第7話 イキリの結果

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登場人物:


海崎王間:主人公。クソガキッズ。

黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。

四羽彩花:オタク

木島慎平:毒舌


ようやくクソがキッズなところが見せられる

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 亡者の姿は200mほど離れた位置に集団でいた。此方に向かって進んでいるようだった。海崎は黒神の背中に向けて声をかける。


「で、どう戦うんですか」


「お前が前衛、撃ち漏らしたのは私がやる」


 僕がしくじった時用に師匠が後ろで見守っているというスタイルか。何処までも子供扱いしやがって。だったら──


「僕1人で全部ぶっ倒す」


「ああそれは随分と……はぁ!!?」


 黒神が海崎の方へと向き直るも既に亡者の集団へと走り出していた。


「あのバカが」


 と黒神は毒づきながら後を追う。


 亡者との距離は100メートル近く。感覚的には先ほど四羽が亡者に見つかったときと同じくらいの距離だ。

 浮遊する氷柱を生成。それを複数自分の周りに展開する。フーッと肺の中の空気を全部吐き出す。緊張はしていない。何故だろうか根拠の無い自身であふれかえっている。


 亡者が此方に気がつく。「死に物狂い」という言葉がこれ以上に無い程に彼らは必死に走っている。目標は言わずもがな海崎。

 海崎は浮遊させていた氷柱を亡者連中めがけて放つ。射出される氷柱は半分ほどが命中。半分は当たらなかった。しかも命中した半分も亡者に「当たった」だけで、勢いが止まることは無かった。

 海崎は目を丸くする。



(…………あれ?)


 大きく口を開けながら此方に突進してくる亡者の集団。その距離は既に20メートルも無い。


(ひょっとして僕って弱い??)


 海崎は自分の想像した光景と、目の前に広がっている光景との落差に愕然とする。


 もっとこう、氷柱が亡者に突き刺さってバッタバッタと薙ぎ倒していくのを想像してたんだけど…………?よくよく考えてみると、先ほどの氷柱のサイズも細々としており、冬の屋根先にできる自然の氷柱の方がまだ大きいのではないかとさえ思う。長さも5センチくらいしかないし、勢いも滅茶苦茶弱い。歩いている人の方がまだ早いんじゃないかと勘ぐるレベル。

 もっと格好良く、かつスマートに的を倒すはずだったのに。それどころか倒せてすらいないし。


 頭が完全に真っ白になる。先ほどまでの自身は一体どこから来ていたというのか。どこか遠くに逃げ去ったようで。

 海崎は頭を左右に振り、強引に思考を切り替える。

 考えている暇なんて無い。亡者が目の前まで迫っているのだ。

 海崎は剣と盾を生成する。剣は50センチメートル、盾は横30、縦40程度の不格好な装備だった。これもまた随分と陳腐な。


(なんか現実と理想がかけ離れていくんだけど……)


 自分の手にしている武器を引きつった顔で眺める。無いよりマシだと自分を納得させ亡者の方へと向き直るやいなや先頭の亡者が飛びかかってくる。


 跳べるの!?海崎は内心焦りながら盾を構える。


 亡者は見た目以上ににアクティブだ。老人の見た目をしていようが、女性だろうが子供だろうが、全ての亡者が陸上選手並みのタイムをたたき出すことができると言う。それほどの身体能力──もとい脚力があるなら跳躍したって何らおかしな点は無い。因みに今跳んできている亡者はかなりがたいの良い男性亡者だ


 ドゴッ!と衝撃が体全身に走る。


「っっっ!!!」


一撃が重い!!


 後ずさりながら漸く勢いを殺す。腰に、足に力を入れて必死に抵抗する。


 成人男性の平均体重が70から80kg。この亡者のがたいの良さを考えると90kgだろうか。海崎が吹っ飛ばされてもおかしくはなかった。


 が、それは奇跡的に彼が最高の態勢で攻撃を受け止めたとかの偶然では決して無い。必然と言っても差し支えなかった。


(はぁ、氷を地面との間に挟んだか)


 黒神は海崎が戦っている後方20メートルの所で傍観していた。彼女が視線を送る先には海崎の足元を──と言うより靴全体を覆う氷だった。自分の足に氷を纏うことによって地面との摩擦により勢いを殺しやすくしていた。小賢しいことを思いつくなぁと黒神は欠伸を殺した。


(耐えるだけでは敵は倒せんぞ少年。なんせ奴らは無尽蔵のスタミナを持ち合わせている。長期戦は不利だぞ)


 海崎は盾にへばりついている亡者の首元に剣を突き刺す。鮮血が飛び散り、透明色の盾と剣を、顔を赤く染めあげる。


 (案外やれる!──けれど……)


肉を裂く感触を手に感じながら、ドクンと心臓が跳ね上がる。剣を引き抜き、後退しつつ態勢を建て直していると、またもや次の亡者が突進してくる。


 (これが……あと何体居るんだ!?……クッソ!力強すぎるだろ!!)


 それを再び盾で防ぎながら、足下に氷を展開しと勢いを殺す。剣を喉に突き刺そうとしたが、視界の右端に追加の亡者。両手を前に突き出し、首目掛けて走ってくる。 


 海崎は素早く突っかかっている亡者の首筋に剣を突き刺し亡者に向き合おうとするも圧倒的に間に合わない。首に両手が触れられる感触を味わいながら地面に倒れる。


「ぐぁ!!」


 亡者の両手は既に首を絞めにかかっている。


「がっ……あがぁ……・!!!」


 万力を込めて握られるそれは両手で引き剥がそうと抵抗してもびくともしなかった。どんな力してんだコイツ。大して腕も太いわけじゃ無いのに!!息が止まるよりも早く首の骨が折れる……!!


 抵抗する意志とは裏腹に薄れゆく意識の中、不意に影が差す。そうかと思うとまた別の亡者が枕元に立っていた。そいつは足を持ち上げると顔面めがけて振り下ろしてくる。視界が歪んでいく。


 更なる追い打ち。既に死にかけてるって。無駄だろそれ。


「───!!」


 内心で呟く言葉に亡者が反応を示すはずも無く、絞殺寸前の海崎の頭に無慈悲に振り下ろされる亡者の足。

 ただそれが海崎の顔面に触れることは無かった。


「ん?ギブアップか?」


「ごほっ、ごほっごほっっ……う゛へぇ……・…………はぁはぁ……」


 此方を挑発するような声がとんでくる。声の主は何が面白いのかニヤニヤと笑いながら引き金を引いている。首を絞める力が、腕の力が無くなり、解放されると、海崎はむせる。数秒ぶりの酸素が肺を満たす。乾いた銃声が鳴り響いた後に、亡者2匹の額に大きな穴が開き、そのまま倒れる。視界がチカチカする中でも何故か海崎は口にする。


「……魔術……使うまでも無いって事ですか」


「おいおい、そう自分を卑下するな。言っとくけど一応本番前だからな。ほんとの目的忘れちゃならんぞ」


 消え入りそうな海崎の呟きを聞き逃さなかった黒神は目は亡者の方を見ながら励ますように声をかける。その間にも的確に亡者の脳天を撃ち抜いていく。ぼやけてた視界でもそれをはっきりと認識できた。


 何でこういうときに限って見えるんだ。


 その様相が海崎の神経を逆なでた。僕にできないことを淡々とやってのけていく。


「本番に残すくらいに師匠にとって……こいつらは弱いって事ですよね」


「なんだよやたら噛みつくじゃん。粘着彼氏かお前」


 言葉の揚げ足をとる海崎に黒神はため息をつきながら呆れている様子だった。海崎は仰向けに倒れる。その間にも乾いた銃声は絶え間なく、止めどなく海崎の鼓膜を震わす。

 距離を詰めた亡者から次々と風穴が増えていく。弾切れを起こしてからの流れは一瞬だった。弾数は数えており最後の一発を撃ち終えると、片手で空の弾倉を排出し、もう片方の手で懐から弾倉を取り出し装填。そのまま片手で構えて射撃。


「接近武器の方が良かったんじゃ無いのか」


 ぼやく海崎の視線は空に向けられており、白い雲がふよふよと流れていく。バンバン!!と物騒な音が鳴り響いている中でのそののどかな景色は、視覚と聴覚でそれぞれ別の世界が広がっている様に感じた。


 やがて銃声は止み、結局師匠はその場から一歩も動くこと無く、残りの全ての亡者を蹂躙した。


「結局の所何でも良い。才能さえあればな」


「根も蓋もないことを……」


 全世界の努力家を敵に回すような発言をする師匠は僕の方へと手を差し出す。


「少年、君はまだまだこれからだ。魔術というのは才能で決定されるが、まず見つけることから始めなければならない。故にトライアンドエラーだ。何事も挑戦あるのみだ。尻拭いは任せたまえ、師匠の役割だからな」


 海崎は苦虫を潰したような表情をしながら師匠の方を見る。その手を取りたくなかった。負けたような気がしたからだ。と言っても実際に負けてはいるんだが。


 何時までも海崎が手を取らないので黒神は、やれやれと呟きながら無理矢理海崎の腕を引っ張り上げて起き上がらせる。成されるがままの人形の如く海崎はフラフラと立ち上がる。まだ締め付けられている感触が残っており、喉の調子を確かめるように触れる。


「クソガキッズだな」


「うっせぇ」


師匠がニヤリと笑うと、海崎は掴んでいた腕を払いのけた。

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拝啓、地獄の底より モルモット@実験中 @guineapig000

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