第8話 アクティブバース

「カトミナ、あなたって実はマゾなんじゃ……」

 美波はだんだん陣痛の間隔も短くなってきたようだ。

「おしるしも来たみたい。間違いない、絶対始まってる」


「鷺沼先生の所へ行く? 私送っていくよ、肩を貸して」早紀が美波に言う。

 すると美波は首を横に振った。


「早紀、私ここで産みたい。鷺沼先生にも自宅で生みたいって伝えてあるの」


「いいけど……大丈夫?」

「大丈夫……っく、上の子もここで主人と二人で産んだんだ。良かったら……」


 ここ私は、意を決して美波に伝えた。

「美波さん、私に取り上げさせて。ついこの前母性看護実習で立ち会ったばかりなの」


 美波は、苦痛に堪えながら必死で笑顔を見せる。そして……

「本当? 出来る?」

「バッチリよ。私助産師志望だから。他の人よりしっかり実習に取り組んできたから」


「わかった。楓、あなたに取り上げてほしい」

「それと早紀、あなたには、私が子供を産む所を見て欲しいの……うっ、」

「え~っ! それは見てみたいけれど……」


「でしょ。あなたに私が一番綺麗キレイになった姿を見て欲しい。……お願い、私の事ずっと見ていて」美波は目をうるませながら哀願した。


 早紀は、美波の出産に立ち会う事で、自分の出産にプラスになるであろう事を考え、承諾した。


「私も、ぜひあなたが子供を産む所が見たい……」

「早紀、ありがとう。ううう痛い~」


 こうして、私と早紀は美波の出産に立ち会う事になった。


 しかし、私は実習で経験があるとはいえ、実際の出産介助は初めてである。無事美波の子供を取り上げられるだろうか。でもやるしかない。


「まだ弱い陣痛が長い間隔でじわじわときてる感じかな。まだけっこう時間がかかりそう。楓、早紀、何か用事があったら今のうちに済ませておいて。旦那さんには連絡した?」

「まだ。これからするね」


「上の子はお母さんに保育園まで迎えに行ってもらって、そのまま面倒見てもらう」

 さすがに、まだ幼い子を出産に立ち会わせるのは刺激が強すぎるのだろう。


「もう少し大きくなったら子供にも立ち会わせようと思ってるけどね」

「カトミナ、あなた何人産むつもりなの?」

「出来るだけたくさん。2人くらいじゃやめないよ」

 美波は、陣痛の合間に母親に電話していた。


 早紀も翔に電話した。

「今カトミナの所にいるんだけど、彼女陣痛が始まってしまって。それで彼女の出産に立ち会う事になった」

「へー。いいんじゃない。きっと参考になるよ」

「ちょっと遅くなるけど迎えに来てね」


「でもいいなあ。僕も見たい」翔も興味津々な様子だ。

「あなたは無理でしょ。残念だけど」

「そうだね。後で感想聞かせて」

「うん」


 だんだん陣痛が強くなり、間隔も短くなってきた。

「ンんっ……アアッ!……」


「とにかく痛い。それに今の時期はいきみたいけどいきめないから苦しいんだよ。子宮口が全開になって分娩第2期に入るとかなりいい感じになる。私いきむの好きだから」

 いきみたいのにいきめないこの状態は結構辛いのである。さすがの美波もしんどそうだ。


 必死でいきみ逃しをする美波。なかなか時間が経過せず、長い苦しみの時間が少しづつ進行していった。


 かなり時間が経過し、ようやく変化が現れた。

「あ……破水したかも。水がおりて来た」

「破水ってかなり出産が進んでから起こるんだっけ?」早紀が尋ねた。

「そう。普通だと子宮口が全開大してから。羊膜が風船みたいにふくらんで破裂するから、感覚を研ぎ澄ませると身体の中で何かがはじけるような感じがするよ」


「そういう実況があると本当に勉強になる。やっぱり立ち会って良かった」

「でしょっ。ううっ……」

「大丈夫?」

「 破水すると急に陣痛が強くなるの。んっ、はぁっ」


 かなり苦しそうな表情を見せる美波。

「でももういきめるから楽なんだ。痛みにあわせて思いっ切りいきむとちょっといい感じ」


 何度かいきむ美波。

「うーーーーん」

 心なしか表情が柔らかい。

「痛いけどいい感じ……」


「あなたって本当にすごい助産師だね」早紀は感心して伝えた。


 私は覚悟を決めた。せっかく美波が私の事を信じて任せてくれているのだ。絶対に無事に取り上げて見せる。


◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 次の第9話は、無事美波の赤ちゃんが生まれます。どうなるのでしょうか。お楽しみに!

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