第2話 AV女優、やってみたらいいじゃん

 私は、夜遊びとAV出演が実家の母親にバレて、東京から静岡県島田市にある実家に連れ戻されてしまった。


 久しぶりに智也に電話をした。

「突然何も言わずに居なくなったりしてゴメンね。これにはちょっと事情があって。聞いてくれるかなあ」


 私は事情を説明し、母親の厳しい監視状況を伝えた。


「でもなぜ親バレしたの? あんな短時間で顔もモザイク入ってたのに」


「それがさー、実家に匿名で『あなたの娘が出ています』というメッセージ付きでDVDが送られて来たんだって。たぶん良く知っている人だと思う。こんなの見てるって思われたくないだろうから」


「俺はしょっちゅう君のオナニー姿見てるからすぐ分かったけど、やっぱり母親とか親戚の人とかは分かるのかな」


「たぶん声ね。これでバレたらやばいと思ったから、必死で押し殺そうとしてたんだけど出ちゃって」


 やっぱり気持ちよすぎて、どうしても声を我慢出来なかった。


「それでね、その後もしばらくお母さんは私には何も言わずに黙っていて、夜電話で探りを入れていたみたい。それで夜遊びまでバレた」

「大変だったね」


「そんな訳だからちょっと東京に行くのは難しいかな。智也さ、島田に来れない?」

「もちろん行くよ。場所教えて」


 智也が私の実家のある島田に来てくれる。


 島田駅北口で待ち合わせ。やっと智也と再会できた。喜びもひとしおだ。


「智也……会いたかったよ。とっても」

「俺もだよ。楓」


 そう言って私は、智也の腕の中に飛び込んだ。智也は私を強く抱きしめてくれた。そしてそっとキスをした。もちろんこんな人通りの多い所でするのは初めてだ。あの恥ずかしがり屋の智也が、人目を気にしないでキスしてくれた。


「もう絶対に離さない。お願いだからどこにも行かないで。大好きだよ楓」

「嬉しい。ありがとう智也」


(もう「タカヒロ」やAV出演の事はいいのかな? まあいっか)


「私の実家に来て。あまり長く外出してると、またいつ電話がかかってくるか分からないから戻らないと」

「大丈夫かな。お母さんは?」


「今日は仕事でいないから大丈夫」

「ちょっと心配だなあ」


 私は智也を実家に案内した。


 もうAVの事は話題に出ないかと思っていたが……


「なあ、楓」

「ん……」


「あれからAVはどうなったの?」

 やっぱり気にしてたんだ。


 ここは正直に言うしかない。


 私はAV出演で、この仕事が思いのほかやりがいがあって、ぜひまたやってみたいと思っていた。今はまだ母親にバレてキツく叱られたばかりだからおとなしくしてるけど、少ししたら母親を説得してみようと思っていた。


「私、またやってみたいと思ってるんだ」

「……」

 智也は無表情で黙り込んでしまった。


「智也……やっぱり反対……だよね……」

「出来ればもう出て欲しくないけど……でも、楓がどうしてもって言うなら……」

「……言うなら?」


「やってみたらいいじゃん」

「本当?」

「悔しくて悲しくて仕方がないけどさ、あのAVに出てた楓、俺との見せっこの時よりももっとずっと感じているように見えた。ずっと綺麗だった。そしてすごく輝いてた」


「ゴメンね。私、見られるのすごい快感だから。野外でしかも撮影までしてるなんてたまらないんだよね」

「そっか」


 智也は更に続けた。

「あのAVがあんまりそそるからさ、クリスマスイブなんてあれ見ながら、泣きながら何度もオナニーしたよ」

「そうなんだ」


 12月24日クリスマスイブは私の命の恩人であり、元彼だったタカヒロの命日。私は毎年タカヒロの実家とお墓参りに行くから、この日は誰にも会えないのだ。


「なあ、楓」

「ん?」


「今さらだけど、俺やっぱり君の事が大好きなんだ。恋ってさ、惚れた方の負けだよね。もう君がどんな事しようが、どんな事を考えようが、絶対嫌いになんかなれない。だから、君がこれからもAVに出るとしても、それでもやっぱり君が好き」

「ごめんね智也」


「こうなったら、マジでやってみなよ。中途半端は良くないと思う。どうせなら単体女優目指して、テレビにも出てさ。『プラトニック・オナニー』なんて本も出版出来るかも」


「なにそれ。おっかしー。でも本当にいいの?」

「ああ。君が一番輝ける場所に行って欲しいんだ」


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第3話は、智也と楓が2人で楓の思い出の場所に行きます。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

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