2☆話「美少年ヴァン・SA-4自警団へ」

 

 攫われた人質を助け、十三人の盗賊団を一瞬で片付けた男・ユディアル。

 彼が人質少年・ヴァンとバイクの元に戻ってきた。


「セイ、報告とあいつらの身柄確保の応援を頼む」


 緑の刀をハンドルの間に挿すように戻すと、光と共にバイクに吸い込まれていく。     

 するとまた、バイクが光り輝いた。


『了解。ユディアルは彼の容態を確認してください』


「おっけー」


「あっ……あのっ……俺……」


SA-4エスエーフォー自警団のユディアルだ。もう大丈夫だからな。名前は?」


 頭だけ出した状態だった少年を、袋から出す。

 少年は綺麗な長めのショートヘアの金髪に青色の髪がメッシュのように混ざり合っている。

 右の瞳は美しい湖が凍りついたような薄い青色をしていて、左目は砂漠の砂のような赤みがかかった黄金色だ。

 今は砂で汚れているが、肌は白く睫毛も長い。

 一瞬ユディアルは少女かと思ったが、立ち上がると背もある男の身体だ。


「俺……ヴァンです」


「オッドアイ……」


「え?」


「いや、ヴァン君……うん、良かった。通報どおりだったな。集落が襲われて君がさらわれたと聞いて助けに来たんだ。ん、怪我してるな」


「あ……いて……」


 ユディアルはグローブを外すと、そっとヴァンのこめかみに触れる。

 さらわれた時に抵抗して殴られたのだ。


「少し切れたか……でも血は止まってる。もう大丈夫だからな安心しろ」


「は……はい……っ……」


 ユディアルの優しい言葉にヴァンは、恥ずかしいと思いながらも安心から涙が溢れてしまう。慌てて拳で拭った。

 しかしそれでもまだ溢れ出てしまう。

 ユディアルは少年の涙に言葉では触れず、タオルを頭に無造作にのっけた。


「とりあえず集落には無事を伝える。これから一旦SA-4自警団で診察を受けよう。みんな略してサーフって呼んでる」


「は、はい。サーフ……わかりました」


『安心して後ろに乗ってください、ヴァン君』


 バイクが緑に光って、そう答えるとヴァンが目を丸くする。


「集落で話を聞きました! SA-4自警団には、残された数少ないAIのセイ様がいらっしゃって、俺達をお守りくださってるって……!! これがバイク……初めて見ました!」


『そんな大層なものではありません、様など不要ですよ』


 ユディアルがバイクから毛布を取り出して、ヴァンにかけた。

 ヴァンの服の上下は、かなり薄汚れてボロボロだ。

 ボロボロの服を着ている事は、この付近の貧しい集落では珍しくはない。

 しかしデザインがこの付近では見ないものだ。


 ヘルメットもヴァンに渡し、彼を後ろに乗せてユディアルはバイクを走らせた。

 初めて乗るバイクの速度に驚き、ヴァンはぎゅっとユディアルに慌てて抱きついた。

 ライダースーツ越しにもわかる、鍛えられた男の肉体にヴァンは驚き離れようとしたが左手でぐっと腕を掴まれた。


「しっかり掴まってろ! 飛ばすぞ!」


「わ? ひゃーーー!!」


 緑の光の線のように、セイのバイクは一層スピードを上げた。


 廃墟のなかにも、いくつかある集落の火の光。

 皆の無事を確認するかのように、ユディアルはセイのバイクと共に駆け抜ける。

 バイクから溢れる緑の光と、火の赤色が揺らめいて美しい。

 それを見ていると生きている実感がまた湧いてきて、ヴァンの瞳からは拭うこともできずに涙が溢れた。


「着いたぜ」


 時間が経ち、毛布が煽られて肌寒くなった頃にSA-4自警団の本部に着いた。


「はい……」


 しかし見えるのは巨大な扉……? トンネル……?

 その扉が開くとバイクは下降しだした。


「わ!? さ、下がってる? つ、土の中!?」


「地下に向かって坂を降ります。もう少しお待ち下さい」


「は、はい」


 バイクのセイに言われ、ヴァンは黙る。

 スピードはゆっくりなので、きつく抱きしめた背中からは離れ腰を掴む。


 地下道は、真っ暗でセイの緑色の光に照らされ、そこそこの広さなのがわかる。

 ネズミが逃げていく鳴き声が聞こえた。


 そして行き止まりにはシャッター。

 しかしセンサーでもあるかのように、バイクが近づくとシャッターが上がって光が溢れる。

 まるで昼間のような眩しさで、目がくらむ。

 夜にこれほどの光を見るのはヴァンは初めてだった。


「うわぁ……!」


 そこは地下とは思えない、広い空間が広がっていた。

 ヴァンにとっては初めての、金属でできた鉄の天井や壁。

 眩しいのは照明ライトだ。

 何台もの車がありコンテナが積まれ、クレーンアームなどもある。

 作業場でもあるのか、遠くで車の修理をしている男達が見えた。

 バイクが停まった床は網目状になっており、その下は何やらよくわからない機械が色々発光しているのが見える。


「セイー! ユディアルー! おっかえりーーー!!」


「おう、ただいま」


 駆け寄ってくる少年に、ユディアルも片手を挙げて応える。

 後ろからもう一人、ゆっくりと歩いてくる。


「無事でよかったー!」


「無事に決まってるだろ」


「へっへ、まぁユディアルだからな」


 まだ十代前半だろうか、子犬が尻尾を振るように嬉しそうな笑顔。

 無邪気なブラウンの髪と瞳。

 油で汚れたツナギを着ている。


 後ろから来たもう一人はもう少し年上だろう。

 ピンクの髪で赤い瞳でメガネをかけて白衣を着ていた。

 真っ白な白衣にヴァンは驚く。

 顔は無表情で、こちらを伺うように睨まれた気がしてヴァンはついユディアルの後ろに隠れる。


「こんなに沢山の機械がまだ存在してるなんて驚くよね! 一般の人にはほぼ無縁だもん」


「は、はい」


 屈託ない笑顔で話しかけられ、ヴァンは慌てて頷く。

 緊張をほぐすように、ヴァンの肩をユディアルがポンと叩いた。


「ともかくサーフへようこそ!」 


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