12☆話「ヴァン・コミュニケーション!!」


 魔機一体は、ユディアルが魔術で破壊した。

 しかしまだ、油断はできない。

 ユディアルはバイクに戻ると、バイクとヴァンを守るように魔術結界を張った。


「まさかとは思うが……動きが変だった。人間が魔機を操ってる? 前代未聞だぞ」


『報告はありませんが、危惧していたことではあります。どこかに、まだ魔術師が潜んでいますね……私達を最初から、狙っていたのかもしれません』


「ヴァンもいる。相手の位置がわからんと、不利だな……このまま走り抜けるか!」


 ユディアルはヴァンを乗せて、バイクで走り始めた。

 ふと、何故かヴァンは視線のようなものを感じる。


 どうしてか、わからない。

 しかし……感じる。

 敵の気配を――!

 ただ、定まらない。


 どこにいるのかまでは、わからない。


「!! もう一匹か!?」


 なんと同じ大型の魔機が陥没した道路から、爆音と共に飛び出してきた!!

 バイクはすんででかわしたが、後ろから追ってくる速さは先程の魔機よりも速い……!!


「セイ! ヴァン! バイクで走りながら身を守ってろ!」


「ユディアルさんっ!!」


 ユディアルは躊躇することなく、バイクから飛び降りて魔機へ向かっていく――!

 強い、強いがそれは意思の強さ。

 震えが止まらない自分とは違う、自分とセイを守るために突っ込んでいく強さ。


 自分も強くなりたい――!

 自分も大切な人を守りたい……!!


 そのためには、この感じる気配の敵を打破しなければ――!!


『ヴァン君……?』


「セイさん……敵がいそうな場所が……」


『敵がどこにいるか、わかるのですか?』


「……本当に、もしかしたら……という程度なのですが」


『ヴァン君……私との通信接続を試みてみますか?』


「えっ」


『ユディアルが魔機に負けることはないかと思います。ですが魔術師もいて、まさか魔機を操るような者が相手だとすれば、このままの状況は不利です』


 そうだ、前代未聞の状況だと言っていたのだ。

 そして魔術師が敵にいる。

 今自分にだけ、敵の気配がわかる。

 躊躇する時間など――ない!


『ヴァン君、ですが無理はしないでください』


「通信接続を試してください!」


 少しの沈黙があった。


『わかりました。本来であれば、ゆっくりと手順を踏むところを申し訳ありません』


「いえ、あなた達に救ってもらった命です。セイさんがすることに、怯えも疑いもありません」


 ここは戦場のど真ん中だ。

 ユディアルと魔機が、やりあっている爆音が聞こえる。

 この場所にとどまる事は、敵に雷を落としてくださいと言っているようなもの。

 少しでも影になるように、崩れた建物の影にバイクを停めた。


『接続は一秒で終わります。深呼吸して……私がついています。あなたの心は他の誰でもない。あなただけのもの。ヴァン君だけの心だと信じてください。でもその中でで……私と手を繋いでくれますか』


「はい……!」


『ヘルメットのまま接続します、リラックス……深呼吸をして……』


「はい」


『OK、3,2,1……ゼロ……接続開始……コミュニケーション……』


 胸の首飾りが優しく光った気がした。


 不思議な感覚だった。

 自分の心が自分のだけのものだと、強く言われた理由がわかった気がする。


 まるで心を世界に向けてさらけ出しているような――。

 自分の心がバラけて弾けて、いくような……。

 

 ほどけ、とけ、とけていく……


 一瞬だけ恐怖を感じたが、すぐにそれは安心に変わっていった。


 緑の光に包まれ、一体になっていく。


 支配や征服ではない、温もり。


 誰も覚えてはいない過去――

でも、まるで自分が歩き始めた頃に……手を繋いで支えてくれる手のような温かさ。

 

 守られ、抱きしめてくれる愛情……。


 自信などない自分が、まるで空にも羽ばたけるような命への励まし――。


 緑の光が身体の隅々まで伝わっていく――。


 温かいのに、力強い……強さ!!


「この力で、俺も大切な人を守りたい――!!」


 どこにいて、どこで叫んだのだろうか……ハッと気付く。


 ヘルメット越しの視界。


 そうだここは殺し合う戦場――。


『接続完了です』


 セイの声が、心に響いた。

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