第3話 亡者と虹の五芒星と有色家
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登場人物:
海崎王間:主人公。クソガキッズ。
黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。
白土美咲:色々でかい女の人。
説明編です。
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事務所内は縦長の長方形で5.5畳の1k。
部屋に入って直ぐ、左手にキッチンと水道兼洗面所がある。キッチンに関しては師匠は料理をしない人間なので僕以外は滅多に使う人間はいない。
左手奥には階段があり、その先にはロフトが広がっている。師匠の寝床だ。僕は一回も入ったことはないのでどんな様相になっているのか検討がつかない。日常生活に壊滅的な欠陥を有している師匠なので恐ろしい事態になっているのではないかとさえ考えている。
部屋の中央奥には社長デスクがあり、師匠が仕事をする時はそこに座って作業をしている。
デスク右奥には棚が設置されており、今までに扱った依頼の資料や師匠の私物の書籍が陳列されている。棚やデスクに関しては綺麗に整頓されている。そのためか、私生活のだらしなさが際立つ。
デスク前にはローテーブルを挟むようにしてソファが2つ。来客用兼僕の寝床だ。来客の対応をする時はここに座って話を聞くことが多い。
因みに僕は来客用のソファで夜を過ごしている。これが存外悪くない。
そして黒神の奇行も落ち着きを迎えて、白土と師匠は両者ソファに座り込む。師匠に「来客用の良い茶葉を出してやれ」と言われたので僕はキッチンでお茶を淹れローテーブルに置くと、師匠の右後方に立つ。すると師匠は
「コイツにそんなかしこまる必要なんて無いぞ。座れ座れ」
「お前が言うな……まぁ海崎君にも関係のある話になるだろうからな。あと緊張されると此方としても話しづらいからな」
そう言われて僕は師匠の隣に浅く座る。
ようやく白土の訪問の理由を尋ね始めた。
「そんで?そんな狭いボロ事務所にでかい軍のお姉さんが何の用?」
「……!」
師匠のあからさまな挑発に白土は苛立ちを覚えたようだが、1つ咳き込みをして声を上げることは無かった。”でかい”事がコンプレックスなのだろうか。。
「……え?てか今軍って言いました?」
「ん?言ってなかったか。白土は虹の五芒星の准将だ」
准将の位の高さがいまいちピンとこないが、服装の豪華さを見にそれなりに上なのではないだろうか。
「虹の五芒星って確か亡者を殲滅するためにつくられた組織ですよね」
亡者は近年突如として出現し始めた人型の化け物。この出現によって現在世界の半分の人間が死滅。大打撃を被った。亡者の姿形は人間そのもの。普通の人間との区別はかなり付けづらい。ただ亡者は近くの人間を襲い殺そうとする習性がある為、亡者と人間の区別の方法としては自ら歩み寄るのが一番手っ取り早い。
その対応を行うのが虹の五芒星という組織だという。
「その通りだ。町中に出現した亡者に対応できるよう一定間隔の範囲内に派兵所も設置されている」
亡者の一番厄介な問題として挙げられるのは、出現方法にある。出現方法は主に2つ。1つは突如として亡者が出現する。どんな場所にでもだ。普通なら立ち入ることのでできないような閉鎖空間にさえ出現することができるというらしい。
2つ目は人間が亡者へと変貌する。これは誰が何故変貌するのか全くもって解明されていない。突如として前触れも無く。一分後もしくわ1日後それとも1年後か。
2つ目の出現方法がとてつもなく厄介な原因だ。理由が分かっていない以上、誰も彼もが亡者になる可能性があるのと同じ。故に疑心暗鬼が伝染していった。隣人がもし亡者になったら自分が殺される……そんな不安に駆られて隣人を殺害した。そんな話しも珍しくない。
またその性質を利用して殺人を犯した後に亡者だったと虚偽の報告をする者もいた。その判断は難しく、別の方面からの証拠からそれが嘘か誠かを明確にしなければならない。そのため凶悪犯罪が世界的に多発。亡者だったと言えばそれを覆す事はかなり難しい。どの生存圏でも治安は悪化は憂慮すべき重要課題となっている。
だから白土が言った通り、一定範囲内に派兵所を設置されているのだ。いつ何時亡者が出現しても言いように。
そんな亡者を相手に戦闘を行うのが虹の五芒星。それを作り上げたのが有色家と呼ばれる集団だ。
そう言えばとふと気がつく。
「……もしかして白土さんも有色家なんですか?」
「ああ、私も僭越ながら有色家に名を連ねさせてもらっている」
僕が尋ねると白土は優しい口調で答えてくれた。師匠との温度差に若干戸惑いつつも相づちを打つ。白土にも白が入っている為もしやと思ったが。
有色家────世界に亡者が出現し始めてから突如として表舞台に現れた魔術師集団。特徴としては名字に色を含んでいる。ただ色が含まれていれば誰でもそうかと言われるとそういうわけでもなく、色ごとに名字は定められている。殆どの素性が分かっていない。虹の五芒星が組織され、表舞台に立つ者も多くなったが、都市伝説程度にしか噂が広まっておらず、未だ全貌は掴めていない。白土もまたその表舞台に立つ人間の1人なのだろう。
師匠の苗字は黒神。彼女も有色家の1人であり、言い争いをしている白土もまた有色家の1人。この小さなワンルームに有色家が2人いるのだ。見る人が見ればとんでもないことなのかもしれないが、海崎にはこの稀有さは理解出来ずにいた。
「お前に依頼だ。奪還領域にて生存者がいる可能性がある」
奪還領域は人間がそこで生活した際に、安全を保証することができない土地の総称。その対局である安全領域もあるが、奪還領域に比べてかなり狭く8:2の割合だと言われている。現在安全領域に指定されているのは東京を中心とした関東群、日本内にある最小領域である愛知県の名古屋市である名古屋区域、そして最大領域にして最大人口を誇る大阪、奈良、京都、兵庫が連なる関西大連合、この三つだ。他にも人類が生存している場所は確認未確認含めて存在しているが、先ほどの三つほどの安全性、生産性、発展性はなく、何時崩壊してもおかしくない不安定領域とも呼ばれている。時折、他の領域から逃げ出してきた難民の保護を行ったというニュースが流れてくる。
人類の悲願としては奪還領域の完全制覇。及び各地の生存者の保護。この二点。その奪還領域に人がいるならその保護を行うのが軍の使命の一つだ。
「ふぅん、軍が生存者の保護に力入れるなんて何かあったの?今までなんて生存者なんていようがいなかろうが保護に向かった事例なんて片手で足りるんじゃ無いのか?」
「そんな消極的というわけでもない。確証が得られないのでな」
黒神はどうだかといった冷ややかな視線を向けながらお茶を一口含む。
苦虫を潰したような表情を浮かべながら白土は「無茶をいうな」と続ける・
「そういう生存者の目撃情報というのは別の場所から逃げのびた人たちからの情報が多い。逃げる途中で離ればなれになってしまった家族や不安定領域から助けを呼びに来た人などだ。それらの人たちの情報に信憑性があるか、またその遠征に向かうためにかけるコストに見合うのかどうか等々、そんなおいそれと動けるものでもない」
「で?そんな形骸化した目的のために動く理由は?」
「資料を」
と白土がこくりと頷くと自分の後ろに向かって声をかけるとスーツを着た男がこくりと頷き、ビジネスバックから紙の資料を取り出す。え……?もう一人??
「え!?」
「……えぇ気がつかなかったんだけど……魔術の類いでは無いと思うんだが……」
いつの間にか知らない男が部屋の中にいた。軍人の後ろに─丁度僕と同じような位置に立っていた。痩せ型の丸いサングラスを付けている。師匠も気がついていなかったようで驚いている。師匠も僕も真正面にいるので視界には入っているはずなのに、認識していなかった。
「あぁお気になさらず。元からこんな感じなんで」
顔を引きつりながら無理矢理笑みを浮かべて答えるその男はローテーブルの上に僕らに向けて資料を置く。すると師匠は立ち上がりその男の顔に両手を添える様に触れた。サングラスの男は素っ頓狂な声を上げる。
「ふぉ!?」
「いる……ここにいるぞ海崎!!ここに人がいるんだ!!!」
「いや分かってますって……気がつかなかったけど。ていうか離して上げてくださいよ困ってますよ」
そのスーツ姿の男はあたふたし始めた。そりゃそうだ。初対面の人間から両手で顔を挟まれたら誰だって驚く。かけているサングラスが絶妙に似合っていない。白土が師匠を注意する。
「私の部下にちょっかいかけるな」
「いやぁ……影が薄いってだけで家に入ったのにも気がつけないって逸れも早病気レベルだよ……?下手したら不法侵入だよ?」
「ま、今んところ訴えられた事は無いのでもーまんたいっすねぇ」
黒神の提言にも男はハハハと乾いた笑い声を上げながら他人事のように受け答えする。
師匠はその男の置いた資料を受け取ると座って確認し始める。僕も後ろから覗き込む。その間白土はお茶を飲む。不意に悲鳴の様な声が上がりそちらの方を向く。白土が苦悶の表情を浮かべている。
「にっっっが!!」
と自分の喉元を抑えながら悶絶し始めた。
「おいおい、最高級の茶葉だからねぇちゃんと味わっての飲みなよ」
「きっさま……!!」
どうやら師匠は軍人の趣向を知っていたようで、意地悪くニヤニヤしながら苦しんでいる彼女を見ている。どうやら彼女は苦いのが苦手らしい。んーだから一番言い茶葉で淹れてやれとか言ってたのはこの嫌がらせのためだったのか。
「あぁ大丈夫ですか?無理して呑む必要はないですよ」
あまりに苦しんでいるため僕が提案するも白土は手で制す。
「いや大丈夫だ」
そう言って湯飲みを掴んで中身をじっと見つめる。中には緑茶がつがれている。高級茶葉というのは往々にしてにがみが強かったりするもの。それがよさでもあるのだが彼女にとってはむしろ良くないらしい。だが何の責任感からか出されたものをむげにする事ができないらしくお茶とにらめっこを開始する。
掴む湯飲みに力が入る。意を決したようにぐっと流し込む。
「------!!!!」
顔がくしゃくしゃになっている。影の薄いボディーガードは無表情だ……いや、微妙に肩が震えている気がする。師匠は紙から眼を話すことなく残念そうにため息をつく。
「おいおい、ちゃんと味わって飲んでくれよ。折角君のために高級茶葉を使ったんだぜ?これじゃあ出した甲斐ってのがないものだ」
「……さっさと読め」
キッと師匠を睨みつけ、師匠はコワイコワイと茶化しながら再び紙に目を向ける。僕も先ほどの続きから読み始め、数十分が経過しただろうか。以下のことが分かった。
・先月から名古屋と関東群を繋ぐ貨物列車の車掌からとある地点から煙が上がっているとの報告が多数上がった。
・その煙が発見された地点は全ての報告で同じ地点。時間は朝8:00と夜19:00の2回であるという。
・その規則性から生存者がいるのではないかと考えられる。
・車掌からの報告の数と列車からの距離が近いという点から不安定領域への遠征を決定。
・四人の先遣隊Aを派遣。作戦としては生存者を発見次第通信機にて報告を入れ帰投する。
・しかし先遣隊Aが出立してから5日が経過。通信による報告がない。また5日間のなかで通信機器の呼びかけに対する応答なし。
・亡者、もしくは何かしらの事故に遭った可能性が浮上。そのため構成人数10人のB隊を派遣。
・先遣隊と同じ作戦を決行。作戦決行は五日前から行動開始。
・先遣隊と同様B隊からの通信が途絶。
・B隊との通信途絶から隊員10名が全員事故に遭ったとは考えにくい。よって先遣隊A及びB隊の両隊を襲ったと考えられる存在は2つ。亡者か作戦地点に住まう生存者だ。亡者である場合は強力または大多数の亡者が地点を根城にしていることが考えられる。
・貨物列車からの距離が近く、仮に大量の亡者がいたとしてそれを放置するのは名古屋区域及び関東群両領域の多大なる損失となる。
・故に軍はこの地点に戦力投下を決議。ここに黒神果夜を派遣し作戦を決行。
・作戦内容は以下の通り。生存者の手による者か、亡者の手による者かの判断。生存者に関連が見られない場合は保護に当たる。また、両隊の消失の犯人だった場合はこれの確保。亡者である場合は襲ったと思われる亡者の討伐。
・両隊の通信機による報告が成されなかった点から期間を5日間とし5日後に列車での回収をし、作戦を終了とする。
・作戦決行日は本日より三日後の6:00とする。
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