#47 それが狙われている

「鬼灯さん――」

「ああ。困ったことになったな」


 数時間前。


 四季市警察署の想造犯罪対策課では鬼灯都丸刑事とアンサーズのメンバーであり、特別捜査官の桃下鬼衣人が頭を抱えて唸っていた。


「まさか確保したガイアコレクションの幹部、スティーヴンの身体が、アナムネーシス・ウイルスを応用して生成した義体であったとは、な」

「ということは、本体は別の場所にいる可能性が高いと?」

「間違いないだろうな――想造力学を悪用しやがって!」

「お、落ち着いてくださいよ! あなたらしくもない!」

「ふぃ……そうだな。俺らしくない、な」


 鬼灯はバナナを一本、ケースから取り出すと、おもむろに食べ始めた。栄養補給をして、気持ちを落ち着かせようとしているのだろう。よく見るとバナナを、まるでタバコを吸うように、二本の指で挟みながら口へ運んでいる。本人曰く、喫煙者であったようだが、鬼衣人や葉子と関わるようになってから、受動喫煙を気にして、バナナに変更したようである。


「アナムネーシス・ウイルスで身体を生成していたということは、ウイルスを制御するためのアメイジング・グレイスも当然存在します。今はその解析中なので、大人しく結果を待ちましょう」


 『被害亡き通り魔事件』の時にバナナの皮で滑ったことを思い出したのだろう。鬼灯はバナナの皮を綺麗に畳んで、近くにあったゴミ箱へ捨てた。まあ、あの事故は彼がわざと引き起こした事故であり、ファインプレ―というか、自業自得というべきか、悩ましいことだ。


 結果として鬼衣人の背中を押すことになり、事件も一旦の解決に向かった。そういう意味では、バナナの皮も捨てたものではないのかもしれない。そんな馬鹿な。


 歩亜郎のダジャレ癖が感染ったのだろうか、鬼衣人は内心浮かんだ奇妙な言葉遊びに悶えていた。「どうした? 大丈夫か」と鬼灯が心配するが、鬼衣人は笑いを堪えることに必死であった。クリスマス前後から少々多忙であったため、疲労が溜まっているのだろう。


「なあ、鬼衣人。お前、休暇を取得したらどうだ」

「良いのですか」

「ああ。警察の特別捜査官とはいえ、お前は協力者に過ぎないから、年末年始に警察として活動しなければならない義務は生じないぞ」

「でも――」

「アンサーズに神社の関係者がいるだろう。丁度良いから年末年始は仲間で過ごしたらどうだ。初詣行ったり、雑煮食べたり――安心しろ、お年玉はちゃんとやる」

「鬼灯さん、ありがとうございます」

「お前はもう少し、年相応の日常を送るべきだ――早速、行ってこい。ナノマシンの解析結果が出たら、すぐに連絡する」

「はい!」


 鬼衣人が部屋から出る。すると、彼と入れ替わりで、振子が部屋に入ってきた。


「おや? 九十九先生、どうしました?」

「鑑識に呼ばれた。アナムネーシス・ウイルスに纏わりついている残留思念――魂の欠片を解析するために、な」

「そうでしたか。なら、早速お部屋に――」

「解析はもう済ませた。アイザワークスの御曹司、そして破雨にも協力を得て」

「いくらなんでも早すぎではないですか?」

「ガイアコレクションの連中、ワザと結社内の計画の一部を【嫉妬魔王レヴィアタン】の義体に書き込んで現場に放置したみたいだ」

「まさか、次の標的が!」

「ああ――標的は読神神社。【禁書庫アーカイブ】に眠る聖解を記した本、それが狙われている」

「なんと」

「コイツは――どうやら穏やかな年越しとはいかないかもしれないな」

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