10☆話「出発!魔機の気配」
今日はユディアルの提案通り、ヴァンが世話になった集落へ向かうことになった。
出発前、まだ人間ボディのセイとユディアルに呼び止められる。
「ヴァン君、あなたに渡したいものがあるのです」
「お、俺にですか。はい」
「ユディアルお願いします」
「おう、これだ」
ユディアルが、取り出したものは革紐に水晶のような緑の石がぶら下がるペンダントだった。
そっと、優しく首にかけられる。胸元で淡く光る優しい緑の石。
「すごく綺麗だ……俺はこれを守る使命なんですね? 命にかけても守ります!」
「ぷっ、ヴァンがそれを守ってどうするんだ」
緊張した顔のヴァンを、ユディアルが笑う。
「え?」
「貴方のお守りです。貴方を守ってくれるように」
「あっ!」
てっきりこの首飾りを守るように言われたとばかり思ってしまった。
見当違いな事を言い、恥ずかしさで頬が赤らむ。
「これを身に着けていれば、一般の人でも私がもっとサポートしてヴァン君を守ることができますので安心です」
「ミックス同士だったら、通信機代わりにもなるみたいなんだけどな」
「そ、そうなんですか」
そう言われてみれば、ユディアルの右耳にも緑の石のピアスが揺れていた。
「ありがとうございます。団員としての役目を果たせるように頑張ります!」
「まぁ、そう固くなるな。入団祝いのプレゼントだ」
「プレゼント……」
「そうですプレゼントです。ヴァン君、焦らずに少しずつでいいのです」
「……はい!」
二人の優しい微笑みを前に、父以外からプレゼントを初めて貰ったヴァンは嬉しさで首飾りを大事に握りしめた。
◇◇◇
「それじゃあ行ってきます」
「気をつけるのよぉ~☆」
出発するヴァン達を、エリオが見送りに来てくれた。
今日はウィッグだろうか派手な金髪のショートパーマにバンダナをつけ、派手なピアスをぶら下げている。
アーサーが作ってくれた弁当を受け取り、セイのバイクに跨るユディアルの後ろに乗るヴァン。
今回はサイドカーに水や食料を積んである。
タカは他の車の修理作業をしていたが、出発しようとしているヴァン達を見て駆け寄ってきてくれた。
「気を付けてなー! ユディアル! ヴァン!」
「任せとけ!」
タカが出した拳を、ユディアルが拳で返す。
ヴァンもコツンと、拳を合わせた。
『エリオ、見回りもしてきますので帰りは夕方になると思います』
バイクからセイの声がした。
「はいはい、いってらっしゃ~い」
地上への通路へ続く扉が開いて、バイクが動き出す。
「……あの聞こえます?」
「あぁ、聞こえてる」
今日支給された団員用のバイクヘルメットには通信機が仕込んであるので、会話ができる。
荒れた廃墟を走り抜け、ヴァンがいた集落へ向かうのだ。
「みんなのために、水や食料まで本当にありがとうございます」
『ヴァン君がお世話になったのですからね』
耳元でセイの声が聞こえ、まるで囁かれているような声にヴァンはドキッとしてしまう。
「セ、セイさんがこうやって外に出かけて、留守にしても本部は大丈夫なんですか?」
『えぇ。私の自我も少し残していますし、発電や監視システムは自動で動くようにしているので大丈夫です。何かあれば連絡がきますしね」
「すごいです……本当に伝説のAI様」
朝の味噌汁の情報をくれたというシュウ以外、この世界で稼働できているAIは、どれだけいるのだろうか。
ヴァンにはわからない。
今までの自分の生活からは、かけ離れた世界だ。
『それでもメンテナンスやこうやって通信者が必要な事も多々あります。団の皆がいてこそ、私がいるのです』
「まーた殊勝AI」
ユディアルが茶々を入れる。
『いつでも感謝は忘れずにいたいですからね』
「まぁな! でも感謝しているのは俺達のほうなんだぜ」
確かにセイ達『人間の味方』のAIがいなければ、人類は滅びていたかもしれない。
いつでも感謝を忘れない二人の会話に、ヴァンは絆を感じた。
「ヴァン、少し道が荒れるぞ」
「はい」
廃墟になった町は、第二次世界破壊の時のものだ。
どれだけの人間が住んでいたのか、大きな建物が崩れたり半分そのままだったり荒れたまま時を刻んでいる。
しばらく走り進めていたが、不意にバイクが止まる。
「……ユディアルさん……?」
「……セイ、感じるか?」
ユディアルの鋭い声。
『はい、感知しています』
「え?」
「魔機がいるから、退治していく」
「えっ!」
『大丈夫、ユディアルに任せましょう』
「任せとけ!」
何かを感知したのか少し進み、廃墟となった大きなビルの前でバイクは止まった。
ヘルメットを外すユディアル。
元は何階まであったのだろうか、今は4階から上は崩れ落ちている。
「こんなところまで魔機の侵入を許すとはな」
『やはり防衛結界システムの老朽化への対応は、今後考えなければいけませんね』
昨晩にも出た話だ。
今は滅びた、ここ一帯を治めていた国の国境には魔機にも有効な防衛結界システムがあったがそれも老朽化で壊れ始めている。
ヴァンはまだ魔機と遭遇した事はなかったが、当然ヒグマや狼以上に恐ろしい存在なのは知っている。
「あ、あの……あの……俺」
「ヴァンは、ここでバイクと一緒にいてくれ」
「俺も何かお手伝いを……」
『ヴァン君、大丈夫です。今は此処でユディアルの戦いを見てください』
「は、はい。ユディアルさん、どうか無事で」
『ユディアル、武器は何にしますか?』
「刀でいい。確実に仕留めたところを見たい」
『了解』
「あの刀は……セイさんなんですか?」
『私が、刀身を強化したり、コントロールをサポートしています。以前はもっと種類もあって私本人がサポートせずとも本部から端末で操ることができたのですが、老朽化もありまして今は私が身近でコントロールしている状況です。だいぶ武器も減ってしまいましたね……』
「そうだな、減ったな……」
今までの過去を思い出したのだろうか、遠い目をするユディアル。
しかしすぐに力強く炎が宿ったように、ユディアルは微笑む
「まぁ、俺とお前だ。刀でも負けはしない」
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