になってしまうようだ。


「おじいさん! 究極の禁じ手をお教えしますよ」


「おお! それはどんな手だね?」


「本当はやってはいけない・・・・所謂お行儀の悪い禁じ手です。」


 そう言うと大地は自分の皿の玉子に箸を二本ぶっ刺し、そしてその箸をV字型に開くと玉子は見事に二つに割れ黄身と白身が見えるようになりその様子をおじいさんも見よう見まねでやってみると見事に玉子は二つに割れようやく箸で掴める状態になり食べる事に成功したのだった。


「これをつけて食べるとおいしさ3倍ですよ」


そう、和からしだ。おでんには欠かせない調味料であり鼻につんと来るのになぜか美味いあれだ。


「これはなんだね?」


「これは少し辛いですが、和がらしと言うおでんの美味さを引き立てる材料です少量をつけて食べてみてください」


「ほう……では」


おじいさんはからしを少量つけて玉子を口に運ぶと


「ん……んん!」


 最初は眉間に皺をよせて少し目を瞑っていたが、カッと目をみひらいて口の中に残るからしの風味を味わい全てを飲み込んでその余韻に浸る前に感想の方が先に出てしまったようで


「誠に美味じゃ!このような物は生まれて初めてたべたわい。

汝らはこのようなものを毎日たべておるのか?」


(ん?汝?なんだかものすごい言葉の使い方だな)


 まるで神様が始めて食べた物の感想を述べているようなそんな感覚で聞きなれない言葉使いに少々違和感があったが、気づくといつの間にか玉子は完食したようで名残惜しそうに箸を舐めていた。


「おじいさんそれも禁じ手です……お箸は舐めてはいけません」


「ふむ……そうか……」


 おじいさんは名残惜しそうに口から箸を放してカウンターに置いた後ビールをコップに注ぐと一気に飲み干し満面の笑みで


「そしてこのエール・・・・こんな美味いエールも初めてじゃ」


(ん?エール?イギリスの人か?どこかの国ではエールっていうのかな?いや待てよ……確か上面発酵と下面発酵で言い方が違うはずだったけどもう一つはなんだったかな?)


 おじいさんの目の前にあるビール瓶を見つめながら考えているとラベルに書いてある文字に目が止まった。


ラガーだ。


 上面発酵がエールでもっとも歴史が古く下面発酵のラガーは比較的新しい製法であり他にもランビックって自然発酵があるようだが

現在流通しているビールのほとんどはラガーだと聞いた事がある。


「おじいさんそれはエールではなくラガーですよ」


「ラガー?それは聞いた事のない名前だな エールではないのか?」


「ええ 中世以降にラガーという製法がひろまったんです」


「中世以降? よくわからん話じゃが、汝は博識なのであろう……。その博識な汝が言うのなら間違いではないのであろう」


 やはり神様か何かと話しているような気になってくる大智はそのうちお戯れをとか言ってしまいそうな気分になってくるが、話す感じや話題も嫌いではないので話題性としては十分だった。


「汝の心使いありがたく思う。儂はそろそろ帰るとするか」


 おじいさんは此方に気を使うようにコートを羽織って、そのポケットから金貨のようなものを出しカウンターの上に置いたのだが、

おでんの代金を金貨で支払おうとする光景を目の当たりにし、見た事も無い様な模様の金貨を凝視していると……


「主よこれで払えるかな?」


大将は大智達を一瞬チラッと見た後


「えっと……お客さん……これはちょっと……」


「ふむ……儂はこのコインしかもっておらんぞ」


 本当に海外の方みたいだったので袖触れ合うのも何かの縁という言葉があるようにビールと玉子程度の代金なら、今日の話題を提供して貰った感謝の意味も込めて大智は店主にこう言った。


「大将! そのおじいさんの御代こっちに付けて!話も楽しかったんで俺が奢ります」


「お客さんいいんですか?すいませんね!」


 そのやり取りを聞いたおじいさんはポケットから出したその金貨を大智の手に握らせるようにして渡して


「ありがたい! ではこれを受け取ってくれ」


「これは受け取れませんよ……」


「これは年寄りの我が儘じゃと思って受け取ってくれんかの?年寄りの我が儘は素直に受け取ってほしいものじゃ」


「わかりました ではありがたく頂戴します」


大智は仕方なくその手に握ったコインを自分のスーツのポケットに仕舞い込んだ。


「では近く会える日まで少しのお別れじゃ」


 そのおじいさんの発言はすぐの再開を期待してその時にこのお礼をする様に聞こえたのだが、そこまでのお礼などは期待していない大智はあまり気にも留めずにおじいさんを見送る事にして立ち上がると、そのおじいさんは大智と目が合うとボソッとつぶやくように


「汝は思ったとおりの者じゃった・・・・」


そう言うと何か聞いた事もない様な言語で呪文のような言葉を小声で言った後竜手を広げて


「汝に全能の父なる神のご加護があらんことを」


 その時大智は全身がふわふわしたやさしく心地のいい光に全身が包まれ、まるでこの世界に今自分しか存在していないような不思議な感覚の中、やさしい光はやがて足元に道を作り出しそこへ促されるような何とも言えない感覚だった。


 ハッと我に返ったときにはすでにおじいさんの姿は見えなくなっていて、後ろを振り返ると屋台の中で酒と疲れで爆睡中の北原の姿があり、時計を見るともう22時を回った所だ。


「北原……。そろそろ帰るぞ」


「ふわーい……いつの間にかねてしまってましたぁ」


 眠そうに目をこすっている北原を駅まで連れて行き大智も家路についた。

大智の自宅は社宅で会社から徒歩30分程度で健康維持のために徒歩で通勤しているいつもの道なのだがいつもより足取りが軽く感じた。

自宅では最愛の妻幸希が大智の帰りを待っている。

どれだけ遅くなっても起きて待ってくれているのでおそくなったら

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

玄関の鍵をそっと差込みゆっくり玄関をあけるとそこには

最愛の妻、幸希の姿があった。


「おかえり」


「遅くなった……」


「そんなこと気にしないで? それより何かいいことでもあった?」


「え? なんで?」


「なんだかすごく嬉しそうな表情だし」


「……お風呂入ってくる」


「着替えとパジャマ洗濯機の上に置いとくね」


シャワーを浴びながら今日のおじいさんの事を思い出していた。


(ずいぶん変わった人だったな……。

まるでこの世の人ではないような……)


 別れ際のあの感覚は何だったのかまるで神のご加護があったようなあの感覚……今まで感じたことの無い不思議な感覚だったのだが、支払いのときに貰った金貨の事を思い出し風呂上りに見て見る事にした。


 パジャマに着替えてクローゼットに幸希がきちんとハンガーに掛けてくれているスーツのポケット金貨を取り出しダイニングテーブルの椅子に腰をかけてもらったコインをまじまじと見てみると、直径4センチくらいで見た事もない文字のようなものが真ん中の女性の周りをぐるっと一周書いてある。


 裏側には真ん中に盾のようなものと剣のようなものと2つの変わった木の枝のような模様が中央にあり、その周りを見た事もないような文字のようなものが囲んでいる。

 金貨であるのは間違いないがそれがどれほど価値が有るのか分からない為、機会があればコイン商にでも見せてみる事にしてリビングのテレビ台にある引き出しに仕舞い込んだ。


 寝室に行くと幸希はすでに就寝しているようで寝息が聞こえていたが、そっと隣に潜り込むと幸希が手を絡ませてきて


「……おやすみ……」


小声でそう言うとまた寝息を立てて深い眠りについたようだ。


 この眠りから始まる壮大な物語を大智はこの時はまだ知る由もなく、小声で「おやすみ」と言っておでこに易しくキスをして大智も眠りに付いた。


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