17☆話「ヴァン・セイとの会話」
セイに呼ばれ、部屋に来たヴァン。応答の声と同時に部屋の扉が自動で開いた。
「わぁ……!」
かなりの広さがある事務室。
ヴァンにとっては、初めて見る機械ばかりだ。
セイの座る席にはモニターの前に何やらボタンのある板が並び、華麗な指さばきで文字を打ち込んでいるようだった。
「すみません、書類の作成をしていました」
「いえ」
ペンと紙を使わない書類……不思議だ。
邪魔ではないかと思いながらも珍しくて、キョロキョロしてしまう。
「珍しいものばかりですよね。でももうかなりオンボロなのでいつ壊れるかヒヤヒヤしているのですよ」
くす……っととセイが微笑む。
AIとは言いながら、固い事を言うばかりでもない。
人間と同じ、それ以上の神々しい存在に思えてしまう。
広い部屋の真ん中に大きなカプセルのようなものがあった。
「あれはボディの格納容器みたいなものですね。私のベッドです。
それと世界のAIとの通信機械にもなったりします」
「すごい」
「本当にすごい技術ですよね」
「あ、すみません、余計な話を」
「いいえ、堅苦しく思わずに。座ってください。お茶を淹れましょう」
セイが飲むわけではないのに、事務室にはティーセットが用意されている。
セイの人への優しさが滲み出る行為だ。
火がないのにポットから湯気が出て、お湯が湧いたのでヴァンは驚く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
キレイなティーカップとソーサーに琥珀色の紅茶。
良い香りと深い味わいに、はぁ……と感嘆の声を出してしまう。
「昨日はお疲れ様でした。……ユディアルと話して、大丈夫でしたか?」
「あ……は、はい」
ユディアルからの連絡はセイからの気配りでもあったのだ。
「機械の私が話をするよりは、と思いまして……」
「そんな機械だなんて……でもユディアルさんに聞いて頂いて、落ち着きました」
「私達を助けてくださりありがとうございました。改めて御礼を致します」
セイが頭を下げる。
「な! そんなやめてください! セイさんのおかげで助かったんです! ありがとうございます!」
ヴァンも頭を下げて、同時に目が合うと二人で微笑んだ。
「お、俺でも団の力になれて良かったと思います! これからも頑張ります!」
「ヴァン君……何かあればいつでも私でも、ユディアルでも不安も不満も話してくださいね」
「はい……ありがとうございます!」
父というのか兄というのか、二人に見守られている事がものすごく安心する。
「朝ご飯はなんでした?」
「えっとふわふわの……」
緊張を解すためのセイの気遣いか、少し談笑をした。
「あ、それで、今日はどんな話を……」
「はい。実はあなたの家庭環境についてもう少し詳しく教えてもらいたく、お呼びしたのです」
ヴァンの目に、父と兄の顔が浮かんだ。
「オッドアイもメッシュも、ミックス・コミュニケーターの特徴だと一般の人が知ることはまずありません」
「はい……」
「なので、容姿の美しさから……許されることではありませんが、愛玩目的の奴隷などとして捕まってしまう事もあります。あなたのお父様は、何かあなたに伝えていた事はありますか?」
「父は……俺のような髪でも目でもなかったしミックス・コミュニケーターなんて一度も教えてくれた事はなかったです……でも此処から、あの家から出るなと言われていました」
「山の上の家からですね」
「はい、死ぬ間際にも言われました……それでも……耐えられなくて、俺……」
素晴らしい自然には恵まれていたが、父との二人きりの生活でも感じていた孤独感。閉塞感。
それが父が亡くなった後は、恐ろしいほどに孤独感が募り山を降りてきてしまった。
誰かと話がしたかった。
誰かとふれあいたかった。
コミュニケーションのとり方もわからないのに、それでも……求めてしまった。
「当然の事です。人は一人では生きられないのです」
心に沁みていく、優しい言葉。
「でもこうして、ご迷惑をかけて……逃げ延びた先でも、いつもいつも人を危険に巻き込んで……俺が父さんの言うことを聞かなかったせいで……」
「ヴァン君、私はあなたに出逢えた事に感謝していますよ。サーフに入って頂きありがとうございます」
「……セ、セイさん……」
目が熱くなる。
「お兄様は先に出ていかれたと言っていましたね」
「はい兄は五年、六年でしょうか。父が止めるのも聞かずに勝手に出て行ったんです。日頃から自分はこんな山に籠もって埋もれるような男じゃないとか言う人だったので」
「なるほど」
「俺……正直、兄さんを……恨んでるんです」
「……心配や負担が増えたのですね」
「そうなんです……父さんは兄さんを物凄く心配して……日々の仕事も……。俺ももっと色々できたら良かったけど三人でしてた事が二人になって……父さんの負担も増えて……それで父さんも身体を壊してってて俺も思ってしまって」
「なるほど」
「す、すみません。余計な話を」
「いいえ、ずっと一人で沢山のことを抱えてきたんでしょう。話して楽になる事はいくらでも言ってください……お母様の事はお伺いしてもよろしいですか?」
「母さんは……俺が歩く前に亡くなってしまったそうです。家にも白黒の絵が一枚……あ、でも」
「はい」
「兄さんが……母さんもお前と同じ、自分と同じ綺麗な髪だったって言ってた事があるような気がします」
「そうですか……お母様がミックスの血筋だったのかもしれませんね」
「勘違いなら、すみません」
「いいえ、こちらこそお話してくださってありがとうございます。ユディアルも言っていましたが、今後ヴァン君の実家に戻ってみましょうか」
「はい、ありがとうございます」
「それで、今後なのですがミックス・コミュニケーターとして訓練をして頂くのは構いませんか?」
「は、はい……! お願いします!」
「ですが、皆がヴァン君との交流も楽しみにしているので各部へのお手伝いは今週お願いしますね」
「……光栄です!」
「今日はそれでは予定通りに研究部へ行きましょう。ヴァン君がミックスである事を皆に告げて訓練のプログラムを作ってもらいます」
研究部はイリアスのいる部署だ。
「はい、お願いします!」
ヴァンは頭を下げた。本格的に団員としてのスタートだ!
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