第零話 開戦(2)

/*************************************

登場人物:

九番:主人公。クソガキッズ

一番:自虐青年

二番:ギャル

三番:天然ロリ

四番:関西弁のおっさん

五番:眼鏡が無いと落ち着かない人

六番:ひ弱な女性。ひよよさん

七番:狂犬姉貴

八番:感じのいい男性(笑)

自称神様:自分を神だと思い込んでいる一般男性


あらすじ:知らないところにいたかと思うと神様を名乗る人間から殺し合いして生き残れって言われて自分が死んでるって気がつきました。


*************************************/





「…………………………」




 自分の死の直前を鮮明に思い出し腹部に負った痛みを感じて、服をめくってみるが、傷は一切無い。

 長い沈黙が辺りを包む。皆同じタイミングで記憶が蘇ったのだろうか顔色が悪い者もいる。自分の死の追体験をして気分が良い奴なんていないか。

 それを突き破ったのはまたしても七番の女性だった。


「つか、何でそんなことできるんだよ!」


「愚問ですね。私神様ですよ?何でもできるに決まっているじゃ無いですか」


 七番は噛みつくが、自称神様はフフンと得意げに鼻を鳴らす。

 七番は吠えてないと死んでしまう病気にでもかかっているのだろうか。出会ってからここまでで冷静に話している姿を見たことがない。ただ自分の死の光景を目の当たりにして尚強気の姿勢を崩していないのは豪胆としか言い表せない。


「それはそれでいいんだけどさ、それやって神様に一体全体何のメリットがあるわけ?」


 七番を皮切りにしてか、八番の青年が声をあげる。確かにメリットが思い浮かばない。生き返らせたところで果たして神様に何か利益があるのだろうか。と言うか理由が全く分からない。殺し合いをさせて一体何がしたいのか。指を鳴らして自称神様は、


「良い質問ですね。理由としては現世の人数が極端に減ってしまっているからなんですよ。減った原因は現世に降りたらすぐにでも分かると思いますよ。これだと人類滅亡まで待ったなし。あと死人処理が色々と面倒くさいんですよねぇ……あ、やば、今のは仕事の愚痴なんで気にしないでください」


 ハハハと笑ったかと思うと大きくため息をついた。なんか神様でも世知辛そうだ。  


 「サラリーマンかよ」と一番の青年が小声でツッコミをいれる。


「神ちゃん、おっさんみたいなこと言うじゃんウケる」と二番の女性は笑っていた。


 自称神様は咳払いを1つして続けた。


「それはいいとして、人類が居なくなるのは流石に私としても望むところじゃないのですよ。全滅したら私を崇めてくださる方が居なくなってしまうのでね。というわけで死人を減らすことにしたんです」



 「死人を減らすことにした、ってあっさりやなぁ……流石神様ってか」やることのスケールが大きすぎてか五番の男は苦笑する。


「まぁ、なんと慈悲深いことでしょう」と六番の女は口に手を当て感服の声を漏らす。

 


 円卓の上の周縁を歩きながら自称神様は続ける。その片足に三番の少女が触れようとするが、自称神様は足を上げて回避。三番の少女は「うーっ」と唸っていた。


「でも死んだ人間全員何のデメリットも無く生き返ってしまったら、現人類の生死観が壊滅してしまう。なのでこうして人数を絞るわけです。理解できました?」


 ……現人類。既に僕らは人類から除外された存在だという。確かにその通りだが疎外感を覚えるのは何故だろうか。死の追体験をして尚、生きているような気さえする。体が存在して、服を着ている現状がそうさせているのかもしれない。


「さっすが神様、わかりやすーい。 でも仕事の愚痴言うとか、まじで人間みたい」


「ほんとです?それはどうも」


 と八番ははしゃぐように笑顔を作っているものの、目が全く笑っていなかった。八番の皮肉交じりの発言を額縁通りに受け取り、自称神様はにっこりと笑みを浮かべる。その様子を見て一瞬だけ目を細め、元通りの笑顔を浮かべていた。


 詰まるところ、現在の地球は何らかの理由によって絶滅する可能性がある。故に死んだ人間を蘇らせることで絶滅を防ぎたい、と。だが果たしてそれで絶滅は回避できるのだろうか。何らかの理由の部分をどうにかしなければ意味が無いように思えるが。ただその疑問はすぐに解消されることになった。


「よろしいですか」


 と四番の男が挙手をする。自称神様は「どうぞ」と優しく声をかけた。四番の男は指を4本立てた後に人差し指のみを立てる。


「質問が4点。1点目ですが、先ほど何らかの理由で人類が滅亡するとの発言がありましたが、私達が生き返ったところで──しかも1人だけ生き返ったところで──人類絶滅を免れるのですか?それともそのを取り除け、と?」


は未だ顕在中ではありますが……直に終えます。脅威を取り除く必要はありません。戦いにのみ専念してください。あと人数に関しては私の脳内だと世界が存続するには後1人だけ足りないんですよね。故に復活できるのは1人だけにしました」


二番の女性が「てかさ、」と言って割って入ってくる。


「そのって何?ちゃんと教えてくんない?チュウショウ?的すぎてわかんない」


「ご自分の目で確かめて頂ければと」


「うっわコイツ探偵みたいな事言うじゃん!……あ、神様にコイツとかいっちゃった」


 意地の悪い笑みを浮かべて質問を躱す自称神様に対して、二番は指を差して批難する。

 あまり納得のいっていない様な不満そうな表情を浮かべながら、四番は指を2本立てる。


「2点目、殺し合いをさせると仰っていましたが、ルール等はあるのですか?」


「ルールと言ってもそれらしいものはないのですけど。基本的にルール無用。何でもありです。如何なる手段を用いて殺して頂いて構いません……強いて言うなら基本的にはフィールドはどこでも。勝利条件は相手を殺すもしくわリタイアさせる。リタイアは自由なタイミングで言ってもらえれば良いです。いつでも聞いていますので。敗北条件は死ぬかリタイア。その時点で地獄に落ちて頂きます」


 ……地獄?何故地獄なんだ?と疑問が浮かんだが、一瞬で自身の脳内にて自己解決した。間髪入れずに自称神様の説明は続く。


「あ、それと1つ。ただの殺し合いだとつまらないので貴方方に2つのものをご用意いたしました。1つ目は異能を。まぁ現代で言うところの圏界魔術と呼ばれる奴です。異能の内容はそれぞれで違いますので、個別でご後ほど説明させて頂きます。2つ目は貴方の僕となる咎人の候補者を選出して頂きます。彼らは頼りがいのあるパートナー足りうるでしょう」


「候補者……追加質問ですが、私達がその咎人とやらを選ぶのですか?」


「そうです。このあと選んで頂きます。その時に異能の解説はいたしますよ」


 自称神は満足そうに頷く。圏界魔術?異能?咎人?聞き慣れない言葉がつらつらと並べられて困惑する。頭の理解が追いついていない。


 殺し合い……と言われて刃物やら銃器等を想像していたが、魔術なんて言葉が出てくる辺り現実離れした戦闘となるのだろうか。咎人……と言うのがどんな存在なのか分からないが、複数人からなるチーム戦と予想できる。詰まるところ、何でもありのチーム戦。


 七番の女性は「んんんんん????」と顔を歪ませて苦悶の表情を浮かべている。二番の少女は思考放棄をしたのか「ほへ~」と空気が抜けたような声を上げている。五番の男がやや思案するように顎に手を当て、しばらくてから、


「3点目、この番号は?」


 そう言って机の上に刻まれている番号を指さす。僕も気になっていたものの1つだった。正直今の所その番号でしか個人を識別できていない。未だ自分の名前さえ思い出せないでいる。


「ああ、それは貴方方を見分けるための番号です。因みに言いますと番号が高いほど異能は強い異能を与えます」


 全員が円卓の数字に焦点を当てる。自分から右へ左へと数字は進んでいきその視線は1つの数字で止まる。それはつまり……と考えていると、全員が同じ結論に辿り着いたようで、全員の視線が僕の方へと集まる。この円卓に刻まれている数字の内1番大きな数字は九──僕の目の前に書かれている数字であると言うことだ。


「ですがご心配なく。全員のパワーバランスが同じになるようにプライズとペナルティをそれぞれに与えますのでご安心を。値が大きい方は今のうちに心構えを……と言っても心構えもクソも無いでしょうが」


 ハハハと笑っている。何笑ってんだコイツ。笑いごとじゃない。今ので自分に対する注意が集まった。ペナルティがあるとはいえ、開始早々袋叩きだって有り得るのじゃないだろうか。出る杭は打たれるとは言うし、何もフェアじゃない。自分の顔が引きつっているのが自分でも分かる。ありがたい情報ではあるが、同時に自分にとって不利益な情報が皆に知れ渡ってしまった。競合して倒されるなんて展開はごめんだ。


 四番が「最後に、」と付け加えて話し始める。


「四点目、この場所はどこなんでしょうか?」


「この場所ですか?私が作り出した空間です。貴方達死んだ人間を留め、現世に押し返す為の場所って感じですかね。今の貴方達は一種の幽霊の様な状態ですね」


  随分と趣味の悪い空間を作り上げると思った。飾りっ気の無い簡素な部屋──いや部屋と呼んで良いかさえも分からない空間。だが、死んだ人間を現世に送り出す為の空間だとするなら飾りも何も必要は無いのだろうけど。


 先ほどの暴露のせいで気分は最悪だが、四番の質問から現状の理解が深まった。今までの情報を整理するに、僕らは既に死んでおり、生き返りのチャンスを与えられている。ただ生き返る権利を得るには。この9人で戦い生き残る必要がある。自称神様曰く生き返らせる動機としては人類の滅亡を防ぐ為の数増やしだという。


 殺し合いに関してはルール無用。リタイアは自分の好きなタイミングで行えるという。勝利条件は自分以外を殺すこと。疑問の挟まる余地もない程にシンプル且つ明確。ただ殺し合いには異能と咎人が与えられ、複数人からなる陣営同士での戦闘となる。


 これが僕らの現状であり、僕らが挑むという戦争の内容だ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る