イケメン☆キズナブキ=戦闘美男士☆絆武器

戸森鈴子(とらんぽりんまる)

1☆話「イケメン兄貴・ユディアル参上!」 


 夜、町外れの廃墟のビル街を走る一台のバイク。


「セイ、目標まで何秒だ?」


『目標まであと、10.5秒。標的十三人。魔術師反応ナシ。魔機反応ナシ。人質一人の確保を最優先』


「了解!」


 はるか昔、機械と魔術の両方の力を使い世界は進化し続けた。

 しかし行き過ぎた力を持った人間達は、その力を使って戦争を始める。

 二度目には機械と魔術の力は暴走し、この世界は壊れかけた。


 第二次世界破壊セカンド・デストラクション――。


 それから百五十年、生き延びた人々は機械と魔術の力を手放した。

 今は各所でそれぞれに、小さな集落や村を作って畑を耕し井戸を掘り……原始的な生活をしている。


 そんな時代にも、いつも無法者はいて、それを取り締まる者がいる。


『ユディアル、武器形状はどうしますか』


 ユディアルと呼ばれた男が会話をしているのは、バイクだ。

 優しげな男性の声ではあるが、どこか機械音が混ざっている。

 白色と青緑の光を放ち、流線的な大型のフルカウルモデルのバイク。

 それに跨るユディアルは黒のヘルメットに黒のライダースーツ。

 ユディアルは、少し考えて言った。


「やっぱ刀かな」


『了解』


 バイクが走る先に、ボロボロのアスファルトの道を歩く盗賊団が見えた。

 瞬時にバイクの速度を上げる。


 バイクはそのまま、盗賊団の中に突っ込み炎上……はしなかった。


「「「「うわあああああ!!? なんだぁ!?」」」」


 突っ込んできたバイクに錯乱する盗賊団。

 バイクはタイヤの音を響かせながら旋回する。

 叫び声のなか人質が入った袋が投げ捨てられ、ユディアルはバイクに乗ったまま片手でその袋を持ち上げて自分の肩に担いだ。 


 そのまま盗賊団から少し距離をとる。


「よし! 人質確保!」


『最優先事項クリアですね』


 急激な動きに焦り動く人質の袋に『安心しろ、SA-4エスエーフォー自警団だ』と言うと、優しく土の道端の上に降ろした。


「ここで待っててくれな。セイ、やるぞ」


『了解』


 ハンドルの間から光が放出すると、バイクは輝きを失い代わりに鞘に入った刀が出現した。

 鞘は白色だが、淡く緑色に光っている。


『接続完了・ユディアル』


「おう」


 ユディアルはグローブを付けたままの手で、その刀を握りしめ腰ベルトに帯刀させた。

 そして抜刀――輝く透き通る緑刀。

 ガラスのような氷のような、刀だ。

 月明かりに煌めく。


「今宵も馴染む、刀っぷりだ」


 盗賊団がユディアルの刀を見て、鎌や斧を構えた。


「ユディアルがでたぞーーーー!」


「くっそ! あの緑の光は自警団のセイだ!!」


「慌てるな! 壊れかけた人工知能に支配されてたまるか!」


「人間様の力を見せつけてやれぇ!」


「俺は人間なんだけどね」


 ユディアルがヘルメットを外す。

 右耳の緑のピアスが揺れた。

 紫の髪は猫っ毛なのか、少し跳ね返り。紅い髪がメッシュで混ざっている。

 夜と月のように、深紫の右目に、金色の左目が印象的なオッドアイの大きな瞳。

 キリとした眉と形の良い唇で自信に満ち溢れ微笑む表情が、あまりに決まりすぎて盗賊団の怒りを余計に買っている。


 刀を構えブーツのスパイクをボロボロになったアスファルトに撫で付けるように踏み込む姿勢をとった。


 ごそごそと人質袋の紐が解かれて、そこから一人の少年が顔を出す。


「ぷっぷはぁ!」


 少年が見たのは、怒り狂った屈強の盗賊団が襲いかかる絶望的な瞬間だった――!


「ダメだ! 逃げてくださ……!」


「ん? 大丈夫さ」


 そんな時でも、少年に優しく答えたユディアルの光る緑の刀揺れる。

 煌めくように、刃が流れ蛍光の緑の残像だけが見えた。


「ぎゃ!」


「ぐぶ!」


 月明かりのなか、踊るかのように滑らかな斬撃。

 飛び上がる男たちの身体。


 彼らの武器だけが手から飛び上がるように空に放たれ、瞬時に一刀両断される。

 鉄の剣や斧もバラバラに散らばっていく。

 凄まじい硬度だ――。

 

「わぁあああ!」


 最後に逃げ出した男は、ユディアルが振り上げた刀からの衝撃波によって打ちのめされた。

 そして、十三人の盗賊達は皆白目を剥いて転がる。


「す、すごい……一瞬で……」


 血や臓物は飛び散っていない。峰打ちだろう。


「なぁ? 大丈夫って言っただろ」


 笑顔で振り返るユディアル。

 バイクにもたれかかったまま呆然とする少年のもとに、ユディアルがまるでコーヒーでも買いに来たかように颯爽と戻ってくる。


『目標沈黙・死者ゼロ:お疲れ様でした』


 月夜に静かにセイの声が響いた。

 驚きで丸い目をした少年。彼の瞳もまた――オッドアイだった。

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