16☆話「マフィンの約束・そしてセイの部屋へ」
「アーサーさん。おはようございます」
「おう、ヴァンおはよう! よく眠れたか?」
「はい、寝心地の良いベッド最高です!」
昨晩、ユディアルに話を聞いてもらった後は自室で落ち着いて眠れたヴァン。
ヴァンは朝食のあとにセイの事務室へ行き、説明を聞いてから各部を見学して手伝いするように言われている。
なので、まずは朝食だ。
団員はそれぞれの部署によって集合時間や朝礼も違うので食堂の人影もまばらだ。
今日の朝食はトーストにハムエッグ、サラダ。
そして温かいお茶。
「わぁ……うまそう……!!」
「そんな宝物を見るような顔されたら、こっちも作り甲斐があるってもんだ。ここの見学は明後日だったな?」
「はい、よろしくお願いします」
「ヴァン、お前は好物はなんだ?」
「え? 好物……なんだろう、もうなんでも……お腹いっぱいになれれば……ずっとお腹空いてるのが当たり前だったから」
「随分と色々苦労したんだな」
「いえ……俺だけじゃなかったですし」
貧しい集落はまだまだ多い。
農作物があまり育たない土地だとしても、簡単に移住する事もできない。
結局そのまま、切り詰めた生活を続けるしかない人々が多いのだ。
「肉か野菜か菓子なんかの甘いもの、何が喰いたいと思う?」
「え、菓子!?」
つい大声で反応してしまった。
「お、甘いものが好きか」
ハッと我に返り、赤くなってしまう。
アーサーがニヤリと笑うと、耳の三連ピアスとイヤーカフが揺れる。
チャラい格好がよく似合う料理人だ。
「……甘いものは贅沢でしたから……」
お茶に砂糖やジャムを入れたりする事ですら、シスタードナの集落では週に一度の贅沢な楽しみだった。
幼い頃は、父が買い出しのお土産で買ってきてくれたクッキーやキャラメルを少しずつ兄と食べた。
食器棚の二番目、少し背伸びをして取る宝の缶。
あれは本当に贅沢な事だったのだ。
父の愛情を感じる、甘い味……。
つい、昔の事を思い出してしまった。
「よし、じゃあ明後日は食事の他にマフィンでも作るか」
「えっ、マフィン!」
食べた事があるのは数回だが、最高に美味しかった思い出がある。
「バターが手に入ったからな。じゃあ明後日な」
「すごく嬉しいです!」
「あぁ」
続々と人が入ってきて、話はそこで終わった。
アーサーのちょっぴりワイルドな風貌からは想像もできなかった提案に、ヴァンは驚きながらも嬉しさでいっぱいになる。
そしてふわふわのスクランブルエッグを食べ、更に微笑んでしまう。
「おはよう、にっこにこだな」
ユディアルが笑って隣に座った。
「あっ、おはようございます! き、昨日あんなに取り乱しておいて、すみません」
「何言ってんだ、笑顔の何が悪い。何でにこにこしてたんだ?」
「朝ご飯が美味しくて」
「だよな、アーサーの飯はうまい。笑うと健康にいいってセイも言う。此処では死ぬほど笑っていいんだ」
「はい」
冗談めかした話に、ヴァンが笑って、またユディアルも笑った。
ユディアルは今日は廃墟に住み続ける人達を、少し離れた村へ移住させる話し合いをしにいくという。
今の世界では車は貴重な移動手段で、一般人で所有していることなど殆どない。
SA-4自警団では所有している車を使い、人の多い村や町へ行き機械の修理や物資の売買をおこなっている。
その際に村長に人々の受け入れを提案し、村でもSA-4自警団の推薦する人々ならと了承してもらい移住も手伝う。
そうして更に安全で守りやすくなる町を作っていくことがSA-4自警団の役目でもあるのだ。
「おっはよ~ユディアル、頼まれてたランタン修理しといたぜ」
「サンキュー、さすがタカは仕事が早いな」
「へっへっへ」
「おはー☆ ヴァン~つやつやしてて今日も可愛いじゃない~でも少し唇が荒れてる? あとでリップ貸してあげるわよ~」
「あは、おはようございます、リップ?」
タカとエリオも加わっての楽しい朝食のあとは、ヴァンは一人セイの事務室を訪れた。
セイの本体となるメインコンピューターは、本部の地下奥深くにあるようだ。
それは最重要機密情報であり、どこにあるかは明かされていない。
団員もその存在を見たものは、ごくわずかだという。
なのでセイはボディに乗り移り、いつもこの事務室で自分のメンテナンスやAI同士の連絡、SA-4自警団の業務処理をしているのだと聞いた。
「おはようございます。ヴァンです」
「どうぞ」
セイの部屋の扉が開いた。
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