23☆話「ヴァンの武器、カナリヤ」


 今日の夕飯はスパイスたっぷりのスープに、野菜と肉を入れたカレーという料理だった。

 茶色のドロドロが米にかかった様子に最初は驚いたが、絶妙な辛さとスパイスの絡み合う美味しさにヴァンは感動する。

 カーヒアのリクエストだという。

 風呂のあとの簡易着のままだったので、一度戻り団服に着替えて研究部に向かった。


「お疲れ様です」


 セイ、ユディアル、イリアスにヘープ、カーヒアが既に来ていた。


「来たな、ヴァン。お前が日常で使う武器を選ぼう」


「は、はい!」


「もちろん、銃火器を扱ってもらう時もありますし、これだけを使うという事ではありませんので安心してくださいね」


 案内された部屋の台には既に剣が置いてある。

 綺麗な細い剣。レイピアだ。

 ユディアルの刀と同じように刀身は氷のように透き通りセイが近づくと淡く緑に光り輝く。


「……綺麗です」


「この剣は、カナリヤといいます」


 静かにセイが剣の名を呼んだ。


「剣に名前が……あるんですね」


「登録番号で呼ぶことも多いのですが……」


「俺の刀にも俺の付けた名前があるんだ」


「ということは、この刀も誰かが?」


「……そうです。これを使っていた者がいます」


「ユディアルさん?……それとも他のミックスの方?」


「いえ、AIでした……もう、いません」


 セイのいつもの優しい笑みは、憂い……哀しみを湛えている。

 ユディアルはどこか遠くを見て、ヘープ達は下を向いた。

 その言葉の意味、その言葉の重さが胸に響いた。

 SA-4自警団にいて安全だという事はない。

 むしろ危険な場所へ赴くことの方が多いだろう。


 それとも時間の経過で活動を停止したのだろうか。

 もう、いない。

 ヴァンは思わず、両手を握った。


「すみません。あなたに背負わせるつもりはなかったのですが……」


「いえ……でもそんな大事なものを俺が使わせて頂いていいのでしょうか」


「ずっと使われていなかったこの武器を、ヴァン君にまた羽ばたかせてあげてほしいんです」


「俺が……羽ばたかせる?」


「はい」


 ふと、細剣の柄の横に手のひらに乗る小石程度の丸い物体を見つけた。


「これは……?」


「この剣は、その小型端末と二つで一つなのです」


「これも独立して動かすことのできる武器だ。使用者の意志で飛行させ、後ろから敵を挟み込んで貫いたり、ドアの鍵くらいなら焼き切るビームも出せる」


「……すごいです。でもセイさんに負担なのでは」


「カナリヤは特別なので充電可能、平常時は独立知能も搭載しています。戦闘時などはコントロールが必要ですが……」


「剣の使用者がしっかりコントロールできれば、セイさんの負担は少なくなる」


 イリアスが言う。


「実際に一緒にやってみましょう。ヘープお願いします」


「はい、準備はできていますよ。ついでにユディアルとの同時接続の負荷も調べさせてくださいよ~」


「えぇ」


「了解」


 セイは準備された椅子に座ると、淡く光輝く――目を瞑る。


『まずは、ヴァン君から接続しましょう』


 心に声が響いた。


「はい」


 目を閉じる。


『接続』


「あ……」


 二回目の接続、また魂が同調する。

 ドクン……ドクンと温かさに包まれる。


 目を開けると、カナリヤが光輝いている。


『カナリヤに触れてあげてくれませんか』


「はい……」


 皆が見守る中、そっとカナリヤの柄を握る。

 すると丸い石のようだったものが、クルンとひっくり返り羽根を広げた。


「わっ」


 チチチチ……と小さな鳥のようにヴァンの周りを飛ぶ。


「わっわっ」


『久しぶりですね、カナリヤ。またよろしくお願いします』


 ハチドリのようにせわしなくヴァンの周りを羽ばたいていたカナリヤは、ヴァンの肩に止まった。


『チチチ』


「わぁ可愛いな」


『今後、あなたを色々助けてくれるでしょう』


「はい」


「ヴァン、カナリヤを俺の方に飛ばしてみろ」


 ユディアルは人差し指と中指で、クイクイと合図する。


「ユディアル、お手柔らかにね」


 ヘープがそう言った。


『ユディアルと遊んであげましょう』


 カナリヤが細かく羽を揺らして、ユディアルの周りを飛ぶ。

 ユディアルは、まだセイと接続はしていない。

 ヴァンは不思議な感覚だった。


 セイと一緒にユディアルを離れた場所で見ている感覚と、ユディアルの周りを飛んでいる感覚。


 指で突かれそうになっても避け、逃げ、最後にはユディアルの肩に止まった。


「すごい……感覚……」


「さすがだなヴァン」


『本当に、すごい才能です』


「でも……この子を操りながら、レイピアを……?」


「まぁ、そこは修行だな」


 ユディアルがにやりと笑い、ヴァンはその修業の激しさが見えて少し目眩がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る