Stage 3.A nail that stands up will be pounded down

「ふぁ~あ、ねむ・・・。」

早朝、寝ぼけた顔で伍代が部屋から出てきた。

伍代はそのままダイニングルームに行きカーテンをちらりと開けてみる。

都心のビルの群れを眼下に朝日が差した。昔いた二階建ての木造アパートからは決して見る事のなかった景色である。

「景色はいいんだけどね。」

そう呟きながら、思い切ってカーテンを全開にした。真っ暗だった部屋に光が一気に差し込む。


「ん・・・。」

すると、後ろでなにやら声が聞こえた。振り返ってみてみると、ソファーでトワが丸くなって寝ていた。

昨夜、収録が遅くなるからといって伍代は先に帰されたであるが、一体どれほどまでかかったのだろうか。トワがいつ帰ってきたのか全く気づかなかった。

電気は消してあったものの、机の上には食べかけの弁当がそのまま残してある。服も昨日着ていったもののままだ。おおよそ疲れきってそのまま寝てしまったのだろう。


「おーい、トワー。風邪ひくよー。」

軽く揺すってみたが、よほど疲れているのか反応がない。

「もう、しょうがないな。なんか掛けるもの・・・。」

周りを見渡したがいいものが見当たらない。

「バスタオルでいいか・・・ないよりましよね。」

そう言って、五代は風呂場から大きめのバスタオルを引っ張り出してくると、トワにかけてやった。

「んん~。」

トワは掛けてもらったバスタオルを速攻上半身だけひっぱがす。

「あー、もう、寝相悪っ!!」

伍代はトワを起こさないようにそうっと机とソファーの狭いあいだに入っていくとタオルを上半身にかぶせ直してやる。

その時トワの顔を何げにちらりと見てみた。

今までじっくり見たことなかったが・・・。

「睫毛長っ!!なにこれアイドルみたいな顔。」

というか、アイドルだった・・・そう思い、思わず覗き込んでしまった。

「寝顔は可愛いんだけどな。」

そして何気に髪の毛に触れてみた。太陽の光を浴びた金色の髪が光りながらさらりと流れる。


「ん・・・。ん・・・・?」

するとその行為に気がついたのかトワがうっすら目を開けた。

「あ・・・。」

「ん・・・!?んんんん・・・!!」

一瞬何がどうなっているのかわからなかったらしいが、ようやく頭がはっきりしてきたらしく、伍代が寝ている自分を覗き込んで手を伸ばしているという現状に気がついた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「うわっ!!」

トワは飛び起きて伍代の頬を引っぱたいた。

「いたっ!!」

「さいっっていっっ!!!あれだけ襲うなって言ったのに!!何、何、何なの!?このケダモノっ!!」

「ち、違う!そうじゃ・・・!」

「あぁあぁあぁ!!もぅ、やっぱり同居なんてするんじゃなかった!!油断したぁ!!そうやってトワの貞操と純情は奪われていくんだぁぁぁ!!」

「お、落ち着いて!!誤解だって!!私は女!!だいたい貴女、貞操も純情もないんじゃ・・・。」

「五月蝿いっ!!貞操も純情も何度でも復活するの!」

「はぁっ!?馬鹿なの!貴女!!」

馬鹿と言われ怒ったトワの平手打ちが伍代の頬にまたひとつ飛ぶ。

「馬鹿じゃないもん!!馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだもん!!」

「ぎゃ!!いたいっ!!あー!もー!そーゆーの馬鹿な子が言うのよ!!」


「馬鹿は貴女たち二人です。」


いつもの口喧嘩が始まったところで水沼が現れた。水沼は合鍵を持っているらしく、いつも気がつくとタイミングよく入ってくる。

「朝から五月蝿いですね。そういう元気はほかのことに回したらどうなんです?」

「はいはいはーい!!このおばさんはその元気を性欲に回してトワを襲おうとしましたー!!」

トワが手を挙げながら水沼に訴えた。それを聞いた水沼は眉をひそめながら五代を睨んだ。

「本当ですか?」

「そんなわけがないでしょ!貴女が!こんなところで寝てたからっ!風邪ひいたらいけないと思ってこれかけたのっ!!」

そう言うと伍代は床に落ちているバスタオルを指差す。

それを見て水沼とトワは顔を見合わせた。

「だ、そうですよ。トワ。」

「え?えぇっ!?」


「ほら、私は悪くない。」

伍代は腕を組んでトワの前に立つ。トワはというとソファーのうえで正座している。が、顔は全く反省していない。

「トワ、すぐに叫ぶ癖はやめなさい。はしたないから。」

水沼にもそう諭されトワはふくれっ面をする。

「トワは謝らないよ。おばさんが、誤解を招くようなことするから悪いんじゃん。」

「あ、貴女、まだ言う?」

喧嘩がまた始まりそうなところで、水沼はそれを静止するように大きなため息をついた。

「もう、やめなさい。トワも早くシャワー浴びてきなさい。今日は昼からオーディションがあるのだから。用意して。」

「はぁーい。」

「ん?オーディションて?何?」

トップアイドルなのにオーディションという不似合いな言葉に伍代は気になって尋ねた。

すると水沼はカバンから資料を取り出して伍代に見せながら話しだした。

「大手清涼飲料会社のCMなんですけどね。今回はオーディションで決めるんですよ。何人か候補者がいてそこからのオーディションになるのですけど。」

「へー。」


資料を見てみると、新発売の炭酸飲料のCMらしい。夏に向けての商品イメージを色々書き込んであった。

「もう、トワくらいのトップアイドル即採用してくれてもいいじゃんねー?」

トワが不機嫌そうに言う。

「まぁ、あちら側も決めかねているのでしょう。それにどの子が合うのかというのは実際オーディションで見てみないとわかりませんし。トップアイドルが受かる場合もありますし、新人発掘の場合もあります。CMのヒットが商品のヒットにつながりますからね。会社も必死なのですよ。トワ、絶対に受かるように頑張りなさいよ。あそこの会社のCM起用そしてヒットとなればどれほどの金が・・・。」

「水沼・・・トワ、これでもけっこー頑張ってるよ・・・?トワの働きに文句あるの?」

水沼はメガネを据え直してトワの肩を叩く。

「トワ、アイドルとは飽くなき探究心で成り立つのですよ。」

「水沼の場合、お金へのね・・・。まぁいいや。やるからにはトワがんばるよ。」

トワはそう言うと、シャワーを浴びるため自分の部屋に行き洋服をとってくるとバスルームへ向かった。が、すぐに引き返してきて、五代を一睨みした。

「覗かないでよ。」

「誰が覗くのよっ!」

「見張っていますから大丈夫です。」

「水沼さんまで・・・。」

水沼の反応を見て、いつのまに変態キャラが定着したんだと伍代は肩を落としたのであった。


数時間後。

オーディションがあるスタジオ。

トワたちの入りが遅めだったらしくもうすでにそれらしい顔ぶれが何人かいた。

トワ一行が廊下を歩いていると、一人の美少女アイドルとぶつかった。

すでに衣装を着替えているようで白いTシャツの裾にひまわりの造花がぐるりと一周囲んでおりかなり目立っている。

そのアイドルは別にトワに謝るでもなく逆にひと睨みして去っていった。

「何あれ何あれ!感じわるーい!!」

「あれは確か、YAMATAプロダクションのアイドルじゃないですか。あそこのプロダクションはあまりいい噂は聞きませんからね。特にうちをライバル視しているとかなんとかと聞きますから・・・気をつけなさいよ、トワ。」

「気をつけるもなにも、あんなやつひねり潰してやるもんね!」

「トワ・・・だからそういうはしたないことは言わない。」

「だってー!」

「そこのプロダクションってそんなに悪どいの?」

伍代が聞くと水沼はうーんと唸って口を開く。

「やり方がね、汚いって聞くのですよ。うちのアイドルの子も被害にあった子がいて。オーディション落ちたりしてしまって。でも直接的な証拠がなく有耶無耶になったのですが・・・もし、トワが被害にあったらひねり潰して血祭りにあげて二度と同じ場に立てないようにしないと・・・。」

「あの・・・水沼さんもけっこー怖いこと言ってるんですけど・・・。」

「水沼、はしたなーい。・・・あ、ここ、トワたちの控え室!」

トワは立ち止まって指差した。

見てみると、ドアに八雲トワ様と書かれてある。

何はともあれ、一行はとりあえず、中に入ることにした。


「ふーん。これが衣装?」

控え室の中。

今回、オーディションを受けるのは十人。その中でトワを含め三人が名のあるアイドルらしく、その三人には控え室が狭いながらも個々に与えられていた。

トワは与えられた衣装をジロジロと見る。マリンカラーのセーラーで下はミニスカートになっている。人を選びそうだがトワの容姿なら難なく着こなせるだろう。

「まぁ、可愛いんじゃない?」

「今回は、衣装もCMをイメージして自前でとのことでしたので。オーディションはそれを着て自由に商品アピールを考えて演技しろとのことです。一応テーマとしては夏を感じさせるようにとのこと。大丈夫ですか?トワ。」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。まっかせて!」

「しっかし、発売は夏だけど今日は寒いのによくそんなイメージしてやれるわね。」

伍代がそう言うとトワは唇に人差し指を当てるとウインクして答えた。

「それがお仕事ですから。」

それを見て、伍代は思わずドキっとした。


こういうところ時々アイドルなんだなーって思う・・・。


そんなときだった、部屋をノックする音が聞こえた。

「すみませーん。空調整備するんでちょっと部屋出てもらいます?」

それを聞いて水沼が出た。

「部屋を出る?」

すると作業服を着た男が二人、頭を下げて言った。

「ほんの10分くらいで終わりますんで。調子が悪いってビルの方から言われまして。すみませんねぇ。」

時計を見るとまだオーディションまでには時間がある。仕方がないと思い。水沼たちはそれに従うことにした。

「すぐ終わりますよ。」

そう言って作業員はにこりと笑ってドアを閉めた。

「うーん。どうしようかな。」

「あっちに合同控え室あったからそこで待っておく?自販機もあったし。」

「そだね。」

「あ、トワ、先に行ってて下さい。私はちょっと電話するところがありますので。」

そう言って水沼は廊下の端に寄って行った。

トワは伍代と、整備が終わるまで他の候補者がいる合同控え室に行くことにした。


「うわー。なんかすんごい緊張感~。」

合同控え室にいくと、新人アイドルたちがオーディションの最終チェックを各々したりとただならぬ緊張感が伝わってきた。

トワが入ってくると気がつくと、あたりは一瞬ざわついた。

「貴女って、すごいのね。」

「当たり前でしょ!!天下の八雲トワなんだからねっ!!」

そう言うとトワは臆することなく真ん中のテーブルに堂々と座る。

「・・・貴女ってやっぱりすごいのね。知らなかった。」

「だから、当たり前。トワはみんなの上に立ってるんだよ。みんなの憧れなんだからおどおどしてどうするの。示しつかないじゃん。」

「いや、そりゃそうだけど、よくこの緊張感の中でできるね。」

小声で言う伍代にトワは足を組んで答える。

「緊張感に負けてたらアイドルなんてやっていけないよ。そして、トワはここにいる誰にも負ける気はありません。」

「うわー、貴女、新人に譲るとかいう気ないの?」

「ない。トワはいつでも仕事に全力投球です。じゃないと失礼でしょ?みんな真剣にやってきてるんだよ、新人の子も。じゃあ、トワも真剣に勝負しなきゃ。トワは手を抜きたくないの。どんな小さな仕事にも。それは見てくれてるファンの子達のためにもさ。だからトワは頑張るの。」

それを聞いた伍代は少しトワのことを誤解していたと思った。いつも適当に仕事して手を振って愛想よくしているだけの子かと思っていたが。


「貴女、偉いのね。」

そう言って思わず、トワの頭をくしゃくしゃとなでてやった。

「なっ・・・。や、やめてよっ!!」

トワは顔を赤くして伍代の手を振り払った。

「偉い、偉い。」

ニコニコ笑いながら尚も頭を触ってくる伍代にトワは一度手を振り払ったものの今度はどういう訳か何も言えず、下を向いてしまった。

「うーーーー。」


「・・・何をしているんですか貴女たちは・・・。」

電話を終えた水沼が帰ってきて、呆れた声で二人を見ていった。

「み、水沼ぁ~。うわ~ん。」

トワは思わず水沼に泣きついた。

「トワ?・・・貴女、トワに何したんです?」

水沼が泣きつくトワの背中をさすりながら鋭い眼光で伍代を睨む。

「え?わ、私?何もしてないわよ!?」

「うちのアイドルを傷物にしないでください。」

「ちょっと待ってよ、何誤解を招く言い方を・・・私が何をしたっていう・・・。」

そんな時だった。横からクスクスと笑い声が聞こえた。

「何よ?」

伍代たちが振り返るとそこにはYAMATAプロダクションのあのアイドルがいて勝ち誇ったような顔をしていた。

「空調設備がおかしくなって頭までおかしくなったんじゃない?」

それを聞いた水沼がはっとした。


「まさか!?」

「え?」


水沼は急に走り出した、トワたちも慌ててそのあとを追う。

「何?何?どーしたの!?」

水沼はトワの控え室に直行した。そして慌ててドアを開く。

「・・・やられた。」

「どーしたの?水沼?」

「なになに?」

水沼の後ろからトワと伍代が部屋を覗き込む。するとそこには信じられない光景が広がっていた。

「何これ・・・!?」

「誰がこんな・・・。」

部屋は水びだし。もちろん衣装も。そしてあろうことか、濡れているうえに衣装は切り裂かれていた。

「YAMATAプロダクション・・・でしょう・・・おそらく。」

「もう、最悪・・・。ここにきてこんな嫌がらせ・・・!?」

「行ってくる・・・。」

「は?どこに?」

「張本人のところ!こんな卑怯なことやられて黙ってられるの!?」

そう言う伍代の手をトワは引っ張って引き止めた。

「いいよぉ!もう、こーゆーの慣れてるし、もういいって。証拠ないんだし。」

「でもよ、貴女、あんなに頑張るって言ってたじゃない!」

「・・・そうだけど、でも・・・。」

「あっれー?何もめてるの?もーすぐオーディションじゃないの?」

もめるトワたちの前を悠々とYAMATAプロダクションのアイドルが通りすぎる。

「貴女ねぇ!」

伍代はアイドルに掴みかかろうとした。慌てて水沼に静止されたが、今にも掴みかかろうとする勢いでアイドルにまくし立てる。

「卑怯よ!トワはね、頑張ってどんな仕事にも真面目に取り組んでるのよ!今日だってトップアイドルなのに、オーディションをほかの新人と変わらない気持ちで取り組んできてそれを・・・!」

「・・・おばさん・・・。」


嫌がらせには慣れていた。

昔はよくあっていたし、こんなことでへこたれるトワではない。でも、自分のことでこんなにも一生懸命になってくれるなんてとトワは少し目頭が熱くなるのを感じた。

一旦はオーディションを諦めようと思っていたが、こんなにも一生懸命になってくれる伍代を見てトワは決意した。


「水沼、やるよ。トワ。」

「え・・・でも、トワ、もう時間が。替えの衣装もないし。まさかこのままで行くのですか?」

「ううん。この衣装、使うの。水沼、ちょっとだけトワの顔汚して。あと髪も濡らす。そんでもって急ぎで洋服繋ぎ合わせて。適当でいいから。」

トワのいきなりの言葉に皆は戸惑ったがとりあえず、ここはトワの言うことに従うことにした。

「誰が一番のアイドルか見せてあげる。」

トワはそう言うと、YAMATAプロダクションのアイドルをじっと睨んだ。

「ふ、ふん、何ができるって言うの。」

そういってアイドルは去っていった。

「ほんとに、貴女大丈夫なの?」

「まっかせて!」


オーディション。

ついにトワの番が来た。

ボロボロの濡れた衣装を着てトワはステージに立つ。しかも顔には汚れたメイクだ。

審査員はざわついた。

がトワはニコリと笑うと、

「八雲トワでぇーす、よろしくお願いしまーす!」

と言っていつもの調子で始めた。

「じゃ、商品アピール短くやってみて。」

と審査員に言われトワはわざと息を切らしてやってみる。

「ドキドキのサバイバルの夏一緒に過ごそ。」

いつもは可愛い路線でやっているトワだが今回は180度それを変えてきた。審査員を射止めるような色っぽい目でみて髪をかき上げると、与えられたジュースのペットボトルを一口飲み舌で唇をなぞった。濡れたり破れたりしている感じが野生的な色気をさらに引き出してくれていた。トワの顔を汚せといったのもサバイバル的なものを連想させるようにとのことだったらしい。

「貴女も刺激欲しくない?」

と決めゼリフを言ったところで、トワはまたいつもの明るい表情に戻って頭を下げた。

審査員たちは、それにはっとした。

いままで思わずトワの世界観に引き込まれてしまっていたのだ。


「決まりましたね。」

舞台裏で水沼が言う。

「全くやってくれるよ・・・。」

伍代もトワのプロ根性に脱帽した。


「たっだいまー!」

トワが控え室に帰ってくると、なぜか人だかりが出来ていた。

オーディションの取材に来ていた報道陣が荒らしにあったという噂を聞きつけやって来たようだ。

「トワちゃん、嫌がらせにあったっていうのは本当なの?」

「え?えっと・・・。」

すると、横にいた水沼が前に出てきて喋りだした。

「そうなんです。まったく困ったものです。トワの機転でオーディションは乗り切りましたが・・・いったい誰がこんな・・・あれこれは?」

水沼は大げさにかがむと部屋の隅に落ちていたひまわりの造花を拾った。

「これは確か、YAMATAプロダクションのアイドルの衣装についてた・・・まさか・・・いやいや、まさかね。」

その言葉を聞いて報道陣はざわつく。

これはスクープだと言わんばかりに写真を撮り始めた。

それを見て水沼はニヤリと微笑む。

まさかと伍代は水沼にこそりと聞いた。

「水沼さん・・・こんなの・・・落ちてました?」

「ふっ・・・。どうでしたかねぇ。私にはわかりません。ただ・・・やられたら・・・何百倍にして返す・・・これが私の信条とだけ言っておきましょう・・・。」

それを聞いて伍代は背筋が凍りついた。

「私・・・絶対水沼さんだけは怒らせないでおこう・・・。」

「水沼・・・昔からそういうとこあるから・・・。」

「でも・・・貴女もすごいよ、トワ。ちょっと見直したわ。」

「ちょっとって何?伍代さん見る目なーい。」

「ん・・・貴女、今・・・私のこと。」

「は?」

「“伍代さん”って呼んだよね?」

そう改めて言われトワは慌てて知らないふりをする。


「そうだっけ?もう、なんでもいいじゃん。それより・・・ハクシュン!」

トワは大きなくしゃみをした。

「この寒いのに濡れた服なんか着るからですよ、早く着替えなさい。」

水沼にそう促されてトワは控え室に入る。伍代はというとまださっきのことを引きずっているようだ。

「トワ、もう一回、私のこと呼んでみて?」

「も、もう、うるさーい!!クシュン・・・!!」

トワは後ろからしつこく付いてくる伍代を締め出す。

「トワ?トワー!?」

相変わらず、嫌われているのかなんなのかわからないが一歩前進したような伍代であった。


後日。

YAMATAプロダクション。

あのオーディションにいたアイドルとそのマネージャーが社長室にいる。

「結局、八雲トワがオーディションに通ったのか・・・しかもなんだ。この記事は?“YAMATAプロダクションの陰謀か?八雲トワへのいやがらせ”こんな無様な事まで書かれおって。」

大きな椅子に座った社長と思しき男が二人を静かに怒る。

「すみません。社長・・・。こんなはずでは。」

「次は、絶対あいつをなにか出し抜いてやります・・・!」

「噂なのだが八雲トワの過去には何やらかくしごとがあるらしい。プロフィールに謎が多すぎる。そこをつけ。」

「わかりました。必ず・・・!」

「神無月プロダクションは何かと気に食わないんだよ。まずはトップアイドル潰しからだ。」

その後大きく巻き込まれていくことになるという不穏な動きがあるということをトワたちはまだ知らない。

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