3.よくない出来事

 ある日の下校途中に柏木は刺された。

 刺したのは以前付き合っていた十九才の女性だった。周りに人がいたから女性はすぐに取り押さえられて、柏木は病院に運ばれた。柏木は重傷だったが処置が早かったおかげで事なきを得た。刺された一ヶ月後には退院して、自宅療養している時に僕は見舞いに行った。

 柏木の恋愛殺傷沙汰は学校や近所の格好の噂の種になっていたが、それに関してもやはり柏木は何も気にしていなかった。唯一母親に泣きつかれて、それが少し堪えたと言った。

 しばらく話をしていると柏木の顔色が段々悪くなってきた。無理していたのか、ベッドで身を起こしていた柏木に僕は横になるよう促した。青白い顔で横たわる彼に気を遣って帰ろうとしたが「帰らないでくれ」と呼び止められた。もう一度傍に腰を下ろすと柏木は「俺はセックスが好きなんだ」と言った。

「うん、知ってる」

「俺もそう思ってたけど、思ってた以上に好きだった。刺されて死にそうになった時、死ぬのも怖かったけどもうセックスできないと思ったことが一番怖かった。死にそうになったのにこんなことを考えてる自分が異常だと思うけど、死にそうになったからこそ自分の本音を知ったし、それを拒否したくもない。だけど窪田、俺、あれから勃たないんだ。悪いけど、俺のを触ってくれないか?」

「触ってくれって、それ本気で言ってる?」

「本気だけど、したくなかったら無理強いはしない。男が好きでも誰とでもって訳じゃないんだろ?」

 柏木はそう言って少し笑った。僕も笑って、少し考えてから「うん、やってもいいよ」と答えた。

「気が変わったらいつでも言ってよ」

 僕はそう言いながら柏木のズボンとパンツを下ろした。自らやると言ったがどうにも柏木の顔は見られなかった。自分以外の性器を見るのは初めてで、いつも自分がしているように触ったらすぐに大きくなった。「マジかよ、あんだけやっても駄目だったのに……」と柏木が呟いて笑ったので僕も笑った。「最後までやればいい?」と聞いたら「最後までやってくれ」と返ったので最後までやった。

 帰り際、「また学校でな」と柏木が言って、僕は「うん」と答えた。

 柏木は今後も変わらないと思った。というより、やることは変わらないが本質は変わるんだろうと思った。

 すっきりした顔でベッドで手を振った柏木とは、これからも友達だと思った。

 だけどこの日の晩、容態が急変して病院に運ばれた柏木はそのまま死んでしまった。

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