21☆話「ヴァンの意外な才能」


イリアスがヴァンの剣をレイピアに持ち替えさせ稽古が始まった。


「ん!? ……お前」


ヴァンの剣捌きが変わる。

イリアスの表情も変わった。

そこから数時間、真剣な二人の手合わせが続く。


「イリアス、ヴァン君……お疲れ様です。おや」


「熱血してましたネ」


セイとカーヒアが練習場に水を持って様子を見に訪ねてくると

二人が息を切らし、寝転んでいるところだった。


「はぁ……はぁセ……セイさん……」


「セイさん……ヴァンのやつ……はぁ……レイピアなら……まだ……」


イリアスはセイに報告しようとしたが息が整わない。


「休んでてください。本当にお疲れ様です」


休憩中の二人の横でカーヒアがセイに今までの録画記録を見せているようだ。


「おーすごいネ、イリアスに敵わないのは当然だけど、なかなかダネ」


「ほう……」


「こいつの太刀筋が……なんか……変わってて……」


「ヴァン君……剣はお父様から習ったと言っていましたね」


「はい……はぁ……はぁ」


ヴァンはもう汗だくで息もまだ整わない。


「これは珍しい剣技ですね、第二次世界破壊で滅んだ国の流派に似ています」


「なんで……そんなもの……はぁ……こいつが」


イリアスは息が整ったのか、立ち上がりカーヒアから水を受け取った。

ここでは持ち運びの水筒もワンプッシュで開く優れものだ。


「お父様がその剣術をご存知でヴァン君に教えたか……我流での偶然か……」


「はぁはぁ……父さんが……」


「推測にしかなりませんけどね」


生きているうちに、何も聞かなかったことを色々後悔してしまう。

しかし聞いたところで答えてくれはしなかったのではとも思う。


「俺の……この攻撃の時も、こっちを見てこいつが」


「ヴァン君は空間を把握する能力が高そうですよネ」


「そうですね……なるほど……」


三人でモニターを見ながら、何やら相談しているようだ。

ヴァンはやっと整ってきた息を吐いて起き上がり、頭の上に置かれていた水を飲む。

立ち上がったがふらついてしまい、セイに支えられた。


「セイさん……あ、ありがとうございます」


「ヴァン君、私のことを気遣って剣を選んでくれたと聞きました」


「えっ……! あ……あの」


ヘープがまさかそんな事まで暴露しているとは思わず、一気に赤面してしまうヴァン。


「部長はあれでいて、鈍感っていうか余計な事話すっていうかそういうところがあるんだよな」


「そうネ、それでチリツモで奥さんに逃げられたカラ」


 イリアスとカーヒアの突然の暴露話を横で聞きながら、ヴァンは優しいセイの瞳を見た。


「ヴァン君、情けない事を知られてしまいましたが、優しい心遣いに感謝しています」


「情けないなんて事ありません! お、俺……!」


言いかけて皆の前で『セイさんが大事なんです!』なんて叫ぶところだったとハッとなる。


「えっと……みんなの団長に負担はかけられませんので……」


「ありがとうございます」


優しく微笑むセイ、その微笑みに心が疼くように見惚れてしまう。


「団長の笑顔は愛天使の微笑みネ」


「AIにはもったいないお言葉です。皆さん、いつも優しいお言葉をありがとうございます」


「とりあえず、イリアス。汗だく男二人臭いから風呂に入って夕飯食べてからの会議にした方がいいかと思いますヨ」


「くさ!?」


「えっ俺くさい……ですか」


蒸れが少ない素材とはいっても二人は汗だくで防護服もびっしょりだ。


「若い男の汗が良い香りなわけないでしょうガ。ユディアルも帰ってくる頃ですネ」


「そうですね、ゆっくり風呂に入って疲れをとってください。そしてすみませんが夕飯後に少しだけ相談をさせてください」


「は、はい」


「俺は、まだ研究部で資料作成が……」


「団長、団長もそろそろオ風呂でボディ洗ったほうがよいですヨ」


「団長が風呂!?」


「えっ」


カーヒアの言葉に、反応しすぎるイリアス。そして驚くヴァン。


「そうですか……臭いますか? 毎日ポットの除菌システムで除菌しているのですが」


「臭くはないけど、たまには大浴場で石鹸つけて洗ってくださいネ」


「そうですね。ありがとうございますカーヒア。なかなか皆本音を言ってくれないので」


「いや! セイさんが臭いとかありえないですから!! カーヒアさんっ何を言ってるんですかっ!」


「イリアス、お気遣いありがとう。でも私も大浴場に行こうと思います。ヴァン君それでは一緒に行きましょうか案内します」


「は、はい」


「イリアスは資料作成ネ?」


「……俺も風呂行きます」


みんなで風呂に行くことになった。






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