Stage 5.I Know what I do when I drink
「ロケはたのしーけど、やっぱ疲れるね~。」
都心から離れたとある漁港の田舎町。
ご当地グルメのテレビ番組の収録ためトワたちはロケに訪れていた。
朝早く出てきたつもりが終わる頃には夕日が傾いていた。
「スタッフさんたちが今日は旅館を用意してくれているからそこに泊まれますよ。」
水沼が疲れたトワを労うように言う。
「やった!美味しいご飯が食べれる!」
伍代が横でのんきにそう言ったのでトワは嫌そうな顔をする。
「ホントどこにでもついてくるんだね・・・ウザー。」
「ウザイってなによ。これも仕事なの!ロケするトワを一生懸命撮ってたでしょ!」
「えー。しらなーい。」
「貴女ねぇ・・・。」
「まったく、ここにきてもこの調子ですか・・・早く移動しますよ。」
「はぁーい。」
水沼に促されトワと伍代は渋々車に乗った。
海沿いに車を走らせて10分弱。
温泉街の一角に、トワたちの泊まる旅館があった。
あまり大規模ではないが、なかなか雰囲気のある純和風の旅館である。
「わー。りょっかーん!!」
「トワちゃん、疲れてるところで悪いんだけど。」
スタッフの一人がはしゃぐトワに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「今回さ、部屋割りが二人づつなんだよ。一人の方が良かったかもしれないけど、二人で泊まってくれないかな。」
「え・・・そうなの?じゃあ、トワは誰と?水沼と?」
「うーん。水沼さんかと思ったんだけど、今、密着撮影とかやってるんだよね?だったら伍代さんのほうがいいのかな?どうっすか?水沼さん。」
「そうですね・・・。確かに温泉旅館での一コマというのはおいしい・・・。トワ、伍代さんと泊まりなさい。」
トワはそう水沼に肩を叩かれた。
「え?えぇっ!?い、嫌だよ!」
「トワ、我が儘言わない。これもお仕事と思いなさい。ファンたちのためですよ。」
「そんな・・・。」
トワが呆然としている間、水沼は伍代を呼びつけた。
「・・・言っておきますけど、トワに変なことしないでくださいよ。」
「な、何よ。変なことって!何もしないわよ!!」
「だといいんですけど。しっかり自分の仕事だけをしてくださいね。」
「おいおいおい・・・私は何だと思われてるのよ・・・。」
「さ、部屋に入って。宴会は19時からということですのでそれまではご自由に。」
そう水沼に誤魔化されながらトワと伍代は旅館に押し込められた。
「ここが、トワたちの部屋?」
部屋に入ると、八畳くらいの和室で次の間もあり二人で使うには十分の広さだった。
「畳の匂いがするな~。こういうとこにくると実家思い出すわ。」
「実家?」
「あれ?思い出さない?てか、もしかしてお前金持ちだから洋館みたいなところでパパとママと暮らしてましたって感じ?」
そうからかうように伍代が言うとトワは急に冷めた目をした。
「知らない。家族なんていないから。そういうのわかんない。」
「え・・・?あ・・・ごめん。もしかして、なんか悪いこと言った?」
「いいよ。気にしてないから。気にしないで。」
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。家族なんていないとはどう言う意味だろうか。
しかしそんなハードな内容にしては、あっさりと言ったよな。そういえばトワとは家族の話なんてしたことはないが・・・でも。
トワの意味深な発言に伍代の思考はぐるぐるまわる。
しかし当の本人を見てみると、先ほどの発言など気にする様子もなく荷解きをしている。
このことはあまり触れてはいけないのだろう。気になるものの、なんとなくそう思って伍代は話題を変えてみた。
「ねぇ、夕飯まで時間あるし、お風呂入りにいかない?」
「えぇ!?伍代さんと!?」
「なによ、同性同士なんだし。いいでしょ。」
「別にいいけど・・・。」
あまり気乗りはしていないようだが、トワはそう返事した。
風呂に入ろうとは言ったものの。
おばさんがアイドルと風呂に入るってどうなんだ・・・。
温泉に浸かりながら伍代は思った。
ちらりとトワを見てみる。
同じ女性なのだから堂々と見ればいいのだが、なんとなく気が引けた。というのもトワは細く、白い肌で可愛くて。
アイドルの入浴シーンって、本当は見てはいけないのではと今更思った。
「何?」
伍代の視線に気づいたトワが不機嫌そうに言う。
「いや、トワってホント細いのね。ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ。大体、アイドルが太っていても嫌でしょ。」
「いや、そうだけど。」
そんな折、何気に“貞操も純情もない”という言葉を思い出した。
裸のトワを見ているとなぜかそんな下世話な言葉ばかりが思い浮かんで仕方なかった。
「あの・・・さ、トワ、前に水沼さんにスキャンダルいろいろもみ消してやったって言われていたけど・・・ホントにそんなこといろいろやっていたの?」
伍代は気がつくとそんなことを聞いていた。
「何?気になるの?」
伍代の珍しく大衆的な質問にトワはいたずらっぽく笑って言った。
「い、嫌なら別に話さなくていいけど・・・な、なんとなく聞いただけ。」
「いいよ。別に。隠すほどのことでもないし。なんでも聞いて。」
それに対してトワはあっさりと答えた。
伍代は驚いて、逆に聞いたこっちが幼稚じゃんかと思ったものの気になるので、とりあえず色々聞いてみることにした。
「じゃあ・・・誰とそんなスキャンダル起こしたの?」
「うーん。男女様々。」
「え、女も?」
「そだよ。意外と多いんだから芸能界。・・・あ、誰とかって?えーとね、海幸子とかー、猿田シンジとか、カグツチサヨとかー。代表的にはそんなかんじ?」
トワの挙げていく芸能人は大御所ばかりでかつ皆トワより年上であった。
「見事に年上ね、みんな・・・。貴女ホントに好きなのね、年上。てか、海幸子とか何気にいい女優だって好きだったからショックなんですけど・・・。」
するとトワは眉をひそめて言った。
「あの人、ダメ!!なんか性格悪かったよー!!」
「マジで・・・さらにショック。そしてトワはそうやって貞操も純情もなくなるのね。」
「あー、そんなにひどくないよ。あれは水沼の言い過ぎ。みんなキスくらいだよ。遊びだよ、遊び!」
「遊びねぇ・・・。」
「そうそう。しかもそれデビュー当時らへんのことね。今は忙しいから真面目ですよ。あの時は・・・芸能界に入ってみんな言い寄ってきたから調子に乗ってたんだよ。それに昔の癖が治ってなかったっていうのもある。」
「昔の癖?」
「あ・・・なんでもない、なんでもない。まぁもてるってこと!!あ、そうそう!でもね、大国ミコトにはホテルで掘られたな・・・。」
「ほ、本当に?女の人に・・・てか、大国ミコトって往年の女優でしょ。何歳差なのよ!」
「30歳差。」
「・・・。よくやるわね。」
伍代があまりにもうんざりした顔で言うのでトワは怒って言った。
「あのさ、さっきから伍代さん、性別とか年のことばかり言うけど、そんなに性別と年って大事なの!?」
「そりゃ!・・・・・・大事でしょうよ。」
トワに改めて問われるとなぜいけないのかよくわからなくなったものの、伍代がそう小声ながら答えると、トワはますます不機嫌になった。
「ねぇ、そんなにそれって大事なの?恋するのに関係あるの?」
「いや・・・そりゃ、そうよ・・・。関係・・・あるよ。」
「伍代さんはそれがすごく好きな相手でも年と性別で諦めるの?」
「諦めるもなにも恋はそういう相手とはしないの!」
「ふーん。じゃあ、トワと伍代さんはレンアイできないんだね。」
トワは上目遣いに伍代を見て言う。伍代はトワのすっとんきょうな発言に驚いて湯船にずり下がった。
「そりゃ、そうでしょ!!私とトワは何歳差だと思ってるのよ。大体・・・!」
「馬鹿、冗談なのに何本気に反論してんの、気持ち悪いなぁ。・・・はぁ、トワなんだかのぼせてきたから先上がるね。」
そう言うとトワは湯船から上がった。
そして脱衣所へつながる扉を開けてゆっくり閉めたあと、扉にもたれかかってつぶやいた。
「そんなに本気で反論しなくていいじゃん・・・馬鹿。」
伍代はというと湯に鼻まで浸かってブクブクと泡を立てていた。
今まで深く考えずに、年の差はダメだとか女はダメだとか考えていたが・・・。ああ言われるとどうしていけないと思っていたのだろう。
いやいやいやいや、やっぱり考えすぎ。トワにからかわれているのだわ。トワと私が恋愛?馬鹿らしい。まったく。
「あー、私ものぼせてきたかも・・・。」
伍代は頭に手をやるとゆっくりと湯船をあとにした。
それから部屋に帰ってまもなく19時になったので宴会場での打ち上げが始まった。
さほど人数は多くないが何度か組んだことのあるチームだったので仲がよく話も弾み、飲めや食べやの大騒ぎで結局部屋に再び帰ってきたのは22時前くらいであった。
「先にお風呂入ってて正解だったね。だけどさー、トワどんだけ飲んだのよ・・・。」
部屋でくつろぎながら伍代が言う。
「知らなーい。覚えてなーい。」
スマホをいじりながらまるで素面のような顔でトワが応えた。
「酔わないの?」
「酔わないよ、あれくらいじゃ。」
「トワとだけは一緒に飲みに行きたくないね。・・・と、タバコ吸っていい?」
「えー!!タバコ禁止!!」
「いいでしょ!もう中毒になってきてるのよ。外に出るのも面倒だし、窓開けて窓の外にけむり出すから、ね?」
そう言われトワは渋々納得する。
「もー。ちょっとだけだよ。」
「へいへい。」
伍代はタバコを持つと窓を開けた。途端心地よい潮風が部屋の中に流れ込んできた。窓のすぐ外は海らしい。
それに気づいたトワが窓に駆け寄る。
「わー、海―!!」
「あー、ほんとだ気づかなかった。」
しかし、海は遠くに灯台の光があるもののそれ以外は真っ暗で何も見えず、ただ何もない暗がりが広がっているといった感じであった。
それを見てトワがふふっと笑って言う。
「真っ暗だね!」
潮風に髪がなびく。浴衣から見える綺麗な鎖骨。無邪気な笑顔。
伍代は火をつけようと持っていたタバコを思わず落としてしまった。
「ん?どうしたの?」
「いや・・・なんでも・・・ない。」
ちょっと、可愛い顔するんじゃないわよ。
柄にもなくどきっとしてしまった自分が恥ずかしくなった。
伍代はそれを誤魔化すかのように慌ててタバコに火をつけて吸う。
しかし一本吸い終わったところで伍代は吸うのを辞めた。本当は二、三本吸いたかったのだが先ほどの笑顔を思い出すと無性にトワの写真を撮りたくなったからだ。
「トワ、写真撮っていい?」
「ん?いいよ。撮って。」
窓辺の椅子でくつろぐトワや布団の上ではしゃぐトワ。旅館という雰囲気がそうさせているのか今日は何枚とってもいつもに増して飽きない。
売れないグラビアアイドルをとっていた時は、二、三枚撮れば飽き飽きしていたものだがトップアイドルともなればやはり纏っているオーラが違うな・・・どんどん引き込まれて写したくなる。そう思いながら次々にシャッターを押す。
次はどうやって撮ってやろうか。どう可愛く、かっこよく撮ってやろうか。心が弾む。
そんな折。急にトワが五代に聞いてきた。
「ねぇ、伍代さんはどうしてグラビア撮影やりたかったの?ただのスケベ心?」
「どうしてそうなるのよ。私は元々グラビアが本業じゃないの。本業は、風景。」
「え、そうなの?じゃあ、なんでグラビア撮ってたの?」
「風景じゃ食べていけないからね。大体、私、写真の才能ないの。だから、売れないグラビアアイドル撮ってんの。」
「そ、そんなことないっ!!」
伍代の発言に対してトワは急に大声でそう言った。伍代は驚いて今度はカメラを落としてしまった。
「伍代さんはっ、才能なくなんかないよ!!」
「なによ。急に。」
「だって、伍代さんに撮ってもらった写真見せてもらったけど、どれもキラキラしてた。伍代さんの写真どれも輝いていたよ?自分のことそんな風に言わないで。」
最初はトワの発言に驚いていたものの、伍代はすぐに笑ってトワの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「ははは、褒めてくれてんの?ありがと。」
そんな扱いにトワはむっとして手を振り払う。
「トワは冗談で言ってるんじゃないよ?」
「いいのよ、私のことは気にしなくて。才能ないのはわかってるし。でもさ・・・今回ので私の写真が日の目にでれば・・・今の生活がどうにかなるんじゃないかって、もしかしたらチャンスが来るんじゃないかってちょっと期待してたりしてさ。だから柄にもなく一生懸命やってて・・・ま、トワからしたらウザイだけだよね。」
相変わらず笑ってごまかす伍代に対してトワは真剣な顔である。
「そ・・・そんなことないっ!トワ、頑張るよ?だから、伍代さんの写真、みんなに見せようよ。きっと、伍代さんはうまくいく。トップアイドルが言うんだもん、間違いないよ。だから、才能ないとか言わないで。」
馬鹿にされると思っていたが、あまりにもトワが真剣に励ますものだから伍代はなんだか照れてきた。
子供に励まされてどうする。
しかし、トワの言葉は心に響いたものの、子供に気を使わせてしまった自分が何か情けなくなった。
「でも、私とトワは住む世界が違うよ。」
伍代がそう言うとトワは首を振った。
「違うくないよ!トワだって・・・トワだってそう。何もなかった。でも、綺麗な洋服着せてもらって、メイクしてもらって、音楽作ってもらって、伍代さんみたいなカメラさんに写してもらって初めて輝くの。伍代さんがいないとトワは輝けないよ?ねぇ、だから自分を卑下しないで?」
「トワ・・・。」
何とかして、伍代を励まそうとするトワの一生懸命さが伝わってくる。
そんな感情を受けて伍代の胸に何とも言えない感情が湧き上がってきた。
トワはトワなりに感情が高ぶっているのか立ち上がって伍代に向かってきた。
「伍代さん、トワはっ!!」
そう言った矢先、布団の角にけつまずいてトワがバランスを崩して倒れ掛かってきた。
「ぎゃっ!!」
「危ないっ!!」
伍代が慌てて抱きかかえる。が、勢いが強すぎてトワは伍代を押し倒す形で倒れてしまった。
「だ、大丈夫?」
「あ、うん・・・。」
トワは顔を上げた。
「あ・・・。」
目の前に伍代の顔がある。トワは思わず顔を赤らめて目をそらした。そして早く立ち上がろうとしたのだが、焦ってまた滑ってしまい伍代の胸へと逆戻りしてしまった。
「もぅっ・・・。やっ!!」
吐息混じりにそう言ったトワの言葉が嫌に色っぽく、さらりと流れて伍代の肌にかかるトワの髪からはシャンプーのいい香りがした。
今までにない至近距離にいつもなら動じない伍代であったが、なぜかどきどきしてしまって気まずい。
あまりにもその雰囲気に耐えられず、伍代はトワに言う。
「あの・・・トワ、そろそろ、どいてくれると・・・ありがたいんですけど。」
「わ、わかってるよっ!!」
トワは、今度はゆっくり立ち上がった。
そして伍代の横にへたりこんだ。浴衣は乱れてぐしゃぐしゃである。
なんか、私・・・トワに悪いことした気分・・・。
着崩れて座り込むトワを見て伍代は、なんだか罪悪感に苛まれた。
そして二人の間に沈黙と気まずい空気が流れる。
伍代はまたもやそれに耐えられなくなって、話を切り出す。
「あの・・・さ、もう、寝る?疲れたでしょ?」
「あ、う、うん。そだね。」
トワもその気持ちは同じで伍代の提案に同意して、二人は部屋の電気を消したのであった。
暗闇。
赤いワンピースを着た派手な化粧の女がトワの前に立っている。
その女はトワをちらりと侮蔑の目で見ると何も言わず去っていく。
“待って!置いていかないで!”
トワは手を伸ばす。その手も虚しく彼女は暗闇に消えていく。
それから現れたのは、長身の若い女。だが、その女も何も言わず去っていく。
“ねぇ、約束したじゃん!置いていかないって!!あれは嘘なの?待って!!”
女が消え、次に現れたのは水沼。
“水沼?待って、一人にしないでよ!”
水沼もトワの言葉を聞かず去っていく。
“え、伍代さん・・・?”
水沼の次に現れたのは伍代。伍代はふっと笑う。
“伍代さんはいてくれる?”
しかし、伍代も何も言わずに暗闇の向こうに歩いていく。
“待ってよ、待って!!一人にしないで!!嫌!待って”
「待って!!」
そう言ってトワは飛び起きた。
あたりを見渡してみると、畳の見慣れない部屋。横には伍代が寝ている。
「そうか・・・夢・・・。夢・・・。」
トワは額にかいた汗を拭うと、頭を抱えた。
トワの声に気がついて起きた伍代が目をこすりながら寝ぼけ声で言う。
「トワ・・・?どうしたの?」
「ううん・・・なんでもない。」
「寝ないの?」
「・・・夢、見たの。怖い夢。この夢ね、一度見ると眠れないの。子供みたいでしょ。でも、どうしてもダメ。嫌だな・・・最近見なかったのに。」
嫌に不安がるトワを見て、伍代は「ん。」と手を伸ばしてきた。
「何?」
「手、かして?つないであげる。」
「はぁ!?なんで!?嫌だよ。子供じゃないんだから。」
「なによ、さっき子供みたいって言ってたくせに。・・・いいからいいから。トワ、前にうなされてる時もつないであげたら熟睡してわよ。一回試してみたら、絶対寝れるよ。」
「・・・・。」
「ねっ?」
トワはじっと伍代を見た。伍代はニコニコ笑っている。恥ずかしいものの、それ以上に見た夢が怖くてトワは伍代の提案を嫌々ながらも受け入れてみることにした。
「・・・誰にも言わないでよ。」
「言わないわよ。ほら、かして。」
「ん・・・。」
トワはゆっくり手を伸ばしてみる。すると伍代はくいっと引っ張って、ぎゅっと優しく握った。体温の低いトワに対して、伍代の手は暖かく、トワにはそれが心地よかった。
「・・・どこにも・・・いかないでね。」
暗闇で何も見えないから積極的になったのか、それとも相当夢が怖かったからなのか、トワはいつもなら言いそうにない言葉を伍代に投げかけた。
これにはさすがの伍代も驚いてトワを見たが、暗い上に顔をそらしていて表情が見えない。
しかし、なんだか急にそうおとなしく言うトワが愛おしくなって伍代は手を握り締め直してやった。
「いかないわよ。」
その言葉を聞いてトワは、顔はそらしていて伍代には見せていなかったものの、嬉しくて笑みがこぼれていた。
それからしばらくして、トワは安心したのか、寝息が聞こえだした。
だが。
おいおい・・・どういうことよ。
「何が手をつないだら寝れるのよ・・・緊張して私の方が眠れないじゃない・・・。何やってんの。」
いつもならすぐ寝れるのにどういうことか伍代は寝れない。
なぜか繋いだ手が汗ばんでくる。
頭に手を当てて天井を向く。
「いい年こいて情けないな、まったく。」
次の日。
朝ごはんは、また宴会場で皆と合流して食べることになっていた。
結局、伍代は浅い眠りを何度か繰り返しただけで熟睡はできず、寝不足のまま宴会場へと向かった。
「おはようございます。」
宴会場に着くと水沼がいた。もうスーツに着替えている。
「ふぁ~あ、おはよう。」
「なんですか、寝てないんですか?」
「あ?あー、うーん。」
伍代は返事を濁す。それに対して水沼は変な顔をしながら今度はトワに聞いた。
「トワ、嫌がっていましたけど、昨夜は大丈夫でしたか?」
「え・・・?」
トワは昨夜の手をつないだ一件を思い出して、顔を赤らめて口ごもる。
「あ・・・う、うん・・・別に。」
それを見てますます水沼の思考は錯乱する。
一方は寝不足、一方は顔を赤らめる。
なんなんですか、これは!?昨夜一体何が・・・まさかとんでもない間違いが起きたのでは・・・!?
「トワ・・・、私の考えは間違っていたのでしょうか、やはり貴女は私と同じ部屋にするべきだったのでは・・っ!!」
「はぁ!?何?いきなり!?」
「貴女と伍代さん、昨夜・・・。」
そう言いかけて伍代に後ろからケリを入れられた。
「何もしてない!!」
「はっ!伍代さん・・・!本当ですか!?」
「当たり前でしょ!!こんなクソガキと一線越えてどうすのよ!!」
「あ!またクソガキって言った!!おばさんのくせに!!」
「おとなしいと思ったら、またそんなことをっ!!」
こうして朝からまたいつもの調子が始まった。
それを見て水沼は何も変わってないとひとまず安心した。
けど・・・なんだか嫌な予感はしますね・・・。
そう朝の二人の様子
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