3☆話「オネエ医者エリオと医務室へ」
ユディアルの帰還が伝わったのか、黒髪ボブカットの白衣の女性がヴァンやユディアル達の方に歩いてきた。
いや、女性のような歩き方だが、随分と長身で肩幅もかなりがっしりしている。
まだ距離はあるのに、巨大に見える。
『それでは、僕は一度離れます』
バイクからセイの声が聞こえて振り向いた。
『ヴァン君、彼らの指示に従って、医務室で待っていてください』
セイがそう言うと、緑の発光体がバイクから弾けるように飛散した。
「わっ!? セイさん!?」
「ヴァン、大丈夫だ」
驚いたヴァンの肩からずり落ちた毛布を、ユディアルがかけなおす。
緑の光は床のパイプを伝い広がって、消えていった。
超文明。
伝説の話ではなかったのか……と圧倒される。
左右上下を向いて、あわあわとなっているヴァンをいつの間にか隣に来ていた巨大女子? が支える。
「ヴァン君ねぇ? きゃっ可愛い顔してるじゃな~い。女の子みた~い」
「えっあっ……はい、ヴァンです」
「あたしはドクターのエリオよ。あなたは無事に保護されたのー。安心してね☆」
厚い唇には口紅を塗り、化粧をしているが声は男性だ。
驚いて、ジッと見てしまう。
白衣の中は真っ赤でタイトなワンピースを着ているが、胸板が逞しい。
やはり巨大だ。
「エリオ~ヴァンが固まってんぞ」
「なぁに? あたしみたいなの、は・じ・め・て?」
喉仏が上下に揺れる。
睫毛には極楽鳥のような、オレンジと青の羽根が乗っていた。
「は、はい……えっと……」
「オネエってやつよぉ、やめてよぉ! 言わせないでっての!」
「す、すみません」
アハハ! とバシバシ叩かれる。
ヴァンの脳内には『オネエ??』という単語がぐるぐる回ったが女性らしい男性ということなんだろうと納得させた。
「んじゃあ~医務室にこれから私と一緒に行くわよ~心や身体の状態が大丈夫か……チェックさせてね~ん。あら、怪我してるわね」
「血は止まってる。殴られたらしいから、脳のチェックも頼む」
ユディアルの話を聞き、エリオがジッと傷を見る。
その姿はまぎれもなく医師だ。
「了解、今車椅子を持ってくるわ」
「いえ、歩けます」
「そぉう?」
「はい」
「それでは行きましょうかぁ……ユディアル。あんたはついてこなくていいわよ。廊下が狭くなる」
線の細いヴァンに、肩幅のいい白衣のオネエ、その後ろライダースーツの筋肉ムキムキユディアルが並んで歩こうとしている。
「え!? いや、だってさ。不安じゃないかな~って」
「なによぉ~あたしがいるんだから不安になんかさせないわよぉ!」
「いや、だから不安になるんだろ!! あと、まぁ少し話もしたいんだ」
ユディアルの言葉に、ヴァンは振り返る。
「話……」
「あぁ」
「あぁ……この子の瞳ね。わかったわ。あとでセイと来てちょうだい」
「わかった、じゃあ後で行く」
ヴァンが頭を下げると、ユディアルはにっこり微笑んで手を振った。
広い空間から、エリオの後をついて狭い廊下を歩く。
地下なので窓もない、無機質な廊下だ。
つい触ってしまうと、冷たい。こんなにも沢山の金属がある事が驚いてしまう。
医務室に通され言われるがままに、箱に入って何やら検査を受けた。
タオルと白い患者用の寝間着と、新しい下着をもらい身体を洗うように言われる。
「ここのボタンを押すと、シャワーってしゃわしゃわお湯が出てくるから~いっぱい浴びてちょう~だい☆これは液体の石鹸ね」
「はい……シャワー」
全て初めて見る機械。
昨日までいた集落では、火を起こし風呂を沸かして入っていた。
ボタン一つでお湯が上から滝のように出てきてヴァンは小さな悲鳴をあげる。
言われたように液体の石鹸で髪と身体を洗った。
温かいお湯に冷やされた身体が温まり、自然に長い息がこぼれた。
シャワーから出ると、座ってていいと言われてエリオがヴァンの綺麗な金髪を梳かしながら温風の機械で髪を乾かされる。
原理を聞いてもどうせわからないので、ヴァンは黙っていた。
「んふっふ~綺麗な髪ねぇ。脳も異常なし、縫うほどの怪我ではなかったし安心したわぁ」
「はい、ありがとうございます」
「今日はもう遅いから一晩ここで泊まって。そしたら明日は集落に戻してあげるからね」
「……俺……」
ヴァンの声は低く、暗い。
「どうしたの?」
「あそこには、もう戻れません」
「え? どうして……」
「俺、この奇抜な容姿のせいで、いつも追われる事になって転々としているんです。
今回も一ヶ月くらい前に受け入れて頂いて……お世話になったのに、また俺のせいで集落が襲われて本当に申し訳ないと……謝りには行きたいけれど、もう……」
「ヴァン……」
今後の不安を考えると、また涙が溢れてきてしまうヴァン。
エリオがハンカチを渡すと、部屋がノックされる。
ヴァンが涙を拭うと、ユディアルともう一人の男が部屋に入ってきた。
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