20☆話「イリアス教官モード」

 

 ヴァンの決意に、ヘープもそしてイリアスも驚いた顔を見せる。


「ヴァン君が剣を……」


「全然、俺の力が足りないのはわかってるんです。でも頑張ります! セイさんの……団長の負担にならないようにしたいんです」


 つい立ち上がり、声をあげてしまった。

 でもここで自分のひ弱さのせいで銃火器を扱う事になればセイの負担は増加するばかり。

 自分が守りたい人のなかには、もちろんセイもいるのだ。

 この主張は通さねばならない。


「お前、俺がさっき言ったからそんな」


「俺がそう思うんです! 剣の修行をさせてください!」


「……なるほど。君の意志は十分に伝わりました」


 ヘープは優しく微笑んだ。

 うんうん、と頷きながらキーボードを叩き画面を見ている。


「団長とユディアルにも相談して……ですが、今日はイリアス君。ちょっとヴァン君の反射神経も見たいので君に稽古の教官をお願いするよ。ユディアルは帰りは夜……だったしな、うん。いないよな」


「えっ」


「俺がですか!?」


「うん、年頃も近いし何かと今後も相談相手になったり仲良くできるだろう」


 先程、恫喝されたことは流石に言えない。

 それにしても、白衣が似合う細身のイリアスが剣の稽古を人にできるとは少し驚いた。


「イリアスさん。お、お願いします」


「……わかりました」


 イリアスは深く息を吐きながら、メガネを指で押さえる。


「それでは警ら部の訓練場の一部を借りてきます。あとの装備系はカーヒアさんに任せていいですか?」


「あぁ、準備が出るまでこちらで測定を進めておくよ」


「はい。じゃあ後でまた迎えに来る」


「は、はい、よろしくお願いします」


 睨まれる事はなくイリアスは離れていく。

 その後はカーヒアと呼ばれた青年が来て、まず動きやすいライダースーツのような白い防護服を着せられた。

 それから訓練に使う柔らかい素材の剣の説明をされ、動きを把握するというボタンのようなものを身体に色々と着けられた。


「ありがとうございます」


「いやいや。怪我しないようにネ~」


 少しイントネーションが独特だ。


「ボク、ここからかなり遠いとこから来たんだよネ。どうしてもココに入りたくてサ」


「すごいです」


「あはは、ミックスの君の方がすごいヨ。これからよろしくネ」


「よろしくお願いします!」


「イリアスもクールに見えて結構な熱血だから、お手柔らかニって言っておくといいヨ」


 ヴァンから言えば一層、熱血に火が着きそうだがそんな事は言えない。

 カーヒアさんに案内されて、訓練場に到着した。

 訓練場は真っ白な部屋だった。

 天井は高いが、会議室ほどの広さで一対一に適している。

 隅には何やら機械が置かれ、天井にはカメラが設置されていた。

 先程に着けられた機械で色々とデータが取れるらしい。


「来たか」


「は、はい」


 イリアスはメガネではなく、黒のゴーグルをして防護服も黒だ。

 短いピンクの髪はオールバックのように撫でつけられ既に両手剣を携えている。

 迫力に息を飲む。


「イリアス、ヴァン君に怪我させないでネ」


「カーヒアさん、俺をなんだと思ってるんですか」


 イリアスが少し驚いたような呆れたような声で言う。


「なかなか、自分のことは一番わからないものなんだよネ。じゃあ研究部でデータ確認しておくネ」


「はい、お願いします」


 何か言いたげだったがゴーグルをしているので、表情はあまりわからない。


「防護のヘルメットをしろ」


「はい」


 ヴァンはゴーグルではなくフルフェイスのヘルメットを付ける。

 それでも視界は良好だ。

 だが、そんなことは今の緊張状態をほぐしてはくれない。 


「今日はお前のセンスを見るくらいだから。当然だが初日から打ち合いの稽古なんかできると思うなよ」


「はい」


 それはヴァン自身もわかっている。


「じゃあ、好きなように斬りかかってこい」


「え?」


 ヴァンの手には与えられた両刃の剣がある。


「来い!」


「はっはい……!!」


 自分で選んだ道だ!

 ヴァンは気合を入れてイリアスに向かっていく!


 二十分後……息を切らして横たわるヴァン。

 結局、両手剣を振り回し斬りかかっても、イリアスに当たる事などなかった。

 イリアスがゴーグルを外すとやはり呆れ顔が見える。


「本当に剣はさっぱりのようだな」


「父や兄には教えてもらってましたけど……全然」


「H63自警団の時も、これでよく逃げれたもんだ……」


「はい、ナイフでは全然」


「ナイフ……!? そんなの当然だろう。剣は持っていなかったのか」


 男でも一人旅では帯刀するのが普通だ。


「実は……最初にお世話になった集落であげちゃって」


「バカなのか、お前は」


「ですよね、お金に困っていたから綺麗な装飾のある剣だから金になるかなって思っちゃって……」


「ふぅん……装飾? おい、こっち来い、どんな剣を使っていたんだ?」


 機械のモニターを見せられた。

 様々な種類の剣、更には槍やメイス、鞭などもある。


「セイさんの武器にはもう無いものもあるが……家で扱ってた剣はどれだ」


「あ、こういう細い感じの……綺麗な装飾があって」


「レイピアか……お前、早く言えよ」


「えっ! すみません……」


「レイピア使いが両手剣使って闘えるわけ……はぁ……」


 イリアスにため息をつかれて、ヴァンは慌てる。


「すみません……」


「お前、天然なのか?」


「てんねん……?」


「はぁ……五分休憩したら、その剣でやるぞ」


「は、はい」


 その後の手合わせでイリアスは驚くことになる。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る