第16話 王都の手芸屋さんは大きかったです!

 私たちは今、コリンナさんと一緒に手芸屋さんに来ている。

 王都の手芸屋さんは、ショコラの街より遥かに大きかった。3階建ての建物で、1階にはボタンなどの小物があって、2階と3階のフロアには生地が沢山置かれている。


「ふわぁ、生地が沢山~。これは迷っちゃいますね!」

「この中から選べるかしら。ユア、お願いね」

「はい。まずは触り心地の良い生地を探すのが良いと思います」

「触り心地ね」


 コリンナさんはあれこれと生地を触ってみている。触った感じの好みは人それぞれだしね。ちなみに私は、ふわっふわのファー生地とかふわふわもちもちの生地が大好きだ。

 私が作るくまちゃんも触り心地の良い生地を探すつもりだ。でもまずは、コリンナさんのを選んだ方が良いかな。


 コリンナさんを見てみると、とても真剣な表情で生地を触って確かめている。これは私が声を掛けるよりも、納得いくまで見守る方が良さそうだ。

 コリンナさんをちょこちょこ見ながら、私も生地を探していく。店員さんに聞いたら、ふわふわの毛皮素材も扱っていると聞いたので見に行ってみよう。


「わ~、本物の毛皮だ」

(さっきユアが毛皮って言っていたからな)

(そうですね)


 確かにこっちの世界に、フェイクファーの生地とかないよね。ただ、触り心地の良い毛皮は残念ながらなかった。短毛でちょっとごわごわしてたり、ふわふわのはあっても日本に居たときのふわっふわの柔らかさはなかった。


「うーん。他のふわふわの生地を探そうかな」

(気に入らなかったのだな)

(そのようですね。ユアはふわふわの生地が好きみたいですからね)

(そうだな)


 あちこちウロウロして次から次へと生地を触っていくけれど、なかなか好みの手触りの生地が見つからない。3階へ行ってみた方が良いかもしれないね。


「コリンナさん、どうですか?」

「なかなか難しいわね~」

「3階へ行ってみませんか?」

「あら、良いわね。3階にもっと気に入る生地があるかもしれないものね!」

「はい!」


 コリンナさんと一緒に3階へ行って、それぞれまた生地を探す。あっちこっちと探していると、物凄く手触りの良いふわふわな生地を見つけた。


「わっ、これ好きっ!」

(おっ、あったのか!)

(ふわふわそうですね)

(我より気持ち良いのかっ!? ユア、それはダメだっ!)

(魔王様……)


 私が見つけた生地は人気があるのか、白、青、赤、黄色、水色と5色もあった。この中から選ぶなら、もちろん水色だ。

 昔持っていたのが水色のクマだったから、なんとなく水色を選びたくなっちゃうんだよね。


「コリンナさん。この生地はどうですか?」

「これ? あらっ、気持ち良いわね。しかも5色もあるだなんて素敵だわ!」

「こういう触り心地の良い生地が好きなんですよね~」

「だから二人とも気持ち良いのね」

「そうなんです!」


 私は水色の生地、コリンナさんは白いふわふわの生地にした。やっぱりウサギは白だよね。

 生地を選び終わったら、今度は1階に降りて目になるボタンを探す。今度はどんなボタンが良いかな。


「ボタンで目にするのね。でも、ボタンの種類もこんなに沢山あって迷っちゃうわ」

「目は一番大事なので、がんばって選びましょう!」

「そうね。目は大事よね!」


 コリンナさんも私も、とっても真剣にボタンを探している。だって、ぬいぐるみの目は大事でしょう?

 目の位置や大きさ、形、色などで印象が全然違うのだ。それくらい目は大事。なので、選ぶ時には完成を思い浮かべながら探す。

 水色のクマちゃんだから何色が良いだろうか。生地と見比べながらボタンを見ていくけど、あまりの多さになかなか決まらない。


「コリンナさん、ボタン決まりそうですか?」

「多すぎて迷ってるわ」

「そうですよね~」

「ユアちゃん。少し休憩しましょうか」

「そうですね」


 いつの間にかすっかりお昼の時間を過ぎていた。店員さんに生地を取っておいて貰って、コリンナさんと一緒に屋台に行く事にした。

 まおちゃんとがぶがぶさんを抱っこして、コリンナさんと一緒に歩いて屋台が沢山集まっている場所に向かう。ずっと生地とボタンを見ていたから、ちょっと目がチカチカする。


「やっぱり生地とかボタンを選ぶのは真剣になっちゃうわね」

「そうですね。作り直しをしないことを考えたらそうなりますよね」

「でも、封印出来るかもって考えたら、楽しくて仕方ないわ!」

「頑張って可愛く作りましょうね!」


 広場には屋台が沢山並んでいる。今日も、まおちゃんとがぶがぶさんの目がきらきらしている気がする。二人が食べたそうなものをいくつか購入してまおちゃんに持って貰う。

 私が沢山買うから、コリンナさんにちょっと驚かれた。まおちゃんとがぶがぶさんはとても沢山食べるんです。


 テーブルに移動した私たちは、のんびりとお昼ご飯を食べ始める。私は二人にも食べさせてあげるから、ちょっとだけ忙しいけどね。でも、可愛いくて癒されるから良いのです!


「ふふっ、可愛いわ~。私も早く自分だけの子を封印したいわ」

「楽しみですよね~」

「それにしても二人とも、食べる姿も可愛いのね。癒されるわ」

「はい、毎日幸せなのです」

(我もこの生活気に入っているぞ)

(ええ、そうですね。私もユアと一緒にいるの楽しいですよ)


 お昼ご飯を食べて少しお茶を飲んでゆっくりしてから手芸屋さんに戻る。目と鼻になるボタンを探そう。コリンナさんも私も、ご飯を食べて気合十分だ。今度こそ、素敵なボタンを探そう!


 良さそうなボタンを見つけたら生地に乗せて合わせるを繰り返す。なかなかこれ! っていうボタンが見つからないけれど、頑張る。


「ユアちゃんっ! これ、どうかしら?」


 コリンナさんに突然呼ばれた。見てみると、白いふわふわの生地の上に赤より少しピンク寄りの天然石のボタンが乗っている。やっぱりウサギさんの目は赤っぽいのが良いよね。だけど、真っ赤ではなくピンクっぽいのがまた可愛い。


「コリンナさん、これ素敵ですっ!」

「ふふっ、良かったわ。後は鼻になるボタンね」

「そうですね。私も頑張って探そう!」


 あれこれ見ていると、素敵なボタンを見つけた。思わずこれっ! と声が漏れてしまった。


「ユアちゃん、あったの?」

「すみません。思わず声が出ちゃいました」

「ふふっ、気持ちはとても良く分かるわ。それにしても素敵なボタンね」

「ラピスラズリのボタンみたいです。これとっても素敵です!」

「水色の生地ととても良く合っているわ」


 私が見つけたのは、ラピスラズリの青い色がとても素敵なボタンだ。気に入るボタンがあって、とても嬉しい。やっぱりこういうのは、見つけた時の達成感が凄いよね。

 目になるボタンを見つけたから、次は鼻だね。これは案外早く見つかった。三角の角に丸みがあるボタンで、オニキスの艶のある黒がとても素敵だ。

 コリンナさんもこのオニキスの鼻を気に入っていた。だけど、ウサギさんは鼻がなくても可愛いかも?


「ユアちゃんも、ウサギを作って貰って良いかしら?」

「良いですけど、どうしてですか?」

「他の人が作ったぬいぐるみでも封印出来るかを調べたいのよね」

「なるほど。確かに気になりますね」


 私もウサギのぬいぐるみを作る事になった。確かにぬいぐるみを他の人が作っても封印出来ると、とても助かるよね。中には作れない人だって普通にいるはずだもんね。


 しかし、私が他の子を封印しようとしたら、まおちゃんとがぶがぶさんに止められたので、コリンナさんに封印して貰おう。クマさんは作ってほしいというけど、ウサギはダメって止められるのはなんでなんだろうね。


 生地とボタン、後は糸などの小物を買ったら封印術師ギルドに戻る。これからウサギさんを一緒に作るんだ~、とっても楽しみ!

 お買い物の時間も楽しいけれど、作る時間はもっと楽しい。形が出来上がっていく過程が楽しくてワクワクする。

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スキルも碌に使えないと追放された封印術師ですが、ぬいぐるみの中に魔物を封印出来るみたいです~みなさん魔王を討伐に行くみたいですが、私はぬいぐるみのまおちゃんと待ってます~ 猫野 伽羅 @neko_kyara

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