7☆話「ミックス・コミュニケーター」

 イリアスの突然の質問に会議室は静まり返った。


「ミックス・コミュニケーター……?」


 聞き慣れない言葉に、ヴァンは不安な顔をする。

 静まり返ったあと、ザワザワと皆が喋りだす。


「おい! セイから話があるだろう」


 ユディアルが一喝すると皆黙り、セイが落ち着いたトーンで話し始める。


「……まだ、それは確認できておりません。

 ヴァン君、私とユディアルが共闘したのを見ましたよね。

 最大限に機械の能力を発揮させることのできる人間をミックス・通信者コミュニケーターと言うのです」


「ユディアルさんは……そのミックスコミュニケーターなんですね」


「ユディアルはもっともっとスペシャルだけどねっ!」


 タカが自慢気に叫ぶ。

 ユディアルもタカの頭をポンと撫でると『まぁな』とニカっと笑った。


「じゃあ……え? 俺もそうじゃないかって……いうことですか?

 お、俺にはそんな事できませんよ、普通の凡人です!」


 大慌てのヴァン。

 ユディアルのような力を期待されても何もできない! という気持ちだ。


「でも、その髪と目は……」


 イリアスの言葉をセイが止める。


「イリアス、突然そんな事を聞かれたら驚きますよ。

 ミックスコミュニケーターという言葉すら彼は初耳なのですから、これからおいおい説明していくところです。という事で、彼がミックスであるかはまだ未確認です」


「……わかりました」


 イリアスが片手を挙げ頷いた。


「それではヴァン君を皆、歓迎してあげてください。

 この後に歓迎会をしましょう」


「「「「やったぜ!! ようこそサーフへ!!!」」」」


「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 皆が拍手をし、ヴァンは席へ戻る。

 タカはニコニコしているが、イリアスはヴァンを見もしなかった。

 何か期待されていたのだろうか、それとも何か敵意があったのだろうか……シュンとしてしまうが次の話が始まった。


「さぁ今日の会議の議題はもうひとつ。H63自警団への対処です。彼らには人々を守る意思はもう無いとみなし、自警団を名乗ることをやめ解散するように宣告します」


「えっ……俺を襲ったやつら……」


「そうだ」


 ユディアルが頷く。


「あいつらには、みんなもう我慢ならなかったからな」


 タカがヴァンにこっそりささやく。

 思い出すだけで、寒気がする――突然の暴力に監禁されかけ命からがら逃げてきた。

 もし逃げられずにいたら、今頃どんな仕打ちを受けていたか。


「H63自警団に一週間後にまずは団を解散するように通達をします。 まずは話し合いをしてからですね。その後は彼等の出方次第なのですが……。強制解散の可能性も高いと思われます。

 今後、それぞれの部長会議の回数も増えると思いますが随時通達しますのでよろしくお願いします。

 最後に重要な通達ですが、ここ最近魔機まきの発生が頻発しています。任務や外出の際には注意を十分にしてください」


「魔機……」


 この世界は、二度滅びかけている。

 第一次世界破壊は人間同士の戦争で、第二次は戦争時に起きた機械と魔術の暴走だった。

 その第二次世界破壊の時に暴走したAIの力と魔術が融合し悲劇が起きた。

 今までに存在しなかった、魔機まきが生まれてしまったのだ。

 魔機は人を襲う。機械版の魔物のような存在だ。


「国境を守っていた結界も機械の老朽化で、もう魔機の侵入を許している場所が多数あるようです。

 今後国境警備と補修も長期になると思いますが視野に入れたいと思っております」


 人を襲う粗暴な犯罪者だけではなく、人を襲う魔機ともSA-4自警団は闘っている。

 皆の緊張が伝わった。


「『国』という統治する存在がない今、我々のような自警団が手の届く範囲で皆を守るしかない――。私も長い年月で消耗し欠損し力を失ってきました。ですが皆様のおかげで今も活動できています。AIの『人を守りたい』というエゴに、まだお付き合いして頂けると助かります」


 セイの切なる静かな訴えにヴァンの心は、熱く疼く。

 男達の見えない闘志が、燃え上がる空気を感じた。

『エゴっていうか誇りだろ』『当たり前だ』『当然だよ』そんな声が挙がる。


「殊勝なAIだぜ、お前はよっ!」


 ユディアルが笑いながら言う。


「ふふ、殊勝ですか。ユディアルにも必要な事かもしれませんね」


「あはは! 俺とお前は表裏一体! お前が殊勝なら俺は豪快! ってな」


「ユディアルには敵いませんね」


 ふっとセイが微笑み、皆も笑った。


「もういいだろー!! 会議は終いだ!!

 ヴァンの歓迎会やるぞーー!!」


 ユディアルが叫んで、どこから取り出したのか酒瓶を掲げた。

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