第2話 優雅な朝
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登場人物:
海崎王間:主人公。クソガキッズ。
黒神果夜:海崎の師匠。ダメ人間。
白土美咲:色々でかい女の人。
導入が結構長くなりましたがこっから本編みたいな感じです。九番以外の番号の方は忘れて貰っても構いません。出番大分あとなんで。
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「前から思ってたんだがここってなんで潰れないんだ?」
来客用のソファーに座り、先程入れたばかりの熱々のお茶を1口流し込み尋ねる。暖かさが体の芯まで到達する。
視線を送る先には腕を枕にして突っ伏している人が。ここからだと性別の判断ができないが女性だ。手入れのされていないせいかボサボサの髪が覆っている為、巨大な毛玉のようにも見える。彼女の使っている社長デスクはそれなりに高価なものだったと思うが、こんな威厳のない社長机の使い方ができる人間もそういないのでは無いかとさえ思う。
「んー?あー………………………」
「答えるのめんどいからって寝んな。もう昼だぞ?」
「いいじゃないか〜、ここに客が来ないってことは誰も困ってないってことだろ?私達が暇であればある程世間は平和であることの証明になる。その平和を謳歌する権利は誰にでも与えられてしかるべきなのだ。という事で私は寝る。お布団が私を呼んでいるのでな」
事務所の前に立てかけている木製の看板。腐食が激しいものの、かろうじて黒神相談事務所という文字が見える。相談事務所と名を売っているものの、実際の所の業務内容は何でも屋と殆ど変わらない。
「お布団が呼んでるって……僕には聞こえないんだが?」
「
などと訳の分からない理論を組み立てては不適な笑みを浮かべ、のそりと立ち上がる。
美人の類いに入る彼女の容姿はすらりとした痩せ型で、整った顔で見られると今でも落ち着かない。鼻は高く、その瞳は黒曜石の如く黒い輝きを放つ。顔もある理由からか相対的に小さく見える。故にその不適な笑みさえ、様になってしまうのだ。ただ残念なのは腰下まで伸びた髪で、面倒くさがり屋である彼女の良くないところがでている。とにかく毛量が凄い。もうほんと凄い。最近は掃除していると幽霊でも住み着いているのかと勘ぐる程の長髪が散乱している。しっかりとした手入れを行えばその黒い長髪も魅力の1つとして入るのだろうが……はたしてそんな日はやってくるのだろうか。
「やっぱ腕を枕にするのは良くないな……」とぶつくさ呟きながら2階へと上がろうとする。2階には彼女の寝室がある。今から2度寝する気か?……いや今朝僕が起こして寝てまた寝に行こうとしているから3度寝か?呆れて僕はため息を漏らす。
「そういう屁理屈が聞きたかったわけじゃないんだが……じゃあなんでそんな平和なのにここは潰れないんだ?」
ここでようやく冒頭の質問へと返り咲く。経営の知識は無いため断言する事はできないが、こんなに仕事が無くてもやっていけるものなのか、と僕は不安になっていたのだ。と言うのも僕がここに来て数ヶ月、依頼の数が極端に少ない。依頼があるのは1ヶ月に2,3個程度。それぞれの依頼主の報酬が羽振りが良いのかと言われると今のご時世、そんな人も少ない。
「そりゃ単純な話しだ。仕事ってのは誰かが必要とするからこそ存在してんだろ────」
するとかん高い機械音が響く。来客を告げるインターホンの音だ。
「こんな感じで、な……はぁ」
唐突な訪問者に三度寝が中断されて不機嫌そうに肩を竦めた。階段へと伸びていた足をくるりと反転。くたびれたスリッパがやる気のなさそうにポスポスを音を立てる。そのまま玄関へと向かった。
海崎は少々驚く。いつもだったら僕に出てこいと命令してるのに。とうとう自分で動くことの大切さを知ったのかと感心していると、
「おい、私の3度寝を妨害するとはいい度胸だ。つまらん話しならぶっとば…………おや、これは随分と珍妙な客人だ。どうぞ中へ」
ま、そんなわけ無いですよね。3度寝を妨害されて苛ついていただけのようです。加えて玄関の前の人間が誰か分からないのにぶっ飛ばす、とはいかがなものかと思っていると、黒神が予想の斜め上の反応を示す。
師匠の反応から察するに、知り合いか一度の依頼に来た事のある人物だろうか。どんな人物なのだろうかと玄関の方へと向かうと、その本人と鉢合わせる。それは事務所内に入ってくるなり辺りをキョロキョロと見渡していた。
第一印象はとにかくでかかった。身長は170cmよりありそうだ。黒を基調とした、堅苦しい服装が身長と相まって威圧感を放っていた。肩には金色の五芒星が3つ付いていた。そのほかにも金色の死守が施されており、黒色と相まって煌びやかな印象を覚える。
海崎の身長は163cm。年齢別の平均身長よりも低いのもあるせいか、その訪問者が壁のようにも感じた。壁と言っても双丘はあるわけだが。それもそっちも相当でかい。……下見えてるのか?
突然の巨大な訪問者に海崎が言葉を失っていると、相手はキリッとした目つきで此方を捉える。
「ん?……ああ、君が例の……噂は聞いてるよ。私は
「はぁ、どうも。海崎王間です……噂?」
とにこやかな笑みを浮かべる白土。威圧感とその丁寧な挨拶とのギャップに戸惑いながら軽い挨拶を交わす。僕の口から零れた疑問に気がついたのか白土は、
「……ああ、アイツが──黒神は大分変人だろ?そんなやつが子供一人を弟子に知ったって話しは大分ショッキングなニュースでね。あるものは笑い、あるものはけなし、あるものはその子供の将来を憂いた程だ」
「はぁ、そういう……」
「おい!私のこと何だと思ってるんだ!!獣じゃ無いぞ!?人間だからな!!あと海崎!お前も納得しそうになるな!」
白土の発言に黒神は憤慨している。まぁ事実として師匠が変人なのは間違いない。変人として以外にも理由はあるだろうが、黒神はそれなりに名の知れ渡った有名人らしい。イカれた奴が子供一人を預かっているなんて知ったら、「とうとう人間の心を取り戻したのか」とか「獣かと思ったら人間だったのか。見直した」とか「人間の子供だったのか」と関心されるのだろう。因みに今の発言はそれまでに出会った中で僕が実際に聞いた情報だ。その度に師匠は怒り狂ってる。今回も通常運転らしい。
白土はそんな黒神の発言を無視して「にしても」と言いながら辺りを見渡す。黒神は「にしてもじゃない!!無視すんな!コラ!」と地団駄を踏んでいる。
「相変わらず狭いな。もっと広い所に事務所でも構えたらどうだ?こんな所じゃ客だって来やしないだろ」
「違う!ここが狭いんじゃ無い!!お前がでかいんだよ!……クッソ!びくともしねぇ!!」
白土が、入り口付近で立ち止まっているせいで、黒神は中に入れないでいた。後ろから蹴ったり、タックルしたり、あらゆる方法で押し出そうとするも微動だにしないようだった。再びタックルを仕掛けようとした矢先に白土が動き出し、ぶつかる対象が居なくなった黒神のタックルはその延長線上にいた海崎に激突。
「ほごぁあ!!?」
海崎は突如として突進してくる黒神に吹き飛ばされ、後頭部を床に打ち付けそのまま両者ともに倒れ込む。黒神が海崎の上にのしかかる形になる。黒神は状態を起こすと海崎の襟を掴んで揺さぶる。
「っててて……はっ!─か、海崎!しっかりしろ!!一体どうしてこんなことに……誰にやられた!?」
「お前なんだよ!!!さっさと降りろ!!おーもーいー!」
「はぁあ!!?誰が重いだ!!太ってないし最近運動しておなか出てきたとか思ってないし!!身をもって体験しろやぁ!!!」
ブチ切れた黒神は海崎の腹の上で正座をするやいなや正座の状態を維持しつつジャンプする。ジャンプする際に膝が思いっきり鳩尾に入るせいでその度に激痛が走る。
「やぁ、めぇ、ろぉ!!」
「なにやってるんだお前らは……」
それを冷めた視線でみる白土。ほんと何してるんですかね……。
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