第5話 旅路

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登場人物:


海崎王間:主人公。クソガキッズ。

黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。

四羽彩花:オタク

木島慎平:毒舌


最近暖かいので春が来てるのは嬉しいけど花粉が来るのは許可してない

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 依頼の話しから三日後の早朝。海崎と黒神は列車に揺られながら、目的地へと移動中だった。依頼の内容によると先遣隊が消失した地点まで列車では行くことができないため、そこからは徒歩での行軍となるという。黒神がだだをこねて車が欲しいやらせめて自転車くらい用意しろやら文句を垂れたが一切の要求は通らず断念する事に。


 速度はあまりでていないのでゆっくりと景色が通り過ぎていく。後方には先ほど出発した関東群が見える。関東群はその領域を高さ10メートル程の壁が包囲している。そびえ立つ壁は無機質で物々しく、遠くからでも異様な存在感を放っていた。それよりも存在感を放っているものがあった。


「にしてもでっかいなぁ、霊樹って」

 

「───ああ、そうだな。あれが無かったら今頃人類はもっと数が減ってたろうさ」


「うぉあ!?びっくりしたぁ!」


 海崎は思わぬ反応が返ってきて声を上げた。てっきり寝ているものだと思っていたし、なにより独り言だったからだ。


誰が呼び始めたのか、いつからそこにあったのか分からない1本の巨木。その全長は5キロメートル、直径1キロメートル。スカイツリーの5倍ともなればば馬鹿げた大きさであることが分かるだろう。

 神々しくそびえ立つそれは日夜黄金色に光り輝き辺りを照らす。葉は一枚も付いておらず、枝が幾重も分かれている。その枝を含めると横幅はおよそ3キロメートル。麓は位置的には元東京湾があった場所。だが今は霊樹を中心として森林が広がっていた。東京湾が消え、代わりに土地が広がりそれは森林によって覆われていた。


 元々そこにあるのが当然かのように、いつの間にかそれはそこにあったという。育っていたのなら何故あの巨大な木の存在に気がつかないのだろうか。麓の森林も同様に何時からそこにあったというのか。そもそも東京湾は?埋め立てた訳でもない。地盤が地殻変動によって上がってでもしない限り、そこに草木が生える事は不可能。不明、未明、何もかもが不詳。ただ1つだけ分かっている事が1つだけ。霊樹に亡者が寄りつかないという点だ。それは霊樹が大きければ大きいほど効力を発揮する範囲が広まるらしい。

故に霊樹付近は土地代が高く、裕福層の人間がそこら一帯に集中しており、反対に離れれば離れるほど土地代は安くなる。それに比例するかのように治安が悪化と亡者の出現率が増加している。


「……起きてたんすか」 


「今起きた」


 変な声を出したせいで少し恥ずかしそうに聞く海崎。黒神は全くそのことを気にしていない様子で、状態を起こして大きく伸びをする。


「くっそ、白土の野郎、ケチりやがって。もっと良い車両用意できただろうが。寝心地が悪すぎる!」


 と憎々しげに悪態をついていた。かと言って2人だけだと余剰が過ぎる気がする。


 海崎達に貸し与えられたのは列車の1車両分。両サイドに長椅子の付いている車両だ。荷物があるとはいえ、2人にはあまりにも広すぎる。元々貨物列車としての運用なのでコンテナが連結されているが、今回は任務という事で座席が用意された。特別だという。


 黒神は出発してからすぐに横になった。今朝はかなり早起きだったから予想はできたが……海崎は呆れながら窓の外を眺めていた。


 外の景色は海崎にとってまだ見た事のない未開の土地。噂に聞く伝承や御伽噺の舞台のようにさえ感じるほどだった。


 関東郡にいると外の景色を見る機会が無いため彼の眼にその景色は鮮明で、新鮮に映し出される。今海崎がいる場所は未開領域。詰まるところ亡者が彷徨いている危険地帯。だからこそ関東郡から外に出るのはよっぽどの事例がない限り、禁止されている。というよりも外に出ていこうとする奴なんて自殺志願者か精神異常者の2択だという。


 窓の向こう側には人の営みの痕跡は自然に預手浸食されつつあった。立ち並ぶ住宅街は半壊して屋根が吹き飛んで中を覗かせるものもあれば、落雷なのか何の因果か全焼しその一帯が炭と化した場所も存在した。そびえ立つコンクリート製のビルの側面には蔦が広がり、鼠色を緑で覆わんとしていた。駐輪場に広がる自転車には雑草が絡みついている。息を潜めていた自然が顔を覗かせていた。



 乗り始めて30分そんな景色を見ていた。予定通りに進んでいるので、目的地までは残り1時間程度だろうか。とそんな時に、

 

「やめときなって、いったら迷惑になるだろ」


「はぁ!?いいじゃん!今しか会うとき無いんだよ!?今逃したら終わりだよ!」


 とヒソヒソとした2人の聞こえてきた。全部筒抜けなんだが。そちらの方へと視線を向けると丁度ドアが開き2人の男女が顔を覗かせる。黒神も気がついていたようで、


「どちら様で?」


と声をかける。2人の内1人の女性はもう一人の男性の肩をバシバシと叩きながら興奮している様子だ。男性の方は鬱陶しそうに顔を歪めている。


「あ、あわわわわわあわわ!!!生だ!生果夜さんだよ!!てか果夜さんとか言っちゃったよ……──あ!じ、自分は罪火隊特殊課の四羽彩花よはねさやかっす!」


「痛いってゴリラ……あ、同じく特殊課の木島慎平きじましんぺいです……なんか思ってたのと違うな……」


 2人とも黒神の方を凝視しながら自己紹介をする。方や緊張しながら、方やまじまじと観察しながら。


「か、黒神さん!あ、握手してもらっても良いですか!?」


「え?あ、はぁ、良いですけど」


 羽島と名乗った女性はずいっと黒神の方に近づくと勢いよく手を差し出す。黒神は若干気圧されながら、渋々と言った様子で握手をする。すると、


「ふぉああああああああ!!!」


となんの力も働いていないはずなのに後方へと吹き飛んで行った。凄い音を立てながら壁に激突する。黒神が目を丸くし、えぇと海崎が若干引いていると、


「これじゃ体洗えないぜ……」


「勢いが気持ち悪すぎ。きっしょい。ていうかそこは手が洗えないって場面じゃないの?」


 四羽は燃え尽きた様子で座り込んでいる。それを木島は人差し指で突っついている。

 師匠ってアイドルかなんかだったりするんだろうか。かなり慕われている様子だ。しかし、とうの本人はと言うと四羽のことをなんだコイツみたいな表情で見ていた。


ていうか──


「なんですか罪火隊って?特殊課とかって言ってましたけど……」


「あーそれは虹の五芒星の組織名ですね」


 そう言って木島が説明を始める。


「虹の五芒星って3つの部隊に分かれてます。その内の1つが罪火隊って部隊です。これは亡者との戦闘に特化した部隊で、その部隊もいくつかに分かれててその内の1つが特殊課です」


 すると黒神がそれに付け足しを加える。


「特殊課は名前の通り、亡者と戦うのが専門じゃなくて護衛とかの雑用係だ。その内の業務内容の1つがこの貨物列車の護送だ」


「なるほど……え?てか亡者って列車襲うのか?」


 亡者の生態としては人間を第一優先で襲いかかってくる。それ以外のものに関しては全くの無反応だという話しを聞いたはずだが。と考えていると、木島が隣に座りに来た。


「護送が始まったのはつい最近の事なんです。以前列車が亡者の群れに衝突して脱線する事故がありまして……それ以来、亡者の群れが付近にいる際はそれらを排除して進むようにってお達しがあったんです」


 以前の速度は今よりも速かったらしいが、過去に亡者の群れが列車のレール内に侵入。レール上にいた奴らは細切れになったが、その肉片や骨が車輪との間に挟まり脱線事故を起こした。死者数は運転士2人に、列車は破損。そのままスクラップと化した。それ以来速度を遅め、亡者を発見次第停車、駆除に当たるようになったという。


 いつの間にか復活した四羽が木島の隣に座る。丁度黒神の真正面だ。


「黒神さん黒神さん、武勇伝とか聞いていいっすかてか聞きたいんすけど白土さんとガチでやり合ったことがあるってまじっすかあと複数人の有色家相手に大立ち回りしてボッコボコにしたって聞いたんですけどそれも本当なんすかていうかこの子誰なんですかもしかして隠し子なんですかだとしたら相手って誰なんですかていうか黒神さんってそんな色恋沙汰の話しあまり聞かなかったんですけどかくしてたんですかあもしかして────」


「オタクの悪いとこでてるぞ」


止めどなくまくし立てる羽島の頭を木島が軽く小突く。


「いや、そんな、大したことはしてないって」


 師匠はどこか気恥しそうにはにかんでいる。どこか満更でもないご様子。てか、噂が野蛮すぎやしないか?今の何処に照れる要素あった?あと僕の事に関してとんでもない誤解が生まれているんだが。師匠が気がついていないのが一番良くないでしょ。何で恥ずかしがってんだよ。


 海崎も海崎で感情が爆発していたが、そんなやり取りをよそに、車内にアナウンスが流れ始める。


『亡者の集団を確認。数は20近く。距離1キロ。進行方向より30度。当列車はこれより停止。特殊課の方々は出動の程よろしくお願い致します』


 そのアナウンスが終わるや否や列車の速度は徐々に低下し、停止する。そのアナウンスは随分と機械的だった。驚いたり、焦っている感じは全く感じられなかった。彼らにとってはこれが日常なのだろうか。その証拠に、四羽は地団駄を踏むと、怒りの声を上げる。


「はぁあ!!?クソが!!亡者共め!!空気も読めんとかもうお前らに何が出来んだよ!」


 くるっと一回転するとにこやかな笑みを浮かべる。


「黒神さん、少々お待ちください。あのクソッタレどもをぶっ飛ばしてきますので」


「その変わり身はサイコパス過ぎ──すみません。少しだけ待っていてください。今から討伐に行きますので」


「ん?なら次いでに私達も行くか」


 よっこいしょと言いたがら席を立つ師匠。四羽と木島もその発言にたいそう驚いているようだ。その瞳には黒神の戦闘が見られるのかという期待や好奇心が滲み出ている。


 当の僕も師匠が自分から労働するだと……!?という別方向で戦慄して師匠の方を見ていると、


「何考えてんのか想像つくのが腹立つけど……お前のためでもあるからな。これから向う場所はどんなとこかを知っておくには丁度良い機会だ。何も開放された自然だけが広がっているわけじゃないってな」


 プシューと機械音を立てながら開く扉。太陽が照らす大地。周りに建物は一切無く、草原のみが広がっていた。見通しの良い場所だ。緑は風邪に揺られなびく。


「世界は案外地獄だ」


 そう言って黒神は微笑んで見せた。

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