第4話 消えた部隊

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 登場人物:


 海崎王間:主人公。クソガキッズ。

 黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。

 白土美咲:色々でかい女の人。


 特に書くことがない

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「ふうん、めんどい、やだ、いきたくない」

「駄目だ行け」


 ときっぱり断る師匠に対して食い気味にノーを突付ける白土。既に師匠の返答が分かっていたとすら思える早さだった。


「……内容は分かったが、わざわざ私に依頼する意味がわからん。他にもっといるだろ?有色家にでも頼めばいい。暇人はごまんと見つかるだろ。最悪君が出ばればいいだろ」


「だからこうしてその暇人に会いに来てやったのだ。ひ、ま、じ、ん、にな!」


 師匠は資料をローテーブルに突き返して手で追い払うような動作をするも、嫌味ったらしく白土は言葉を区切ると資料を突き返す。


「先遣隊のメンバーリストは?そのメンツで​──」


「緑沢鶴義​───緑沢家の次男だ。彼を隊長としたB隊だった。責任感の無いやつではあったが実力は自他共に認める程あった」


 師匠が言い終わるよりも早く白土が情報を話し始める。既に有色家が動いていた事案だったという。


「あぁ、あの頑固ジジィの家の。遺伝子が突然変異を100回引き起こしたレベルであの家には似合わない奴だったな。せいせいしてるんじゃないか?」


 そんなこと言って大丈夫なのかとハラハラしていると、案の定琴線に触れていた。


 一瞬にして空気が変わる。白土の圧だ。背中に嫌な汗が流れる。自分が石になった様な感覚に陥る。頭から足の先まで彼女の許可なく行動を縛る威圧。海崎は1つ息を飲む。師匠はというと


「おぉ、怖笑」


 どっと笑っていた。


 ふざけんなこいつ。こっちにまでとばっちりが来てんだぞ。後頭部を殴り飛ばしてやろうかと思ったが、急速に威圧が失せる。白土は言葉をぐっと飲み込んだ様子だった。


「…………その逆だ。躍起になって緑沢家総出で捜査に出ると言い張っている。敵性体の情報がなにも出てきていない。迂闊に捜査に出てこれ以上の損害が出るのは芳しくない。以上を考慮して別の有色家の一員を選出することにした──それがお前だ。黒神」


「はっ!私もその有色家の一員なんだが?私なら損害は出ても構わないと?」


「ああ、その通りだ」


「即答すんな!傷つくわ!」


 無慈悲の回答に対して師匠はギャーギャーと騒ぎ立てる。


 海崎は同じ有色家でも随分と対応が違うと感じた。


 師匠──黒神に関しては仲間意識など微塵もなく、興味さえない様子だ。有色家の1人が行方不明だろうが知ったことではないといった様子。


 対して白土はそんな無関心な師匠の態度が気に入らない。他の有色家に対して仲間意識があるのだろう。それは虹の五芒星の上層に所属していることも関係しているのだろう。自身の部隊が音信不通。それに対して後ろ指をさされたのなら、怒るのはそれほど不思議なことではない。加えて師匠の発言は悪質だった。


「どうせここからかなり遠いんだろ?」


 じとぉっとした上目遣いで軍人を見る。軍人は顎に手を当て思案する。


「そうだな。だが列車で作戦地点付近まで移送する。実際に歩く距離としては、そうだな……半日もかからないんじゃないか?」


「半日も歩くんじゃないか!やだやだ!」


 子供がだだをこねるように手足をバタバタさせて喚く師匠。正直いい年した大人が、ましてや自分の師匠だなんて情けな…………ん?あれ?いつも通りか?

 ただそんな見るも耐えない様子の師匠に対して呆れているというわけでもなくただじっと師匠の方を見つめ、


「ふむ。であるならばしょうが無い。この事務所は今すぐに売り払う。さっさと出て行け」


「はぁ!?」


「うぇ!?」


 師匠と僕は動じに驚きの声を上げる。きょとんとした表情の白土は差も当たり前であるかのように続ける。


「貴様がいるここの事務所の土地代やら住宅代、維持費用は全て軍が受け持っているのだ。貴様が軍の役に立たないというならここを維持する理由もない。おい」


「はーい」


 彼女が指示すると影の薄いボディーガードは外へと出て行く。一分も立たずに何人かの黒服達を引き連れて戻ってきた。屈強な5人の黒服が入ってきたせいか急に圧迫感を覚える。そんな見当違いの感想を抱いているのも束の間、白土は


「この家にある全ての家具を持ち出せ」


 と指示を出し、黒人達はこくりと頷くと手始めにテーブルを持ち出し始めた。


「おい待て待て待て!!お前ら誰の許可得てそんなことしてるんだ!!私がかった家具だぞ!──ちょい!そのデスク一体いくらしたと思ってんだ!返せぇ!!」


 とデスクにしがみつくも、黒服の男は我関せずと言った様子で師匠共々そのまま運ばれていきそうになる。


 そ、そういうことだったのか!!海崎は内心白土の言動に驚愕すると同時に得心がいっていた。ここがそんなに依頼が無くても潰れないのは軍が資金を援助していたからなのか。詰まるところ、師匠って軍公認のニートみたいなものなのでは。


「何だ王間その目は!目上の人に対してしていい目をしていないぞ!!止めろ私を虫を見るような目で見るな!!!」


 海崎の視線が酷く冷めたものになっていくのを察してか、師匠が憤慨していた。


「は?いやいやちょちょちょ!!何勝手なこと行ってんのさ!……あ!駄目!!上は私の部屋なの!!乙女の部屋に入るとか何事ぞや!?」


 師匠は二階に上がろうとする黒服の脚にしがみつき必死に抵抗している。自分で乙女って言うのはかなりきっっっついなぁと思っていると今まで黙っていた白土が口を開く。


「ここのものは全て支援金で購入したものだろ?であるならば此方に所有権がある。まぁ、支援金は今後カットするしこの先も万屋じみたことをしていきたいのなら自分で物件を探すんだな」


 ん?と上から目線で挑発するように師匠を見下す。師匠はぐぬぬとうなり、やがてため息をつく。


「うぅぅぅ……分かったよ!!やるよ!やりますよーー!!」


 狭苦しい一部屋に師匠の叫び声がこだます。

 

 海崎はこのときから自分の行き先に不安を覚えたという。


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 黒服も撤退していき部屋内は先ほどの4人だけが残っている。


「はじめっからそう言えば良いんだよ。こんな面倒くさい茶番を挟まなくて済む」


 師匠は、まったくもうといい、テーブルの位置の微調整し終えると座り直し今一度資料に目を落とす。


「で、これ作戦はこの亡者討伐で良いって事?先遣隊とかは助けなくて良いの?」


「救出可能なら救出して欲しい。……だが恐らく彼らの生存はかなり絶望的だ。持たせた食料も一週間しか想定していない。生存者からの補給を受けて仮に生存しているのならば貨物列車に対して何かしらのアクションを起こすはずだ。だが今の所そういった報告は入ってきていない」


「向かう人数は?」


「お前一人だけだ、が海崎君が付いてくるのなら二人か」


 そう言い僕の方へと流し目をする。14人が消息不明となった場所へと赴くのに師匠と僕の二人だけとはかなり心許ない気がするが、師匠はどうやらそうでもないらしい。


「まぁ二人だけってのは全然問題ないんだが……B隊について聞きたいんだが緑沢以外のリストは?」


「全員一般の民間人だ。魔術の素養が特別高い人間が集まっていたわけじゃない」


 そう言いながら別の紙束を師匠に渡す。その紙を見ると名前と本人のものと思しき顔写真が掲載されており、そのほかには簡単な経歴が書き込まれていた。師匠はそれをペラペラと興味なさそうに流し読みしていく。


「素人集団って感じでも無いか。ふーんなるほどねぇ。私達の物資は?」


「こっちで既に用意してある。玄関先に運んでいるから後で確認して必要なものがあれば要求しろ。必要の範囲内ならば用意する。……他に質問は?」


 師匠は神妙な面持ちになったかと思うと生唾を飲込み


「……今回の報酬は……?」


 期待の目を向けて師匠は資料を盾にチラチラと白土を見る。どこか欲しいものをねだる子供のようにも見えてくる。


「ない。今までの支給した金が報酬だ」


「ボーナスはないのかよぉ!!やる気そがれるよぉ!」


 だが無慈悲にノーを突付けられオーバリアクションに残念がってソファーに倒れる。そんな年齢にそぐわない態度をとる師匠をゴミを見るような目つきで見ている白土だったが、ふと何かに気がついたようで一瞬だけニヤリと笑い、おほんと1つ咳を入れる。


「まぁ、そうだな。働きようによっては……特に両隊の確保なんてできたならば給付金は増えるだろうなぁ」


「よし行くぞ、戒定。さっさと支度しろ。行くぞ今すぐ行くぞ」


 いつの間にか玄関先まで移動していた師匠。あまりの速さに僕はソファと師匠の方を二度見するさっきまでここで泣き崩れていたはずなのにいつの間に……!!?なんともまぁ現金な。あまりの変わり身様に驚いき困惑していると、白土が


「ほら行きたまえよ」


 と支障の出ていった玄関へと顎で指す。あれ?僕も行くことになっているのか。んー、あまり別のことに現を抜かしている場合では無いのだが、ここで断ったら不審がられるか。遠征に向かうのなら自分の目で確かめておく必要はあるだろう。軽く白土とサングラスの男に会釈をして師匠の後を追う。


 2人が出払った部屋には軍人と影の薄い黒服だけが残った。


「君が探していたのは彼か?」


「記憶頼りだと確証は持てませんが恐らくそうですね。写真を見れば分かります」


 手元の写真を確認しながら答える。そこには海崎の顔写真が映っていた。ずれ落ちるサングラスを直しながら答える。


「まぁここを探してもろくな情報は無いんだろうな」


「そう言いながら物色するんですか」


「万が一というものがあるだろ?」


 白土は社長机の引き出しを物色し始める。そこには今までに解決してきた事件や依頼の資料がまとめられていた。それをペラペラとめくるが彼女が欲しているものは見当たらない。後心当たりがあるとすれば上のロフトか...。ロフトへの階段へと向かおうとすると


「おい!!これじゃあ全く足りないぞ!!!こんな装備で大丈夫なわけ無いだろ!問題しかないぞ!!」


 玄関先から黒神の叫び声が響く。どうせいちゃもんだと分かっているが一応依頼側としても最低限の対応はしておかなければならない。はぁとため息をついて玄関へと向かう。


「お呼びだ。行くぞ」


「はーい」


 影の薄い彼は部屋を出る際、再び部屋の内部を一瞥する。残っているのはサングラスの男1人。


「フーッ、気がつかれなくて良かったぁ。顔捕まれたときは流石に焦ったが……俺にしては随分と幸運に恵まれてるな。幸先が良過ぎてびびるけどな。早速九番と鉢合わせるなんてよ」


 彼が視線を落とす先には掌があり、そこには横に黒色で1つの線。マーカーでの落書きの様にも見えるが、読みようによっては「一」とも読める。










 幾度の議論の末小一時間を費やし、ようやく装備品の支度ができたという。今すぐに出発しょうとやる気になっている師匠だったが列車の関係上作戦が決行できるのが三日後らしく、ひとしきりだだをこねた後疲れたと行って二階に上がって三度寝を開始した。






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