19☆話「ヴァンの訴え・みんなの希望・セイ」


 研究部。セイの部屋にあったような機械の前に座るヘープ。

 キーボードを叩き、検査の結果を見ている。


「栄養失調気味ではあるが、健康状態は悪くはないね。これなら訓練にも耐えられそうだ」


「ありがとうございます」


 初めての健康診断だったが問題はないようだ。


「団長からはライフルで戦闘をしたと聞いたよ」


 ヘープの脇でキーボードを叩いているイリアスの手がピクッと止まる。


「はい」


「敵の感知できたそうだけど……それが、どうしてなんだろうな~首飾りの影響なのか……でもやっぱり、魔術師血統かも調べておくかな」


「えっ」


 ヴァンも驚いたが、イリアスも驚いた顔をする。


「部長、トリプルミックスの可能性なんかあるわけないじゃないですか」


「どうしたイリアス君、固定観念に研究者が縛られるなど一番の悪手だよ」


 ヘープが意外そうに言いながら、また画面に色々と打ち込む。


「いえ……はい、失礼しました」


「はは、まぁ私も一応……という程度の確認だよ。この時代に二人もトリプルミックスが存在するなんて奇跡レベルの事だしね」


 ヴァンは何も言えず、黙って聞いている。


「一応聞くけど、大丈夫かな? 君の中に魔術師の血筋が入ってるかを調べるのは……」


 父が生きていた時に、色々聞いてよけば良かった。そうは思うが、父には過去を聞いてはいけない雰囲気があった。

 母もいない、祖父母もいない。

 家族は父と兄の二人だけ。

 それについて聞いた事はあったが、父は『皆もう死んでしまったし、兄弟もいなかったんだ』とそれしか言わなかった。


「は、はい大丈夫です。お願いします。 まぁ、そんな事はないと思うんですが、はは」


「少し混ざるくらいは、一般人にもよくあることだ」


 イリアスに冷たく言われる。


「じゃあ、検査にまわしておいてくれるかな。この後身体能力も見させてもらうけど……その前にいくつか質問をさせてもらうよ。ヴァン君は剣技はどうかな?」


「剣技……えっと少し家では稽古もしてましたが父や兄が相手だったし、多分強くはないと思います」


 H63自警団に襲われた時にはナイフで戦ったが全く歯が立たなかった、とヴァンは思う。


「うんうん……私も君は銃火器での戦闘が身体にも負担はないと思うんだ……」


 写真の映る板を見せられる。

 そこにはセイが干渉できる武器の一覧が書いているようだ。


「ただメンテナンスは日々しているんだけど、団長も使用不可な面や欠損部位も出てきていてね」


「えっ……」


 セイからも聞いてはいるが、研究部長から改めて聞くとショックを受けてしまう。


「これから団長と接続して闘うこともあるかもしれないんだけど、ユディアルとの同時接続でどれだけ消耗するか……が懸念材料かな。ユディアルの愛用する刀は、あれは団長に負担が少ない。ただ銃火器はパワーも使うしコントロールの面もあって負担は大きくなる」


 確かに、先日の闘いでユディアルは自分への干渉を最小限にと言っていた。

 窮地を脱するのに役立てたと思ったが、何も知らずにライフルを使わせセイに多大な負担をかけたのではとヴァンは焦りを覚える。


「先日の闘いで、セイさんは大丈夫だったんでしょうか!?」


「あ、先日の戦闘程度では大丈夫だとは思うんだ。数発だしね。ただ君がユディアルと離れた時や長引く戦闘になるとね……」


『あの人に負担をかけるな』


 先程の言葉。

 ただミックス・コミュニケーターでセイに助けられ闘うようでは駄目なのだ。

 彼は皆の希望。

 もしセイがいなくなったら――なんて考えたくもない。


「俺、剣を使えるようになります!!」


「お前、そんな簡単に……」


イリアスが顔をしかめる。


「ユディアルはかなり特別だからね、誰でもああやって闘えるわけではないんだよ」


「わ、わかってます! それは、見ていたらわかります。でも……一番セイさんの負担にならない武器で闘いたいんです!」


 此処に来て一番大きな声でヴァンは言った。

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