11☆話「最強の男!トリプルミックス!」


 ヴァンの肩をポンと二度、三度優しく叩くユディアル。

 不安を消そうとしてくれているのがわかった。


「ユディアルさん……セイさん」


「今はここで待っててくれ。ヘルメットは外すな」


「はい」


 またバイクから光と共に現れる、美しい刀。

 まるでセイの心のようだ、とヴァンは思う。

 

「お二人共、気を付けて」


 ユディアルは頷くと、廃墟のビルへ駆けていく。


「いたな!」


「デカイ……! ユディアルさん!」


 魔物と機械が合わさった、タコのような触手のある化け物。

 大きさは予想を超えた5メートル以上ある。

 それがユディアルに向かって、廃墟のコンクリを破壊しながら自ら牙を向き攻撃をしかけてきた。


 鞭のように触手を打ち込んでくるが、ユディアルは身を翻し避ける。


「こいつ随分、攻撃的だな!」


 ユディアルの言うように、魔機は興奮状態のようで廃墟を破壊し攻撃を繰り返す。


「街へ迷い込んで興奮してるのか……?」


『この大きさで此処まで潜んで来るのは、確率的にはかなり低いです』


「確かに……そうだよな!」


 八本のうち二本の触手をユディアルは一刀両断した。


「なにか……動きが妙だな……はっ!!」


 何かに勘付いたユディアルはヴァンの元へ走る!!


「ヴァン!!」


「えっ!?」


 バイクの影に隠れていたヴァンを片手で抱き上げ、バイクに飛び乗り飛び出すように走る。


「うわぁ!?」


 一瞬の眩しさを感じたと思えばドガアァアアン! と背後で爆音がする。


「雷!?」


「魔術だ!」


 飲み込めないその言葉『魔術』。


「あれが、魔術……!?」


 第二次世界破壊以前も、魔術は特殊な上層部の人間しか使用・利用が認められていなかった。

 世界破壊後も一般的には禁忌とされ一般人には縁のないものだが、闘う手段として魔術を利用している者も裏社会にはいるという話も聞く。

 

「そうだ、魔術師がいる!」

 

 ユディアルはヴァンを抱いたまま、バイクを旋回させた。

 触手の魔機だけが確認できるだけで、他には敵は見当たらない。

 しかし、どこかに魔術師が必ずいる。


 そして足を二本失っている魔機は、またユディアルの元へ叫び声をあげながら攻撃の触手を伸ばそうとした。


「こいつも、やはりおかしいな! あの傷でわざわざ俺達を追いかけてくるとは!

 とりあえず、あいつをまずは仕留める! セイ、刀への干渉は最小限でいい! ヴァンをバイクで守れ!」


『了解』


 ユディアルは躊躇もせずに、ヴァンにバイクのハンドルを握らせると自分はバイクから飛び降り、魔機のもとへ駆けていく。

 バイクはセイの制御で速度を落とし、安全な位置で停止した。


「あっ、また!」


 また眩しく稲妻が走る。そして続く轟音に衝撃。


「ユディアルさぁあああん……!!」


 砂埃が巻き上がり、衝撃の激しさがわかる。

 あれが命中していれば、身体など無残に引き裂かれていることだろう。

 まさか! とヴァンは狼狽うろたえる。


「ユディアルさんが!!」


『彼は大丈夫です』


「!」


 砂埃が消えるとユディアルの周りに、紫のガラスのような壁が発生してるのが見えた。

 傷一つない身体。

 魔術世界で結界と呼ばれるものだろう。

 少し距離がある触手の魔機にユディアルは右手の刀を向け、そして左手は空高く掲げた。

 何かの詠唱か、口元が動く。

 それを唱えた瞬間また強い稲妻が走る。

 青い稲妻!!

 先程の雷鳴とは比べ物にならないほどの爆音。


 これは敵の攻撃ではない――!

 ユディアルが魔術を放ったのだ。


「ユ、ユディアルさんが……魔術を……?」


 驚愕するヴァン。


『そう。彼はAIを操るミックスでありながら、魔術師の血統も混ぜ込まれたトリプルミックス――最強の男なのです』


 セイがそう言った時、砂埃が少し収まった。

 木っ端微塵に吹き飛んだ、魔機の残骸。

 傷一つなく大地を踏みしめたユディアル。

 彼は淡く光る緑の刀を片手に、ヴァンへサムズアップした。

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