第6話 亡者

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登場人物:


海崎王間:主人公。クソガキッズ。

黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。

四羽彩花:オタク

木島慎平:毒舌


物を捨てられないので一生物が減らない。

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 草原の奥に大量の人間の集団が見える。ただ知っている。未開領域にいる人間は獄少ない。歩き方は随分と歪で、あれは──亡者だ。


 亡者の容姿は人間そのもの。人間との相違点は多々ある。1つは目だ。目玉が失せており白目を剥いている。2つ目は意思疎通ができない。何を話しかけたところで反応はたった1つ。その1つが3つ目。近づいてきた人間を殺しにかかる点だ。絞殺と殴殺、その2通りだ。絞殺が1番被害が多いらしい。


 20人近くがふらふらと宛てもなくさまよい歩いている。亡者達は基本的に単独で行動する事が多いが、集団を作り上げる事もある。それは同一の人間を襲おうとして偶発的に集団化、後にまた別の人間を襲うために……といったように集団として行動することがある。


「クソだりぃな……まぁ何にしたって単体でやるときとではかなり難易度はかわりますね」


 木島はぼやきながら列車横に取り付けられていたはしごを登り始めた。はしごを登り終えると天井に固定されていた布を取り除く。その下からスナイパーライフルが顔を覗かせる。


「木島ぁ、援護よろしくっす~黒神サンも見ててくださいねぇ~」


「ゴリラさっさと行け」


 笑顔でぶんぶんと手を振る四羽の手にはコンバットナイフが握られている。四羽の無邪気さが余計にコンバットナイフの異様さを際立たせていた。木島は毒を吐きながらスナイパーライフルを組み立て終えスコープを覗いている。

 四羽の後ろ姿を見送っていると黒神が声をかける。


「少年、基本的に亡者と対峙する際に重宝される武器は何だと思う?」


「あ?それは銃とか持ってたらいいだろ」


「ぶっぶーはーずれー正解は近接武器だ」


 指でバツ印を作ってこちらに向けてくる。挑発顔が余計に腹立つ。

 それにイラついて海崎は口調が強くなって反論する。


「は?どう頑張ったって殺傷能力が高いのは銃器だろうが」


「それは人間にとってだろ?人は銃弾が当たれば致命傷足りうる。けど亡者相手だと話は変わってくる。アイツらには痛覚の概念は存在しない──弱点は教えたろ?」


「心臓か頭でしょ」


「せーかい」


 黒神は海崎の頭をわしゃわしゃと掻き回すが、海崎は鬱陶しそうにその手を弾く。

 師匠はむーと唸りながら弾いた手首を振る。対して痛くもないくせに。


「その弱点を損傷しない限り、奴らが絶命することはない。腕を撃とうが、体を射貫こうが、止まることは無い。加えて奴らの戦闘スタイルは近接戦闘。銃弾を外しでもしたらインファイトは必須。だったら鼻から近接武器を持っていた方がいいって話だ。近接で拳銃じゃあ亡者を殺す武器にしては役者不足なんだよ」


「……でもそれって頭や心臓に当てればいい話だろ?」


 海崎は思った事を口にしたが、黒神は意地の悪そうな笑みを浮かべると感心したように告げる。


「ほぉ、ならばやってみるか?相手は力の制御から解き放たれた脚力をもってお前に近づいてくるぞ。運動選手だって置き去りにする程の速さだ。その動く的に向かってお前は頭を、心臓を正確に射貫くことができるのか?」


「……」


 海崎は黙る。銃器に一切触れたことは無かったし、才能があるようにも思えない。


「ただ銃器には銃器で利点がある。前衛を立てることができれば距離を確保しつつ撃ち続けることができる。今の2人のようにな」


 四羽はその場でジャンプしたり、腕を伸ばしたり準備運動をしている。その間にも木島は後方から狙撃を続けており、ついには手段の数が半分近くとなっていた。だが、亡者と四羽との距離が100メートルをきったかどうかのタイミングで


 ──一斉に亡者が走り出した。


 尋常ではない程の執着を感じさせるほどの走り。ゾッとする。

 その速さは尋常では無くあっという間に四羽との距離を縮めてしまう。

 

 ただ四羽も他だぼうっと突っ立っていたわけではない。亡者の走り出しに合わせて四羽は腰に装備していたハンドガンを携えて6発発砲。それぞれ別の亡者に着弾する。4発は脳天に命中し、もう一発は亡者の足、最後は亡者の腹部だ。後者の2人は速度を落とすことはない。四羽はハンドガンを放り投げるとコンバットナイフを持って構える。

 その間にも木島の援護射撃によって1人の亡者が崩れ落ちる。これで残るは5匹。


 先頭の1匹が四羽の首をめがけて両手を突き出す。四羽は勢いよく屈伸して態勢を低くすると、全身のバネを用いて亡者に接近。顎下からナイフとつきたて素早く引き抜き、そいつを蹴り飛ばす。力なく後ろに崩れる亡者に後方の2匹の亡者がややスピードを落とす。だがそれを左右から回り込んで来る亡者が2匹。

 四羽は蹴り飛ばした足でそのまま地面を踏み込む。ダン!と大地を踏みしめると、体を捻りつつその場で跳躍。四羽の回し蹴りが左の亡者の頭にクリーンヒット。回転するままに、接近していた右の亡者と対面。とその頭を掴み自分の膝を叩き込む。骨を破砕する音と共に2匹の亡者がダウン。

 中央後方の亡者2匹が態勢を立て直して、突進。四羽はもう2本目のハンドガンを構えて片方に向かって引き金を絞る。超至近距離からの弾丸は亡者の頭蓋を貫通。

 もう片方はその場から動くこと無くその場に崩れ落ちる。木島の狙撃だった。


 この間わずか1分足らず。あまりの一瞬の出来事に海崎は唖然とするしか無かった。倍速で動画を見ているかのような感覚にとらわれる。


 それが終わるやいなや、四羽は倒れ伏す亡者の頭蓋をひとつひとつ踏み砕いていく。完全に倒せているのかの確認だろう。

 と四羽が通信機を取り出して話し始める。どうやら列車のスピーカーと繋がっているらしく声が聞こえる。


『此方1班α、集団Aの撃破。これより索敵に移行』


「同じくβ、索敵に移行する」


 木島も列車天井から双眼鏡を取り出して索敵を始めていた。


『ご苦労様。残念ながらもう一仕事だ。0度、300度の2方向から亡者の集団を確認。それぞれB、Cと呼称。数は集団Aと同等と見られる』


アナウンスから報告されるのは更なる新手だった。2方向とも視認できる位置にいた。


「えぇ!?まじぃ!!?」


「此方も確認した……うざ、1つの集団でさえ珍しいのに集団3つとか巫山戯てんのか」


木島と四羽は二人してぼやき始める。木島の方へと黒神が話しかける。


「いい、どうせ暇してた所だ──Bの方は私達が請け負う」


「まじでいくのか」


 正直2人が強すぎて僕らの出番は無いと思っていたが、どうやらやら出番はあるみたいだ。


「死ぬほど正直助かりますけど……いいんですか」


「ああ、別に観光しに来たわけじゃない。寝起きの運動にしては丁度良いだろ」


「は!?ダメですって!黒神さんの手を煩わせるなんて……いやぁでも戦いは見たい……」


 と四羽は任務と私情の狭間で葛藤している。自分の仕事に僕らを巻き込むのが心苦しいんだろう。ただそれと同じくらい黒神の戦いを見ていたいらしく目をキラキラさせている。


「行くぞ少年」


「はぁまじかよ」


 そう言って線路上を突き進んでいく黒神の後ろについて行く。ただ海崎の心中は言葉とは裏腹に期待が多く混じっていた。自分の力を発揮する場面はそうそうにない。


(力試しとして役立って貰うか)


 海崎の足取りは軽く、あっという間に黒神の横に追つく。

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