14☆話「ヴァンがお世話になったシスタードナの集落へ」


 バイクでユディアルの背中につかまりながら自分がミックスコミュニケーターだったとは、まだ信じられない気持ちのヴァン。

 ユディアルに、しがみついた手をポンポンと優しく撫でられた。

 ヘルメットに声が響く。

 

「ヴァン。びっくりしてるだろうけど、お前には同じミックスの俺がいるんだ。何も不安になる事はない。これから色々教えてやるから」


「は、はい」


『ヴァン君、先輩がいて良かったですね。ユディアルは少し豪快過ぎるところはありますが』


「あっはっは! お前らがおとなしすぎるんだよ」


 二人の掛け合いを聞いていると、ヴァンの不安も動揺も少しずつ治まってくる。


「今は、あまり考えすぎるなよ」


「はい」


 ユディアルの言うとおりだと、ヴァンは深呼吸する。

 しばらくバイクは荒れ地を走り続けた。


「あ、あそこです」


 命からがらH63自警団から逃げ延び、川でずぶ濡れになって震えているところを助けられ、お世話になっていた集落。

 先程の廃墟よりは、まだ自然が残っている地域だ。林の中を入っていく。


 バイクの音で、枝拾いをしていた子供が気付いたようだ。


「あー!! ユディアルがきたよー!!」


「ユディアルだーー!!」


 バイクが停まるまで近寄るなとハンドサインをして、ユディアルはバイクを停める。

 一気に子供達が駆け寄ってきた。

 といっても十人もいない。


「って、あれ!? ヴァン! ヴァンだ!!」


「みんな、心配かけてごめんね!!」


「無事でよかったーー!!」

        

 ヴァンもユディアルも、抱きついてきた子供達を抱き上げる。


「おう、お土産持ってきたから運ぶの手伝え! そんでシスタードナに会わせてくれ~」


「ユディアルさん達は、此処にも巡回で来ていたんですね」


「俺はいつもは来れないけどな。数カ月に一度は来る」


 巨大な山岩の間に作られた、隠れ家のような集落。

 丸太で作られた棘のある門が、今は解放されている。


「子供だけの枝拾いは、危ないぞ」


「だって、そんな事言ってられないよ。ここではみんな働かないと生きていけないもん」


「まぁな……お前たちは本当に逞しくて頼りになる、素晴らしい子供達だ」


「えへへー!」 


「ヴァン! ユディアル!」


 先に行った子供達に連れられてきた老婦人が叫び、ヴァンが駆け寄る。


「シスタードナ! すみません、すみません、俺……心配かけて」


「あぁヴァン……無事で良かったわ」


 この地方の宗教服を着た彼女は、ヴァンの手を強く握った。

 川でずぶ濡れのヴァンを見つけ、この集落に来るように言ったのは彼女だ。


「俺のせいで、怪我した人はいませんでしたか?」


「いないわよ。あなたが皆のためにオッドアイは俺だ! と飛び出して行ったから……むしろ私達が見殺しにするような事を……私は……あぁ」


 涙を流すシスタードナに、ヴァンはハンカチを渡した。


「何を言うんです。あなたのおかげで俺は川で死なずに済んだんです。助けも呼んでもらって、おかげで助かりました。感謝しかありません」


「ヴァン……あなた……セイ様の元で……?」


 ボロボロの服を着ていたヴァンが、今ではSA-4自警団の団服を着ている事にもちろん気付いていた。

 ヴァンの首飾りがキラキラと光る。


『ドナ。ヴァン君を保護してくれて、ありがとう』


「まぁセイ様……お久しぶりです」


 首飾りからセイの温もりある声が聞こえ、シスタードナは顔をほころばせる。


『えぇ、首飾りからですみません。救助要請もありがとうございました』


「こちらこそ、花火を確認してくれて助かりましたわ」


『やはりもう少し、自警団の近くに住まわれた方がいいのではないでしょうか?』


「そうは思うのですが、皆で食べていく畑や家畜を維持していくには此処で暮らしていくしかないのです」


 シスタードナがいうように、自警団の近場は全てが廃墟の荒野になっている。

 アスファルトに覆われた土地を、畑にするのはかなりの労力が必要だ。


「どこでも安全に暮らせるようにならないといけないよな! っと! 待て待て順番だ」


 ユディアルが子供達を腕に掴まらせながら、グルグル回っている。

 老人達が騒ぎを聞いて、喜びながらゆっくりと出てきた。

 若い男女は、ほとんど見当たらない。


「もちろん、此処の教会を守るためにも離れるわけにはきません。そのために私はいるのです」


 この岩穴の一番奥に、シスタードナが崇拝する神が祀った自然そのままの教会がある。

 天井の穴から光が漏れて、古い石板の青い宝石が輝く様は、それはそれは神秘的だった。


『あなたの信仰心は、三歳の頃から変わりませんね』


「あら、いやですわ。セイ様」


 そう笑ったシスタードナは、まるで乙女のように頬を染めた。

 セイが話す首飾りをヴァンはしているので、見つめられたようでドキリとしてしまう。

 此処にいる間にシスタードナが信仰のために独身だと微笑みながら話してくれたが、なんだか乙女の秘密の恋心を盗み見たような気持ちになってしまった。


『次はボディで参りますから、お祈りをさせてください』


「はい……我が神は全ての祈りを受け入れます」


 此処の神様は、信仰者以外の祈りも聞いてくれるという。

 ヴァンも、父が安らかであるように祈ったのを思い出した。


 それから物資を運び、子供達にも緊急を知らせる花火の打ち上げ方法や保管場所を改めて教えた。

 数人いる男達には武器の補充を渡す。

 お茶に誘われたが、先程の襲撃の件もあるので早めに戻る事にした。


 それでも帰る頃は、もう日も沈みかけていてオレンジ色に染まった荒れ地をバイクで走る。


『ヴァン君』


「はい」


『今日は色々ありましたから、ゆっくり休んでください。明日の朝、私の部屋に来て頂けますか?』


「は、はい」


『あなたがミックスだったという事は、皆に改めて伝えたいと思いますので少しだけ秘密にしておいてくださいね』


「わかりました」


『ユディアル、本部に戻ったら報告の会議をしましょう。今回の魔機襲撃と魔術師との関係も含め早急に皆に伝えたいのです』


「おう、了解」


 本部に戻ると、待っていたタカがヴァンを夕飯に誘ってきた。

 行って来い、とユディアルに言われ二人と別れた。


 セイはすぐに、ユディアル含め警ら部や部長を集め報告会議を開く。


 ヴァンはタカと楽しく夕飯をとっていたつもりだが、自分に異変が起きてる事に気が付いていた。


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