第3話 願いの代償。
魔王城の敷地を出て人間界を目指す。
まだ何も起きない。
だが夜は来て腹は減り眠くなる。
ノーグはジョカーと食事をすると「寝るかい?」と誘われて共に寝る。それを3日ほど過ごしたところでジョカーが「さあ、神を呼ぼう」と言った。
「呼ぶ?」
「ああ、神は呼べばくる。偉業を成し遂げた者は神を呼ぶんだ」
そう言ったジョカーが天を見て「我が名は過分な願いの魔女・ジョカー!我が武器フラインググリードは見事王達を倒した!この偉業に応えて我が前に姿をあらわせ!」と言った。
「自分が何をしたのか宣言をして神を呼ぶんだ」
ジョカーがこっそりと秘密を話すように言う。
確かに死の回避はジョカーの力で、それでバースオブデスを殺したノーグはジョカーの武器なのかもしれない。
だが王達とは何か?ゴシロトヒ達のことかと思っていると晴れなのに辺りが曇り空のように雲が出ると雲間から光と共にローブを身に纏った老人が降り立った。
「…確かに偉業を見届けた。本来ならば栄光を授けて終わるのだが他の目論見があるのだろう?」
神の声と顔は暗く恐ろしい。
ジョカーは悪びれることも怯えることもなく「ふはっ。まずは我が武器の言葉に耳を傾けてください」と言って笑う。
「武器…、盲目の少年を武器と呼ぶか。少年、私は神。何を話したい?」
ノーグは神を見て血が沸き立つのがわかった。
「神よ。何故祝福を作った?」
「人を幸せにする為、才能の後押しをする為だ」
「俺は幸せにはならなかった。母はナンバーワンを目指し失敗し、父は顔も知らぬままに死に、母は身と心を壊して死んだ」
「知っている。本来そうなった者は淘汰される。生きている事がありえない」
神の淡々とした言葉にノーグは苛立つかと思ったがなんとも思えなかった。
「だが俺は生きている」
「そうだな」
「俺はどうなる?」
「自身で選べばいい」
「自死は死の回避が発動する」
「そうだな」
「この世から祝福を消す気はないのか?」
「ない。祝福があるから人々は幸せになり栄えた」
「祝福を捨てねば俺が貴方を殺すと言えば?」
「無理だ、人の手は神には届かない」
神の余裕のある表情と言い方にジョカーが「ふはっ」と笑うと「じゃあ私の番でいいかな?神様、私の過分な願いをどう思います?」と聞いた。
「世界の破壊を目論む魔女。何故ナンバーワンのお前が世界を憎む?」
「魔女をしても何をしても敬われ、羨まれるこの身が憎いからにございますよ?ふはっ」
神は首を横に振って「嘆かわしい事だ」と言う。
「ふはっ、そして友の問いにお答えいただけますか?」
「申してみよ」
「友は…長い時を共に生きたバオデスは、何故魔物や魔族は人を憎み人を襲いたくなるのか?何故無縁の関係ではいられないのか?と聞いていました」
「ジョカー?バオデス?」
「ふはっ、バースオブデスさ。この世界には数名の祝福を得ても祝福に振り回されない者達が居るんだ。
私達は神に問いたかった。
祝福の意味と意義を…。だがバオデスは魔族、私に偉業は無縁。だからフラインググリードという武器に偉業を成し遂げてもらったのさ」
神は「生きる者には役割がある。夢や希望もある。自由の中の不自由や理不尽が世界をよくする。その為の祝福だ」と答えた。
「聞きたい言葉は聞けた、古い伝承にあった。それを叶えたく過分な願いの魔女と呼ばれた。その願い、叶えさせてもらいます。ふはっ」
「魔女と呼ばれようとも人の身では無理な事、諦めよ」
何を言っているのかノーグにはわからなかったがやることはわかっている。
ジョカーは「そうでもないさ!ノーグ!」と言い、ノーグも「わかった!ジョカー!」と言った。
ノーグはジョカーから短剣を渡される。
神は不思議そうに「何をする?」と聞くと、ノーグは「これだ!」と言って短剣を抜く。
神は哀れんだ目で「祝福のないお前は剣を抜いても刃は欠け」と言い言葉を続け、「腐り落ち…ていない?」と言って目を丸くした。
神の祝福がない人間がどうなるかを神は知っていた。
知っていただけに想定外の内容に目を丸くする。
「まさか…」
「散々試した。攻撃の意思を持って抜けば腐る。欠ける。とにかく不都合を起こす為に世界が俺を追い込む。だが例外がある。世界が俺に望むもの、それは俺の苦しみ。だから…」
そう言ってノーグは自分の胸に剣を突き立てた。
なまくらの短剣でも恐ろしい切れ味を示してすっと剣はノーグの胸に刺さり、ノーグは即死をする。
だが死の回避がそれを許さない。
そして死は…。
「ばかな…なぜ私が…死ぬ?」
神に押し付けられた。
「ふはっ、パワーアップして死の回避は同じ世界に居る高位の存在から殺すことにしたのさ!バオデスが死に、幻獣界の生き物達が死に、そして人の王も死んだ。万一を封殺した今、この世界で1番高位の存在は神、あなただ。私の力は直接的ではなく世界のルールを変える力、そして私の武器フラインググリードは神を殺した。すなわち私が神だ!」
神殺し
世界のルール。
神を殺した者は神になる。
過大な願いの魔女・ジョカーの願いは神になる事。
そして人の身で神になるのは難しい。
神殺しを行うにしても高位の存在の神をただの人には狙えない。
だからこそジョカーは長い時間を使って神に攻撃の届く方法を考えた。
自身を高位には出来なかったが代わりに死の回避を使い、死を高位の神に押し上げた。
神の身体が霧散すると「ふはっ、これが神の身体。人とは違うね」と言って喜んだジョカーは浮かび上がるとノーグに話しかけた。
「今までありがとう。フラインググリード、いや…ノーグ」
「願いが叶って良かったね。この世界はどうなるの?」
「どう…。私がこの世界の神になった。今は何も変わらないよ。ふはっ。だがこれまでのお礼に君の願いを一つ叶えようと思う。この世界から祝福を消す。
これからはそれぞれがそれぞれの力だけで生きていくんだ。君は平等になる。
皆君を見て本能的に攻撃をしようなんて思わない。ぞんざいに扱ってしまおうなんて思わない、疎まれる事も蔑まれる事もない。勿論食事も服も平等で君が手に持つ事で壊れる事もなければ腐る事もない」
この言葉にノーグはようやく変われること、新しく始まることを意識した。
だがノーグが意識した次の瞬間、ジョカーは「今度は世界の恨みを一身に受ける」と言った。
驚きの表情でジョカーを見るノーグ。
驚きの目を向けられたジョカーは「なに、簡単な事さ。君は祝福の消えた世界で祝福が消えた原因として恨まれるんだ。ふはっ」と言った。
「…魔族からはバースオブデス、幻獣界の生き物達、人間界の王が死んだから?」
「ふはっ!本当に君は賢い!そうさ、どこで気付いたかな?神との会話かな?でも何処で人間の王達が死んだかまではわからないだろう?バオデスを倒した君の死の回避をパワーアップさせた時、高位の存在から死ぬように仕向けた。その後君はなにをした?わからないかな?食事だよ。あの食事には激痛もなにもない特製の毒が仕込んであったんだ。本来ならば毒殺された君は今ここにいる。バオデスの死後、何日過ごしたかな?その間の食事は?そうさ、全部毒入りの食事で君は高位の者達を全て殺していたんだよ」
「…なんでそんな事をしたの?神を殺す為だけ?」
「ふはっ、違うよ。私は君が憎たらしいんだよ。祝福が無い素敵な身体。君は誰かが力をかさなければ死んでしまう存在、だけど私は死のうとしても世界がそれを認めない。あっという間に偶然人が現れて救っていく。だから君には厳しい現実を残したんだ」
ジョカーは「じゃあ私は天界に赴いて悠久の中で世界について考えてみることにするよ」と言うと消えた。
ここで改めてノーグは道具にされていた自分の愚かしさを呪った。
凱旋を果たしても感謝はない。
ノーグだとわかると襲われた。
そして恨みを受けて死んでも死の回避が別の物に死を押し付けて殺す。
だが人々はノーグどころではなかった。
魅力的に見えた男女の仲も祝福がもたらした虚構だと気づくと愛が冷めていがみ合った。
才能だと思った祝福が消えた芸術家はかつての栄光を思い出し発狂した。
ノーグのように食べた物が腐っていて死ぬものもいた。
今まではノーグだけが腐った食べ物を食べていたが現実は違っていた。
現実には腐った食べ物を祝福持ちが食べると祝福に救われていただけだった。
そして人の心は荒れ果てて、列に割り込まれた事がない者が割り込まれただけで殺し合いになった。
ノーグが死ぬ度に高位の存在から死ぬ為に世界はどんどん荒れ果てた。
そんな世界でノーグは15年生きて27歳になっていた。
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