セクシャル・エキスパートNO.1~助産師がAVに出たら悪いか⁉

北島 悠

第1話 セックス嫌いで悪いか

 気持ち良くなったら、同じくらい苦しみも引き受けなければいけないのだろうか。


 出産という大仕事を思い浮かべるたびに、そんな事を自問自答してしまう。


 私は蛭間楓ひるまかえで。今年から大学生になる。学部は看護学部。将来は実家の助産院を継ぐために助産師を目指している。


 助産師になるにはまず看護師の資格を得なければならない。それで看護学部に進学したのだ。



 プライベートはどうなんだって? 今の彼氏、広瀬智也ひろせともやとは上手くいってる。


 私はセックスがあまり好きではない。中があまり感じないから。私にとってはひとりエッチの見せっこの方が、セックスよりもずっとずっと気持ちいい事なのだ。


 でも、たいていの男はセックスが大好き。だからいつも彼氏が出来ても長続きしなかった。


 そんな中で、智也はいつも私とオナニーの見せっこをしてくれる男なのだ。


 それに、昔飼ってたトカゲモドキみたいなカワイイ感じの雰囲気がけっこう好き。



 そんなある日の事。私は渋谷でぶらついている時に、ちょっとカッコイイお兄さんから声をかけられた。けっこうタイプだったのでナンパかなと思ってついていったら、なんとAVのスカウトだった。


 私は興味津々で問いかけた。

「私AVに前から興味あったんだ。ねぇ、どんな内容なの?」

「オナニーだけをかなりの人数がするという企画ものだよ。それも人通りの多い野外でするんだ」


「すごいね。私セックスよりオナニーが好きだから絶対やってみたい」

「いいねぇ。俺達君みたいな娘を求めてたんだ」


「でも……周りや家族にバレないかな」

「大丈夫。ほんの数分だし、顔は分厚いモザイクで隠すから、知り合いとかが見たとしても気が付かないよ」


 私はこれを聞いて即答でOKした。だって私、一人でしてるとこ見られるのがすごい感じるから。人通りの多い野外でカメラで撮影されながらオナるなんて、想像しただけでイきそうになる。


 AV女優には大きく分けて3種類ある。単体と企画、企画単体いわゆるキカタンの3つだ。


 単体物は一人の女優で完結しており、その女優は特定メーカーと専属契約を結んでいる。女優目当てで見るのだから、かなりの人気女優でないと成り立たない。当然ギャラも高い。有名になれる。芸能人への足掛かりにもなっている。その反面周りにバレずに出るのはほぼ不可能だ。


 キカタンも特定メーカーと専属契約を結んでいないだけで、身バレの事情はそう変わらない。


 これに対して企画物は女優ではなく文字どおり企画がものを言う。特定のテーマにそった内容だ。


 これに出ている女優は専属契約をしておらず、キカタンと違い1本のビデオに複数の女優が出演する。だからあまり目立たない。モノにもよるが顔にモザイクをかける事も多い。意外と周りにバレずに出る事が出来る。


 撮影してる時には、信じられないくらい快感だった。


 たぶん誰にもバレない、大丈夫だろうと高をくくっていたのだが、やはり智也にはバレてしまった。

「楓、AVに出てるでしょ。見たよ。なぜ……」


「やっぱり知ってたんだ。智也にはいつかバレると思ってた。渋谷でスカウトされたの。即答でOKした。だって私一人でしてるとこ見られるのがすごい感じるから。人通りの多い野外でカメラで撮影されて、してる時にはもうこの世のものとも思えないくらい快感だった」


 智也は私の性癖を良く知っているからか、そんなに驚いていないようだ。AVの事はあきらめたのか、話を変えて言葉を続けた。

「ねぇ楓、タカヒロって誰?」

(えーっ! 何で智也はタカヒロの事知ってるの?)


 タカヒロは私の元彼。当然智也には一度も話した事はない。それどころかバンド仲間で親友の木下恵にも話していない。どう考えても変な話なのだ。それで……


「もしかして私の持ち物とか机の引き出しを勝手に見たりしたの? ひどいよそれって! 信じられない」

「バーカ。そんな事する訳ないじゃん!」

「じゃあなんで智也がタカヒロの事知ってんの?」


「もういい。気分悪くなった。帰るわ俺」

 智也はそう言い残してマンションを出ようとした。


「バーカ! 帰れ帰れ」

 私は智也に思いっきり筆箱を投げつけた。

 私はこの日、智也と初めてのケンカをしたのだ。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、智也と楓が、彼女の故郷、静岡県島田市で再会します。お楽しみに!

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