24☆話「突然の惨劇」

 

 ヴァンがカナリヤを使うことになって、十日が過ぎた。

 その間にアーサーとマフィンを作ったり、タカと車を整備したり畑作業の手伝いもしたがメインはユディアルとの剣技の特訓だった。


 カナリヤにツンツンされてヴァンは目覚める。


「おはよ……カナリヤ……ててて全身がああ~~~!!!」


『チチチ』


 稽古でひどい筋肉痛だ。

 カナリヤの剣本体はセイの元にあるのだが、この鳥のような小型端末はヴァンが操作しない時は今までの蓄積データで動くという。

 まるでペットのように自分に懐いてくれる。

 セイは以前の持ち主のデータを消去するようにヘープに伝えたが、ヴァンがそのままで良いと伝えた。


 セイやユディアルにカナリヤがスリスリする場面を見ると、きっと前の持ち主のAIも二人が大好きで素敵な人だったのだとヴァンは思う。


「あ、起きるのが辛い……へへ……応援ありがとカナリヤ」


『チチチ』


 ヴァンもカナリヤがとても可愛く、すっかり相棒のようになっている。

 しかし連日の稽古は、若いヴァンにもきつい。

 すこしはマシになったが、全身筋肉痛の毎日。

 それでも真剣に相手をしてくれるユディアルや警ら部の皆を前に弱音を吐けない! と一気に飛び起きた。


 ◇◇◇


「んもう~無理しすぎよぉ」


 エリオがいる医務室で椅子に座り、おでこの擦り傷の消毒を受けているヴァン。


「いや……いっぱい頑張らないと……イテテ」


『チチチ』


「カナリヤが無事で良かったぁ」


 ユディアルと警ら二人に対して、剣と小型端末の攻撃練習をしていたヴァン。

 だが自分でカナリヤを額にぶつけるという失敗をしてしまい、医務室に運ばれてしまった。


「おかしいとこはないか? 視力や目眩とか」


 隣で立ってるユディアルが、心配そうに顔を寄せる。近づくオッドアイ。


「ぜ、全然、大丈夫です」


 ユディアルに軽々と抱き上げられ運ばれてしまった事が、二重に情けなく恥ずかしくなる。


「でも、かなり上達したな。今日は三人相手でよく頑張ってたぞ」


「まぁ……最後は顔面でしたけど」


「それでもサーフの警らと立ち回りできてるんだ。そこらのゴロツキには十分もう戦えるぞ。お前は少し休め、俺達は巡回に行くから」


「おっ俺も行きます! 大丈夫です!」


「無理しなくていいじゃな~い? コーヒー飲んで待ってたらいいじゃないの☆」


「いえ、そういうわけにはいかないです!」


 警ら部になるのであれば、バイクや車も運転できなければならない。

 他にも沢山の事を覚えなければいけないのだ。


「じゃあ……今日は俺の後ろに乗ってろ」


 ポンと頭を撫でられた。


「はい……!」


『ユディアル、ヴァン君』


「おう」「はい」


 本部内にいる時は、セイが身近にいなくとも二人の武器干渉もできるのでセイは研究部で色々と仕事をしていたらしい。

 今は二人のピアスとネックレスを通じて話をしている。


『見回りに同行しましょうか』


「いや、いい。ただの巡回だ。普通のバイクで行くよ」


『そうですか……? 先程H63自警団への警告が無視され続けています。解散の意志はないようなので強制解散になるでしょう』


「ふん、まぁ予想通りだな」


『夜に会議を開きますね。あと魔機も多い状況です。十分に気を付けてください』


「任せておけ、離れててもバディを信じろよ」


『もちろん、信じていますよ』


「おう」


 ユディアルとヴァンは帯刀したまま、バイクに乗った。


「気をつけるのよ~二人共」


「はい、行ってきます」


 セイの補助がなくとも、二人の剣はもちろん武器として扱えるし戦える。

 本部を離れてもカナリヤも胸元に隠れて動いているので、なんだか安心してしまった。


「いつもセイさんと一緒というわけではないんですね」


「そりゃな~、セイは色んな仕事があるからな」


「魔機が出ないといいけど……」


「俺達に向かって出てくればいいのさ、そうすりゃ他の人の被害が少なくなる」


「……ユディアルさんって、やっぱりすごいなぁ」


「ふふ、褒めても剣の修業しか出てこないぞ」


 廃墟の中を走るバイク。

 ふと、異変を感じる二人。


「……煙たいな……火事か……!?」


「あっ!! ユディアルさん! あの煙」


「……!! あそこは今度村に移住させる話をしていた集落だ!」


 駆けつけると、そこには燃え尽きた家やボロボロになった男や老人が倒れ込んでいた。


「何があった!!」


 バイクを停め、ユディアルが長の男を抱き上げる。

 ヴァンはすぐに怪我人の状況を見て回った。


「昨夜に襲われて……女と子供がさらわれた……」


「なんだって! なぜ救難信号の花火をあげなかった」


「やつら……一番にそれを狙って奪われた……」


「救難信号を熟知してるってことは……まさか」


「あの車は……H63だ、見たことがある……俺の家族を……助けてくれ頼む」


「あいつら……!!」


 ユディアルの顔が怒りに燃える。

 H63自警団が暴走を始めた……戦いが、始まる――!。









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