第4話 (最終話)ナンバーワンの呪い。
15年でようやく世界は落ち着きを取り戻し、各々が得意な仕事に就いてなんとか世界を回していた。
この頃になるとノーグは見向きもされない通行人と同じ扱いになっていた。
触れる事で失われては困ると放置しておいた元々の資産で日々を暮らしていた。
そんなある日「ふはっ!やあ…久しぶり」と言って目の前にジョカーが現れた。
あの日、最後に見た姿と変わらないジョカー。だが纏う気配だけは違っていた。
「まだ健在だったね?まあそうか、この世界は虫なんかも含めたら君が何回死んでも滅びないよね。ふはっ」
調度品に触れながら饒舌に語るジョカーとは裏腹に、ノーグは「どうした?」とだけ聞くと「用があるから来たんだよ。ふはっ」とジョカーは言った。
「天界とかはどうだ?」
「案外退屈だよ。神がこっちに来ると高次元の存在でチートだけど、向こうだと一律横並びだから何もない。持った力に依存する」
「チート?なんだそれは?」
「ああ、簡単に言えばズルさ、君の攻撃は私には届かないが…ほら」
ジョカーが手をかざすと何かに貫かれてノーグは死ぬ。
だが死の回避がそれを許さず、そして施術者のジョカーは死の回避が適用されない。
今この瞬間、世界のどこかで誰かが死んだ。
生き返ったノーグはジョカーに「用事とは?」と聞く。
「天界で別の神に喧嘩を売られてね。人から神になるとバカにされるらしい。その神の世界に人間を送り込んで戦わせる話になったから戦ってきて欲しいんだ」
苛立ちの表情を浮かべたジョカー。
用事はノーグに他の神の世界に行き戦って来いというものだった。
「少し話したら構わない。聞きたかった事がある」
「ふはっ、言ってごらんよ」
「まず一つ、俺は寿命で死ぬとどうなる?」
「やはり君は賢いね。死ねるよ。それだけが君の死だ。次は?」
「俺の生は仕組まれたものか?仕組んだのはジョカーか?全てを裏で操ったのはジョカーじゃないのか?」
この言葉に目を輝かせたジョカー。
その言葉が答えだと思った。
「ふはっ!凄いね。根拠は?」
「ジョカーに死の回避が用意出来た時、立場のある人間の子供が初産で今にも生まれそう。そして父は外に出ていて不在…、死にかけた赤ん坊を助けるタイミング、十で王に呼ばれるタイミング。全てがジョカーの為にあると思えた」
ジョカーは「へぇ…大当たりだよ。ふはっ」と言って笑う。
「そう、これがナンバーワンの弊害。だれも私を怪しまない。君の父が馬車で亡くなった、馬が興奮する香を焚いたのは私、人の王に君を推薦したのも私、こうも思い通りに行くとは思わなかったよ」
「そうだな」
仕組まれた人生と仕組んだ本人が居るのに平然とするノーグにジョカーは驚く。
「ふはっ、恨み言の一つも聞かせてくれるかと思ったのだけど?」
「特にない。ただ言えばジョカーが怒ることなら思いついた」
「ふはっ!この世界の神として誓おう!怒ったとしても決して君の不利益になる事はしない!だから言ってみてくれよ」
この自身に満ちた顔のジョカーにノーグは「ジョカーは口で言いながらもナンバーワンの地位を受け入れ甘んじている」と言った。
ジョカーは余裕の表情が消えて「は?」と聞き返す。
「今もナンバーワンの地位を受け入れ甘んじているから他の神に喧嘩を売られて戦う気になったんだ。今も顔に余裕がない。俺なら何を言われても放置する。言いたければ言えばいい。「ああ、またか」と思う」
数秒の沈黙の後、「ふ…ふはっ…ふはっ…ふはははは!面白いところに気づいたね!約束だから何もしないよ。さあ、一緒に来てくれ」とジョカーが言う。
「わかった。別に死ぬ命を救ったのはジョカーだ、ついて行こう」
こうしてノーグは神界に連れて行かれた。
そしてジョカーを見下した3人の神と戦うことになる。
「ウヒャヒャヒャヒャ、人間1人で勝てるつもりかよ?」
「ゲラゲラゲラ、本当に元人間はダメだな」
「そんなんじゃいいねって思われませんよ?」
3人の男神はジョカーを見て明らかに馬鹿にしていてからかっている。
ノーグはこんな顔をした連中を散々見てきた。
今更どうとも思わない。
だがジョカーは怒りを表さないように努力しながら馬鹿にし返す。
「ふはっ、私の剣に勝てるつもりかい?とりあえず私の剣の切れ味は保証するのだろうね?まさかタダヒトにされて殺されるなんてありえないよ?」
そう言った時のジョカーの顔には怒りがあった。
男神達は、そんな真似はしないと売り言葉に買い言葉で返す。
ノーグは呆れながらもその言葉によって戦いに身を投じる事になった。
ノーグはジョカーに「勝敗条件は?」と聞く。ジョカーは「ふはっ、そうだね」と言うと「神々よ戦いのルールは?」と言った。
「我々神は見守るのみ、助言も何もない。その男が死ねばお前の負け、こちらは全ての人間が死ねばお前の勝ちだ」
「へぇ、言ったね。ふはっ!フラインググリードよ!さっさと制圧をしてきてくれ!」
どうレベルの神々が勝手に盛り上がる中ノーグは「規模がわからないんだ何年かかるか分からない」と返す。
「そうだね。じゃあルールに追加してもらおう、一つの世界で10年我が剣が生き残ったら私の勝ちだ。ふはっ!」
このルールでノーグは一つ目の世界に入れられた。
その世界は入るなり大平原で見渡す限りの敵が攻め込んできた。
秒殺されるノーグだが直後に死の回避が発動して敵の大将が死んだ。
痛みを伴うワンサイドゲーム。
何をしてもノーグが死ねば死の回避が高位の存在から殺して行く。
最後の1人を倒して一つ目の世界が終わる。
男神達は死の回避に物言いをつけたがジョカーに今更だと笑い飛ばされていた。
結局、27年かけてノーグは3つの世界で勝ち残った。
元の世界に帰されたノーグの前に居たジョカーが「やあ、ご苦労様。久しぶりだね。ふはっ」と言う。
ノーグは懐かしい景色を見ながら「久しぶりだな」と言った。
「凄いね。仲良くなった人間すら殺した」
「向こうも必死で神が何かの指示を出したんだろう?」
「恋人まで殺すとはね」
「俺ではない。死の回避が殺した」
ノーグは2つ目の神の世界で恋人ができていた。
だが期限の10年が迫った時に一斉攻撃に遭い、死の回避がノーグの恋人に死を押し付け殺していた。
「ところでジョカー?」
「ふはっ?なんだい?」
「勝ったが楽しかったか?」
「いや、退屈だったよ。ふはっ」
「そうか」
「ふはっ」
「それでどうするんだ?」
「どう?」
「俺はもう隠居でいいのか?」
「ふはっ、そうなるね」
不思議な事にノーグの部屋は出て行ったときのままだった。
椅子に腰掛けるとジョカーに向かって「残念だったな」と言った。
「ふはっ?なんのことだい?」
「死の回避はジョカーには効かない。死なせてやれないな」
「ふはっ、じゃあ死の回避を無効化する不老不死でも授けようか?」
「好きにすればいい。ただ帰ってただ生きる。それだけだ」
「ふはっ、じゃあ死にかけたところで不老不死にしてしまおうか?」
「勝手にしてくれ」
何を言っても動じないノーグを見てジョカーが「畜生…」と言った。
「ジョカー?」
「かつて君の言った言葉が頭から離れない。とるに足らない言葉がいつまでも頭にこびりつく。君の言う通りナンバーワンが捨てきれないようだ。そして神々の安い挑発に苛立ってしまう。」
それを聞いたノーグはジョカーに「そうか、大変だな」と言うとジョカーは天界に帰っていく。
結局、ジョカーはノーグを不老不死にはしなかった。
帰還をしたときには50を過ぎていたノーグは70の目前で天寿をまっとうして死んだ。
ノーグは孤独で生まれたが死ぬ時には近所の人間やその家族などに見守られて丁重に葬られた。
そしてジョカーは神のまま死ねない永遠をに生き、神々のからかいに馴染めずに居た。
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