第10話 二人はポリアモリー

「ねぇ、楓、私達付き合おっか?」

「いいですよ。私も美波さんの事好きだから」私は即答した。

「えーっ!」早紀はびっくりして尋ねた。


「あなた達、2人共旦那さんいるんでしょ。どういう事?」

「もちろん主人にも了解を得ないといけないけどね」美波はあっけらかんと言った。

「あ、やっぱり美波さんそうだったんだ」

「楓もね……」


 私と美波の会話に、早紀だけついて行けていない。

「全然話が見えないんだけど?」早紀は困惑した表情で聞いた。


「どういう事なのか説明して。いくら相手が同性でも、それって浮気ではないの?」

 早紀がそう返すと、美波は冷静にこう言った。

「浮気じゃないよ。実は私、ポリアモリーなんだ」


「ポリアモリー? 何それ」その言葉の意味が分からず、問い返す早紀。


「関係者全員の合意を得たうえで、複数の人と恋愛関係を結ぶ恋愛スタイルの事なの。だから浮気じゃないよ」

「……」

 なんと答えたら良いのか分からず、黙り込む早紀。


 私はよく知っている事なので、ごく普通の顔で早紀を見た。


「混乱させちゃってごめんね。でもポリアモリーはれっきとした恋愛スタイルの一つだから。何も後ろめたい事はないから」美波はそう言った。


「まだ良く分からない。カトミナも楓も旦那さんの事を愛していて、その上であなた達2人は恋人同士になるって事なのよね?」早紀は不思議そうに尋ねた。

「そういう事になるね」美波は言った。


「楓、あなたもポリアモリーなの?」

「そうよ。あ、美波さん、私もう一人女の恋人がいるけどいい?」

「いいよ」美波は全く動揺する様子もない。こういう事に慣れているみたいである。


「もうちょっと分かりやすく説明するね。これは浮気じゃないの。浮気っていうのはお互いパートナーはあなたと私の2人の関係だよね、という約束をしているにも関わらず、そのパートナーに断りもなく別のパートナーを作る事でしょ。でも私はそうじゃないの。今複数のパートナーがいるけど、関係者全員に合意を得た上でパートナーになってる。だから今正直に話をしたし合意できるかどうか聞いてるの」


 それでも早紀はまだ「旦那とは別の人と恋人同士になる」というのが、しかも「合意の上」というのがどうしても理解出来ない。

「でも、やっぱり普通に考えたら旦那さんの他に恋人がいるなんておかしい。ましてや楓はカトミナの他にもいるって事は、旦那さんの他に2人恋人がいるって事でしょ。絶対おかしいって」


「例えばさ、2人の娘がいる母親に対して、『1人の娘がいる親に比べて愛が半分である』って事にはならないでしょ。それと同じだよ」私も補足的に加える。


 すると、美波はこう言った。

「早紀は今日初めてポリアモリーの事を聞いたから、急には受け入れられないよね。それはしょうがないと思う。だけど、例えば夫婦だっていつも一緒じゃないよね。たまには友達と遊びに行ったり1人で出かけたりするでしょ。それに友達は複数人いてもおかしくないのに、恋人は複数人いたらおかしいってなぜそう言い切れるの? 日本だってちょっと前まで一夫多妻制を認めていたし、世界には一妻多夫制を認めている国もあるじゃない。普通かどうかじゃなくて、早紀がどう考えるかだよ」


「私がどう考えるか?」

「そう」

 やはり早紀は納得はしていない様子だ。



◇◇◇◇◇◇



 私は助産師を目指して看護学校に通いながら、AV女優の仕事もこなしていた。智也にも了解を得て、2人で母親を説得したのだ。


 さらに、今は妊娠中。AVには妊婦物というジャンルがある。先日は妊婦物のAVの撮影を終えたばかりだ。


「ねぇ智也、今日は友達の美波さんの出産に立ち会ってきた。私が取り上げたんだ」

「それはすごいな」智也は驚いて聞き返した。


「それでね……」私はここぞとばかりに智也に言う。

「何?」


「2つお願いがあるんだけど」

「2つ?」

「まず一つは、出産DVDに出てもいい?」

「えーっ!」さすがの智也もこれにはびっくりした。


「AVじゃないよ。美波さん、現役の助産師なの。それでアクティブバースのモデルを探してる人と知り合いなんだって」

「良かった。AVでも出産が出て来るのがあるからそっちかと思った」

「違うよ。性教育用の真面目なやつ」


「いいんじゃないかな」智也は返事をした。

「良かった。美波さんね、出産中すごくキレイだった。あんなふうな出産をして、それを映像化したら素敵だなって思った」

「へーっ」


「そうなの。まさか目の前でお産が始まるなんてびっくりしたけど」

「それはすごい」


「智也……賛成してくれてありがとう」

「楓、どうせ反対したってやるんでしょ?」

「そのつもりだけど」

「やっぱり」


「ゴメンね。いつも私のわがままに付き合わせてばっかりで」

「いいよ。楓のわがままにも慣れたし。結構楽しいしね。どっちにしろ、君の出産は撮影したいと思ってたから」

「ありがとう。智也愛してるよ~」

 

「これでまた出産ビデオが増えるかな」

「そうだね」


「それで、もう一つは?」

「ちょっと言いにくいんだけど……美波さんの事好きになっちゃったの。智也と同じくらい好き。だから美波さんとの交際を認めて欲しい」

「……」智也は完全に黙り込んでしまった。でも……


「しょうがないなあ」少しして口を開く智也。

「良く体がもつよね。俺でしょ、恵でしょ。で加藤さんだっけ、そんなお付き合いしながら看護学校へ通って、AV撮影までして」


「体力には自信があるからね」

「そうだったね。すっかり忘れてた」


 私は、高校時代にバンド仲間だった木下恵と恋人関係を続けたまま、しかも智也も恵もその事を了解したまま、智也と結婚したのだ。その際に私と恵がポリアモリーである事をカミングアウトした。


 だから、智也は既にポリアモリーの事を良く理解していたのである。


「なあ、楓」

「ん?」


「今さらだけど、俺やっぱり君の事が大好きなんだ。惚れた方の負けだよね。もう君がどんな事しようが、どんな事を考えようが、絶対嫌いになんかなれない。だから、君がこれから何するとしても、それでもやっぱり君が好き」

「ごめんね智也」


「あ、そう言えば」

「何?」

「俺、君の出産に立ち会うんだよね? それを撮影するって事はもしかして……」


「何言ってるの。あなたも映るに決まってるじゃない」

「それは困る! やっぱりだめー」

「お願い智也。OKして!」

「だめったらだめ~」


◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 次の第11話は、楓は智也に出産DVDの撮影を許してもらえるのか? どうなるのでしょうか。お楽しみに!

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